Hatena::ブログ(Diary)

人事労務コンサルタントmayamaの視点 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-02-25

<シャープ買収>40歳以上が拒否される雇用システムを支持してきたのは誰か


シャープが台湾企業ホンハイの傘下に入ることが決まり、ホンハイは買収の条件として「40歳以下の従業員の雇用の維持を約束」していると言われています。

つまり、40歳を超える従業員の雇用は一切保証されないことになりますが、これはホンハイが血も涙もないからではなく、極めて合理的な決断であり、もっと言えば、シャープの40代・50代の従業員を含め、おそらく日本の多くのサラリーマンが望んだ結果であるものと考えられます。

日本の多くの企業ではいまだ、給与が毎年少しずつ昇給する年功序列型の賃金制度が使われており、成果主義を採用しているという企業であっても、業績等によってある程度の差はつくものの、結局は属人的な給与体系であって、年齢や勤続年数が給与に大きく関係するのが実情です。

そして、こうした年功型の人事制度がずっと運用され続けてきたのは、会社側だけでなく従業員側もまた強く望んできた結果だといえます。近年、安定した企業へ就職したいというサラリーマンの安定志向は若者まで浸透していますが、安定した企業とはつまり、仕事によって給与が決まったり成果によって年収が大きく上下しない会社、つまり年功型賃金の企業のことです。

多くのサラリーマンの望む安定した会社、つまり給与が年齢・勤続に応じて少しずつ上がっていくような会社は、20代・30代の若い頃はパフォーマンスに比べて給与が安く、40代・50代になってから昇給カーブに乗ってパフォーマンスを超える割高な給与がもらえるものです。

言い換えれば、若いうちは将来の出世と引き換えに一生懸命働いて会社に一杯貯金をつくり、年配になったら動きは落ちてきちゃったけどその代わり会社にたくさん貯金があるから高い給料をもらって定年まで安泰という感じです。

ところが、この安定には大きな大前提があって、それは企業が変わらずに「存続」しているという点です。

今回のシャープのように、若いうちに割安な給料で残業こなして異動にも応じて会社の為に精一杯尽くしてきたのに、さあこれから年功制のリターン部分を享受するぞ、というまさにその段階で、今回のような買収があれば、若い頃の貯金が全部貸し倒れで消滅してしまうこともあり得るという訳です。みんなが入社したがる安定企業が民間企業である限り、このリスクを内包しているのは当然です。

「40歳以下の雇用が維持され、40歳を超える雇用が保証されない」ことは、紛れもなく安定志向を望む多くのサラリーマンたちが自ら望んだ結果であることは間違いありません。

いずれにしても経営再建の為にリストラが必要不可欠だという状況の中で、いままで年功制の中で割高な給与支給されてきた40歳超の従業員を「要らない」と考えたホンハイの判断は合理的としか言いようがありません。年齢だけを理由に高い給与支給される従業員を雇用し続ける方が余ほど不合理といえます。

シャープがもし仕事と業績によって給与が決まる完全実力主義の会社であったなら、「40歳以下は〜」といったような年齢で一刀両断されることはなかったかもしれません。今回のような取扱いは年齢による差別といえます。しかし、多くのサラリーマンは、この年齢による差別を望んでいる現状があります。競争よりも安定を望んでいるからです。そして、いま見えている安定とは、年齢に応じて給与が上がっていくという年齢による差別ともいえる、いつ消滅するか一切保証のない、まやかしの安定だと思います。

2016-02-18

「定年制の廃止」できる会社とできない会社


ジョイフルが定年制を廃止するというニュースがありました。

ジョイフル:正社員60歳定年制廃止 パートも雇用継続 - 毎日新聞


以前から定年制を廃止する企業のニュースはたまに見かけますが、定年廃止は企業にとって非常に勇気のいる決断です。

定年廃止は、何のトラブルもなく自動的に従業員を退職させるための唯一のシステムがなくなることを意味します。正社員は基本的にみな無期雇用なので、自分から辞めたいと言わない限り何歳まででも企業は雇い続けなければならないということになります。高齢でパフォーマンスが落ちてきたというくらいでは、解雇なんかまずできません。


そんなリスクを負ってまでなぜ定年廃止に踏み切るのか。このままではもう立ち行かないくらい人材が不足しているからです。定年廃止をアピールすることでより優秀な、より多くの人材を獲得したいのです。


とはいえ企業が定年を廃止する為には、どうしても越えなければならない壁があります。「年功序列」の壁です。定年廃止には実力主義が不可欠なのです。

日本の企業の多くは年齢によって給与や昇進が決まります。「最近は成果主義が増えているじゃないか」というかもしれませんが、そんなことはありません。能力主義とか成果主義とうたっているような企業でも、中身を見てみると「年功的な成果主義」だったりします。人事評価によって差はついても、全体的にみると結局年齢や入社年次が大きく影響しているという感じです。

したがって、日本企業給与は上がることはあっても下がることはあまりないのが現実です。下手に給与を下げられないのに加え、上には管理職がいっぱい詰まっているので、最近は特に大企業は30代くらいで早くも頭打ちだったりします。

このような制度のまま定年を廃止したらどうなるでしょうか。あっという間に人件費が肥大化して経営危機に陥ります。会社で最も高給かつパフォーマンスの落ちている層がそのまま退職せずに残るわけですから当然です。

これまでだったら60歳あたりで一回仕切り直して、まず給与を思いっきり下げて、最終的には動きのいい人だけ再雇用で残すというやり方でやって来れたわけです。定年を廃止すればそうした人件費圧縮も選別も一切できなくなります。

ですから定年廃止する企業は給与も昇進も全て実力主義で決定する必要があります。決して60歳間際の社員の給与が高いとは決まっていません。年齢で給与が決まらないのだから、年齢で退職も決まらないということです。年齢による差別を一切やめることこそ定年廃止です。一方、年功序列は年齢による差別の代表格といえます。

また、労働者が何歳まででも会社に残る代わりに、パフォーマンスに応じて給与が柔軟に決定され、場合によっては給与を引き下げることのできる人事・賃金制度が必要になります。透明かつ客観的な基準による制度を適切に運用しなければ、給与の引き下げは法律的なトラブルを引き起こしかねません。年功序列の企業ではまず無理だということです。

今後、労働人口の減少にともなって定年制を廃止する企業は次々と出てくるでしょうが、はたしてこの年功序列の壁を乗り越えることができるのか、そこが大きなポイントだと思います。

2014-02-03

インフルエンザと休業手当(休業補償)の支払義務


ここ最近またインフルエンザが流行しています。
インフルエンザに感染して会社を休んだ場合、休業手当の支払い義務の有無が問題になるところです。

インフルエンザで会社を休んだ場合、一般的には年次有給休暇を充てるケースが多く、この場合には休業手当の問題は発生しません。ただし有休は会社側の意思で一方的に取得させられるものではないので、労働者が「有休を使いたくない」と言ってしまえばそれまでです。それ以外にも、入社したばかりで有休をまだ付与されていないケース、有休を持っていたけれども使い切ってしまったので利用できないというケースもあり、このような場合に休業手当の支払い義務の有無が問題となります。


