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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-02-01

三六協定を結ばない本当のデメリット


最近メディアで名前を見かける「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が今度はドン・キホーテを摘発して労基法違反で書類送検したそうですが、個人的に気になったのは違反の内容です。

http://this.kiji.is/65377333893840902?c=39546741839462401

労使協定で定めた上限を超える長時間労働を従業員にさせたとして、労働基準法違反の疑いで


と記事にあるのですが、こういう書き方ってあまりピンときません。

確かに法定外の残業を1分でもさせる場合は、この労使協定(「三六協定」といいます)の締結と届出が必要で、それを結んでいなかったり、締結はしていても協定した上限時間を超えていれば、それは明確に労基法違反といえます。

しかし、私が知る限り、「三六協定」は実務では全く重要視されていません。

締結していない会社が山ほどあり、協定の存在すら知らない会社も少なくないように思います。その理由は多分、「締結していなくても大した損害がない」からではないでしょうか。

ちなみに労基署が調査に来ると、まず最初に36協定書があるのかどうか確認するんですが、結んでないと分かれば是正勧告書を出してすぐに協定書を作らせて是正完了です。法律上はもちろん違反の場合の罰則も規定されていますが、現実はほぼ適用されません。その場で署名して印鑑押して「はいおしまい」です。そんな感じなので、世の中には36協定を結んでいない会社はごまんとあるのだと思います。(もちろん私の関与先ではきちんと締結してもらっていますが。)


で、今回のニュースですが、「三六協定で定めた上限を超える時間外労働」をさせることがそんなにいけないのかと言えば、労基法違反だからもちろんいけないのですが、ただ今回の事案に関して言えばおそらく「とてつもない長時間労働をさせている」ことが一番いけないのであり、それを牽制するために「かとく」は有名企業であるドン・キホーテを摘発したのだと思われます。

しかしながら、そもそも労基法には労働時間の上限を規制するルールはなく、ある意味「三六協定」さえ結んでおけば青天井にいくらでも労働者に残業をさせられるわけです。三六協定さえきちんと結んでおけばです。

ドン・キホーテ三六協定の上限時間を超えてしまったので、三六協定を締結していないのと同じ状態だったわけで、通常の中小企業だったらその場で協定を結び直しさせられて終わったかもしれません。(断定は一切しませんが。)

ところがニュースでは単なる「長時間労働」ではなく「三六協定で定めた上限を超える」という点が強調されます。「三六協定を遵守しないなんてひどい会社だ」ということになるでしょう。「三六協定」をきちんと締結していないと、会社として大事な信用を失うということを知って欲しいと思います。


ちなみに、いくら労基法では残業時間に上限がないといっても、過労死などが起きたら間違いなく遺族から慰謝料請求されるので本当に上限がないと考えるべきではありません。

2012-08-17

労基署の残業上限時間の容認っぷりが凄まじい


東京新聞が企業の労使協定の実態を調査したところ、残業時間の上限があまりにも法令の趣旨とかけ離れており、労災過労死認定基準をはるかに凌ぐ上限を設定している企業が少なからず存在していることがわかりました。

以下、東京新聞記事より引用します。

二〇〇〇年以降に労働基準監督署裁判所が社員の過労死過労自殺を認定した 企業のうち、本紙が把握できた百十一社について残業時間の上限を調べたところ、約半数の五十四社で依然として月八十時間(いわゆる過労死ライン)以上の残業を 認めていることが分かった。社員の働き過ぎを抑制する動きは鈍い。

本紙は百十一社の過労死があった本社もしくは支店について、労使が結んだ最新の「時間外労働休日労働に関する協定(三六協定)届」を情報公開するよう労基署の上部機関である労働局請求

開示資料によると、月当たりの残業の上限が長いのは、NTT東日本の二百五十八時間や大日本印刷市谷事業部の二百時間、プラント保守大手「新興プランテック」の百八十時間、ニコン、JA下関、東芝電機サービスの各百五十時間など。これらを含め百時間以上は二十七社あった。

労働組合のある五十八社の月平均は約九十三時間。労組のない五十三社は約六十四時間で、労組のある企業の方が長時間労働を容認する傾向が浮かぶ。

本紙は百十一社に労務管理のアンケートも行い、二十六社から回答を得た。

現行制度は、企業が労基署に届け出る三六協定の残業時間について「月四十五時間、年三百六十時間」までという制限があるが、特別な事情があれば、半年間はいくらでも
延長できる。

