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2017-01-12

プライベートの喫煙を会社が就業規則で禁止できるのか


世間喫煙者への圧力の高まりに伴って、企業における喫煙のルールも厳しくなる一方の昨今ですが、最近その中でも一歩踏み込んだ企業の施策が話題になりました。

SCSK、懇親会も喫煙NG 就業規則に追加
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10246770S6A201C1TI5000/
日本経済新聞

SCSKは社員同士の懇親会などの場で喫煙を禁止する項目を就業規則に追加した。



プライベートもタバコNG 大手IT企業の仰天「就業規則
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/195480
日刊ゲンダイ

就業時間外まで禁煙を強いるのは前代未聞だ。

たとえ社員2、3人で仕事帰りに居酒屋で一杯やる時でも喫煙を禁じるようにしました。社員同士でゴルフに行った時や同期会も禁煙です。




これまで企業の禁煙に関しては、「喫煙者を採用しない」方針星野リゾート、外出先・出張先・移動中を含め「勤務時間内のあらゆる場所での禁煙」を実施したリコーなど、様々な施策がニュースになってきました。

ただし、今回の禁煙施策はそれ以上といえます。最大のポイントは勤務時間外のプライベートともいえる時間まで喫煙を禁止した点にあります。ネット上では、そのような規則は無効とか、行き過ぎだとか、「喫煙は個人の趣味・嗜好の問題」であるとか、多くの批判的な意見がみられますが、以下ポイントを絞って書いてみたいと思います。



単なる服務規律なのか、懲戒事由となる得るのか

大前提として、

就業規則で禁止したと一口に言っても、単に行動規範を示しただけなのか、それとも行為が発覚すれば懲戒処分の対象となるのかによって、社員への影響は全く異なってきます。一般的に禁煙に関する規定は、服務規律として定めただけで罰則なしというケースも少なくありません。(ちなみに今回の件がどちらなのか、前述の記事を読んだだけではよく分かりませんでした。)



勤務時間外の行為を会社が規制すること自体が不可能なわけではない

ご存知の方も多いと思いますが、社員の勤務時間外の行為を規制し懲戒処分の対象とするケースはいくらでもあります。

例えば

勤務時間外の行為だから会社が口を出すのはおかしいというわけではありません。勤務時間内外を問わず、会社の秩序維持等の為に必要であれば、会社は社員の行動に対し一定のルールを課すことができるわけです。



懇親会や飲み会の禁煙ルールには合理的な理由がある

今回の件で会社が禁煙を導入した大きな理由は、懇親会や社員同士の飲み会などの席でタバコを吸わない社員が喫煙者に気を使って何も言えず、受動喫煙を強いられるような状況をなくす為には、社員たちの自主規制だけでは難しいと判断したからだと考えられます。

そもそも上司・部下や先輩・後輩などが混在する懇親会や飲み会は、職場から切り離された完全なプライベート空間とは言い切れません。そのような場で立場的に優位な社員が、非喫煙者である社員の前でタバコを吸う行為は、客観的にみたら嫌がらせ以外の何者でもありません。(例え当人にその自覚がなかったとしても。)

例えば、パワハラの定義の重要な要素には「優位性」というものがありますが、これは被害者が加害者から実質的に「逃げられない」状況であることを指します。

喫煙行為がパワハラに該当するという話ではありませんが、パワハラと同じような視点にたてば、懇親会や飲み会がプライベートの時間といいながらも、人間関係の複雑な会社組織において、タバコの煙の充満した「プライベート空間」から文字通り「逃げられない」社員が一定数存在することを前提に考えるのが当然であり、そのような不本意な受動喫煙を会社が放置することは、突き詰めれば企業の安全配慮義務に反するのではないか、という考え方もできます。(完全に持論ですが。)

今回の施策が行き過ぎた行為として批判する論調もありますが、私は非常によい施策だと考えます。このような踏み込んだ施策を実行する感度の優れた会社が、今後優秀な人材を獲得していくのではないかと思います。



プライベートの禁煙を定めた就業規則は法的に問題ないのか

今回の該当企業はあらかじめ顧問弁護士等に相談をした上で法的に問題ないと判断し、就業規則に規定を追加したのだと予想されます。

就業規則で懇親会等の喫煙を禁止することはもちろん違法ではないと考えられます。仮にもし問題が起こるとすれば、懲戒処分を定めた上で実際にそれを適用する段階です。ルール違反に重い処分を科し、それに社員が不服を感じれば、最終的には裁判所の判断ということになるでしょう。とはいえ、世の中の企業の就業規則には、現実に裁判をしてみなければ有効性の疑わしい懲戒事由はいくらでもあります。今回の件が例外というわけではありません。前例のない新しい規定を追加する時点では誰もその規定の有効性を断定できません。

労働契約法では「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒を行う権利を濫用したものとして判断されます。

  • 露骨に非喫煙者の目の前で吸ったり煙を吐き掛けたりして行為が悪質
  • 注意されても繰り返し違反が続く
  • 懇親会の出席者が多く実質的に強制参加に近い(勤務の延長的な性格が強い)
  • 非喫煙者の不満やクレーム、被害の申告等が確認される

様々な状況が考えられる為、処分の適用も一刀両断ではなく柔軟に考えるべきだと思います。

個人的には、仲のよい喫煙者の同僚2人が会社帰りに居酒屋行ってタバコをぷかぷか吸うのは放っておいて構わないと思いますが、そこに1人でも非喫煙者、特に上司や管理職以外の立場の弱い社員が加わるのであれば、まず細かい状況を確認した上で処分の可能性を検討してもよいのではないかと考えます。もちろん懲戒解雇が認められるような行為ではありませんが。


以上から、今回の懇親会等での喫煙を禁じる規則の導入、やってみる価値はおおいにあると思います。




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2014-02-16

労働審判で会社が覚悟すべき支出額


普段私は、本業である企業の労務管理サポートを行う他に、労働者個人からの労働問題・労働トラブルに関する相談を受け、社会保険労務士として可能な範囲で支援を行うことがあります。

昨年(平成25年)は、年間で約150件程度の労働者からの相談に対応し、そしてその中で労働審判の支援まで行った案件が10件でした。ちなみに10件全て解決金を獲得し本人が納得したかたちで解決しています。



労働審判制度は今や、労働者にとって想像以上にお手軽であり非常に使える制度になっています。

もちろん解雇無効による職場復帰を争ったりするのであれば本訴は避けられないとは思いますが、労働者側に金銭解決の意思があるのであれば、労働審判はうってつけの手段です。


裏を返せば、企業は労働審判に持ち込まれた以上は無傷では済まないということです。一定の出費を覚悟しなければなりません。むしろある程度の金銭を支払ってでも、民事訴訟に移行する前に何としても労働審判で和解に持ち込むのが得策だといえます。

現実に、労働審判に出頭してきた企業の担当者や経営者はみな

「1円も支払う気はない。民事訴訟になっても争う。」

という強気な姿勢なのですが、和解協議が始まると例外なく譲歩してきます。

たいていの場合、本訴に進めば会社にとって不利になるうえ、支払額も多くなりますし、余程でなければ本訴においても労働審判と同じ判決になるであろうことを代理人である弁護士から説明され説得されるのでしょう。