こうした場合には「会社を休むに至った経緯」によって考えていくとわかりやすいです。

インフルエンザによって従業員が発熱して動けないため自主的に休んだ場合
これは風邪を引いて休んだ病欠の場合と何ら変わりませんから、普通に欠勤した分の賃金を控除すればいい話です。

医師の指導に従って休業する場合
これは「使用者の責に帰すべき事由」(労基法第26条)には該当しませんから、休業手当を支払う必要はありません。やはり欠勤控除でよいということになります。



判断が難しいのは、インフルエンザの感染が確認できたにもかかわらず、労働者本人が「働ける」と主張して会社に出勤しようとした場合です。

もちろん発熱がピークの間は労働者自身もあまり動けないので出勤しようとするケースは少ないと思いますが、インフルエンザは基本的に発熱の症状がなくなっても感染力は続く可能性が考えられます。会社としては職場での感染の危険がなくなるまでは休業してほしいところです。
(※目安としては熱が下がってから2日。できれば発症した日の翌日から7日は休ませるべき期間であると、厚労省発表の新型インフルエンザに関する職場のQ&Aで示されています。)

ところがです。

熱が下がった後すぐに出勤しようとした場合、これを会社の判断によって休業させれば休業手当(最低60%)の支払いが必要になるものと考えられます。(※極端な話、発熱中であっても労働者が「働きたい」として出勤しようとした場合、これを会社が無理やり休ませればやはり休業手当が必要になるものと考えられます。)

なお、労働契約の側面から考えると、労働者の体調が完全には回復せず通常通りの労務を提供できないような状況であれば、債務の本旨に従った履行が行えないという理由で会社は労務の受領を拒否しても賃金の支払い義務は生じないと考えられます。しかし、労務の提供が完全に行えないかどうかの判断を会社が独自に行うのはなかなか難しく、やはり医師の判断が必要になるのが現実です。

また、インフルエンザは労働安全衛生法(労働安全衛生規則)が定める就業禁止の対象となる疾病(病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病等)には該当しないため、安衛法を根拠に就業を制限して無給とするわけにもいきません。

そもそも労基法上の休業手当は定め自体が非常に曖昧なものであり、インフルエンザに関する点をはっきり示した通達も見当たりません。休業手当の支払義務に関して裁判になればどういう結果になるのかわかりませんし、労働基準監督官もそれぞれの考え方によって異なる指導を行うかもしれません。



一方、本人が出勤したい意思に反して休ませる場合であっても、感染症法(※正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)によって就業制限の対象とされ、同法に基づいて都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請し、または保健所より本人を外出させないよう協力要請があった場合などは、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないため、休業手当は支払う必要がないということになります。

感染症法は数年前にできた法律ですが、現時点では同法による自宅待機や休業等の要請が行われた実績はまだありませんが、この取り扱いは、季節性インフルエンザか、新型インフルエンザかによって異なってきます。(※季節性インフルエンザは感染症法上、5類感染症と指定されており、鳥インフルエンザ(H5N1)は2類感染症、そして新型インフルエンザは1〜5類に属さない「新型インフルエンザ等感染症」という独自の分類になっています。現在、就業制限の対象となり得るのは1類〜3類および新型インフルエンザ等感染症等に限られるため、5類の季節性インフルエンザは対象にはなりません。)



最後に、濃厚接触者(感染者の近くで仕事をしていた人など)の取り扱いです。

濃厚接触者を会社の判断で休業させる場合には休業手当は必要になります(ただし、保健所からの要請等によって休業させたのであれば不要です)。また、労働者の同居の家族が感染した際に、会社が本人に対して自宅待機を命ずることは予防的措置になりますから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当の支払わなければなりません。



なお、休業手当の支払いが必要なケースであったとして、気になるのが民法の危険負担(第536条)の適用の有無、つまり会社は100%の賃金を支払う必要がないのかという点です。

基本的に、インフルエンザに感染した労働者を休業させる行為は、当該労働者および他の労働者への安全配慮義務の履行という観点から正当化されるものであり、会社には原則として故意・過失等はないと考えられますので、休業手当(60%)が必要だとしても100%の支払い義務はないと考えられますが、念の為に就業規則あるいは雇用契約書において危険負担の適用の排除を規定しておくのが確実であると思います。

2013-11-28

誓約書は退職時ではなく入社時に提出させる


労働者が会社を辞めた後も、守秘義務や競業避止義務を課したい」

そう考えて労働者が退職する際に誓約書を書かせる企業は少なくありません。



しかしです。
労働者が誓約書の署名を「嫌だ」と拒否したら、その会社はどうすればよいのでしょうか。

結論からいうと、「何もできません」ということになります。



業務上の秘密を守るという守秘義務は、労働者の企業に対する誠実義務の1つであり、就業規則や雇用契約書などに規定されているかどうかにかかわらず、労働契約に付随して当然に発生する労働者の義務です。さらに労働契約が終了した後も一定期間、労働者は守秘義務を当然に負うとされています。

ですから退職時に秘密保持誓約書をとらなくとも、労働者は退職後も引き続き守秘義務を負うわけですが、秘密情報の定義や取扱い等について細かく合意することは確かに重要といえます。


さらに労働者は、会社に在職中は競業避止義務を負いますが、退職後については、就業規則あるいは契約書等によって別途合意を得ない限り、競業避止義務を負わないとされています。



つまり、企業は、守秘義務をより厳格に労働者に課すために、そして退職後の競業避止義務を別途課すために、労働者と合意をしておく必要があります。できれば就業規則による一律の包括的同意というかたちだけではなく、各労働者の職務内容・権限に応じた個別の合意をとっておくのが望ましいといえます。



ですが、前述の通り退職時点では労働者に拒否された場合には何も手だてがありません。退職時点で求める義務は、事前に合意している労働条件とは異なるからです。

従って企業は、守秘義務や競業避止など「退職後も引き続き労働者を拘束する義務」を課したいという時には、入社時に、または重要な秘密を扱う職位・職務への昇格時・配転時に合意をとることが有効といえます。



注意すべきは、労働者が誓約書にサインしないからといって、本来支払うことになっている退職金を減額するなどの措置は許されないということです。あらかじめ労働契約における労働条件として合意している退職金等については、減額・不支給事由に触れない限り会社は支給する義務があります。