こうした制度の見直しについて二十六社からは「企業ごとの状況や立場が異なるので一律的な見直しは困難」(製造業)「企業モラルの問題」(外食産業)などの回答があった。

労働問題に詳しい森岡孝二・関西大教授(企業社会論)は「過労死があった後も、長時間の三六協定労基署に受理させている厚生労働省の考え方と、それを許している法制度に問題がある」と指摘する。



まず、残業時間についての法規制を簡単にまとめますと、


1.労使協定を締結していない会社は1分でも残業させたら労基法違反

2.労使協定で定められる残業時間の上限は月あたりだと45時間(協定した時間を超えたら労基法違反)

3.労使協定に特別条項を入れれば、月45時間を超える協定も締結できる。この場合の上限は特に設定されていない。

4.ただし、過労死労災認定基準(月80時間等)が存在する為、その基準を超える協定は法の趣旨から好ましくない


ということになります。
労災認定基準の詳細は過去記事をご覧ください。
<過労死・過労自殺> 残業時間の上限を考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



つまるところ、法令上は労使協定の手続きをきちんとしていれば、何時間で協定しようが違法にはならないわけですが、労基署が月150時間、200時間の残業を許す協定をやすやすと受理する事実には正直唖然とします。

仮に上限いっぱいまで残業させた場合、休日出勤を毎週1回したとしても、毎日7〜9時間残業することになると思われます。

このような労使協定を締結し、過労死ラインを超える労働をした労働者が亡くなれば、企業が遺族から責任を追及されることになります。「労基署が協定書を受理したんだから企業に責任はない」と言ってみても行政は責任をとってくれません。ですから企業としては今回のような記事を見て「何だ、100時間、200時間を上限に協定しても問題ないのか。」と安易に考えたりせず、労基署が受け取る・受け取らないに関わらず労災認定基準を考慮して残業時間を協定すべきです。

それにしてもこうした協定が原因で過労死が発生すれば、適切な是正・指導を行わなかった監督行政の責任は大きいと思います。監督責任を問う訴訟を起こされて然るべきだと思います。


もう1点気になるのは、労働組合のある企業の方が労働組合のない企業に比べ、協定の上限時間の平均が約30時間長く、過労死ラインを超える93時間であったという点です。近年、集団的な労使交渉がいかに形骸化しているかを再認識させられる記事でした。




関連記事

2012-06-04

労働者の過半数代表者選出を見直す時期にきている


最近、労働問題について何かとニュースに取り上げられるワタミが、36協定の締結方法について不正があるとして労働基準監督署から是正監督を受けていたのは記憶に新しいところです。

以下の記事参照
東京新聞:ページが見つかりませんでした(TOKYO Web)


労使協定の労働者側における当事者である過半数代表者は、本来挙手や投票などの民主的な手続きによって、全ての労働者の過半数の支持を得て選出されければならないのですが、今回報道されたワタミのように、会社が都合のよい人物を指名してその労働者と形式的に労使協定を結び協定書を作成して労基署に届け出る一方、多くの労働者はそんな協定の存在さえ知らないというケースは実は少なからずあるのではないかと思えます。

これはおそらく、代表者をどう選出しようが現実には残業代不払いや不当解雇のようにダイレクトに労働者に不利益を及ぼすような問題とはあまり考えられない点(実質はさておき)、さらに監督行政としてもそれほど労使協定を重要視していない現状に起因するものと考えられます。現に36協定を含む労使協定をそもそも作成すらしていない違法状態の企業の存在を周りからよく耳にします。

企業としても、労使協定の代表者を投票によって選ぶという物々しいことは、労働者の権利意識を呼び起こすことにもつながりそうで、会社には全く利益はなさそうだから避けたいというのが本音だと思われます。

36協定の代表者選出が適法に行われなければ当然その協定は無効です。36協定が無効であれば1分たりとも労働者に残業をさせることはできません(災害時等は別ですが)。労使協定の締結は労基法に違反しないという免罰効果を発生させますが、不正な手続きによる協定では免罰とはならず、会社および経営者は刑事罰を免れないということになります。


