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人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-02-25

<シャープ買収>40歳以上が拒否される雇用システムを支持してきたのは誰か


シャープが台湾企業ホンハイの傘下に入ることが決まり、ホンハイは買収の条件として「40歳以下の従業員の雇用の維持を約束」していると言われています。

つまり、40歳を超える従業員の雇用は一切保証されないことになりますが、これはホンハイが血も涙もないからではなく、極めて合理的な決断であり、もっと言えば、シャープの40代・50代の従業員を含め、おそらく日本の多くのサラリーマンが望んだ結果であるものと考えられます。

日本の多くの企業ではいまだ、給与が毎年少しずつ昇給する年功序列型の賃金制度が使われており、成果主義を採用しているという企業であっても、業績等によってある程度の差はつくものの、結局は属人的な給与体系であって、年齢や勤続年数が給与に大きく関係するのが実情です。

そして、こうした年功型の人事制度がずっと運用され続けてきたのは、会社側だけでなく従業員側もまた強く望んできた結果だといえます。近年、安定した企業へ就職したいというサラリーマンの安定志向は若者まで浸透していますが、安定した企業とはつまり、仕事によって給与が決まったり成果によって年収が大きく上下しない会社、つまり年功型賃金の企業のことです。

多くのサラリーマンの望む安定した会社、つまり給与が年齢・勤続に応じて少しずつ上がっていくような会社は、20代・30代の若い頃はパフォーマンスに比べて給与が安く、40代・50代になってから昇給カーブに乗ってパフォーマンスを超える割高な給与がもらえるものです。

言い換えれば、若いうちは将来の出世と引き換えに一生懸命働いて会社に一杯貯金をつくり、年配になったら動きは落ちてきちゃったけどその代わり会社にたくさん貯金があるから高い給料をもらって定年まで安泰という感じです。

ところが、この安定には大きな大前提があって、それは企業が変わらずに「存続」しているという点です。

今回のシャープのように、若いうちに割安な給料で残業こなして異動にも応じて会社の為に精一杯尽くしてきたのに、さあこれから年功制のリターン部分を享受するぞ、というまさにその段階で、今回のような買収があれば、若い頃の貯金が全部貸し倒れで消滅してしまうこともあり得るという訳です。みんなが入社したがる安定企業が民間企業である限り、このリスクを内包しているのは当然です。

「40歳以下の雇用が維持され、40歳を超える雇用が保証されない」ことは、紛れもなく安定志向を望む多くのサラリーマンたちが自ら望んだ結果であることは間違いありません。

いずれにしても経営再建の為にリストラが必要不可欠だという状況の中で、いままで年功制の中で割高な給与支給されてきた40歳超の従業員を「要らない」と考えたホンハイの判断は合理的としか言いようがありません。年齢だけを理由に高い給与支給される従業員を雇用し続ける方が余ほど不合理といえます。

シャープがもし仕事と業績によって給与が決まる完全実力主義の会社であったなら、「40歳以下は〜」といったような年齢で一刀両断されることはなかったかもしれません。今回のような取扱いは年齢による差別といえます。しかし、多くのサラリーマンは、この年齢による差別を望んでいる現状があります。競争よりも安定を望んでいるからです。そして、いま見えている安定とは、年齢に応じて給与が上がっていくという年齢による差別ともいえる、いつ消滅するか一切保証のない、まやかしの安定だと思います。

2016-02-18

「定年制の廃止」できる会社とできない会社


ジョイフルが定年制を廃止するというニュースがありました。

ジョイフル:正社員60歳定年制廃止 パートも雇用継続 - 毎日新聞


以前から定年制を廃止する企業のニュースはたまに見かけますが、定年廃止は企業にとって非常に勇気のいる決断です。

定年廃止は、何のトラブルもなく自動的に従業員を退職させるための唯一のシステムがなくなることを意味します。正社員は基本的にみな無期雇用なので、自分から辞めたいと言わない限り何歳まででも企業は雇い続けなければならないということになります。高齢でパフォーマンスが落ちてきたというくらいでは、解雇なんかまずできません。


そんなリスクを負ってまでなぜ定年廃止に踏み切るのか。このままではもう立ち行かないくらい人材が不足しているからです。定年廃止をアピールすることでより優秀な、より多くの人材を獲得したいのです。


とはいえ企業が定年を廃止する為には、どうしても越えなければならない壁があります。「年功序列」の壁です。定年廃止には実力主義が不可欠なのです。

日本の企業の多くは年齢によって給与や昇進が決まります。「最近は成果主義が増えているじゃないか」というかもしれませんが、そんなことはありません。能力主義とか成果主義とうたっているような企業でも、中身を見てみると「年功的な成果主義」だったりします。人事評価によって差はついても、全体的にみると結局年齢や入社年次が大きく影響しているという感じです。

したがって、日本企業給与は上がることはあっても下がることはあまりないのが現実です。下手に給与を下げられないのに加え、上には管理職がいっぱい詰まっているので、最近は特に大企業は30代くらいで早くも頭打ちだったりします。

このような制度のまま定年を廃止したらどうなるでしょうか。あっという間に人件費が肥大化して経営危機に陥ります。会社で最も高給かつパフォーマンスの落ちている層がそのまま退職せずに残るわけですから当然です。

これまでだったら60歳あたりで一回仕切り直して、まず給与を思いっきり下げて、最終的には動きのいい人だけ再雇用で残すというやり方でやって来れたわけです。定年を廃止すればそうした人件費圧縮も選別も一切できなくなります。

ですから定年廃止する企業は給与も昇進も全て実力主義で決定する必要があります。決して60歳間際の社員の給与が高いとは決まっていません。年齢で給与が決まらないのだから、年齢で退職も決まらないということです。年齢による差別を一切やめることこそ定年廃止です。一方、年功序列は年齢による差別の代表格といえます。

また、労働者が何歳まででも会社に残る代わりに、パフォーマンスに応じて給与が柔軟に決定され、場合によっては給与を引き下げることのできる人事・賃金制度が必要になります。透明かつ客観的な基準による制度を適切に運用しなければ、給与の引き下げは法律的なトラブルを引き起こしかねません。年功序列の企業ではまず無理だということです。

今後、労働人口の減少にともなって定年制を廃止する企業は次々と出てくるでしょうが、はたしてこの年功序列の壁を乗り越えることができるのか、そこが大きなポイントだと思います。

2014-02-06

万引き被害額の従業員負担はアリなのか


小売業の業界では自社店舗で万引きが発覚した際に、被害額を当日の従業員の頭数で割るなどして従業員に損害を負担させる会社もあります。不注意に関する連帯責任ということなんでしょうが、そもそもこのような行為は法的に認められるのかどうか疑問に思う方もいるでしょう。

端的にいうと、まず労働基準法には違反しません。その点を規制するような条文自体がありませんので。したがって、そのことで労働者が労働基準監督署に相談に言っても特に対応はしてもらえません。

ただし、従業員負担分を給与から天引きしようという場合は、賃金控除について労使協定を事前に締結する必要があるので(労基法第24条)、その点に限って会社は注意すべきということになります。

では万引きの従業員負担は法的に全く問題がないのかといえばそういうことではありません。というより、万引きによる損害は本来会社が負担すべきというのが大原則であって、従業員に故意や重大な過失が認められた場合、損害の一部を従業員にも請求できるのかどうかという民事的な話になってきます。

会社の営業上で何らかの損害が生じた際に、会社が労働者に対してどの程度損害賠償請求できるのかについては以前の記事でも触れました。
会社から労働者に対して損害賠償請求はどの程度可能かを考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

裁判例では、会社が労働者に請求できるのは「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」とされ、結果的に「損害額の4分の1が限度」と判断されています。

今回の話にあてはめれば、無断で職場離脱していた隙に盗まれたとか、居眠りしていて盗まれたとか、万引きに気付いていたが会社への悪意で止めなかったとか、従業員が万引き犯とグルだったなどのように、余ほどの過失あるいは故意を立証できればいいですが、従業員としての注意義務を怠っていたという程度では、裁判になれば会社はなかなか厳しいのではないかとも考えられます。

まあ、少額であればそもそも訴訟にはならないでしょうし、従業員が自身の過失に反省し納得して払っていれば問題はありませんから、会社の方針と運用にもよるとは思いますが。

また、負担させるにしても、損害額のベースは売価ではなく仕入れ値である原価で行うべきであり、そのうちの大部分を会社負担とし、残りを労働者の職責や過失の程度に応じて負担させるくらいに止めるのが無難であると思います。

2013-04-17

ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い


自民党が最近メディアで話題になっている「ブラック企業」について、社名公表などの措置を政府に提言する方針を固めたという報道があり、ネット上ではこの件について様々な意見がみられます。

その中でよく目にするのが、「なぜ企業名公表なのか。企業に労働基準法を遵守させるよう労働基準監督署がもっと厳しく取り締まるのが先ではないのか。」というような内容です。


自民党のブラック企業対策案ーさらに労基法の運用厳格化を
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130414-00024393/

ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakajimayoshifumi/20130412-00024370/