ただし、例えば退職金とは別途、契約にはなかった恩恵的な慰労金を支給する等であればそれは労働条件とはいえませんから、支払うかどうかは企業の任意です。秘密保持や競業禁止の代償措置として金銭を支払い、引き替えに誓約書に署名をもらう、署名をしないのであれば支給しない、というかたちであればスムーズに退職時の個別合意を得ることは可能と考えられます。




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2013-10-06

労働基準監督官の現実<ダンダリンを視聴して>


日本テレビ系連続ドラマ「ダンダリン 労働基準監督官」の第1回オンエアを見ました。一般的に馴染みのない労働基準監督官という職業についてそれなりに具体的に表現できていたように思います。

以下、ドラマでやっていた内容について、実際はどうなのか、個人的にどう感じたかを項目別に言及してみようと思います。




労働基準監督官は労働基準法違反があった場合、逮捕できるということが強調される内容だった。

確かに監督官は司法警察員なので一般の警察官のように逮捕状を裁判官に請求して逮捕ができますが、このようないわゆる「通常逮捕」ではなく「現行犯逮捕」という形であれば法律的には一般人でも逮捕はできるわけですし、ことさら逮捕を強調するよりも送検権限があるという方が現実的ではあると思います。実際に書類送検はザラにあります。

でもドラマ的には書類送検のシーンを放映しても面白くも何ともないことは確かです。




労働者から口頭でサービス残業が常態化していることを聞いただけで、段田凛(労働基準監督官)がすぐに臨検に行くと言い出した。

実際には、労働者からサービス残業の存在を聞いただけでは有り得ない話です。監督官は通常、客観的な証拠等によって違法性をある程度特定した上でなければ臨検は行いません。仮に物的な証拠がほとんどなかったにしても、労働者から細かく聞き取りをして、その内容に違法行為の信憑性が確認できる状況でもなければ職権を発動することはないでしょう。

具体的にはサービス残業の場合は、その会社の労働時間や賃金がどう規定されていて、何月何日にそれぞれ何時間何分の残業をして、それに対する給料の支払いはどうなっていて、結果それらが労働基準法第何条に違反するのか、ということを労働者は監督官に申告します。監督官はそれらの申告に基づいて、調査が必要なのか、調査するとすれば担当者を監督署に呼び出すか、それとも臨検するか、といったことを判断します。

これは監督官が労働基準法違反という刑法犯を扱っており慎重を期しているとも考えられますし、監督官の人数が少な過ぎて全てを調査していたら回らないので違法性をある程度特定できた案件のみ動くという面も影響していると考えられます。




「労働基準監督官は全国に3千人もいるのに被疑者逮捕は年平均2件しかない」というセリフ

逮捕の件数の少なさを強調する為のセリフではありますが、これだけ聞くとまるで労働基準監督官が現状十分に足りているように聞こえるかもしれません。

実際のところ、3000人という人数(2千人台後半といわれている)は圧倒的に人手が不足しているといわれています。労基署に行くとたくさん職員がいるので何も知らない一般の人は職員がみな労働基準監督官だと思うかもしれませんが、監督官はごく一部です。

東京で最も企業の集中する中央労基署では、監督官一人に対して3千数百の企業を受け持つ必要があるといわれています。対応する案件が多すぎて、長時間労働を取り締まるべき監督官が一番長時間勤務に陥っているという冗談のような話です。



と何だかんだ書いてますが、総合してかなりリアルに描かれていると思います。求人を「かわいい女の子」に限定する行為(男女雇用機会均等法違反)やパワハラといった案件が、労基署ではなく労働局の管轄である等なども正確ですし、逮捕前に検察に根回しをするあたりも間違いないと思います。





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2013-09-20

変動の多いパートタイマーの有休(比例付与)の基準


年次有給休暇は、雇い入れから6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対して10日間が付与されますが、所定労働日数や労働時間の少ない労働者(つまりパートタイマー)であっても、その労働日数に応じた日数の年休が付与されることになります。これを比例付与といいます。

具体的には、1週間の所定労働時間が30時間未満であって、かつ、1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められているパート労働者の場合は、1年間の所定労働日数が216日以下)の労働者が比例付与の対象になります。

そして、比例付与の際の付与日数は年休が発生する「基準日」時点における今後1年間に予定される所定労働日数および所定労働時間に基づいて決定されます。その後、年度の途中で仮に所定労働日数が変更になったとしても、付与された日数が変わることはありません。ですから例えば、最初の半年間の所定労働日数が週4日であってとしても、基準日において今後1年間の所定労働日数が週5日という予定であれば、その労働者は比例付与ではなく通常の労働者と同じように10日の有休が付与されることになり、その後の年度中に契約が変わって週4日に戻ったとしても、有休は基準日において発生した日数のままです。

しかしながら、現実にはパートの雇用契約はきちんと締結されていないケースも多いので所定労働時間や日数が曖昧ではっきりせず、あるいは季節によって所定時間・日数が不規則に変わったり、本人や会社の都合によって随時変更になるような運用も少なくないと思います。

所定労働日数が週1日であった労働者が、基準日付近でたまたま週5日の条件で働いていて通常の労働者と同様の10日間の有休を与えられ、その後また週1日勤務の契約に変わってしまったというケースを考えると、とても合理的とは思えません。

こうしたパートタイマーの所定労働日数が大きく変動するようなケースについては、参考となる通達が存在します。

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(平成16年8月27日基発第0827001)

予定されている所定労働日数が算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出しても差し支えないという内容です。具体的な処理としては、過去1年間の出勤日を月ごとに集計し、合計日数を労働基準法施行規則第24条の3で定める「一年間の所定労働日数」の区分にあてはめることになります。なお、雇入れ後の最初の有休付与に関しては、過去6ヵ月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして判断することになります。





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2013-08-08

「ブラックバイト横行」アルバイト基幹化に思うこと


随分久しぶりの更新となります。私の業界では6月・7月が繁忙期なのですが、あまりの繁忙ぶりに全くブログの更新ができず、繁忙期の余韻を引きずって今日にまで至りました。今年の後半に向け巻き返しをはかっていきたいと思います。



さて、本題に入りますが、ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」が問題化しているようです。

<ブラックバイト>横行 「契約無視」「試験前も休めず」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130808-00000050-mai-soci

アルバイトをする大学生の間で、「契約や希望を無視してシフトを組まれる」「試験前も休ませてくれない」などの悩みが広がっている。学生たちの声を集めた大内裕和・中京大教授(教育学)は、違法な長時間労働などをさせる「ブラック企業」になぞらえ、「ブラックバイト」と呼び、問題視している。企業が非正規雇用の志向を強める中、正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいるようだ。



企業の経営環境はますます厳しくなり、人員削減して社員一人当たりの負担は増える一方。結果としてうつ病休職者は激増。そして企業は人件費の安い非正規雇用の比率を増やし、ついには学生アルバイトにまで正社員並の働きを求めて圧力をかける時代がやってきたというわけですか。