感情的に許せないというケースとか、あるいは労働者側の要求額が無茶な金額でない限り、会社側は労働審判での手打ちにおしなべて前向きです。




さて、実際に企業は労働審判を申し立てられたら、具体的にどのくらいお金がかかるでしょうか。

私の経験のみに限定していえば、解決金額70万円〜150万円くらいになります。

さらに弁護士費用が(労働審判での解決を前提とすれば)おそらく50万円〜100万円くらいになるのではないかと思われます。

合計すると、会社の金銭的な支出額は大体120万円〜250万円くらいになるのでは、と考えられるところです。
(※もちろん紛争に費やす労力や担当者の人件費などは考慮していません。)



労働者側に弁護士が付いているのであれば、その場合の損益分岐点(50万円くらい?)を超えて労働者にメリットのある金額を得られるという見通しを弁護士がつけているはずなので、それなりの出費はまず避けられないと思われます。

弁護士を付けない本人申し立てであれば、労働者側に確かな事件の見通しはありませんので、解決金額を上記よりも抑えられる可能性はあります。

注意すべきは、労働審判訴訟に比べ裁判官が主導してくれる制度なので、労働者が本人申し立てをしてくるケースは少なからずあるのですが、企業側は必ず弁護士をつけなければなりません。訴える側の労働者は最悪でも解決金を取れないだけで済みますが、会社側はヘタをすれば最終的には(つまり労働審判で終わらなければ)数百万円の支払いでは済まない可能性もあり得るからです。

弁護士費用については、もちろん労働者請求額によっては上記とは変わりますし、もっと高い弁護士も当然いると思われますが、極端に弁護費用の安い弁護士には注意した方がよいかもしれません。

また、上記の金額においては、残業代不払い、解雇、雇止め、退職強要、パワハラなど紛争の種類を区分していませんが、これは労働審判という制度が通常の訴訟に比べ証拠調べなどの過程をかなり高速ですっ飛ばして行い、かつ、判例をあまり厳格に考慮せず和解を重視してザックリと解決させる傾向にあることから、あまり細かく区分することに意味がないと考えました。
(※もちろん「ザックリ」とは言っても、解雇事案におけるバックペイなど、各事案における相場金額というものはあります。)



以上から、労働審判は会社にとってやっかいな制度であり、現実に申し立てられた際はそれなりの覚悟が必要であることがご理解頂けるかと思いますが、他方、うまく対応することによって、迅速に被害を最小限に止めることも可能だともいえます。

加えて、労働者があっせんや調停などを申請してきたときには、できる限り低水準での和解の道を探り、労働審判の手前で解決するよう努力することが、結果的には最も支出が少なくなるのではないかと思います。





関連エントリ

2013-10-06

労働基準監督官の現実<ダンダリンを視聴して>


日本テレビ系連続ドラマ「ダンダリン 労働基準監督官」の第1回オンエアを見ました。一般的に馴染みのない労働基準監督官という職業についてそれなりに具体的に表現できていたように思います。

以下、ドラマでやっていた内容について、実際はどうなのか、個人的にどう感じたかを項目別に言及してみようと思います。




労働基準監督官は労働基準法違反があった場合、逮捕できるということが強調される内容だった。

確かに監督官は司法警察員なので一般の警察官のように逮捕状を裁判官請求して逮捕ができますが、このようないわゆる「通常逮捕」ではなく「現行犯逮捕」という形であれば法律的には一般人でも逮捕はできるわけですし、ことさら逮捕を強調するよりも送検権限があるという方が現実的ではあると思います。実際に書類送検はザラにあります。

でもドラマ的には書類送検のシーンを放映しても面白くも何ともないことは確かです。




労働者から口頭でサービス残業が常態化していることを聞いただけで、段田凛(労働基準監督官)がすぐに臨検に行くと言い出した。

実際には、労働者からサービス残業の存在を聞いただけでは有り得ない話です。監督官は通常、客観的な証拠等によって違法性をある程度特定した上でなければ臨検は行いません。仮に物的な証拠がほとんどなかったにしても、労働者から細かく聞き取りをして、その内容に違法行為の信憑性が確認できる状況でもなければ職権を発動することはないでしょう。

具体的にはサービス残業の場合は、その会社の労働時間や賃金がどう規定されていて、何月何日にそれぞれ何時間何分の残業をして、それに対する給料の支払いはどうなっていて、結果それらが労働基準法第何条に違反するのか、ということを労働者は監督官に申告します。監督官はそれらの申告に基づいて、調査が必要なのか、調査するとすれば担当者を監督署に呼び出すか、それとも臨検するか、といったことを判断します。

これは監督官が労働基準法違反という刑法犯を扱っており慎重を期しているとも考えられますし、監督官の人数が少な過ぎて全てを調査していたら回らないので違法性をある程度特定できた案件のみ動くという面も影響していると考えられます。




「労働基準監督官は全国に3千人もいるのに被疑者逮捕は年平均2件しかない」というセリフ

逮捕の件数の少なさを強調する為のセリフではありますが、これだけ聞くとまるで労働基準監督官が現状十分に足りているように聞こえるかもしれません。

実際のところ、3000人という人数(2千人台後半といわれている)は圧倒的に人手が不足しているといわれています。労基署に行くとたくさん職員がいるので何も知らない一般の人は職員がみな労働基準監督官だと思うかもしれませんが、監督官はごく一部です。

東京で最も企業の集中する中央労基署では、監督官一人に対して3千数百の企業を受け持つ必要があるといわれています。対応する案件が多すぎて、長時間労働を取り締まるべき監督官が一番長時間勤務に陥っているという冗談のような話です。



と何だかんだ書いてますが、総合してかなりリアルに描かれていると思います。求人を「かわいい女の子」に限定する行為(男女雇用機会均等法違反)やパワハラといった案件が、労基署ではなく労働局の管轄である等なども正確ですし、逮捕前に検察に根回しをするあたりも間違いないと思います。





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2013-08-11

「労基法違反=ブラック企業」という定義付けでは規制は無理です


政府が法令違反が疑われる4千事業所に立ち入り調査をすると発表しました。


ブラック企業の対策強化 厚労省、4千事業所立ち入りへ(2013年8月8日朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0808/TKY201308080082.html

若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」対策として、厚生労働省は8日、9月を集中月間にし、約4千事業所に立ち入り調査をすると発表した。違法な残業や賃金不払いなどが疑われるケースに加え、「離職率」が極端に高い企業も初めて対象にし、調査する。
(中略)法律違反が見つかり、指導に応じない場合は、ハローワークでの職業紹介を受け付けない。また、重大・悪質な違反が確認されれば送検し、社名も公表する。



4千事業所を調査するというのはかなりのインパクトですが、ただこれでブラック企業対策になるのかといえば疑問だと思います。


ところでブラック企業の規制を論じる際によく問題となるのが、どうやってブラック企業を定義し特定するのかということです。そして、そんな話になると必ずこんな意見がたくさん出てきます。

「そんなの簡単だ。労働基準法に違反している企業=ブラック企業、ということにすればよい。」


確かに労基法に違反しているというのはわかりやすい基準ですが、その基準でブラック企業対策を進めても、実際はブラック企業の取り締まりにはあまり効果はありません。なぜなら、このブログで既に述べていますが、世間でブラック企業といわれるであろう会社で労基法に違反していない会社なんて山ほどあるからです。