では、この件について書きます。

断言してもいいですが、労働基準監督署が労基法について厳しく取り締まったとしてもブラック企業は減りません。なぜなら世の中で問題視されているブラック企業の多くが労働基準法に違反していないからです。(少なくとも重大な違反は)

実務的な観点からいいますと、一般的に労基法違反でよく監督署の指導が行われるのは

賃金不払い
・残業代不払い
・労働時間(36協定、変形労働時間制・みなし労働時間制など)
・労働条件の不明示
解雇予告

そして上記より数は減りますが、他にあり得るのが

・年次有給休暇
・就業規則作成・届出違反

といったところでしょうか。
あと労基法ではありませんが労基署の監督範囲として最低賃金法違反、労安衛法違反もあります。



ところがです。

上記のような労基法違反の案件は、どちらかというと零細企業であって、かつ法律の知識がない、経営に余裕がなくて労基法のことまで手が回らない、あるいは資金的余裕が全くない、というような事業主が圧倒的に多いのが現状です。これらはブラック企業というよりは、単に労働条件の低い企業、労働環境のよくない企業、法律リテラシーの低い企業というべきものと考えられます。

近年メディア等で問題になっているブラック企業とは、意図的に労働者を追い込んでいくものと認識していますが、少なくとも上記のような労働基準法違反行為は極力行わず、法律を熟知し、合法的に巧妙に労務管理を行っているのです。

雇用契約書や就業規則は会社の有利になるよう緻密なものを作りますし、残業代についても固定残業代、みなし労働時間制などを駆使して労働基準法をクリアするかたちで労働者に長時間労働をさせているものと思われます。

つまりブラック企業にとって、残業代をはじめとする労基法の規制はクリアできないハードルではないのです。(少なくとも現行法では)

「しかし有給休暇は消化させていないのでは?」

と思われるかもしれませんが、年次有給休暇は申請されたときに拒否されただけでは労基法違反は成立しません。有休は法律上労働者が請求するだけで取得ができますから、労働者が日付を指定して会社を休みその後その日について給与が支払われなかった場合、その時点ではじめて労働基準法第39条違反が成立します。実際のところ有休について労基法違反のハードルは非常に高く、多くのケースでは違反は成立していないことになります。




さて、では上記のようなブラック企業は労基法に違反していないのであれば、現実的にどのような法的問題が生じ得るのかというとそれは、

・退職強要
・パワハラ
・不当な配置転換、転勤、出向等の命令

このような行為によって労働者を追い込んでいくのだと考えられます。

しかしながら、これらは労働基準法の範囲外の事項であって、当人同士の契約関係、権利義務関係を踏まえた私法上の問題であり、労働基準監督官が手を出せる問題ではないのです。民事不介入ということです。

さらにブラック企業は、労基法をクリアした上で労災認定基準を超えるような長時間に及ぶ残業命令を行使していくものと考えられます。

冒頭で紹介した記事によれば

労働基準法がもっと厳密に運用され、残業代の支払いが当然の社会常識となっていれば、ブラック企業などそもそも成り立つはずもない。

とありますが、残業代問題をクリアした上で強行的・パワハラ的な業務命令・人事命令を発令して労働者を追い込むブラック企業が成り立っていると思われますが、労働基準法をどう厳密に運用して取り締まるのでしょうか。


これでお分かりかと思いますが、労働基準法の遵守状況について労働基準監督署による監督を強化したとしてもそれによって多くのブラック企業が摘発されるという結果は考えにくいのであり、もちろん世の中の一定程度の労務管理のユルい会社の適正化にはつながると思われるので監督強化自体には意義はありますが、しかし根本的なブラック企業問題の解決や改善には到底つながらないことは明らかです。


では何が必要なのかといえば、私見ですが以下のようなことです。

1.ブラック企業が引き起こす不法行為等について司法面での救済をもっと容易に受けられるよう制度を整える。(※現在うまくいっている労働審判制度をさらに改善し、多くの労働者がもっと容易に利用できる制度にしていく等)

2.パワハラ規制について法制化を急ぐ。

3.企業名公表については、新聞などのメディアにて確実に公式発表されるのであれば、ある程度大規模の企業に対してはそれなりの効果は見込める。

4.立法面において、終業時刻から翌日の始業時刻までのインターバルについて最低時間規制を設けることにより、現在のように「割増賃金の支払い」によって間接的に残業を制限するのではなく、直接残業時間を規制することによって労働者の心身の健康を保護する。(※労基法の罰則強化、および労基署の監督強化とあわせて)



企業の違法行為として残業代不払いがクローズアップされがちですが、実はブラック企業問題については残業代問題は中核をなすわけではなく、最も重要なのは企業が強大な人事権・業務命令権を背景に労働者の身体と精神の健康を破壊していく行為であり、残業代の支払いではなく残業時間そのものを規制する必要があり、そして労働者が自ら司法によって解決する仕組みや環境が必要なのだと思います。





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2013-03-25

「残業代をきっちり払わせれば勤労者の所得は2割上がる」のウソ


「労基局がまともに機能するだけで、日本の個人所得が2割上がることが判明」

このような見出しで最近ネット上で話題になっているのを見かけました。その話題の元になっていたのが、以下の記事です。


「名指し賃上げ要求」よりも、残業代をきっちり払わせよ
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130313-00023863/

日本の企業(特に中小企業)は労働基準法を遵守していない状況なので、安倍政権は各企業に賃上げを呼びかけるよりも、労働基準法違反を厳しく取り締まって残業代をきっちり支払われば日本の勤労者の所得は1〜2割は軽く上がる。その方がよっぽどいい、と書かれています。



法律が遵守されるべきだという点において全く異論はありません。実際に日本の労働法に係る監督行政はユルユルです。法令通りきちんと運用している会社の方がかえって負担ばかり大きくなって馬鹿を見るケースも少なくありません。その辺の不公正な状況については何とかしてもらいたいものだと考えます。



ただし、上記の記事はやはり誤解を招く内容だと思います。

残業代を払っていない企業に法令通り残業代を支払わせれば、本当に皆の収入は上がるのでしょうか。

はっきり言いますが、そんなことはありません。

企業は法律に合わせて人件費総額を変えることは基本的にしません。売上が上がらないのに人件費をあげれば労働分配率の上昇を招き経営リスクが高くなります。

今年法改正となる65歳までの継続雇用の義務化に際しても、企業は若手社員の昇給抑制、新規採用の抑制を行うことによって人件費増を回避しています。法律によって人件費の増加を強制されれば、必ず他の部分を犠牲にすることによって帳尻を合わせます。



では仮に労働基準監督署が残業代未払いの全ての企業に立ち入り調査をして強制的に残業代を全て支払わせたとします。すると企業はどういう行動にでるでしょうか。

まず最初に行うのは賞与のカットです。

通常、どこの企業でも就業規則において賞与の支給は不確定文言(つまり「事情によっては支給しない」ということ)が記載されており、賞与の不支給は違法ではありません。

労基法違反によって残業代の支払いを強制されるのであれば、違法性のない賞与カットは間違いなく行うでしょう。



賞与のカットでも穴埋めできない分についてはどうするか。

次は月例給与のカットが考えられます。

「今まで残業代込みという考えで給与総額を設定していた。残業代を別途とられるならば会社の経営は成り立たないので全員の給与のベース自体を引き下げる」ということです。

給与を一方的に引き下げるのは違法ではないのか。」と考える方もいると思います。

まず、労働条件の変更が周知され労働者が変更を認識した状態で給与が支払われているのであれば、労基法の賃金全額払いに違反するとは考えられません。つまり労働基準法違反ではありませんから、労働基準監督署は対応してくれません。

後は、当人たちの民事の問題です。労働条件不利益変更が労働契約法に照らし有効なのか無効なのかという争いになっていきます。

しっかりとした労働組合が存在する会社では簡単に給与を引き下げることは難しいでしょうが、前述の記事でも書かれていた通り、労働基準法を順守していない企業の多くは中小企業であり、労働組合が存在する会社はむしろ稀です。労働組合のない会社において会社側と不利益変更の有効性を争っていくのであれば、労働者側もそれなりの気概が必要になります。団体交渉だけではなく法廷闘争も頭に入れなくてはなりません。残業代の支払いを実行されたことによって会社業績に本当に悪化している状況であれば、裁判によって不利益変更が有効とされる可能性も十分に考えられます。

不利益変更の有効・無効いずれの結果になったとしても、給与引き下げを阻止するのは簡単ではなく、現実には相当なエネルギーが必要だということです。



もちろん残業代の不払いを正当化するつもりは毛頭ないのですが、ただ、労基署の機能を強化して残業代を全て支払わせればみんなの収入が2割増えてウハウハなどというような単純な問題ではないということがお分かり頂けると思います。

2013-03-20

ユニクロ報道をみて思うこと<サービス残業問題の本質>


先日、東洋経済で「ユニクロ 疲弊する職場」と題して、現場社員(主に店長クラス)の壮絶な長時間労働、過酷な労働環境とそれらに起因する高い離職率の実態が公開され、大きな波紋を呼びました。