記事の中で聞き捨てならないのが、「正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいる」ということ。

まあ、学生アルバイトだしいずれどこか別の企業に就職するのだからどう使ってもいいという考えなのでしょうが、ただし、「アルバイトを非正規の待遇のまま基幹化を進める」という考え方そのものは法律的に問題大アリです。

パートタイム労働法では、正社員と同じ仕事をしている場合(職務内容が同じ場合)など一定の要件を満たす短時間労働者について、賃金などの待遇を正社員差別してはならないとされています。

さらにアルバイトが有期契約労働者である場合には雇い止めの問題が発生するかもしれませんが、雇い止めの有効性の判断基準として、

・地位の基幹性 or 臨時性
・業務内容の恒常性 or 臨時性

という要素があります。正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせて基幹化を進めれば、雇い止めをした際にどういう影響があり得るのか、という問題が浮上します。


それこそ正社員同様に業務命令権を広く行使したあげく、期間満了による労働契約の終了のみを主張するなんて、会社は虫が良すぎるでしょ、と判断されるかもしれません。

非正規労働者雇用する際は、雇用形態に即した内容の雇用契約を締結し、それを遵守するということが重要なのであり、正社員との業務内容、権限、責任に合理的な差を設けなければなりません。契約社員は臨時的業務、パートタイマーやアルバイトは補助的業務、だからこそ正社員とは待遇が違うわけです。それが無理だというのなら、そもそも自社にとって正社員とは一体何なのかをよく考えるべき状況にあるのだと思います。

2013-06-16

諭旨退職が退職勧奨と混同されている?


諭旨退職についての相談を受けていると、「もしや退職勧奨と混同しているのではないか」と感じる時があります。いうまでもなく、諭旨退職と退職勧奨は法的に全く別物です。


「諭旨退職」とは、不祥事を起こした懲戒解雇処分相当である労働者に対し、「反省の姿勢を示して期限までに自主的に退職願を提出するならば懲戒解雇は行わず自己都合退職として取り扱う」というような情状酌量的な制度です。無論、自己都合退職として処理するとはいえ、あくまで「諭旨退職」という名の懲戒処分ですから就業規則にあらかじめ懲戒規定がなければそもそも成立しません。

そして重要なことは、諭旨退職は本来その労働者の行為が懲戒解雇に値することを前提として退職願を提出させ雇用関係を終了させる懲戒処分ですから、その有効性は懲戒解雇と同様に厳格かつ慎重に判断されるべきものであるということです。

つまり、労働者の行為が懲戒解雇を科すのに相当といえることが必要なのであり、そもそも懲戒解雇が罰として重過ぎるのであれば、それを前提とする諭旨退職処分もまた当然に無効となり得るという考え方が成り立ちます。(※懲戒処分の有効性は労働契約法第15条の懲戒権濫用法理によって判断されます。)



労働者に退職願を提出させる点においては、手続き上は確かに退職勧奨による退職と外見は変わらないように感じますが、取り扱いとしては諭旨退職は自己都合退職、退職勧奨は合意退職(会社都合退職)となる点において全く法的に異なるものです。

また、最も混同されがちなのが、失業給付に関連する離職票の離職理由に関してです。退職勧奨の場合には会社から退職の申し込みを行っている訳であり会社都合となりますが、この点も結局「背景に重責解雇相当の行為があった上での退職願提出による諭旨退職」ということであれば、自己都合として取り扱って問題はありません。

極端な話、離職理由は失業給付の支給を決める為のものですから、雇用保険的な視点からはどちらの都合で離職となったのかさえ分かればよいのであり、そして本人が不祥事を起こしたことに端を発する退職なのですから自己都合ということは明白です。


なお、退職勧奨の場合は退職合意書を交わすことをお勧めしますが、諭旨退職の場合は諭旨退職仕様の退職願をきっちりとるのがよいでしょう。退職理由の記載は「一身上の都合」ではなく「非行を行ったので自主的に」という記載の方がよいと思います。諭旨退職は解雇ではありませんから、もちろん30日前の解雇予告は必要ありません。(この点、同じ懲戒処分としてよく挙げられる「諭旨解雇」とは明確に異なります)

あと、退職金の減額は、自己都合といえども懲戒処分である以上、通常の自主退職とは区別して減額率を大きくするなど別途定めができますのでしておいた方が良いと思います。

2013-06-08

身元保証書の注意点および身元保証人の責任の範囲


企業で人を採用する際、特に正規雇用社員の入社に際して身元保証書の提出を義務付けている会社は少なくありません。

この「身元保証」とは、従業員の行為によって会社が損害を受けた場合に、身元保証人がその損害を賠償するという内容の契約であり、会社と身元保証人との間で締結するものです。

金銭貸借の保証人とは異なり金額があらかじめ確定していないという点で損害額が予想できませんので、身元保証人を保護する目的から「身元保証に関する法律」において、その責任の範囲等が制限されているのです。


身元保証人をたてておけば会社は損害の全額を請求できるかというとそうではありません。法律において、

裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情をあれこれ照らし合わせて取捨する

とされており、実際には相当程度制限がかかるものと考えておくべきだと思います。



法律によれば、身元保証の期間を定める場合には5年を上限とし、5年を超えた部分は無効となります。もし契約に期間の定めがない場合には、保証期間は3年です。ちなみに契約の更新は可能ですが、就業規則に更新の必要性について明記しておかなければ、労働者から拒否されても会社側は何も言えませんし処分もできません。(そもそもあまり長期間にわたって身元保証書を提出させること自体、望ましい運用とはいえませんが。)



特に注意が必要なのは、身元保証契約の内容に変更があった際には、身元保証人にその旨を遅滞なく通知しておかなければ賠償責任を問えなくなる可能性がある点です。

通知すべき変更内容を具体的にいうと

1.労働者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こす恐れがあることを知ったとき。

2.労働者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し、またはその監督を困難にするとき。

ということなります。さらに身元保証人はこれらの通知を受けた時は保証契約を解除することができます。

会社が上記通知義務を怠っていたとしても身元保証契約自体が失効することはありませんが、加重された保証内容を求めることができなくなりますので、実質的に契約の実効性が薄くなります。昇進したとき、職種変更したとき、遠隔地に転勤になった時などは通知すべきだと考えられます。現実に多くの企業において、この辺りの管理はできていないのが現状ではないでしょうか。



その他の注意事項としては、


短期の契約社員に対して身元保証書を求めることは、長期雇用を前提にしていると解釈されかねないことから望ましいとはいえないこと。

近年の労働者のメンタル不調によるトラブル増加を考えると、身元保証人に協力を求めるケースも想定されるので、身元保証人の要件に「親族であること」を規定すること。


などが考えられます。


なお、身元保証書の押印を実印で行い、印鑑証明の提出を求めることも企業の自由ですが、これから入社して働く労働者との信頼関係にも影響しますので、誤解のないよう説明し十分に納得を得ることが大切だと思います。