以下参照
ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


ブラック企業関連で最も多い労基法違反は残業代の不払いでしょう。堂々と違反している企業も確かにまだ少なくありません。

しかし、定額残業代の制度を利用することによって企業は対策が可能です。判例の示すポイントを踏まえて適正に運用する限り、労働基準監督署も違法ではないという見解を示します。実際、多くの企業がこの定額残業代を導入することにより、月例賃金以外の残業代を追加で支払うことなく合法的に労働者に残業をさせています。

日本の法律では36協定さえ結べば青天井で何時間でも労働者に残業させることが可能です。ですから、36協定を締結し固定残業代を運用して残業させる限り、過重労働を強いても労基法には違反しません。

これが望ましいことなのかどうかはともかく、前述の基準によればブラック企業には該当しないということになります。

さて、一方、解雇、退職強要、セクハラパワハラ、配転、減給などの行為は例えそれが客観的にみて不当なやり方であったとしても、基本的に労基法には抵触しません(ただし解雇予告や解雇制限は別ですが)。これは労働基準法の条文には記載がないからです。これらの問題は監督署に申し出るのではなく、自分たちで民事的に話し合って解決しなければならない類いの問題です。


ですから、例えば先ほどのように定額残業代を適正に運用し合法的に残業をさせている会社が、仮に気に入らない社員を能力不足とかノルマ未達成といった理由で次々に解雇したり、年配でパフォーマンスの落ちてきた社員をどんどん追い出し部屋に押し込んだり、有休や育休を申請した社員に対し常軌を逸する威圧的な指導を行ってうつ病休職に追い込んだり、転勤や減給をちらつかせて執拗に退職勧奨を迫るような行為を繰り返していたとしても、労働基準法には違反せず、従って前述の「労基法違反=ブラック企業」という基準に照らせばブラック企業には該当しないということになってしまいます。



では労基法違反企業は放っておけばよいのかというとそういう訳ではなく、もちろんできる限り指導を行っていくべきだと思います。今回の4000事業所立ち入りは労基法違反企業にはそれなりの効果があるはずです。法令に関する知識が欠けている為に法に違反している経営者も少なくありませんし、そもそも立ち入り調査や指導を行う労働基準監督官の人数が少なすぎるという根本的な問題もあって指導が行き届いていない状況です。

しかしながら、ブラック企業と呼ばれる企業の対策は労基法を基準にしたのではなかなか難しいでしょう。労基法は行政指導を行う為のものであり、同時に犯罪行為を特定し刑事訴追を行う為のものですが、ブラック企業の行為の多くはそれらの前提となる違法性を特定することが困難なのです。対策に必要なのは、民事的に問題を解決する為の司法プロセスの環境整備をすること、そして労働時間規制を割増賃金で間接的に行うのではなく、直接インターバル規制をしてしまうことだと思います。

2013-04-18

入社前研修の賃金・労災その他取扱い


採用内定者向けに入社日前に研修を実施することがありますが、賃金は支給すべきなのか、支給する場合の金額はどうするのか、労災は適用になるのかといった質問を受けることがあります。


入社前研修について賃金支払いが必要になるかどうかは、基本的には研修に参加した時間が労働時間といえるのか(内定者が労働者として働いたのか)によって決まります。

つまり、

1.研修の内容が業務に関連するといえるもので、

2.会社の指揮命令下におかれていると評価できて、

3.実質的に強制参加といえるもの(参加しない場合に不利益取扱いのあるものを含む)

ということであれば、その研修は労働時間と考えられますから、入社前の研修といえども労働の対価として賃金を支払う必要があるということになります。


では賃金を支払う場合、既に内定として成立している雇用契約に定められた初任給を按分計算して支給する必要があるのかという次の疑問が湧いてきますが、初任給についてはあくまでも入社日以降の賃金額について契約したものですから、最低賃金を下回らない限りはいくらに設定しても法違反にはなりません。その際には賃金額をあらかじめ通知書等の書面で明示したうえ承諾を得ておくのが確実だと思います。



次に、入社前研修が労働時間ということであれば労災はどうなるのかという問題がでてきます。

この点は内定者が労働基準法第9条に定められた「労働者」に該当するのかという労働者性の有無によって判断されることになります。

ただし、注意すべきは賃金の件とは異なり、厚労省は入社前研修中の労災の適用に関しては厳密に判断する姿勢をとっていることです。具体的には研修内容が業務と関連性の薄いもの、例えばマナー研修や経済講演のような一般研修の場合には、支払われる手当については恩恵的給付であると判断される可能性があり、労災が認められないということも考えられます。

そのため労災の適用を望むのであれば、最低賃金以上の支給はもちろんですが、アルバイト等のかたちで雇用契約を締結した上で、研修内容に関して本格的な業務遂行を含む関連性の強いものにする必要があると考えられます。


なお、労災の適用の可否に係らず、研修中の事故等については企業に安全配慮義務が求められることになります(通勤途上は別ですが)。この点に関してはインターンシップの場合と同様、研修生の傷病、死亡事故、その他セクハラパワハラ等に関して企業側の過失が認められれば賠償責任が生じるリスクがありますのでご注意ください。





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2013-04-17

ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い


自民党が最近メディアで話題になっている「ブラック企業」について、社名公表などの措置を政府に提言する方針を固めたという報道があり、ネット上ではこの件について様々な意見がみられます。

その中でよく目にするのが、「なぜ企業名公表なのか。企業に労働基準法を遵守させるよう労働基準監督署がもっと厳しく取り締まるのが先ではないのか。」というような内容です。


自民党のブラック企業対策案ーさらに労基法の運用厳格化を
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130414-00024393/

ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakajimayoshifumi/20130412-00024370/



では、この件について書きます。

断言してもいいですが、労働基準監督署が労基法について厳しく取り締まったとしてもブラック企業は減りません。なぜなら世の中で問題視されているブラック企業の多くが労働基準法に違反していないからです。(少なくとも重大な違反は)

実務的な観点からいいますと、一般的に労基法違反でよく監督署の指導が行われるのは

・賃金不払い
残業代不払い
・労働時間(36協定、変形労働時間制・みなし労働時間制など)
・労働条件の不明示
解雇予告

そして上記より数は減りますが、他にあり得るのが

・年次有給休暇
就業規則作成・届出違反

といったところでしょうか。
あと労基法ではありませんが労基署の監督範囲として最低賃金法違反、労安衛法違反もあります。



ところがです。

上記のような労基法違反の案件は、どちらかというと零細企業であって、かつ法律の知識がない、経営に余裕がなくて労基法のことまで手が回らない、あるいは資金的余裕が全くない、というような事業主が圧倒的に多いのが現状です。これらはブラック企業というよりは、単に労働条件の低い企業、労働環境のよくない企業、法律リテラシーの低い企業というべきものと考えられます。

近年メディア等で問題になっているブラック企業とは、意図的に労働者を追い込んでいくものと認識していますが、少なくとも上記のような労働基準法違反行為は極力行わず、法律を熟知し、合法的に巧妙に労務管理を行っているのです。