※記事はこちら
http://toyokeizai.net/articles/-/13101


この記事をうけて同社柳井会長が体制の見直しを発表したことからも、今回の報道がいかに世間に大きな影響を与えたのかがよく分かります。

※ユニクロ、もう「ブラック企業」とは言わせない! 柳井正氏「サービス残業は会社を潰す」(J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2013/03/08168877.html?p=all



実務家である私の実感からしても残業代をめぐる労使紛争は最近は本当に増えてきており、サービス残業は放置できない問題となっていますが、一方、今回のユニクロ報道をみて、企業にとって残業問題の真に危うい点とは何なのかを改めて感じたところです。


前述「ユニクロ 疲弊する職場」にて、注目した点は以下です。

社員の月間労働時間を最長240時間と定めている。(中略)社員の間でも、もしこの上限を超過したら出勤停止処分となり、厳しく指導されると認識されている。

サービス残業が発覚した場合には、降格、店長資格剥奪など人事による懲戒処分が行われる。実際、長期間にわたりサービス残業を強要・黙認していた店長には退職勧奨が行われた。



1.1ヵ月の労働時間が240時間を超えると厳しいペナルティがある

2.しかし、240時間でとてもおさまる業務量ではない


このような時、労働者はどういう行動をとるのか。当たり前ですが、ペナルティを受けたくないので、隠れてサービス残業をするようになります。

(※法的に言うと、会社が指示した仕事が客観的にみて所定時間内に処理できないと認められる場合は、黙示的に残業の命令があったもの(※黙示の指示)とみなされます。これを今回のケースにあてはめると、「残業をしろ」と命令し、同時に命令に従って残業をしたら「罰則を与えるぞ」と脅しているようなもので、かなり矛盾した運用をしていることがわかります。)


さらに以下です。

3.サービス残業をしていることが発覚したら厳しいペナルティがある

これによって労働者は隠れてやっているサービス残業を何が何でも会社にバレないように隠すようになる訳です。



未払い残業代の本質、本当の問題とは何でしょうか。それは「長時間労働の防止」であり、労働者の健康の確保」です。それが大事なのです。少なくとも監督行政機関である労働局および労働基準監督署はそう考えています。

残業代がきちんと支払われていないこと、未払いの状況そのものが重要なわけではありません。未払いをおおっぴらに許すと、長時間労働に歯止めがきかなくなる、そうすると過労死やうつ病などの労働災害につながる、だからサービス残業は駄目なのです。

誤解を恐れずにいえば、監督行政機関は労災に結びつく可能性の低い短時間のサービス残業にはおそらく興味はありません。残業代を支払わせることそれ自体が目的ではないからです。



そうなると、企業にとって最も重要なのは、まずは正確な実態を把握することです。実態を把握できなければ適切な措置を講じることはできません。今回のようなやり方は論外であり、一番やってはいけない方法であることを分かっていないようです。法的な視点からみて、労働者がサービス残業の事実を隠している状況が企業にとって最もリスキーなのです。

よく労働者のサービス残業を見て見ぬフリをして、労働者の過少な申告をそのまま記録し、残業代を支払わなくて済んだと考えている経営者がいますが、そんなやり方は通用しません。会社には労働時間を把握・管理する義務が法律上あるからです。労基法に違反するだけでなく、安全配慮義務違反により億単位の損害賠償リスクがあることを知っておかなければなりません。



ちなみに余談ですが、今回のニュースをみて、ワタミの渡邉美樹会長が大津いじめ問題に関して、「いじめが起きたクラスの担任教師は給与を下げるなど、教師には成果主義、競争原理を持ち込むべきだ」と発言したことを思い出します。いじめの発覚にペナルティを科せば、教師はいじめを隠すようになるのは目に見えているわけですが。





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2013-02-27

裁量労働制の落とし穴


裁量労働制を導入したいという依頼を企業から受けることがあります。

裁量労働制とは、端的に言えば、法律上決められた一定の手続きを踏むと、現実に何時間働いたとしても、ある決まった時間働いたものとみなすことができる労働時間制度です。

しかし、経営者の方と話をしてみると、裁量労働制について誤解をしているケースが少なくありません。

また、裁量労働制を運用しているという企業をチラホラ見かけますが、結果的に違法な運用をしている企業が圧倒的多数だといえます。制度をよく理解していないのか、それとも確信犯なのかはわかりませんが、法律上の要件を満たしていないのです。



一般的に、企業が裁量労働制の採用を検討する目的は、「残業代の抑制」です。

従業員に裁量を与えた方が柔軟性をもって業務に取り組めて効率性が増し、会社にとっても従業員にとってもプラスになる

というような建て前はともかくです。

長時間労働が慢性化する企業においては、残業代を抑制したいというのはまぎれもない本音だと思います。

(※単純に「決まった時間以上の賃金は払わない」的な意味合いだけでなく、裁量労働制を導入すれば、それまでダラダラ仕事をしていた従業員が急に効率的になって定時で帰るようになるなんていうことも、ままあることです。)

しかし、裁量労働制は誤った運用をすれば残業代を抑制するどころか、後から多額の費用を追加で支払う事態になりかねない制度であり、導入にあたっては慎重を期すべきであることを言っておきます。



前置きが長くなりましたが、具体的にどういう誤解が多いのか、どこを注意すべきなのかを以下に挙げていきます。



1.裁量労働制でも時間外、休日、深夜の割増賃金は必要だということ

裁量労働制は、労働時間をどうカウントするのかという制度であって、「時間外労働に対する賃金を支払わなくてもいい」という制度ではありません。ですから、労使で合意した一日あたりの「みなし時間」が所定時間を超える場合はその分の賃金が必要ですし、法定を超えれば25%の割増も必要です。

「みなし時間を超える分は固定残業代として毎月支給すれば問題ない」

と考える方もいるでしょうが、実はそんなに簡単な問題ではありません。

というのは、まず裁量労働制は休日出勤した場合にももちろん適用されます。例えば所定休日の土曜日に出勤し、1時間だけ仕事をして帰ったという場合であっても、みなし時間が「8時間」と決められていれば8時間働いたものとみなされます。この8時間分は月額給与とは別に丸々賃金を支払わねばなりません。

さらにです。
法定休日ではない所定休日に出勤した場合、(週の法定時間40時間を超えていれば)法律上は時間外勤務という扱いになりますので25%の割増、出勤したのが法定休日であった場合は35%の割増が加算されます。

そして、勤務が深夜に及べば、いくらその日の労働時間が8時間にみなされたとはいっても、深夜割増分25%は加算しなければなりません。

ですから、休日や深夜の勤務をルーズに管理している会社は、せっかく裁量労働制を導入しても割増賃金が膨大なものとなってしまう恐れがあるのです。

対策としては、休日・深夜勤務を許可制にして厳しく制限すること、あるいは休日に関しては裁量労働制の適用をしない定めとすること(※これによって少なくとも休日は原則通りの実労働時間によって時間管理を行えます。)などが考えられます。



2.裁量労働制を運用すれば、労働時間の把握・管理はしなくてよいという訳ではない

裁量労働制を使っていても、実質的には労働時間の管理は必要になります。

なぜなら、裁量労働制を運用する企業には「健康・福祉確保措置」をとる義務があり、その為に労働時間の状況(出退勤・入退室時刻等)を記録する必要があります。

そして、休日、深夜の割増賃金の支払い義務があるということからも、休日・深夜勤務時間の管理が必要になるのは当然です。



3.みなし時間は労使で合意すれば何時間にしてもよいとはいいきれない

みなし時間は労使の合意に委ねられている関係上、みなし時間が妥当とはいえないという理由で協定(or 労使委員会による決議)を労働基準監督署が受け付けないということはないでしょう。

しかし、労基署が臨検に入った際には勤務状況を細かくチェックすることもありますし、実態とみなし時間がかけ離れていれば指導の対象になる可能性は十分にあると考えられます。



4.法令で限定されている対象業務を勝手な解釈で幅広く設定するのは要注意

実態として、自社の全ての職種に裁量労働制を適用させたいと考える企業も存在しますし、無理矢理な拡大解釈で本来対象業務に該当しないような職種まで適用させているケースも少なくありません。

それでも労基署に提出さえすれば運用はできてしまうわけですが、やはり臨検の場面になれば踏み込んだ調査が行われる可能性もありますし、多額の残業代が絡んで訴訟沙汰にでもなればどうなるのか一切保証はありません。



5.その他

案外知られていないことですが、裁量労働制であっても所定の始業・終業時刻を定めることは可能です。(※ただし、所定の時刻に出勤・退勤しないことを理由として不利益な取り扱いをすることは法の趣旨に反しますが。)

また、労働者に裁量があるとはいえ、在社中は職務専念義務がありますし、業務遂行の手段や時間配分の決定を労働者に委ねるとしても、それ以外の事項については必要な指示を行うことは可能です。