2013-05-09

「限定正社員」をめぐる大いなる誤解


ここ数週間、ニュースで「限定正社員」という雇用形態についての報道が多くなってきたようです。政府の規制改革会議が推し進めているようです。夏の参院選を考慮して安倍政権が「解雇規制緩和」政策を見送ったのでその代わりということでしょうか。

「限定正社員」の中身は以前ニュースで報じられた「準正社員」と同じものです。雇用契約によって職務・勤務地を限定することにより、事業所閉鎖など担当職務や事業所がなくなってしまった場合の解雇が容易になるということです。



私は以前の記事でも書きましたが、法改正を行わなくとも現行法のままでこの運用自体は可能です。職務限定・勤務地限定の雇用契約が結ばれ、その内容で適切に運用されている限り、事業所撤退等を理由にした整理解雇客観的合理的な理由を有する解雇として有効と認められます。

ただ、そうは言っても多くの企業は訴訟のリスクを恐れて職種・勤務地限定契約の運用に二の足を踏む状況なので、それならば統一した解雇ルールを法律で明文化することによって企業が安心して限定契約を運用できるようにしようという話であればまあ理解はできるのですが。



しかしながら、マスコミで報じられている「限定正社員」は、本来法律的にないはずの意味あいが勝手に付加されて違う方向にいっていると思われるので、それは違うだろうというところを書いておきます。



正規と非正規の中間「限定正社員」って? 普及策検討中(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0506/TKY201305060006.html

正社員だけど、モーレツではなく、働く職種や地域が限られる。仕事がなくなれば解雇される可能性もある――。そんな「限定正社員」を広げる議論が安倍政権で進む。「働きやすさ」を高めるねらいがあるが、「解雇しやすさ」につなげる思惑ものぞく。

まず、これはタイトルからしておかしいです。法的に考えて、職種・勤務地限定の労働者がなぜ当然のように「正規と非正規の中間」になるのでしょうか。仮に中間に位置づけるとしてもそれは企業が個々に自由に決める問題であり、政府の有識者会議主導で政策として進める問題ではありません。

そもそも法的に正社員という分類はないのであって、限定正社員をあえて分類するならば、無期雇用労働者について職務・勤務地が限定されているのかされていないのか、という区分になります。どちらが上ということではなく、契約において何を許容し、何を得るのかをそれぞれの合意によって決める、ということです。

海外ではむしろ職務限定契約は一般的な契約形態であり、非正規的な取り扱いでは決してありません。もちろん仕事内容が決まっているのですからその仕事がなくなれば解雇されるのは正当であり、「解雇しやすさにつなげる思惑」も何も、整理解雇が容易なのは当然の帰結なのです。有識者会議の方々は「解雇規制緩和」のソフトバージョンくらいに考えているのかもしれませんが、これは解雇規制の緩和ではありません。契約の問題なのです。



労働契約に職務内容明記 限定正社員雇用ルール素案(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1903L_Z10C13A4EE8000/

仕事の範囲が限られる分、賃金は従来型の正社員より安くなる。

なぜ職務が限定されると、当然のように賃金はこれまでの正社員より安くなるといえるのでしょうか。

そもそも日本では正社員の職務・勤務地が限定されず、企業の命令によって配置換え、転勤等が行われるがために賃金を仕事基準で決めることができず、結果として属人的な職能給という名の年功賃金を運用せざるを得なかった訳です。

限定正社員は仕事が限定されているのですから、賃金を仕事基準(つまり職務給)によって決めるのが本来のあり方なのです。この場合、年齢・勤続といった要素は基本的に入り込む余地はありません。

つまり、その職種を何十年やってきた専門職的な限定正社員(職務給)が、入社して2〜3年の限定のない正社員(年功給)よりも賃金が安くなるということは本来あり得ないのであって、そんなことが当然のごとく記事に書かれている時点で、しょせん限定正社員は「従来の正社員より安く解雇しやすく使えるし、パートや契約社員よりは士気があがるだろう」くらいの認識しか持たれていないのだと思われます。



限定正社員の運用の拡大は確かに多様化する働き方のニーズに対応できる可能性をひめています。しかし危惧するのは、誤解しているのが有識者会議なのかマスコミなのかは不明ですが、多くの誤解のもとに限定正社員が運用されてしまう危険性です。以下まとめます。


限定正社員の整理解雇が容易なのは解雇規制が緩和されている訳ではなく、従って経営者の恣意的な解雇は当然許されず、能力不足、非違行為などを理由とする解雇は通常通り厳格に判断されるということ

限定正社員は法的には正規・非正規の中間という位置付けはなく、あくまでこれまでの無期労働者の職務・勤務地が限定されているに過ぎず、契約内容は当事者によって決められるものであるということ

限定正社員を非正規雇用の延長として低賃金で使おうとする方向性が垣間見えるが、本来、限定なしの正社員に比べ一貫して同じ職種を続けることから高い職業能力の維持が期待できるのであり、職務給によって適正に処遇されることにより限定正社員全体のスキル向上につなげるべきであるということ



ぜひとも注意していただきたいと思います。

2013-04-18

入社前研修の賃金・労災その他取扱い


採用内定者向けに入社日前に研修を実施することがありますが、賃金支給すべきなのか、支給する場合の金額はどうするのか、労災は適用になるのかといった質問を受けることがあります。


入社前研修について賃金支払いが必要になるかどうかは、基本的には研修に参加した時間が労働時間といえるのか(内定者が労働者として働いたのか)によって決まります。

つまり、

1.研修の内容が業務に関連するといえるもので、

2.会社の指揮命令下におかれていると評価できて、

3.実質的に強制参加といえるもの(参加しない場合に不利益取扱いのあるものを含む)

ということであれば、その研修は労働時間と考えられますから、入社前の研修といえども労働の対価として賃金を支払う必要があるということになります。


では賃金を支払う場合、既に内定として成立している雇用契約に定められた初任給を按分計算して支給する必要があるのかという次の疑問が湧いてきますが、初任給についてはあくまでも入社日以降の賃金額について契約したものですから、最低賃金を下回らない限りはいくらに設定しても法違反にはなりません。その際には賃金額をあらかじめ通知書等の書面で明示したうえ承諾を得ておくのが確実だと思います。



次に、入社前研修が労働時間ということであれば労災はどうなるのかという問題がでてきます。

この点は内定者が労働基準法第9条に定められた「労働者」に該当するのかという労働者性の有無によって判断されることになります。

ただし、注意すべきは賃金の件とは異なり、厚労省は入社前研修中の労災の適用に関しては厳密に判断する姿勢をとっていることです。具体的には研修内容が業務と関連性の薄いもの、例えばマナー研修や経済講演のような一般研修の場合には、支払われる手当については恩恵的給付であると判断される可能性があり、労災が認められないということも考えられます。