雇用契約書や就業規則は会社の有利になるよう緻密なものを作りますし、残業代についても固定残業代、みなし労働時間制などを駆使して労働基準法をクリアするかたちで労働者に長時間労働をさせているものと思われます。

つまりブラック企業にとって、残業代をはじめとする労基法の規制はクリアできないハードルではないのです。(少なくとも現行法では)

「しかし有給休暇は消化させていないのでは?」

と思われるかもしれませんが、年次有給休暇は申請されたときに拒否されただけでは労基法違反は成立しません。有休は法律上労働者請求するだけで取得ができますから、労働者が日付を指定して会社を休みその後その日について給与が支払われなかった場合、その時点ではじめて労働基準法第39条違反が成立します。実際のところ有休について労基法違反のハードルは非常に高く、多くのケースでは違反は成立していないことになります。




さて、では上記のようなブラック企業は労基法に違反していないのであれば、現実的にどのような法的問題が生じ得るのかというとそれは、

・退職強要
パワハラ
・不当な配置転換、転勤、出向等の命令

このような行為によって労働者を追い込んでいくのだと考えられます。

しかしながら、これらは労働基準法の範囲外の事項であって、当人同士の契約関係、権利義務関係を踏まえた私法上の問題であり、労働基準監督官が手を出せる問題ではないのです。民事不介入ということです。

さらにブラック企業は、労基法をクリアした上で労災認定基準を超えるような長時間に及ぶ残業命令を行使していくものと考えられます。

冒頭で紹介した記事によれば

労働基準法がもっと厳密に運用され、残業代の支払いが当然の社会常識となっていれば、ブラック企業などそもそも成り立つはずもない。

とありますが、残業代問題をクリアした上で強行的・パワハラ的な業務命令・人事命令を発令して労働者を追い込むブラック企業が成り立っていると思われますが、労働基準法をどう厳密に運用して取り締まるのでしょうか。


これでお分かりかと思いますが、労働基準法の遵守状況について労働基準監督署による監督を強化したとしてもそれによって多くのブラック企業が摘発されるという結果は考えにくいのであり、もちろん世の中の一定程度の労務管理のユルい会社の適正化にはつながると思われるので監督強化自体には意義はありますが、しかし根本的なブラック企業問題の解決や改善には到底つながらないことは明らかです。


では何が必要なのかといえば、私見ですが以下のようなことです。

1.ブラック企業が引き起こす不法行為等について司法面での救済をもっと容易に受けられるよう制度を整える。(※現在うまくいっている労働審判制度をさらに改善し、多くの労働者がもっと容易に利用できる制度にしていく等)

2.パワハラ規制について法制化を急ぐ。

3.企業名公表については、新聞などのメディアにて確実に公式発表されるのであれば、ある程度大規模の企業に対してはそれなりの効果は見込める。

4.立法面において、終業時刻から翌日の始業時刻までのインターバルについて最低時間規制を設けることにより、現在のように「割増賃金の支払い」によって間接的に残業を制限するのではなく、直接残業時間を規制することによって労働者の心身の健康を保護する。(※労基法の罰則強化、および労基署の監督強化とあわせて)



企業の違法行為として残業代不払いがクローズアップされがちですが、実はブラック企業問題については残業代問題は中核をなすわけではなく、最も重要なのは企業が強大な人事権・業務命令権を背景に労働者の身体と精神の健康を破壊していく行為であり、残業代の支払いではなく残業時間そのものを規制する必要があり、そして労働者が自ら司法によって解決する仕組みや環境が必要なのだと思います。





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2013-01-22

会社から労働者に対して損害賠償請求はどの程度可能かを考える


会社が従業員に対して行う損害賠償請求の最も典型的な例は、従業員が会社の車を運転中に事故を起こすケースです。

このケースでは有名な裁判例があり(茨石事件)、労働者の過失で自動車事故を起こし会社に損害を与えた場合であっても、会社が労働者請求できるのは「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」とされ、結果的に「損害額の4分の1が限度」と判断されました。

ここから分かるように、平均的なレベルの労働者が普通に勤務をしていて事故等を起こし会社に損害を与えたとしても、労働者側に余ほどの過失があるか、または故意と立証できない限り、会社は従業員に損害を賠償させるのは現実かなり難しいということです。




そして最近は、損害賠償がらみで急増していると思われるのが、「労働者の退職時」、あるいは「労働者から会社への残業代等の請求」を発端とするトラブルです。


すなわち、労働者を辞めさせたくない、または辞めさせるにしても欠員補充や引き継ぎの期間を十分に確保したいので退職日を延ばしたいと考える会社が、最短の日程での退職を申し出る労働者に対し、当該労働者が抜けた影響によって業務に支障がでることを主張し、その損害を請求する旨を通告してくるパターンが1つ。

状況にもよるでしょうが、労働者が法律で認められている範囲内において退職を希望しているのであれば(※つまり退職を申し出てから2週間経過以降に退職するということ)会社は法的に引き留める術はありません。もちろん有給休暇が残っているのであれば、退職日までの期間に消化する行為を止めることもできません。

それによって業務の引き継ぎに支障が生じたからといって、労働者に損害賠償を請求しても認められるわけがありません。(労働者が悪意をもって引き継ぎに一切協力せず、現実に生じた損害を会社が立証できれば可能性はゼロではありませんが。)

さらに、辞めたいと言っている労働者に対して、認められるはずもない損害賠償請求をチラつかせるのは恫喝ともいえる行為であり、強制労働を強く禁じる労働基準法の趣旨からしても、会社はすべきではありません。



もう1つのパターンは、労働者が未払い残業代解雇セクハラパワハラ等について会社に対し対応を求めるアクションを起こした際に、会社が弁護士を通して

「在職中の仕事のミスによって会社は多大な損害を受けたので、損害の賠償を求める」

といったような内容証明を送ってくるものです。

上記のような内容証明が会社から送られてくるケースは通常、労働者弁護士をたてずに単独で会社に対して違法行為等を追及した場合が多いのではないでしょうか。つまり、本気で賠償させようとしているのではなくて、労働者側の請求を引っ込めさせることを意図した損害賠償請求も少なからずあるのではないかと思われます。

いずれにしても、冒頭の自動車事故の話でもふれた通り、労働者のミスによる会社の損害を労働者に賠償させるのは相当に難しいというのが大前提になります。

また、最後の給料や未払いの残業代を支払わずに、それらを損害の補てんに充てたというトンデモナイことを言い出す会社もありますが、勝手に損害額を賃金から天引きすることは明確に違法です。賃金と損害賠償との相殺はあくまで労働者本人が希望した場合のみ許される行為なので注意です。




会社から労働者への損害賠償請求で他に考えられるものには、労働者秘密保持義務競業避止義務に違反したケースがありますが、これらが問題になるのも通常は在職中ではなく退職後が多いと考えられます。

退職後の秘密保持義務・競業避止義務違反を問うには、就業規則および雇用契約書において、契約終了後もそれらの義務が継続する旨を明記しておく必要があります。

退職時の引き継ぎ義務とあわせて会社はしっかり規定しておきたいところですが、ただし、賠償額まで定めてしまうと労基法違反(第16条 賠償予定の禁止)になりますのでここも注意すべき点です。