業務の目的、目標、期限等の基本的事項について指示することや、途中経過の報告を受け、基本的事項の変更を指示することができるとされています。

以上を駆使して会社は労働者を適切に管理し、長時間労働による労働災害を予防しつつ、無駄な費用の発生を極力抑える努力が必要だと思います。



2013-02-08

固定残業代(定額残業代)の翌月への繰越


毎月固定の残業代を支給する手法は中小企業を中心に定着しつつあると思われます。

何時間分の残業代としていくらを支払っているのかを明確にしたうえ他の賃金と区別し、実際の残業が定額分を超過した場合の差額を毎月きちんと支払っていれば、固定残業代は違法な運用とはいえないというのが労働基準監督署と裁判所のスタンスです。

固定残業代を運用することで会社としては相当程度に残業代を抑える対策になっているはずですが、残業が発生する月もあまり発生しない月も同じ金額を払っているからなのか、もう一歩踏み込んでこんな考えが経営者の頭をよぎります。


「毎月一定額の残業代を出しているのに、残業が少なかった月は払い過ぎだから勿体ない。実際の残業時間分との差額を翌月以降に繰り越せないのだろうか。」


まず、結論から言いますが、「繰越ができないとはいえない」、という回答になります。

根拠は、「SFコーポレーション事件」という平成21年の裁判例です。

定額残業代の未消化時間部分の翌月への繰り越しについて、

1.給与規定によりその旨を定め、
2.労働条件通知書兼同意書により社員に通知しかつ同意を得ていた


という要件を満たせば認められるというものです。
(この場合、労働基準法上、繰越額は翌月以降の残業代の前払いの性格を有するという法律構成になるようです。)


ではなぜ、繰越はできると言い切らないのか。
経営者は遠慮なく定額分に達しない未消化分について翌月に繰り越していいのではないかと聞かれると、個人的には繰り越しはお勧めはしません。



まず、上記の判例はあくまで地裁レベルのものであり、確定的な判決ではありません。今後、この件に関する訴訟が起きた際に、最終的にどのような判断が下されるのか予測がつきません。

また、この判例に関する監督行政のスタンスは一切示されていません。

仮に固定残業代の翌月繰越を規定した就業規則を労働基準監督署に届け出る時点で注意を受けるかもしれませんし、実際に制度を運用したのち労基署から臨検を受けた場合、かなりの確率で違法性を指摘され、是正勧告を受ける可能性が濃厚だと思われます。その際、監督官に対して、「繰越を認める裁判例があります」と抗弁したところで対応が変わることはないでしょう。

現時点では、監督行政の見解は記事冒頭に書いた要件を満たした場合に限り「固定残業代は違法ではない」ということであり、「繰越は違法」というスタンスであると考えられます。


どうしても繰越の運用をするということであれば、先ほど書いた通り、就業規則および雇用契約書にその旨を規定するのはもちろんですが、さらに各月の給与明細において、「いくらが未消化分につき次月に繰り越す」ということを明記すべきであると思います。有効性について一切保証はできませんが。




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2013-01-09

「有能な幹部には年俸制」という勘違い


佐賀県の武雄市が有能な職員を幹部に抜擢し、「年俸制」を導入することによって幹部の育成と活性化を図るというニュースがあります。

「佐賀・武雄市が年俸制導入へ 幹部候補を育成」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASJC06001_W3A100C1ACY000/


このような報道をみると、一般的に年俸制という制度への正しい理解がされていないことを改めて感じます。



年俸制とは、賃金の額を年単位で決定する制度です。それ以上でもそれ以下でもありません。

賃金を一日単位で決めれば日給制、時間単位で決めれば時給制、そして年単位で決めれば年俸制という訳です。


記事によれば

年齢に応じて金額が決まる年功序列型の給与と違い、年俸は権限の大きさに応じて支払うため、1人当たり約200万円の昇給になるという。


とあり、まるで年俸制が年功序列型の賃金を脱却するための成果主義賃金制度そのもののような記述がされていますが、ハッキリいってこれは間違いです。

まず年俸制は「権限や責任の大きさに応じて支払う制度」ではなく、前述したように賃金を年単位で決める制度です。

賃金を年齢で決めるのか仕事内容で決めるのか業績で決めるのかという話と、賃金を月単位で決めるのか年単位で決めるのかという話は、全く別の問題です。

「年俸制=実力主義成果主義」ではありませんし、極端な話、年功序列型の年俸制という賃金制度だってあり得るわけです。(ただしそんな制度を現実につくる会社はないと思いますが。)


つまり何が言いたいかといえば、企業は年功賃金制から成果主義へと舵を切る際に

「よし。では年俸制の導入だ。」

と安易に考えるべきではなく、なぜ年俸制でなければ駄目なのか、賃金を年単位で決める必要性を明確にするとともに、月給制のまま成果主義へ移行する選択肢を十分に検討することです。


事実、年俸制は総額人件費の管理に優れているという点を除けば、企業にとってあまりメリットのある制度とはいえません。

むしろ年俸制を導入することによって、年途中で賃金を引き下げたり賞与の支給を取り止めることが難しくなり、企業の業績が急に悪化しても柔軟に対応ができなくなるという致命的なデメリットがあり、資本力の弱い企業には特に注意が必要です。

また、年俸制を導入すれば残業代を支給しなくてもよいと考えている方が少なくありませんが、これも大きな間違いであり、年俸制の社員であっても別途残業代を計算した上で支払う必要があります。

さらに、年俸を16で割って各月に12分の1を、夏冬に12分の2ずつを賞与として支給するようなケースでは、賞与額が確定しているため賞与も残業代の計算基礎に含まれることになり、人件費が高くなるというデメリットもあります。


私は個人的には年俸制の導入は積極的にはお勧めしませんし、導入する場合であっても、最低でも残業代の要らない管理職以上、できれば役員に近い上級管理職に限定し、上記に挙げたデメリットを最小限にできるよう柔軟性をもたせた制度設計を行う必要があると考えます。




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2012-11-13

多くの会社でずさんな月額変更


社会保険労務士という職業柄、様々な会社の社会保険手続きの実態をみることになるわけですが。

実感としては、従業員の入社・退社時の得喪手続きや、お金の支給や免除を受ける為の手続き(傷病手当金、労災、育児休業関係)などは割と問題なくできているように思いますが(多分手続きを行う上でのモチベーションが違うのでしょうか)、逆に「全然ダメ」な状態にあるのが標準報酬月額の随時改定、つまり月変(月額変更)です。

はっきり言って、多くの企業は月変を相当に軽視しているのが現状だと思われます。

それなりの規模の企業になれば労務管理がしっかりしているから大丈夫だろうと思いきや、勝手に独自ルールを決めて「この社員たちは月変は適用しない」とか、「この場合には昔から月変は行わないことになっている」とか、ひどいケースになると「うちでは毎年算定は行うが月変は煩雑なので行わない。」というような企業も実際にあります。

月額変更は企業が納付する膨大な社会保険料を正しく計算する為に必要な手続きですから、本来かなり重要なはずなんですが(税金の確定申告と同様に)、これだけズサンな会社が多いのは恐らく社会保険行政の指導がユルユルだからなんでしょうか。

確かに厚労省は今後、社会保険調査を4年に1度実施するとともに未加入に関して厳罰化を掲げ(※詳しくはコチラ)、厳しく取り締まっていく姿勢をみせていますが、年金事務所の調査の際に調べられるのはたいてい加入漏れがないかという点がほとんどであり、後はせいぜい賞与支払届がきちんと提出されているか確認される程度で、月額変更までチェックされるのはむしろレアケースだと思われます。

ただし、会計検査院の血も涙もない調査を受けたら多分そんなことも言ってられなくなると思いますが。


細かい話ですが、月額変更の中でも特に企業が出来ていないと思われるのが、パートタイマーの月変です。

時給が改定されたときは、その都度固定的賃金の変動と捉え月変を行っているのだと思いますが、シフトの変更時(※所定労働時間・所定労働日の変更時)は全く手つかずの会社が見うけられます。

例えば週4日勤務が隔週で週4日・5日勤務になったり、1日6時間が7時間に変更になればこれは労働条件の変更であり、雇用契約の内容が変わったことになります。時給がそのままであっても当然ながら月あたりの固定的賃金は変動したことになるわけです。

特に中小企業では、パートタイマーの月々の所定労働時間・所定休日があいまいではっきり決まっていない会社が少なくないですが、この辺をはっきりさせていかないと月変自体が行えない、つまり正しい社会保険料が計算できないという事になります。


月変は正確に行おうとすればかなり面倒な作業です。給与計算ソフトでボタン一発と考える方もいるでしょうが、そんな感覚でやっていれば高い確率でミスを招きます。人的なチェックははずせません。

月変に問題があれば、それは国に納付する社会保険料が間違っているということであり、会社だけでなく従業員一人ひとりにまで影響するものです。さらに発覚する可能性が低いとはいえ保険料は2年間遡って支払いを命じられるものです。月変を日頃から適正に行うことはリスク管理上重要なことであり、決して軽視すべきではありません。