そのため労災の適用を望むのであれば、最低賃金以上の支給はもちろんですが、アルバイト等のかたちで雇用契約を締結した上で、研修内容に関して本格的な業務遂行を含む関連性の強いものにする必要があると考えられます。


なお、労災の適用の可否に係らず、研修中の事故等については企業に安全配慮義務が求められることになります(通勤途上は別ですが)。この点に関してはインターンシップの場合と同様、研修生の傷病、死亡事故、その他セクハラ・パワハラ等に関して企業側の過失が認められれば賠償責任が生じるリスクがありますのでご注意ください。





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2013-04-17

ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い


自民党が最近メディアで話題になっている「ブラック企業」について、社名公表などの措置を政府に提言する方針を固めたという報道があり、ネット上ではこの件について様々な意見がみられます。

その中でよく目にするのが、「なぜ企業名公表なのか。企業に労働基準法を遵守させるよう労働基準監督署がもっと厳しく取り締まるのが先ではないのか。」というような内容です。


自民党のブラック企業対策案ーさらに労基法の運用厳格化を
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130414-00024393/

ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakajimayoshifumi/20130412-00024370/



では、この件について書きます。

断言してもいいですが、労働基準監督署が労基法について厳しく取り締まったとしてもブラック企業は減りません。なぜなら世の中で問題視されているブラック企業の多くが労働基準法に違反していないからです。(少なくとも重大な違反は)

実務的な観点からいいますと、一般的に労基法違反でよく監督署の指導が行われるのは

賃金不払い
・残業代不払い
・労働時間(36協定、変形労働時間制・みなし労働時間制など)
・労働条件の不明示
解雇予告

そして上記より数は減りますが、他にあり得るのが

・年次有給休暇
・就業規則作成・届出違反

といったところでしょうか。
あと労基法ではありませんが労基署の監督範囲として最低賃金法違反、労安衛法違反もあります。



ところがです。

上記のような労基法違反の案件は、どちらかというと零細企業であって、かつ法律の知識がない、経営に余裕がなくて労基法のことまで手が回らない、あるいは資金的余裕が全くない、というような事業主が圧倒的に多いのが現状です。これらはブラック企業というよりは、単に労働条件の低い企業、労働環境のよくない企業、法律リテラシーの低い企業というべきものと考えられます。

近年メディア等で問題になっているブラック企業とは、意図的に労働者を追い込んでいくものと認識していますが、少なくとも上記のような労働基準法違反行為は極力行わず、法律を熟知し、合法的に巧妙に労務管理を行っているのです。

雇用契約書や就業規則は会社の有利になるよう緻密なものを作りますし、残業代についても固定残業代、みなし労働時間制などを駆使して労働基準法をクリアするかたちで労働者に長時間労働をさせているものと思われます。

つまりブラック企業にとって、残業代をはじめとする労基法の規制はクリアできないハードルではないのです。(少なくとも現行法では)

「しかし有給休暇は消化させていないのでは?」

と思われるかもしれませんが、年次有給休暇は申請されたときに拒否されただけでは労基法違反は成立しません。有休は法律上労働者が請求するだけで取得ができますから、労働者が日付を指定して会社を休みその後その日について給与が支払われなかった場合、その時点ではじめて労働基準法第39条違反が成立します。実際のところ有休について労基法違反のハードルは非常に高く、多くのケースでは違反は成立していないことになります。




さて、では上記のようなブラック企業は労基法に違反していないのであれば、現実的にどのような法的問題が生じ得るのかというとそれは、

・退職強要
・パワハラ
・不当な配置転換、転勤、出向等の命令

このような行為によって労働者を追い込んでいくのだと考えられます。

しかしながら、これらは労働基準法の範囲外の事項であって、当人同士の契約関係、権利義務関係を踏まえた私法上の問題であり、労働基準監督官が手を出せる問題ではないのです。民事不介入ということです。

さらにブラック企業は、労基法をクリアした上で労災認定基準を超えるような長時間に及ぶ残業命令を行使していくものと考えられます。

冒頭で紹介した記事によれば

労働基準法がもっと厳密に運用され、残業代の支払いが当然の社会常識となっていれば、ブラック企業などそもそも成り立つはずもない。

とありますが、残業代問題をクリアした上で強行的・パワハラ的な業務命令・人事命令を発令して労働者を追い込むブラック企業が成り立っていると思われますが、労働基準法をどう厳密に運用して取り締まるのでしょうか。


これでお分かりかと思いますが、労働基準法の遵守状況について労働基準監督署による監督を強化したとしてもそれによって多くのブラック企業が摘発されるという結果は考えにくいのであり、もちろん世の中の一定程度の労務管理のユルい会社の適正化にはつながると思われるので監督強化自体には意義はありますが、しかし根本的なブラック企業問題の解決や改善には到底つながらないことは明らかです。


では何が必要なのかといえば、私見ですが以下のようなことです。

1.ブラック企業が引き起こす不法行為等について司法面での救済をもっと容易に受けられるよう制度を整える。(※現在うまくいっている労働審判制度をさらに改善し、多くの労働者がもっと容易に利用できる制度にしていく等)

2.パワハラ規制について法制化を急ぐ。

3.企業名公表については、新聞などのメディアにて確実に公式発表されるのであれば、ある程度大規模の企業に対してはそれなりの効果は見込める。

4.立法面において、終業時刻から翌日の始業時刻までのインターバルについて最低時間規制を設けることにより、現在のように「割増賃金の支払い」によって間接的に残業を制限するのではなく、直接残業時間を規制することによって労働者の心身の健康を保護する。(※労基法の罰則強化、および労基署の監督強化とあわせて)



企業の違法行為として残業代不払いがクローズアップされがちですが、実はブラック企業問題については残業代問題は中核をなすわけではなく、最も重要なのは企業が強大な人事権・業務命令権を背景に労働者の身体と精神の健康を破壊していく行為であり、残業代の支払いではなく残業時間そのものを規制する必要があり、そして労働者が自ら司法によって解決する仕組みや環境が必要なのだと思います。





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2013-04-12

<解雇規制緩和論>人員整理と戦力外通告が混同されているのでは


昨日の記事に引き続きですが、最近の解雇規制緩和の報道について、様々なものがごちゃ混ぜに論じられている為に感じる違和感を書きたいと思います。

解雇規制の緩和とひと口に言っても、企業の業績不振の際に雇用調整をはかるために行う整理解雇と、労働者の能力不足や成績の不振等を理由とする解雇(いわば戦力外通告的解雇)では全く性格が異なりますから、解雇規制緩和に際してもそれぞれ別個に検討しなければならない問題です。