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2012-10-24

インターンシップの違法性と注意点


近年、インターンシップに参加する学生は本当に増えています。

インターンシップの活用は、企業ニーズと学生の抱くイメージのミスマッチの回避につながりますし、企業側は選考過程に組み込んで優秀な学生を採用するチャンスを得られるなど様々なメリットがあります。


しかし、インターンシップを使うのであれば、その法的な問題点にはぜひとも注意しておかなければなりません。


勘違いされている方もいますが、インターンシップとはあくまで「就業体験」であって労働ではありません。「試用期間」だとか「OJT」などとは根本的に異なるものです。

もしインターン実習生の就業実態が労働基準法上の労働者に該当するということになれば、労働関連諸法令が適用され、最低賃金の支払い義務が発生するほか、実習中に起きた事故や災害・ケガ等について労災保険を適用させなければならなくなります。

なかにはインターンシップを「低賃金 or 無償でこき使えるアルバイト」のような感覚で利用する悪質な「名ばかりインターン」も現実にあって問題視されています。


では、どういう場合にインターンシップは違法となるのか、企業はどんな点を注意すればよいのかについては、行政通達でインターンシップの労働者性について、ある程度明確にされています。


1.実習生が企業から指揮命令を受けているなど、使用従属関係が認められる場合
2.実習生が本格的に業務を遂行するなど、生産活動に従事している場合(作業による利益・効果が会社に帰属する場合)



これらに該当すれば、労基法上の労働者とみなされる可能性が高いといえます。

さらに、以下の事項は労働者性が肯定される判断材料となります。

3.実習生に支給される手当が、一般従業員の賃金とあまり変わらない水準の金額である場合
4.会社の規則に違反した実習生に制裁が課されている場合
5.一般従業員の就業場所と区別されず同じ場所で現場実習が行われている場合




ここまで読んでお分かり頂けると思いますが、インターンシップを適法に運用することは実際、企業にとって相当にハードルが高く、事実上ほとんど実習生に「仕事」をさせることはできません。

常に実習生の横で指導・教育を行える担当者を配置するなど、十分な人的余裕が企業になければそもそもインターンシップは成立しないのです。

内容についても見学や説明をメインとし、現場・生産ラインに入らせる場合は本当に軽度の補助的な作業にとどめなければなりません。

例えば、営業などは会社の利益に直結しますから、せいぜい担当者の横で見学する程度にすべきですし、電話応対や接客についても指導者が横について監督している状態で体験的に試してみる程度にとどめ、実習生が独立して行う事のないようにすべきです。製品の製造やPCを使った製作は当然ながら生産活動に該当しますし、資料を作成する程度であっても、その資料が業務で使われるのであれば生産活動とみなされます。


「そんな実習は物理的に無理だ」
「そんな薄い体験では意味がない」

ということであれば、悪いことは言いませんがインターンシップという形式はとらずに、短期のアルバイトとして雇用し、最低賃金以上を支払い、労災等を含めた使用者としての責任を全て負うかたちの方がよいと思います。


ちなみにインターンシップが認められた場合(つまり労働者性が否定された場合)、労災保険の適用は不要となりますが、そのこととは別に企業には安全配慮義務が求められることになるので、実習生のケガや病気、死亡事故、その他セクハラパワハラ等に関して企業側の過失が認められた場合には損害賠償責任が発生する可能性があります。この点は注意です。

逆に学生側も、企業の保有する機器・施設等に対する損害、機密保持等に関し賠償責任が生じ得るということを忘れてはいけません。




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2012-09-19

TBS「みのもんたのサタデーずばッと」TV出演しました<高年法改正について>


平成24年9月15日(土)放送

TBS「みのもんたのサタデーずばッと」

◆定年後も希望者全員雇用を義務づける法律が成立!その光と影とは?◆

テレビ出演させて頂きました。

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具体的には、来年4月から施行の改正高年齢者雇用安定法の弊害についてコメントしました。




このブログで何度も申し上げている通り、今回の高年法改正については問題山積みなのです。

政府の年金政策の失敗によって年金支給開始年齢は来年2013年より段階的に65歳まで引き上げられ、そのツケを企業にまわす形で65歳までの希望者全員雇用が決まりました。

当然ながら企業には人件費枠というものが決まっていますので、法律が改正されたからといって総額人件費を増やすなどという事は企業は決してしません。企業は法律がどうこうではなく業績によって予算を決めるからです。

ですから、今回の改正によって企業が考える対策は2つ、

1.若年層を含む労働者全体の昇給抑制、および新卒・中途採用の抑制

2.60歳定年になった労働者を自主的に退職させるよう圧力をかけていく

こうなることは目に見えているわけです。


対策をとっても人件費の上昇は免れない企業、自主退職への圧力をかけられ労働環境が悪化する労働者企業と労働者どちらにとっても厳しい法改正であることに間違いありません。


番組の中では、定年再雇用者のための新規事業を開始し、高齢者が活き活きと働く運送会社のVTRが流れていました。もちろんあのような事例もあるでしょうし、業種にもよりますが特に中小企業では人材の確保が難しく、熟練した高齢者を活用したいという会社も少なくありません。高齢者の雇用を守ることをアピールすることによって有能な人材の獲得を優位に進める狙いもあるでしょう。

しかしながら、企業にはそれぞれ異なった事情、環境があります。希望者「全員」の雇用義務を課すインパクトは計り知れません。今後多くの退職強要、パワハラが発生するであろうことは否定できません。



また、今回の改正では別の火種も残されています。

継続雇用の例外として発表される予定の厚生労働大臣の指針です。健康状態、勤務態度などの事由によって継続雇用の対象から例外的に除外できるといわれているものです。

※詳しくは過去記事を参照
<65歳まで全員雇用>改正高齢者雇用安定法の問題点 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

全員が継続雇用と法律で決まったのに、指針で例外をつくるわけですから、現実にどこから例外になるのか指針の解釈をめぐって多くの労使トラブルが勃発しそうです。

なぜ国はこのようなトラブルばかりを生む法改正を淡々とやってのけるのでしょうか。国民が五輪に夢中になっている間にひっそりと。




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2012-03-26

上司だけでなく部下・同僚からの嫌がらせもパワーハラスメント<厚労省・初の定義>


1月末に、厚生労働省(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ)がパワーハラスメントの定義を初めて公表したことは記憶に新しいところです。さらに先日、同円卓会議によって「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」がとりまとめられ公表されました。

厚労省が定義を公表したことがそんなに重要なのかと感じる方もいらっしゃるでしょうが、実はこれが結構重要なのです。

セクハラとは異なり、パワハラは法令上明確な定義がありません。

例えばセクハラは、男女雇用機会均等法第11条および厚生労働省の定める指針において、「セクシュアルハラスメント」が明確に定義され、さらに企業の対策義務が定められているため、労働者はそれらに該当する行為をセクハラとして訴えることが可能であり、企業側はそれらの法令にのっとって制度を整備し、周知を図って予防対策を講じていくことが可能なのです。

(※均等法は行政取締法規であるため、実際には不法行為を根拠に加害者を、また、職場環境整備義務違反あるいは民法上の使用者責任を根拠に会社を訴え出ることになります。あるいは行政指導により、勧告・企業名公表などが考えられます。)