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2012-10-16

給与計算は税理士、社労士、アウトソーシング会社、どこに委託すべきなのか


自社の給与計算業務を外部にアウトソーシングしようと考えた場合、委託する相手の選択肢は税理士、社会保険労務士、給与専門のアウトソーシング会社など色々考えられますが、一体どこに頼むべきなのかいまいち判断しかねるものと思われます。

率直にいって従業員数が数名程度の小規模な会社で、かつ社会保険料などの細かい点にはそこまでこだわらないが安い方がよいということであれば税理士に委託するのがよいと思います(源泉税はプロなので最も正確です)。

小規模な会社は必ず顧問の税理士をつけているものであり、顧問税理士であればほとんどサービスで(無料 or 顧問料プラス5千円〜1万円程度)で給与計算もやってくれる場合があります。

ただし、税理士によっては給与計算を全くやらない、またはあまり積極的には対応しないというケースもあるかもしれません。給与に対応しない税理士はどちらかというと事務手続的な業務よりもコンサル業務に重点を置いている可能性があります。

また、労働保険・社会保険などの手続きについても対応する税理士はいます。これは厳密にいえば社労士法違反になりますが、現実にはあまり問題になることはありません。ただし、専門外であることから手続きの正確さにおいては保障できませんので、やはり正確性にはこだわらる場合は社会保険労務士に頼んだ方がよいと思います。



会社の規模が十数人〜数百人になっていった場合、また、数名であっても保険料や残業代の正確さを求めたいという場合には社労士に委託した方がよいと思います。

なぜなら給与計算業務において最も間違いが散見される箇所が、社会保険料の計算、および労働時間等の計算であり、これらを専門領域としているのが社会保険労務士だからです。

社会保険料の計算については、毎月の月額変更が本当に法令通り正しく行われている会社は意外と少ないですし、他に以下のような点について間違いが多いと思われます。

社会保険料の控除のタイミング(入社・退職時、育休開始・終了時、64歳・70歳・75歳到達時など)
介護保険料の控除のタイミング(海外出向時、40歳・65歳到達時など)
退職月の賞与の社会保険料
退職後の賞与の雇用保険料
定年到達時の同日得喪


勤怠集計面においても、残業時間(法定内・法定外)のカウント方法、変形労働時間制の残業集計、残業代単価と月平均所定労働時間数の計算方法、所定休日と法定休日の取扱い、振休と代休の取扱いなど、社労士でなければなかなか正確に計算できない点が多々あります。

また、労働保険・社会保険の手続き面についても、数名の会社であれば入社・退社時の手続きくらいしか発生しませんので税理士でも十分対応できますが、規模が大きくなれば様々な手続きが発生しますので、給与計算と併せて社労士に委託する方が効率的だといえます。



さて、企業規模がさらに拡大し、千人を超えるような規模になってきたら、はっきり言って社労士の手に負えなくなってくると思われます。

社労士は通常、パッケージの給与計算ソフト(or 特有の社労士システム)によって業務を行うのが一般的ですが、千人規模の会社になれば、パッケージよりも独自の給与システムを構築するのが適切と考えられますから、システム開発から給与計算実務までトータルで手掛ける給与計算アウトソーシング業者に委託するのがベターだと思われます。

このようなシステムに強い給与計算会社であれば、勤怠システムからウェブ給与明細まで連携したシステムでサポートしていますし、システムに問題が発生しても迅速に対応してくれます。また、これらの業者は一般的に税理士や社労士よりも大規模組織化されている為、人員面においても安定しています。

ただし、このようなアウトソーサーは、素人同然のような経験の浅いスタッフをマニュアル教育によって大量動員する手法をとることが多々あり、実務能力面においては疑問を禁じえない業者も実在します。

その意味では、委託の前にシステム・組織面だけではなく、スタッフの実務能力、品質面を十分に精査することをお勧めします。もちろんアウトソーシング会社が労働保険・社会保険の手続きを代行すれば違法となることはいうまでもありません。




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2012-10-08

健康保険組合の編入の実際


健康保険と言えば、一般的に中小企業は全国健康保険協会が運営する「協会けんぽ」に加入しますが、グループ企業や同業種の企業が集まって運営する健康保険組合は協会けんぽよりも保険料が安いなどのメリットがあり、編入したいというお問い合わせをいただくことがあります。

健保組合のメリット・デメリットをまとめると以下のようになります。


メリット
1.保険料が安い(会社と従業員双方にとってプラス)
2.法定給付以外に独自の付加給付がある(療養、出産、死亡時などの上乗せ)
3.検診施設、保養所などの福利厚生が充実
4.人材獲得面で優位性をもち、従業員の満足度も向上


デメリット
1.編入する為の条件が厳しい
2.協会けんぽに比べ添付書類が多いなど、日常の手続きが煩雑
3.財政悪化している健保組合が多く、財務状態や将来性にも留意しなければならない
4.倒産や業種変更等がなければ脱退できない




健康保険組合に編入するにあたっては審査を受ける必要があります。審査ではそれぞれの健保組合の加入要件をチェックされます。

一般的に加入の際の判断基準となるのは以下のような項目です。

・業種、地域
給与、賞与の水準(高い方がよい)
・被保険者の平均年齢(若い方がよい) 
・被保険者数(多い方がよい)
・被扶養者数(少ない方がよい)
・設立からの年数、または協会けんぽの加入年数
・過去に税金、社会保険料の滞納があるかどうか
・経営状況


これらのチェックを受ける為に、大量の添付書類を提出することになるわけです。

審査期間は短くて数ヵ月、長いと一年程度かかります。編入を考えている企業担当者は早めに動いた方がよいと思います。審査に通った後は説明会等に出席し、資格取得手続きを行っていくことになります。



さて、メリットが大きいと考えられる健康保険組合といえば、「東京電子健保組合」「人材派遣健保組合(はけんぽ)」などが言われますが、近年特に人気が高いのが

「関東ITソフトウェア健康保険組合(通称:ITS健保)」

です。この健保組合は保険料が安い点などは他と同様ですが、福利厚生の充実度に圧倒されます。

最近の健保組合では人間ドックやメンタルヘルスのカウンセリング補助なども普通にありますが、ITS健保ではさらに、高級レストラン、リゾート施設、スポーツジム、旅行パック、ゴルフ場など様々な施設が安く利用できるのです。

IT業界であれば知らない人はあまりいないと思われるほど有名なITS健保ですが、それだけに審査の厳しさでも有名です。

加入基準として、被保険者の人数や平均年齢、扶養率、標準報酬月額などの細かい項目設定がありますが、全部クリアする方がよいですし、できれば基準を大きく上回る状態だと安心して申請を行うことができます。

内容の充実した健保であれば加入のメリットはデメリットを凌駕しますので、条件に合いそうならば審査は厳しいですが編入を考えてみる価値はあると思います。




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2012-09-06

日々紹介のリスク・問題点を解剖


改正派遣法の施行がいよいよ来月1日からにせまってきました。今回は「30日以内の日雇い派遣禁止」という人材派遣業界にとって大打撃となる法改正が含まれる為、人材派遣会社および日雇い派遣を常用的に利用してきた企業は日々対応に追われ、対策を練りに練ってきたものと思われます。

日雇い派遣に代わる手法として以前から打ち出されている「日々紹介」というシステムがあります。今回の派遣法改正にあたって多くの派遣会社はこの日々紹介を切り札に考えている状況のようです。実際、厚生労働省も日雇い派遣から日々紹介への移行を推進してきた経緯もあります。

さかのぼれば自民党政権時代に日雇い派遣禁止が議論され始めた頃から日々紹介が注目され、一方で問題点も数多く指摘されてきているシステムです。



日々紹介の仕組みは簡単に言えば、1日単位で人材を求人企業に紹介し紹介手数料をもらうという有料職業紹介事業です。

すでに散々言われていることですが、派遣との大きな違いは求人企業が雇用主になること、人材を手配する会社は単なる紹介者でしかないということです。派遣だったら求人企業は全てを派遣会社に丸投げし、定期的に手数料を振り込むだけで済んでいたわけですが、雇用主になるという事は、面接、採用、契約書、労働者名簿、就業管理、給与支払まで全て自社で行い、そして何より安全衛生上の責任、労災や労働トラブルまで使用者としての責任は全て求人企業が負うこととなります。紹介会社は全く雇用上の責任を負わないのにです。

しかも臨時日雇い形式で「日々」紹介するわけですから、即日すべての手続きが完結しなければなりません。1日単位で延べ人数分の労務管理、勤怠集計、給与計算、口座設定などの処理が発生します。日雇い労働者からは日払い・週払いのニーズが強いため、短期間で給与支払を行える体制が必要になります。

そこで人材会社は紹介に加えて、それらの労務管理代行サービス・システムをパッケージで売り出し(※過去記事を参照)、派遣のときと変わらない手数料を稼いでいこうと考えているわけです。
(※今後自社が雇用主になり、事業主責任・労務リスクが増大し業務負担が増えるにもかかわらず、手数料が派遣のときとあまり変わらないという事であれば明らかにおかしいともいえますが。)