しかしながら、政府の有識者会議の主に経営者の方の意見を聞いていると、まるでこの2つを一緒くたに論じているようで、つまり業績不振のため余剰人員の整理をはかる場面において、勤務態度や成績の悪い労働者を優先的に辞めさせられる仕組みが必要だという主張がなされているようです。


整理解雇はあくまでも業績不振という会社の経営上の都合によって行わざるを得ない解雇であり、労働者には全く落ち度はありません。ですから解雇人員の選定に際して特定の労働者個人が取り上げられ、その人の解雇の可否が検討されることなどあり得ないのです。

特定の個人の能力・成績や勤務態度等を検討した時点で、それは会社都合の整理解雇ではなく労働者都合の解雇となるのであり、解雇の要件として求めらる客観的合理性についても経営上の必要性という要素ではなく、その労働者の能力不足が解雇に値するほど合理的な理由となり得るのかという観点から考慮されなければならない訳です。もちろん解雇回避努力に関しても、この2つの解雇では別のものが求められます。


「業績不振でおまえに任せる仕事がなくなった」から解雇なのか、「おまえは使えない。払ってる給料分の働きがない」から解雇なのかは全く違う問題であって、解雇の有効性を測るものさしも違うのです。それを一緒くたにすれば整理解雇の名目で会社が気に入らない労働者を好き勝手にクビにしたというような不当解雇トラブルが頻発するでしょう。理屈抜きでとにかく解雇を容易にしたいというのが本音なのかもしれませんが、政府の有識者会議という公的な場で法政策を論じるのであれば、もう少し考えて発言をしてもらいたいと思うところです。




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2013-04-11

「解雇要件の緩和」と「金銭解決ルール」は根本的に違うはず


最近の政府が行う解雇規制緩和議論の報道をみていると、何だか色々なものが混同されていてきちんとした議論ができているのか疑問です。(実態が正しく報道されていないのかもしれませんが)

解雇をしやすくして雇用の流動性を」みたいなことが盛んに言われていますが、


1.解雇要件の緩和、あるいは解雇の自由化

2.金銭解決ルールの導入


これらは意味が異なりますが、色々な報道をみていると一体どちらのことを言っているのかよくわかりません。というより有識者会議の方々の多くはおそらく区別なく言っているのかもしれません。



解雇を有効に行う為の要件を思いっきり緩和させて、あるいは企業の自由に解雇できるようにするのであれば、そもそも金銭解雇ルールは必要ありません。解雇は有効に適法に行えるわけであり権利濫用とは認められないのですから、金銭によって解決させる問題など存在しないのです。

現行の法律では、解雇が無効と判決が下った場合、職場復帰の方法しか認められておらず、それでは会社側も労働者側も不都合があるという場合に、法律で定められた金銭を会社が給付することによって解雇は無効だけれども労働契約は終了させるというのが金銭解決ルールであって、金さえ払えば無効な解雇が有効になるというような考えは誤りだと思います。

現行法でいうところの「客観的合理的な理由」のない解雇は認められないので「違法・無効な解雇」「不当解雇」になるわけですが、契約関係については和解によって解消されることもあれば、原職復帰して継続される場合もあり得るのです。いずれにしても、解雇の有効・無効、客観的な合理性があるかどうかということと、労働契約が継続か終了かということは別の問題であって、「金銭解雇」「解雇自由化」と連呼されると、何だかまるで「理屈はともかく金を払えば解雇OK」のような印象を強くうけるのであり危惧するところであります。




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2013-04-10

早くも表面化。労働契約法「改悪」の余波


4月1日から改正労契法が施行されています。これでいよいよ有期契約労働者は、更新によって通算期間が5年を超えた時点で無期転換申込権を獲得できるようになったわけです。当然ですが、この法改正をうけて多くの企業は契約社員の更新年数に上限を設けるであろうことが予想されます。


で、以下のニュースです。

労基法違反:首都圏大学非常勤講師組合、早大を刑事告発へ(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20130407k0000e040126000c.html

一見すると「労働基準法」違反ということですが、発端は今回の労契法改正です。

記事によれば、早稲田大学は今回の労働契約法改正をうけ、これまで更新上限のなかった非常勤講師などの更新年数に5年の上限を設ける内容で就業規則を改定したようですが、手続きの過程で労働基準法によって義務付けられている労働者過半数代表からの意見聴取を適法に実施しなかったようで、労働組合は近く労働基準法違反容疑で刑事告発をするといっています。

こういう事件があると、労働基準法は刑罰法規だったのだということが改めて認識されるのかもしれませんが。

違反容疑を具体的にいうと、過半数代表者を投票で選ぶ際に、今回の改定で不利益を被ると考えられる非常勤講師や客員教授に対して手続き書類を見せず、投票結果も公表せず、つまりは手続きの過程を一切公開せずにこっそりと進めて規則改定・届出を終わらせたということです。

実際のところ過半数代表者の選出や意見聴取をきちんと行っていない会社なんぞ世の中にいくらでもありますし、法第90条違反であれば30万円以下の罰金で済むといえば済むわけです。

しかし、記事によれば現在4,300人いるという非常勤職員のうちの少なくない数の職員について、おそらく今後も有期契約は更新されるであろうという合理的な期待が発生していたと考えられるわけであり、一方的に5年の上限規制を設ける改定はかなり重要な労働条件の不利益変更だといえます。

確かに改定に際しては相当な反発が予想されるのですが、だからといってコソコソばれないように進めたうえ結果的に刑事告発されてしまったのでは、後々に不利益変更の有効性を争うことになればコソコソ行為自体が不利な材料になるのだと思います。

更新最長5年制限を検討していた他の大学も労働組合の反発によって撤回・凍結しているということですが、多くの職員にとって重要な不利益変更である以上、ある程度時間と労力をかけた説明・協議のプロセスは避けて通れません。無理・強硬に進めれば不利益変更法理(労働契約法第10条)によって無効とされかねません。



就業規則による更新上限の定めは、新たに雇い入れる有期契約労働者に対しては、契約自由の原則により全く問題はありません。また、定めをする時点で既に雇用している場合であっても、まだ更新を繰り返していないような労働者については合理的な更新期待が発生していないと考えられますから不利益変更にはあたらないといえます。

ただし更新を繰り返している労働者については合理的な期待が発生している可能性が考えられるため、少なくとも全員と協議を行ったうえで一人ひとりの合意を得るのが望ましく、雇用契約書においても上限の条項を入れることによりリスクをなくしていきます。合意を得られないのであればそれ以上更新を重ねるのはさらにリスクが高まりますので現在の契約期間までで満了とし、雇止めの有効性の問題に移っていくものと考えられます。


今後、有期労働者を雇っている多くの企業でこのようなトラブルが発生する恐れがあります。今回の法改正がなければ何事もなく更新され満足していた方も相当数いたはずですが、法改正を推し進めた方々はこの状況を見て一体何を思うのでしょうか。