一方で、労働者が職場内においていじめ・嫌がらせを受けた場合にパワハラだとして加害者や会社に対して責任を追及していくことは相当にハードルが高く、また、会社側としても、どこまでの範囲が指導・業務命令として認められ、どこからがパワハラに該当するのかの線引きをすることが難しく、どのような責任を問われるのかリスクを測って対策を講じるにしても、過去の判例や労災認定事例を参考に手探りで行うという部分があり、悩ましい問題でありました。


しかしながら、このブログで何度も書いていますが、パワーハラスメントは今後企業にとって最もスタンスの問われる重要な労働問題になることは間違いありません。

昨年末、精神障害に係る労災認定基準が改正され、そしてこのタイミングで政府から初めてパワーハラスメントに関する定義と対策が発表されたことは、今後のパワハラ法制化への大きなステップになるものと考えられるわけです。


ちなみに、これまで手探りの状況のなかで使われてきたパワハラの定義と、今回厚労省から公表された定義を比較してみると

これまでの定義

「パワーハラスメントとは、権力や地位などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超え、継続的に人格と尊厳を侵害する行動をいう。」


今回公表された定義

「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
※ 上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」



通常パワハラというと、「上司から部下」という構図を思い浮かべますが、今回の定義では、「部下から上司」、あるいは「同僚間」のものについても含まれ、全ての従業員が加害者または被害者になり得るということが明確に示されています。

また、行為類型については

1.身体的な攻撃(暴行・傷害)
2.精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5.過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

とされており、これらに当てはまらない場合でもパワハラとなり得るとのこと。

そして、先日公表された予防・解決に向けた提言においては、企業・労働組合・経営者・上司・従業員・国・労使団体それぞれに期待する取組についてポイントがまとめられています。

以下参照
職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ |報道発表資料|厚生労働省


企業に求められるのはもちろん予防と、そして起こったときの解決です。

パワハラについて全く対策をとっていない企業は少なくないはずです。実態を把握し、方針を定め、パワハラ防止規程を作成し、相談窓口と担当者を設置し、周知・教育し、対処ルールを決めて、適正に制度を運用する。国の制度が動きだしている今こそ、対策を始める絶好の機会ではないでしょうか。




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2012-03-14

女性の肩を叩いて励ました上司がセクハラと訴えられる現実


某大手企業において、部下の女性から仕事のことについて相談を受けた上司が、「気にするなよ。」と言ってポンと肩を叩き励ましたところ、翌日になって上司からセクハラを受けたと会社に訴えてきたとのこと。

女性の肩を叩いて励ました上司 セクハラと告発され自主退職│NEWSポストセブン

詳細は不明ですが、この上司はやむなく自主退職したという記事です。


近年の職場におけるセクハラへの意識の高まりは今さら説明するまでもないと思います。

セクシュアルハラスメントは法令上明確に定義され、さらに企業はセクハラ防止対策を講じることが義務付けられています。実際に紛争が起きれば、セクハラの加害者は不法行為責任、会社は労働契約上の付随義務である職場環境配慮義務違反および民法上の使用者責任を問われることになります。

前述の事件が法的にセクハラに該当するのか、上司や会社が法的に責任を追及されて紛争に発展したのかなど定かではありませんが、同僚や上司などに身体を触られて不快に感じる女性がいることは当たり前と思いますし、近年のセクハラトラブルの増加や一般的な意識の高まりを考えれば、上司がとった行動は仮に悪気がなかったとしても明らかにうかつだったことは間違いありません。

大企業の中には、コンプライアンスの一環としてセクハラに該当しそうな行為を行き過ぎじゃないかと思えるほどに厳しく規定で禁止する会社もあり、現場では気軽にコミュニケーションがとれなくなって仕事に支障をきたしそうだという話も聞きます。

他方、いまだにセクハラが法令で規定されたことさえ知らずに大昔の感覚でセクハラ行為を日常的に繰り返す時代遅れ管理職も少なくありません。


前述の事件の上司は一般的なセクハラ意識の高まりを知らなかったわけでは決してなく、また自分の行為が女性に不快感を与えているとは夢にも思わなかったのだと予想されます。足りなかったのは想像力でしょうか。自分と相手の価値観がまるでズレていたことに全く気付きませんでした。

労働トラブルの大半はこの価値観のズレから起こるものです。会社側は従業員の価値観を的確に把握し先手を打たなければなりません。旧世界の価値観を引きずってきている方々は退場を余儀なくされるということを再認識させられる話でした。



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2012-01-26

滅多に来ないが来たらただでは済まない労働基準監督署の調査


一般的に経営者は税金の計算には熱心ですが、労務管理にはあまり関心がありません。従って税務署対策を普段から意識している会社は多いと思われますが、労働基準監督書の調査を意識している会社は逆に稀だと思います。

例えば直近10年で税務調査が入っていない会社というのは少数派かもしれませんが、労基署の調査となると、入った記憶がないと言われても別に珍しいとは感じません。それほどに労基署の調査の頻度は低いと思います。

この理由は単純に会社の数に対して調査を行う労働基準監督官の人数が少ないということもありますし、日本において労働行政は税務行政に比べそれほど重要視されていないとも考えられます。



しかしながら、滅多に来ないというだけに、いざ労基署の調査が入ると混乱したり、予想外の膨大な出費でダメージを受けるケースも少なくないのが実情です。それだけならまだいいのですが、経営者や担当者の労働基準法に対する理解不足が原因で監督官とケンカになり、監督官の心証を悪くして取り返しのつかないことになることもあります。



労基署は「労働基準法違反」について取り締まる行政機関です。具体的には賃金や残業代をきちんと払っているか、労働時間や休憩・休日は適法か、などを見ます。(労働基準法に規定のない事項、例えば解雇の有効性の判断やパワハラの指導等は一切行いません。)

これは重要なことですが、労働基準法は労働行政の手続き等を定めているのと同時に刑罰も定めています。

サービス残業とか、給与一律カットとか、36協定(時間外・休日労働協定)を超える長時間労働とか、たいしたことじゃないように感じるかもしれませんが、労働基準法に違反するということは犯罪行為が既遂で成立しているということです。

「最悪でも営業停止などの行政処分だろう」と考えている方もいるかもしれませんが、労基法違反は刑事告訴がありうるわけです。

我々の業界では常識ですが、労働基準監督官は臨検監督や行政指導を行う行政官であるのと同時に特別司法警察職員としての身分をもっています。したがって監督官は会社の行為が悪質だと判断した場合、自身の判断で経営者などを送検することができます。


実際送検されると何が起こりうるのか。

翌日の新聞やニュースで「労働基準法違反により書類送検」と報道されることがあるかもしれません。(送検時点で労働局より発表があるためです。)

もちろん起訴された後、有罪が確定すれば前科という扱いです。(たいていは懲役刑ではなく罰金刑ですが)