今後、日々紹介については次のような弊害が考えられます。

●求人企業が日々給与を支払うのは体制面・コスト面で難しいので、紹介会社が派遣のときと同じ感覚で賃金を立て替え払いしてしまう。(※これをやれば職業安定法44条で禁止されている労働者供給事業に該当する可能性が高い)
●本来、雇用主である求人企業が面接・採用を行わなければならないところ、日雇い派遣の場合と同様にメールや電話で採用業務が行われてしまう。
労働者視点からみると、雇用主が日々変わる可能性があり、その都度履歴書を提出して面接を受け、給与の受け取りも会社ごとにルールが異なるので、生活がより不安定なものとなる。
●日々紹介といいながら毎日紹介が行われずに実態は継続して働かせられる。
●仕事の説明が不十分で結果的に港湾運送や建設などの禁止業務の紹介が行われる。
●一定期間雇用しているにもかかわらず社会保険に加入させない。


政府が日々紹介を推進した理由は、派遣に比べて雇用主責任の所在が明確になると考えられるからです。そう、法律にそって適正に運用される限りは、日々紹介は確かに使用者責任のあいまいな日雇い派遣よりも優れたシステムといえなくもありません。適正に運用されればなんですが。

勘のよい方であれば感じると思います。法的には違うシステムを使っても、実態は日々紹介は日雇い派遣と変わらない運用をせざるを得ないでしょう。日雇い派遣という法形式は今後禁止されますから、つまり有料職業紹介事業の名のもとに労働者供給事業が行われていくという事になります。


これまで派遣を使っていた求人企業は、今後の労働局の指導方針等も考慮しつつ冷静に考えなければなりません。以下、日々紹介に係る行政指導例および裁判例です。

労働新聞 7月27日 第2738号
有料職業紹介 常用を「日々紹介」と偽る――栃木労働局が職安法違反で指導

労働新聞 7月16日 第2881号
有料職業紹介会社 求人手数料の返還命じる――宇都宮地裁大田原支部



個人的見解ですが、端的にいうと日々紹介は利用する企業側にとってリスクがあるシステムであることに間違いはありません。


・ 何としても「日々紹介は安全・有用な仕組み」であることを強調したい人材会社

・ そんな人材会社に日々紹介のシステムやノウハウを売りたいコンサル会社

・ 「いや、このシステムはどう考えても問題とリスクが多くてキナ臭い」と考える一部専門家

・ 何か不安で100%の信頼はおけないが、スポット人材がどうしても必要なので引くに引けないクライアント企業

・ 「適正に運用されれば問題ない」と言って実態から目を背けたい政府


という構図に見えてしまうのは私だけでしょうか。




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2012-07-30

「外資系は簡単にクビ」を安易にマネすべきでない


最近、興味深いブログの記事を読みました。「外資が簡単にクビにできる理由」についてです。

「どうして外資系企業は日本の企業と同じく労働基準法が適用されているのにクビにできるのか」という多くの方の疑問に対し、外資系の給与は担当する仕事内容によって決定する職務給が採用されており、「職務内容を限定して採用し、その職務を担えないことが明らかな場合の解雇解雇権濫用とはならない」と裁判所において判断される為、外資系企業が日本国内でクビを切っても違法とはならないのだと説明されています。


この説明は一部当たっていると思います。ただしこれだけを鵜呑みにして職務給制を採用し、求める能力に達していないと判断した従業員を遠慮なしに解雇していくのは危険です。ポイントは2つあります。



第一に、そもそも外資系企業は法律上の解雇に該当する行為をそんなに頻繁に行っているわけではありません。

かつて日本の労働法制をきちんと理解していない外資系企業が日本で解雇を乱発し紛争に発展するということがよくあったようですが、現在では日本の解雇規制の厳しさを外資系もよく理解しており、余程のことがない限りリスクの高い解雇は行わないと思われます。

外資系がすぐクビにするというのは、非常に強力な退職勧奨を行うということであり、労働契約の終了を一方的な意思によって通告する解雇という形式ではなく、何が何でも相手の退職の合意を取り付ける「合意退職」にもっていくのです。(※違法な退職勧奨を行っている外資系企業は少なからずあると思われますが。)

該当の労働者を呼び出し、戦力外通告を行い、おとなしく退職合意書(あるいは退職願)にサインすれば割増退職金と再就職支援を約束、合意しないなら退職金は1円も支給されずに解雇、と迫ります。もちろんこの場合の解雇は根拠のある正当なものだと主張するでしょう。

この場合の退職勧奨は、相手の人格を傷つけるような言葉を口にしたり、根拠のない解雇の可能性をほのめかしたり、あるいは威圧的に脅すなどの悪質な行為がなければ、多少しつこく勧奨を繰り返したとしても即違法ということにはならないと考えられます。



第二に、担当職務を明確に限定して採用したとしても、その後の能力不足による解雇が必ずしも認められるというわけではありません。

確かに過去の判例から、特定の地位や職種を前提に高い能力を期待されて入社したキャリア採用・管理職採用などであれば、通常の年功制(職能給制を含む)の新卒採用等の労働者に比べ、会社側に求められる解雇回避努力の程度は緩やかであるとされています。

この点日本型の職能給より職務給を運用した場合の方が能力不足による解雇が認められやすいといえなくもありません。ただしこれは、解雇を行う前にまず他の職種や下位の職位へ配置換えをするほどの義務までは負わないということであり、指導・教育を含めた解雇回避措置自体が全く必要とされないということではありません。

さらに会社側は、労働者が担当職務を担うほどの能力を有していない点について主張・立証責任を負いますし、採用にあたってはかなり細かく条件面を書面化したうえで内容について十分に合意しておく必要があります。

日本の解雇に対する規制は本来それほどまでに強いのだということを、特に労務管理面がまだまだ未整備だという企業は誤解のないよう正しく認識すべきであると思います。



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2012-07-03

派遣法改正の余波と人材派遣企業の動き


今年の3月28日に可決、成立した改正労働者派遣法の施行日が10月1日に決まりました。

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当初法案にあった「登録型派遣の原則禁止」と「製造業派遣の原則禁止」はどちらも削除され、骨抜きの改正と批判されていますが、今回の改正法は30日以内の期間を定めて雇用する日雇い派遣を原則禁止しています。これは派遣元と派遣先双方とって実質かなり厳しい規制となります。

さらには「グループ企業内派遣の8割規制」、「離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることを禁止」、違法な派遣が行われていた場合に派遣先に適用される「直接雇用申込みのみなし規定」(※改正法施行日の3年後に施行が延期されました)など、企業にとって相当に影響のある事項を多く定めた法改正であり、決して軽く考えられるものではありません。


違法派遣の場合の「みなし雇用」制度については、「雇用契約申し込み」義務を定めたに過ぎない現行法下においても多くのトラブル、訴訟が起こっている状況を考えると、3年後の制度施行後はみなし雇用の有効性をめぐってさらなるトラブルの増加が予想されます。

この辺りは、2年前に実施された専門26業務適正化プランもかかわってくるところでしょう。26業務に該当しないものと判断されれば、派遣期間3年オーバーであれば即違法、みなし雇用となる可能性もあるわけです。派遣先企業にとってこのインパクトは大きいです。



法案成立後、派遣先となっていた企業の多くは今後の直接雇用を見据えた行動を進めているものと思われます。

派遣社員を直接雇用に切り替えた場合には、労働保険や社会保険の加入、給与計算や源泉徴収、その他労働基準法等の労働関連諸法令に係る様々な労務管理、雇用管理が必要となり、事業主としての大きな責任が発生することになります。

他方、人材派遣会社にとっても派遣機会の減少と業績の低下が考えられるわけですが、同時に直接雇用の増加に伴って労務管理業務の需要が増えると見込み、労務管理代行サービスに転換する動きがあるようです。

シスプロ、労務管理代行を強化 派遣法改正にらむ  :日本経済新聞

記事によれば、人材紹介企業のシスプロは、顧客企業が求める人材の紹介と、労働条件通知書の発行や年末調整など直接雇用に伴う煩雑な事務手続きの代行を合わせて提供できるサービスを扱っており、顧客企業が負担するコストは従来の人材派遣のケースとほぼ変わらないとのことです。


この記事を読んで思ったことは2つ。

1つは、労働者を直接雇用する事業主の法的な責任と、派遣先企業としての法的な責任の重さは比較になりません。例え発注主が従来と同水準のコストで人材を確保できたとしても、事務手続きを代行してもらえたとしても、事業主としての法的責任が軽減されるわけではありません。ともすればこの点において「派遣=(紹介+事務代行)」と誤解される可能性が否定できないことには懸念を抱きます。


2つ目は、社会保険労務士としての立場からいえば、労務管理代行というサービスは社労士と業務が少なからず重複するということです。気を引き締めなければなりません。

しかしながら、前述の人材紹介企業の公式サイトによると、「雇用業務代行」と称して以下の記述が確認できます。

労務管理業務

入退社、転勤、転属などの管理、各種保険対応、法的申請等労務全般の業務を代行します。

入退社、転勤転属管理   社会保険対応

入退社時諸手続き     労務上法的申請対応


入社時各種手続き業務

雇用保険資格取得/社会保険資格取得/通勤手当、給与振込口座


これらは社労士法第2条に定められた業務が含まれており、仮にこれらを会社が業として受託すれば明らかに社労士法違反ということになり、社労士会が目を光らせなければいけない点だと思います。




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2012-05-28

6時間労働で午後3時に定時退社

アパレルのインターネット販売で業績を伸ばしている「ゾゾタウン」の運営会社が、従業員の労働時間を大幅に短縮する改革を行ったとのことです。

以下参照
6時間労働で午後3時に定時退社。そんな会社は、果たしてうまくいくのか?