記事によると

厚生労働省は五月十八日付で全国の労働局に、労基署三六協定届を受け付ける際、労働者側代表の選出方法について不正な疑いがあれば、窓口で確認を取ることを徹底するよう通達を出した。

とあります。

今までなあなあにやってきた企業も、これを機に代表者選出手続を適正なものに見直すべき時期に来ているものと思います。

さらに記事では

「今後は、店長が従業員の中から代表を推薦し、書面で過半数の従業員から同意を得る選出方法に改める」と説明した。

とありますが、
この選出方法も実はあまり好ましいものとは考えられません。

例えば店長(or会社)が代表を推薦する前に、従業員に立候補者や推薦者を募ったり話し合いを促すなどして、何も動きがなく話が前へ進まないなどで会社が推薦者をたてて主導するなら別ですが、最初から会社が候補者名を挙げて同意書を回すというやり方は、即違法とはいえないまでも、場合によっては労働者側の代表者選出に関する任意性を担保できず、違法性をおびてくる恐れも十分に考えられる為、誤解を生むやり方はお勧めはできません。


ちなみに代表者選出にあたっては、何の為の代表者選出なのか、つまり労使協定の締結当事者を選ぶのか、あるいは就業規則変更の意見聴取を行う為の代表者を選ぶのかを明らかにしたうえで手続きを実施しなければなりません。

もちろん労働者代表は協定の締結当事者ですから、締結の拒否も含めて労働者を代表しているということにもご注意ください。



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2012-03-21

特別条項付き36協定の注意点


もうすぐ4月ですが、労使協定は4月1日を起算日にしている会社が多いので、ちょうど今の時期に協定の手続きを行っている会社も多いと思われます。

労使協定といえば時間外労働休日労働について合意をとる36(サブロク)協定が最も多く、どこの会社でも締結するのが通常ですが、法定超えの残業が月45時間を超える場合には特別条項付き36協定を締結する必要があります。

特別条項付き協定とはつまり、通常の36協定では「時間外労働をさせる必要のある具体的事由」を明記したうえで延長時間を定めるのに対し、特別条項付き協定においてはそれらの事項に加え、限度時間(つまり月45時間・年360時間)を超えて残業させなければならない「特別の事情」を明記したうえで「特別延長時間」を定める協定をいいます。


この「特別延長時間」には、法律上限度はありません。

「それなら月に100時間でも200時間でもいいのか」

と聞かれれば、違法ではないという回答になります。

ただし、月80時間を超える協定を届け出れば、労働基準監督署の調査の対象となる確率が高くなるかもしれません。それ以前にあまり時間数が多いと受け付けてもらえない可能性もありますが。


「特別の事情」については臨時的なものをできる限り具体的に定める必要があり、

「業務の都合上必要なとき」
「業務上やむを得ないとき」

という文言だと、届出の際に監督署で指導される可能性があるでしょう。

特別延長時間まで延長できる回数も協定する必要がありますが(つまり1年のうち何ヵ月特別条項を適用できるのか)、この回数は1年のうち半分を超えてはいけないと指針に定められています。ですから、例えば特別延長時間を60時間、延長回数を6回とした場合、

60時間 × 6ヵ月 + 45時間 × 6ヵ月 = 630時間

が年間の時間外労働時間の限度ということになります。



注意したいのは、特別延長時間を適用させる都度行う所定の「手続」を事前に定める必要があり、この手続を何にするかは特に制約がありませんが、いったん定めた手続をとらずに延長時間を超えて労働させれば違法になります。

所定の手続を「労使で協議」などと定めたら後々面倒くさいことこの上ありませんので、「通知」などと定めておくのが現実的といえます。


なお、これは通常の36協定でもいえることですが、いったん締結した協定の内容を有効期間が終了する前に変更して新たに届け出を行いたいという場合は、有効期間をいつからいつまでに設定すべきなのか。

協定を有効期間中に変更すること自体が法の趣旨に反することだと考えられますが、どうしても必要ということであれば、いったん変更時点から1年間の協定を締結し、当初の変更前の協定における終了日がきた段階で改めてそこから1年間の協定を締結すべきであると考えられます。


36協定を届け出ずに残業をさせる行為、36協定に定めた時間を超えて残業させる行為は労働基準法違反になりますのでご注意を。




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