労基法違反で新聞に載ったり前科者になるとは予想だにしなかったことでしょう。



企業は労基署の調査に対してどういう姿勢をとっていくべきなのか。

現実として労働基準法を完璧に遵守していくことは不可能に近いといえます。労基法を忠実に守っている会社がほとんどないことは労基署だって百も承知です。

しかしながら、「この会社は法令に基づいて労務管理をきちんと行っていく意思がある」という姿勢を見せることがまず重要です。

監督官に対して
「そんな法律知らない」
「そんなこといちいち守ってたら経営は成り立たない」
「何で会社が従業員に対してそこまでしてやらなければならないのか」
というような口をきけば状況は悪くなる一方です。監督官は基本的に紳士的な方が多いと思いますが、敵に回せばおそらくただでは済みません。頭にきても絶対にケンカをしてはいけません。労基法に違反している時点でケンカに勝つことはできないのですから、勝てないケンカはするべきではありません。


そして会社が普段から気をつけるべきことは以下です。

労働基準法はもともと憲法の生存権の理念に基づいて定められた法律ですから、労働者の生活とか生命に係る事項は特に重視されます。

実際に行政指導や送検の多い事例は、賃金不払いであったり、労働安全衛生法違反であったり、生命や身体に直接影響の及ぶ案件です。近年は過労死や過労自殺の増加を背景にその温床となっているサービス残業の摘発が重視されているのが現状です。(ちなみに毎年11月はサービス残業取り締まり強化月間です。)

ですから会社としてはまず労働時間・休憩・休日・休暇などを適当にせずに制度化して就業規則・雇用契約書に明記し労働者に周知して規定通りに運用することです。また、タイムカードを打刻するとともに労働時間管理をきちんと行い、毎月賃金台帳を法定通り作成し、36協定を締結して労基署に提出し、残業を許可制や届出制にして残業管理をしっかり行い、残業代を抑える賃金制度や労働時間制度の導入による残業代対策についても適法に行うことです。

これらは経営状況が厳しい会社でもやる気があればできることです。そしてこれらの帳簿等を備えておけば労務管理をきちんと行っているというイメージを与えることができます。

次回は労基署調査についてさらに詳しく書きたいと思います。




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2011-11-03

就業規則がなぜ雇用契約書よりも重要なのか


最近は労働トラブルの増加が認識されてきたからなのか、従業員を採用する際に雇用契約書(または労働条件通知書・雇入通知書)をきちんと作成する企業が増えてきていると実感します。雇用契約書の確認や添削を依頼されることも少なくありません。

もちろんリスク管理の一環として雇用契約書を整備することは大切な事ですが、意外にそういう会社が就業規則(給与規定含む)を全く整備せずにほったらかし状態であったり、就業規則を従業員に全く周知していないと分かって驚くことがあります。


「雇用契約書を備えても就業規則が適当では安全とはいえません」と言ってみても、企業の経営者や担当者の方はピンとこないのかもしれません。

また、就業規則を一から作ったり、長年手をつけていない就業規則を改定するのは非常に大変な作業です。それであれば従業員が入社する都度に雇用契約書を吟味して作成する方が手間がかからないと感じるのかもしれません。

世の中の一般的な契約関係は全て契約書によって主張立証を行うものと思われますから、雇用関係についても雇用契約書に細かく規定しておけばとりあえずは安心だと考えるもの無理はありません。




しかしながら、労働契約における使用者と労働者の関係は非常に特殊なものです。

労働トラブルが起きた場合、就業規則の内容は雇用契約書よりも優先されます。いくら雇用契約書に労働条件を細かく定めていても就業規則と矛盾するようでは意味がありません。


実際に見かける雇用契約書と就業規則の内容の矛盾は以下のようなものです。

  • 雇用契約書で「退職金なし」としておきながら、就業規則では全員に支給されるととれるような記載になっている
  • 規定されている労働時間や休憩・休日が全く違う(雇用契約書ではシフト制になっているが、就業規則ではシフト制については一切記載がなく、「9時〜18時・土日休み」のような一般的な規定だけが書いてある)
  • 雇用契約書では休暇は有給休暇のみだが、就業規則では様々な休暇が規定されている
  • 雇用契約書で試用期間が定められているが、就業規則では試用期間の規定自体が載っていない
  • 賃金規程に記載された手当の要件を満たしているのに、雇用契約書には記載されていない
  • 雇用契約書では年俸制となっているが、賃金規程には一切載っていない
  • 「パート雇用契約書」と書かれてあるが、パート就業規則は存在しない


挙げればきりがありませんが、「就業規則がきちんと整備されていなくて一番困ることは何か」と聞かれたときに真っ先に考えるのはやはり次の2つでしょうか。


就業規則に載っていない懲戒処分は行えない」

就業規則に根拠がなければ降格・降給が行えない」



懲戒処分(懲戒解雇含む)が行えないということは、ルールを定めても罰則がなく強制力がないということです。規定なしで懲戒を行えば当然無効ですし、ヘタをすれば損害賠償を求められます。

降格・降給については意外と知られていませんし、現実に記載されていない会社が多数あります。規定なしで降格・降給を行えばやはり無効、損害賠償もあり得ますし、労働基準監督署から賃金不払いで勧告を受けるかもしれません。



上記のほか、雇用契約書に書いてあっても就業規則に記載がなければ効力のない事項は少なくありません。

小売業・サービス業でよく利用される変形労働時間制や、配転・出向などの会社の人事権、振替休日・代休の付与命令権、パソコン使用履歴のチェック、従業員所持品検査などは全て就業規則に規定がなければできません。




雇用形態が多様化し、正社員しかいないという会社は珍しいといえる近年、パートや契約社員などの非正規従業員のことを考え、休職制度や賃金・賞与・退職金制度などを正社員と分ける必要があるでしょう。


会社のリスク管理には秘密保持、セクハラパワハラ、社用車・マイカーに係る規定は欠かせませんし、税務的には出張旅費規程は重要だと思います。




なお、就業規則の内容を変更する際ですが、従業員にとって不利な内容に変更する場合は、従業員の同意なしに行うと後でトラブルが起きたときに無効とされる可能性が高いので、くれぐれもご注意下さい。




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2011-09-04

内部通報で求められる対応


上司の行動について企業に内部通報を行った社員が報復人事を受けたとして訴えた裁判で、東京高裁は社員側が敗訴した1審判決を取り消し、配置転換は人事権の濫用にあたるとして無効とし、220万円の慰謝料の支払いを命じる判決を下しました。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011083102000182.html


平成18年、企業の法令違反について内部告発を行った労働者を保護することを目的に公益通報者保護法が施行されましたが、今後企業がとるべきスタンスを考えるうえでも今回の裁判は非常に注目を集めているものと思われます。

(※公益通報者保護法により、内部通報を理由とする解雇や減給などの不利益取扱いは禁止されています。)



最高裁の判断はでていないため断定的なことは言えませんが、この事件でそもそも問題だったのは、内部通報を受けた窓口担当者が違法行為の当事者とされる上司に対して通報の内容を知らせてしまったことではないでしょうか。

内閣府が示すガイドラインでは担当者に秘密保持を徹底させるよう記載されており、また、当該企業の社内規定においても通報者が特定される情報の開示が禁じられていたとのことです。

(※会社側はこの点について本人の了承を得たうえで上司に連絡したということですが、状況を考えた場合、本人の了承の有無に関わらず情報を開示することは、法律論を抜きにしても得策だったとは思えません。)