朝9時に始業。昼休憩なしで6時間いっきに働き、何と午後3時に終業という画期的な労働時間制度です。まだ夕方にもなっていない15時に退社できるとは、特に多趣味な従業員にとっては魅力あふれる制度ではないでしょうか。長時間労働と過労死がますます問題化している昨今、時代の流れを変える素晴らしい取り組みだと思います。


当該企業では所定労働時間を現行の7時間半から6時間に減らすにあたって、業務を効率化すべく様々な取組を行っているようですが、労働法の観点から注意すべき点はいくつかあると思います。


本文では触れられていませんが、労働時間が短縮される場合にまず考えるのは、賃金の時間単価が変わるのかどうかという点です。

時間単価が変わらないまま所定労働時間が短縮されれば月例給与が当然下がりますから、労働条件の不利益変更にあたります。業績の悪化している企業のパートタイマーなどがよくシフトの日数や時間数を強制的に減らされるのを想像できると思います。

しかし、今回の施策は企業イメージのアップ、優秀な人材の確保、従業員のモチベーション向上などが目的と考えられますから、おそらく労働者の不利益となるようなことはせず、月給者に関していえば基準内賃金を変更せずに所定労働時間を短縮する、つまり結果的に時間単価が上がるものと考えられます。

他方、時給者がいる場合には、時給を1.25倍に変更しなければ、これまでの月例給与水準が確保されないことになってしまいます。

さて、本文では

何より大きいのは社員のモチベーションではないかと思います。6時間労働で午後3時に仕事が終われば、夕方の時間を有効に使えます。このメリットを失いたくないと思えば、業績を悪くしないように必死に働くはずです。


とありますが、これはなかなか難しい問題です。というのも、今回の施策のように労働条件を労働者の有利になるように引き上げる際には法的に何の制限もありませんが、例えば労働時間の減少によって生産性が下がり業績が悪化したからといって、労働時間を以前のように戻すことはそう簡単には許されません。いったん所定労働時間を6時間とした労働契約の内容を、会社の一方的な意思で7時間半に戻すことは不利益変更にあたりますので、厳しい要件の充足が求められます。仮に従業員が早く退社できるというメリットに固執せず、会社の思うように必死で働かなかったとしても、それを理由に与えたメリットを取り上げることは容易ではないのです。

つまりこの施策は、会社としては後には退けない、非常に勇気のいる画期的な制度改革なのです。



また、所定労働時間を6時間に短縮すれば、6時間を超えた労働は時間外労働(法定内残業)になります。業務の効率化がうまくいかず、結局夕方の5〜6時まで従業員が会社に残っていれば、その分の残業代がまるまる人件費増になります。

このリスクを担保するため、制度導入時にあわせて、法定内残業について賃金規定に別途賃金額を定めておくか、あるいは定額残業代を設定するべきであると思います。



ちなみに労働基準法では、労働時間が6時間以下の場合には休憩を与えなくてもよいとされているので、今回のような制度が可能ですが、15時以降残って残業をさせる場合には30分の休憩をとらせ、トータルの労働時間が8時間を超える残業の場合にはさらに15分の休憩をとらせなければならないことに注意が必要です。



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2012-05-18

定額残業代ははたしてメリットがあるのか


最近は都心部を中心に従業員からの残業代の請求がかなり増加しているものと予想されます。

残業時間を削減するには、変形労働時間制、みなし労働時間制などの特殊な労働時間制度を導入することがまずは有効と考えられますが、導入してもなかなか大幅な削減にはつながらなかったり、あるいは導入するには制度の整備などちょっとハードルが高いという企業もあります。その場合はとりあえず、毎月固定の定額残業代を設定して支給することが手っ取り早くて有効な対策であるとよく言われます。

定額残業代については労働基準法上明確に言及されていません。法律の趣旨からいって、積極的に奨励するような制度ではないと思われますが、過去の判例などを参考にして違法とされない運用を心掛ける必要があります。


定額残業代が合法と認められるためには以下の要件を満たさなければなりません。

・残業代に相当する部分が、他の賃金と明確に区分されている
・何時間分の残業代に相当するのか定められている
・実際の残業時間で計算された残業代が定額残業代を超えた場合には、その差額が支払われている


よく「残業代を毎月定額で払うようにすれば、後はどんなに残業してもそれ以上は払わなくていいんですよね。」と聞いてくる企業の方がいますが、実際の残業時間が定額残業代相当分を超えればその差額分は支払う必要があります。

会社からみれば、残業が少ない月は定額なので働いていない分も余計に払い、さらに残業が定額相当部分を越えたら超えたで差額を支払うことになり、労基法遵守の観点からいえば、定額残業代制度は会社にとって本来メリットのある制度とはいえないのです。



多くの企業が残業代を毎月固定で支給する本当の狙いは

いま現在支給している給与の中から残業代を捻出したい(つまり従業員の認識しているであろう自身の基準内賃金を実質引き下げることを意味します)

そして

見せかけの月例給与の総支給額を多くしたい

という2点につきます。

これはどちらも従業員にとって不利益な事項であり、やり方によっては従業員のモチベーションに大きなマイナス作用を及ぼしかねないということになります。

現在の総支給額の中のいくらかを定額残業代として設定するのであれば、当然従業員一人ひとりの同意書をとるのは必須です。


そして、最も重要なのは、月例給与内における定額残業代の比率です。定額残業代が多い会社になると、残業80〜100時間分という目を疑うような定額残業代を設定している会社も現実に存在します。

※これについては以前の記事で某居酒屋チェーンの実例をとりあげていますので参照。
長時間労働の代償1億円の現実 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



例えば月給20万円の労働者について月3〜4万円程度の定額残業代であれば常識的な金額とも考えられますが、定額残業代が月例給与の半分にも及ぶようなあまりにも労働者にとって不利益な設定だと、いくら労使で合意しているとはいえ法的な有効性を否定されるリスクも否定できません。

そして当然ながら定額残業代の多い会社は、労働者の実際の時間外労働も多くなる傾向にあると考えられます。長時間労働による過労死などの労災事故が発生した際に、このような異常に高く設定されている定額残業代の実態が判明すれば、企業の損害賠償責任はさらに高くなる恐れも考えられます。
(80〜100時間分の定額残業代を設定しているということは、その会社が毎月80〜100時間の残業を労働者にさせることを予定していたととられかねません。そんな会社が安全配慮義務を履行しているとは到底考えられないということになります。)

また、このような会社は、実際の残業時間によって計算された残業代が定額残業代を超えた部分の差額をきちんと支払っていないケースも多いのではないかと思われます。もしもこのことが判明すれば、定額残業代は労基法上の時間外手当とは認められず、別途残業代を計算して支払うことになるのはいうまでもありません。

そして何より、定額残業代を大きくして見せかけの総支給額を高くしようとしても、実態を知った労働者は落胆し、帰属意識やモチベーションは低下するのは目に見えています。定額残業代を大きく設定する会社は、「うちはブラック企業だから、入社したら毎日たくさん残業をさせるぞ」と宣言しているようなものです。



定額残業代の適切な額は残業時間20〜30時間分とすることが最も望ましく、残業代圧縮、人件費管理に加え、リスク管理面から考えても最もメリットのある運用といえるのではないでしょうか。多くても月45時間分以内に抑えるべきであると思います。



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2012-02-10

休業手当は60%と100%どちらを支払うべきなのか


会社の事情で社員を自宅待機などにして休ませる場合に、休業手当の支払いが必要になることはご存知の方が多いと思います。

この休業手当をいくら支払うべきかについては、

「60%でしょ?」

と思い浮かぶ方もいらっしゃるかと思いますが、実は紛らわしいことに2つの法律にそれぞれ異なる趣旨の条文が載っています。


以下抜粋

労働基準法第26条(休業手当)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

会社は平均賃金の60%以上を支払え、といっています


民法第526条(債務者の危険負担等)第2項

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

従業員は全額もらう権利がある、といっています。


つまり平均賃金の6割を支払えば済むのか、10割全額支払わなければならないのか、現実に労働者を休業させたときに一体どちらの条文に基づき、賃金をいくら支払うべきなのか迷うところです。


答えは「契約による」です。


労基法では、休業手当を60%以上支払わなければ行政指導や刑事罰の対象とするとして最低基準を定めている訳であり、6割支払えばそれで十分とはいっていません。

一方、民法の危険負担の条文は任意規定である為、労使の合意によって適用を除外することが可能です。労使間で休業手当6割で合意すれば、6割の支払いで済むことになります(ただし、労基法の規定により労使合意があっても6割を下回ることはできません)。逆に言えば、合意がない限り賃金全額を支払う義務が会社側に生じるということです。要注意です。


結論としては、休業手当に関しては予め就業規則において包括同意をとっておくことが望ましいといえます。合意なしであれば100%満額、合意したときには60%以上の任意の割合で、ということになります。


(ただし、これはあくまで会社に故意・過失等がある場合に限られます。休業させたことに関して会社側に故意・過失等が認められない場合は、契約の如何にかかわらず、民法上の100%を支払う義務はありません。この場合、休業の原因が、会社側に起因する経営上の障害によるものかどうかによって、60%の支払いが必要か不要かという選択肢になります。)



なお、労基法による平均賃金の6割とは、所定労働日のうちの休業させた日に対して支払うものであるため、元々休日であった日に対しては支払われず、実質は給料の4〜5割になることが予想されます。一方、民法の規定によれば元々の給料を全額ということになります。ややこしいので注意です。




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2012-01-26

滅多に来ないが来たらただでは済まない労働基準監督署の調査


一般的に経営者は税金の計算には熱心ですが、労務管理にはあまり関心がありません。従って税務署対策を普段から意識している会社は多いと思われますが、労働基準監督書の調査を意識している会社は逆に稀だと思います。

例えば直近10年で税務調査が入っていない会社というのは少数派かもしれませんが、労基署の調査となると、入った記憶がないと言われても別に珍しいとは感じません。それほどに労基署の調査の頻度は低いと思います。

この理由は単純に会社の数に対して調査を行う労働基準監督官の人数が少ないということもありますし、日本において労働行政は税務行政に比べそれほど重要視されていないとも考えられます。



しかしながら、滅多に来ないというだけに、いざ労基署の調査が入ると混乱したり、予想外の膨大な出費でダメージを受けるケースも少なくないのが実情です。それだけならまだいいのですが、経営者や担当者の労働基準法に対する理解不足が原因で監督官とケンカになり、監督官の心証を悪くして取り返しのつかないことになることもあります。



労基署は「労働基準法違反」について取り締まる行政機関です。具体的には賃金や残業代をきちんと払っているか、労働時間や休憩・休日は適法か、などを見ます。(労働基準法に規定のない事項、例えば解雇の有効性の判断やパワハラの指導等は一切行いません。)

これは重要なことですが、労働基準法は労働行政の手続き等を定めているのと同時に刑罰も定めています。

サービス残業とか、給与一律カットとか、36協定(時間外・休日労働協定)を超える長時間労働とか、たいしたことじゃないように感じるかもしれませんが、労働基準法に違反するということは犯罪行為が既遂で成立しているということです。

「最悪でも営業停止などの行政処分だろう」と考えている方もいるかもしれませんが、労基法違反は刑事告訴がありうるわけです。

我々の業界では常識ですが、労働基準監督官は臨検監督や行政指導を行う行政官であるのと同時に特別司法警察職員としての身分をもっています。したがって監督官は会社の行為が悪質だと判断した場合、自身の判断で経営者などを送検することができます。


実際送検されると何が起こりうるのか。

翌日の新聞やニュースで「労働基準法違反により書類送検」と報道されることがあるかもしれません。(送検時点で労働局より発表があるためです。)

もちろん起訴された後、有罪が確定すれば前科という扱いです。(たいていは懲役刑ではなく罰金刑ですが)

労基法違反で新聞に載ったり前科者になるとは予想だにしなかったことでしょう。



企業は労基署の調査に対してどういう姿勢をとっていくべきなのか。

現実として労働基準法を完璧に遵守していくことは不可能に近いといえます。労基法を忠実に守っている会社がほとんどないことは労基署だって百も承知です。

しかしながら、「この会社は法令に基づいて労務管理をきちんと行っていく意思がある」という姿勢を見せることがまず重要です。

監督官に対して
「そんな法律知らない」
「そんなこといちいち守ってたら経営は成り立たない」
「何で会社が従業員に対してそこまでしてやらなければならないのか」
というような口をきけば状況は悪くなる一方です。監督官は基本的に紳士的な方が多いと思いますが、敵に回せばおそらくただでは済みません。頭にきても絶対にケンカをしてはいけません。労基法に違反している時点でケンカに勝つことはできないのですから、勝てないケンカはするべきではありません。


そして会社が普段から気をつけるべきことは以下です。

労働基準法はもともと憲法の生存権の理念に基づいて定められた法律ですから、労働者の生活とか生命に係る事項は特に重視されます。

実際に行政指導や送検の多い事例は、賃金不払いであったり、労働安全衛生法違反であったり、生命や身体に直接影響の及ぶ案件です。近年は過労死や過労自殺の増加を背景にその温床となっているサービス残業の摘発が重視されているのが現状です。(ちなみに毎年11月はサービス残業取り締まり強化月間です。)

ですから会社としてはまず労働時間・休憩・休日・休暇などを適当にせずに制度化して就業規則・雇用契約書に明記し労働者に周知して規定通りに運用することです。また、タイムカードを打刻するとともに労働時間管理をきちんと行い、毎月賃金台帳を法定通り作成し、36協定を締結して労基署に提出し、残業を許可制や届出制にして残業管理をしっかり行い、残業代を抑える賃金制度や労働時間制度の導入による残業代対策についても適法に行うことです。

これらは経営状況が厳しい会社でもやる気があればできることです。そしてこれらの帳簿等を備えておけば労務管理をきちんと行っているというイメージを与えることができます。

次回は労基署調査についてさらに詳しく書きたいと思います。




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2012-01-19

給与引き下げの実務


ご存じのとおり給料というものは年齢とともに上がっていくのが普通というか当然でした。年功賃金というやつです。給料が下がるなんて考えもしない時代です。

ところが経済の成長がストップしたら、当然給料を上げ続ける訳になんかいきません。不況とリストラです。ニュースでどこぞの会社が業績不振で一律給与カットと報じられても日常の光景です。珍しくもありません。下げないと会社がやっていけないのです。


しかし冷静に考えてみますと、給与って会社(=経営者)の裁量で切り下げたりして法的に問題はないのでしょうか。


会社が一方的に給与を引き下げれば、もちろん違法です。労働契約という契約で給与をいくら支払うか約しているわけですから、いくら人事権の裁量をもっている会社でも賃下げまで自由に行う権限はありません。

労働者は労働契約に従って毎月決められた労働力を提供している訳ですから、その対価である給与を債務者(給与の支払者)のさじ加減で減らしていいはずがありません。

一方的に引き下げれば民事的には債務不履行になりますし、さらに刑事的には労働基準法第24条違反(賃金不払い)で労働基準監督署の行政指導、送検の対象になるでしょう。

意外にこのことを知らずに給与を頻繁に変更する会社も少なくありませんので注意が必要です。

(※なお、懲戒処分による減給はここでいう給与引き下げとは本質的に異なります。)



一般的に給与は、基本給と各種手当に分けられます。手当は通常給与規程において支給要件が具体的に決められていますので、要件に従って支給する義務があります。

注意すべきは基本給です。基本給の性格は会社によってそれぞれ異なり、会社によっては賞与、退職金に連動する場合もあって労働者への影響は大きいものとなります。

賃金制度において職能給を採用している場合、給与引き下げのハードルは高くなります。かつて日本においてはほとんどの会社が職能資格制を採用しており、また、給与規程においても給与を引き下げられない条文になっていました。

詳しくは過去の記事に書いてあります。
年功序列という1つの時代の終焉 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



では給与引き下げはどんなときに認められるのかというと、次の場合には認められると思います。

  1. 従業員が同意した場合
  2. 就業規則(給与規程・人事規程含む)において、引き下げの根拠が規定されており、当該規定および公開された賃金・人事制度(客観的な基準に基づいた評価制度含む)を適正に運用した場合
  3. 経営悪化の状況において、最高裁が過去に示した不利益変更の判断基準を満たすかたちで就業規則を改定した場合


1.の場合は当然同意書をとるべきであると思います。もちろん同意書があれば完璧ではなく、強要がなかったかなどが問題になります。

なお、減額された給与労働者が何も不満を言わずに受け取り続けたから、既に黙示の同意が成立しているという会社の主張は認められるかという問題がありますが、過去の判例では黙示の同意は認められないとされているので注意が必要です。

2.については形式だけでなく運用面における適正さも求められます。大きな改定の場合には代償措置、経過措置が必要なケースもあるでしょう。3.は慎重な手続きと対応が必要です。2.3.についてはここでは書ききれないため、いずれまた詳しく書きます。



会社がまず取り組むべきことは、給与が契約によって決まっているものだという認識をもち、雇用契約書、給与規程、賃金制度などをきちんと整備して不測の事態にも対応できる体制をとっていくことです。そして、実際に給与を引き下げる場面においては、説明責任を果たし、書面化できるものは全て書面に残し、契約・規程・制度に則って手続きを進めることが重要であることを忘れないで下さい。



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