近年は内部通報のほか、セクハラパワハラなど危機管理のための相談窓口を設置し体制を整える会社は少なくありませんが、担当者の情報の取扱いや相談後の対応が適切でなければ従業員の信用が得られず、結果として窓口が機能しないことになります。

今回のケースでは、会社は訴訟に関わる費用、時間、労力を少なからず浪費し、さらには企業イメージにも影響がなかったとはいえません。加えて会社の将来を真剣に考える1人の人材を失ったともいえるのかもしれません。

一方で逆転勝訴した社員も「一日も早く普通のサラリーマン生活に戻してほしい」と語るなど勝訴を喜ぶ様子はなく、とにかく元の状態に戻りたいというのが正直な気持ちだと思われます。

社内に問題となる対象事実が存在したかどうかに関わらず、通報の際の担当者の対応は、会社と従業員の両者に大きな損失をもたらしかねないということを忘れてはいけないと思います。

2011-06-16

精神障害による労災の増加 企業を悩ます「心の病」


14日、厚労省から2010年度の脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況について発表がありました。発表によると、業務上のストレス等でうつ病などの精神疾患・精神障害を発症し、労災認定を受けた件数は308件で過去最多、さらに精神障害による労災請求件数は1,181件で2年連続過去最高の数字となったようです。

以下、厚労省の資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001f1k7.html


これは注目すべき数字です。


念のためですが、この精神障害による労災は、10年前には認定件数が現在の10分の1請求件数は5分の1)、さらに20年前にはほぼゼロでした。

まあ考えてみれば、当時は経済も今ほど悪くない、携帯電話も今ほど普及していない、成果主義もない世の中でした。

働く環境は一変し、労働者の体と心に過重負荷がかかり、最近は本当にうつ病を発症して休職する方が多いと感じるようになりました。



ではポイントをいくつか


従来、「心の病」は私傷病として扱われることがほとんどで、療養のための休業は休職制度を利用し、生活費は健康保険から傷病手当金を受給し、就業規則で定めた期間を満了すれば休職期間満了で退職、ということになったと思われます。

しかしながら、労災認定されれば休業期間中は解雇はできません。さらに前回も書きましたが、労災は会社の責任が明確になるため、労災と別途で慰謝料を請求される可能性が高いでしょう。


また、労災の認定率が若干上がっています。行政は明らかに多くの職場において業務上の心理的負荷が精神障害を引き起こす具体的な危険が内在するという認識のもとに、精神障害に係る労災認定の判断を慎重に行っているものと思われます。


そして、「心の病」を引き起こす最も大きな理由はやはり人間関係です。前回の記事でセクハラの労災に関して触れましたが、今後企業のスタンスが最も問われてくる重要な問題は間違いなくパワハラだと考えられます。パワハラの対策は難しく、まだ多くの企業において進んでいないのが実情ではないでしょうか。


今回の発表で請求件数、支給決定件数ともに過去最高ということでしたが、今後さらに増加していくことが予想されます。休職規定の内容を再度見直すことも当然必要かと思われます。「心の病」対策はリスク管理の側面だけでなく、人材戦略の観点からも企業にとって非常に重要なものとなるでしょう。



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2011-06-13

セクハラの労災認定


「労働トラブルで最近特に問題になっているものは何か」

と聞かれれば、今ならセクハラパワハラと答えるかもしれません。


先ほどTBSのニュースでセクハラの労災認定についての特集を見ましたので、前回に引き続きセクハラについて書こうと思います。


以下参照
TBS NEWS - TBSの動画ニュースサイト



最近、各地の労働局においてもセクハラの相談が倍増していると聞きます。
行政の企業に対するセクハラの是正指導も確実に増えています。

厚労省の指針に則った対策を講じなければ使用者責任や債務不履行責任を問われることになると前回お伝えしましたが、さきほどのニュースの内容はさらに一歩踏み込みます。


セクハラを原因とする精神疾患・精神障害は労災認定されるのか、という問題です。


詳しくはいずれ別の記事で書きますが、精神障害に係る労災認定は「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」という行政通達に基づき、「心理的負荷評価表」という表を使って、労災になるのかどうかを行政が判断します。

そして、心理的負荷評価表によれば、セクハラの心理的負荷の強度は中程度に分類されています。つまり、セクハラは滅多なことでは労災として認められません。

実際私も以前にセクハラの労災申請に関わった経験があるのですが、その際労基署の職員に「多分無理ですよ」とはっきり言われました。

前記のニュースに登場する被害者の女性も労災の申請は認められず、行政の判断を不服として国を提訴したところ、裁判の途中で国が突然労災を認めたとのことです。現時点では、セクハラで労災認定を勝ち取ろうと思うなら、裁判まで覚悟する必要があるということです。


しかしながら、今の流れからいけば、厚労省はいずれ基準を見直すのではないでしょうか。


そして最も重要なのは、「労災」とはそもそも災害を発生させた会社の労働者に対する補償責任を国の保険で代わりに支払う制度であり、セクハラで労災が認定されれば、会社の使用者としての責任がより明確に問われるということです。早い話、通常のセクハラトラブルよりも損害賠償額がでかくなるということです。仮に精神障害が自殺に発展したら取り返しがつきません。

セクハラを放置する危険性、そしてセクハラ問題において企業が問われる責任を正しくご理解ください。



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2011-06-08

時代の変化に気付かない人々


先日セクハラに関する以下のニュースを見つけました。

岐阜新聞Web


ある自治体に勤務していた女性職員が懇親会でセクハラ行為をうけたとして、自治体に損害賠償を求め訴訟を起こしたのですが、その裁判で自治体側が提出した証拠が原本と違っていることが発覚したのです。



証拠の書類は懇親会における役割分担表。

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上が原本。
下は自治体が裁判所に提出したもの。
「接待」の項目が抜けている。
自治体は原本と違っていることを認めており、
現在内部調査を進めている。



これはもう、何というか、相当に駄目ではないでしょうか。

職員をコンパニオン扱いしたうえに証拠改ざんとは。
彼らの頭の中はバブル景気あたりで止まっているのかもしれません。



私の実感ですが、セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)を重要視しない企業は現在でも少なくないと思います。ですがそれに反して、セクハラが問題化したときの企業の責任はかなり重いものになってきています。

セクハラの定義は現在法律によって明確化されており、セクハラ対策として会社が講じなければならない指針を厚生労働大臣が定めています(通称セクハラ指針」)。
指針の内容は簡単にいうと以下です。

  1. セクハラに関する会社の方針を明確にしたうえ、従業員に周知・啓発
  2. セクハラに関する苦情・相談の窓口や担当者等、必要な体制を整備
  3. セクハラが実際に生じた際の調査、処分、配転などの適切な対応


当然これらの内容はセクハラ防止規程として規定化しておく必要があると思われます。


「法令で義務付けられているとはいえ、はたしてそこまでする必要があるのか」

とお考えの方もいらっしゃると思います。


ちなみにセクハラ指針に則った対策をとらずに実際にセクハラが起きた場合、会社は民法715条不法行為の使用者責任、あるいは職場環境配慮義務に係る債務不履行により被害者から損害賠償を求められる可能性があります。


セクハラ対策の先送りは会社にとって確実にリスクです。
時代の変化に気付けない人々はいずれ退場を命じられる日がくるでしょう。



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