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2013-03-25

「残業代をきっちり払わせれば勤労者の所得は2割上がる」のウソ


「労基局がまともに機能するだけで、日本の個人所得が2割上がることが判明」

このような見出しで最近ネット上で話題になっているのを見かけました。その話題の元になっていたのが、以下の記事です。


「名指し賃上げ要求」よりも、残業代をきっちり払わせよ
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizuushikentarou/20130313-00023863/

日本の企業(特に中小企業)は労働基準法を遵守していない状況なので、安倍政権は各企業に賃上げを呼びかけるよりも、労働基準法違反を厳しく取り締まって残業代をきっちり支払われば日本の勤労者の所得は1〜2割は軽く上がる。その方がよっぽどいい、と書かれています。



法律が遵守されるべきだという点において全く異論はありません。実際に日本の労働法に係る監督行政はユルユルです。法令通りきちんと運用している会社の方がかえって負担ばかり大きくなって馬鹿を見るケースも少なくありません。その辺の不公正な状況については何とかしてもらいたいものだと考えます。



ただし、上記の記事はやはり誤解を招く内容だと思います。

残業代を払っていない企業に法令通り残業代を支払わせれば、本当に皆の収入は上がるのでしょうか。

はっきり言いますが、そんなことはありません。

企業は法律に合わせて人件費総額を変えることは基本的にしません。売上が上がらないのに人件費をあげれば労働分配率の上昇を招き経営リスクが高くなります。

今年法改正となる65歳までの継続雇用の義務化に際しても、企業は若手社員の昇給抑制、新規採用の抑制を行うことによって人件費増を回避しています。法律によって人件費の増加を強制されれば、必ず他の部分を犠牲にすることによって帳尻を合わせます。



では仮に労働基準監督署が残業代未払いの全ての企業に立ち入り調査をして強制的に残業代を全て支払わせたとします。すると企業はどういう行動にでるでしょうか。

まず最初に行うのは賞与のカットです。

通常、どこの企業でも就業規則において賞与の支給は不確定文言(つまり「事情によっては支給しない」ということ)が記載されており、賞与の不支給は違法ではありません。

労基法違反によって残業代の支払いを強制されるのであれば、違法性のない賞与カットは間違いなく行うでしょう。



賞与のカットでも穴埋めできない分についてはどうするか。

次は月例給与のカットが考えられます。

「今まで残業代込みという考えで給与総額を設定していた。残業代を別途とられるならば会社の経営は成り立たないので全員の給与のベース自体を引き下げる」ということです。

給与を一方的に引き下げるのは違法ではないのか。」と考える方もいると思います。

まず、労働条件の変更が周知され労働者が変更を認識した状態で給与が支払われているのであれば、労基法の賃金全額払いに違反するとは考えられません。つまり労働基準法違反ではありませんから、労働基準監督署は対応してくれません。

後は、当人たちの民事の問題です。労働条件不利益変更が労働契約法に照らし有効なのか無効なのかという争いになっていきます。

しっかりとした労働組合が存在する会社では簡単に給与を引き下げることは難しいでしょうが、前述の記事でも書かれていた通り、労働基準法を順守していない企業の多くは中小企業であり、労働組合が存在する会社はむしろ稀です。労働組合のない会社において会社側と不利益変更の有効性を争っていくのであれば、労働者側もそれなりの気概が必要になります。団体交渉だけではなく法廷闘争も頭に入れなくてはなりません。残業代の支払いを実行されたことによって会社業績に本当に悪化している状況であれば、裁判によって不利益変更が有効とされる可能性も十分に考えられます。

不利益変更の有効・無効いずれの結果になったとしても、給与引き下げを阻止するのは簡単ではなく、現実には相当なエネルギーが必要だということです。



もちろん残業代の不払いを正当化するつもりは毛頭ないのですが、ただ、労基署の機能を強化して残業代を全て支払わせればみんなの収入が2割増えてウハウハなどというような単純な問題ではないということがお分かり頂けると思います。

2013-03-16

「準正社員」「賃金を抑え解雇しやすく」中途半端な政策でお茶を濁すのか


安倍内閣に代わってからというもの、「解雇規制緩和」への流れが加速しているように感じます。それ自体に異論はないのですが、気になるのは何とも中途半端なというか、意味不明というか、またしてもグダグダな政策が進行中のこの状況です。

まずは具体的なニュースから。

「準正社員」採用しやすく 政府がルール(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS13038_T10C13A3MM8000/

政府は職種や勤務地を限定した「準正社員」の雇用ルールをつくる。(中略)職種転換や転勤を伴わない分、企業は賃金を抑え、事業所の閉鎖時に解雇しやすい面がある。


この記事がいうところの、「準正社員」なるものを設ける企業側のメリットは「賃金を抑えられる」ということと、「事業所を撤退・閉鎖したときに解雇しやすい」ということのようです。この「準正社員」の設置によって企業は採用を増やすだろうということです。

はっきり言いますが、まず正社員であろうが契約社員であろうがパートであろうが、賃金を抑えるか抑えないかは完全に企業の自由です。どんな賃金制度を運用するのか、どんな契約で雇入れるのか、最低賃金法に違反しない限り企業の裁量で好きにやればいいのであって、決して「準正社員」というカテゴリーを法令でつくらなければ賃金を抑えられないなどということでは断じてありません。

次に、事業所撤退・閉鎖時の解雇についてですが、現行法であっても、入社の際に「職種限定」「勤務地限定」という内容で雇用契約を結んだ場合、実際にそのような制度が企業内で適切に運用されている限り、撤退・閉鎖時に雇用を継続できないという理由で解雇を行っても不当な解雇とは判断されません。企業は契約によって限定された職種・勤務地の範囲内において解雇回避努力を尽くせばよいのです。

つまり、「賃金を抑え」「事業所閉鎖時に解雇しやすくする」ために、わざわざ「準正社員」という位置付けをつくる必要は全くないということです。

(※職種・勤務地限定契約の場合の解雇は、現状ではその都度裁判所の判断によるため、統一した解雇ルールを法律で明確化しておくということであれば話は分かるのですが。)



さらに同記事

企業が正社員とパートの中間的な位置づけで地域や職種を限定した準正社員を雇いやすくなるよう政府が雇用ルールをつくる。

正社員賃金水準は正社員の8〜9割だが、期間の定めのない無期雇用で、社会保険にも加入できる。パートや派遣などの非正規社員より生活が安定する。


繰り返しますが、労働者賃金水準をどうするかは企業の自由ですし、正社員の定義なんて企業によってバラバラです。賃金を「正社員の○割」とすることに意味なんかありません。

そもそも労働法上、「正社員」という概念自体ありません。労働基準法では「労働者」とのみ定めがあり、それが無期と有期に分かれるだけですし、パート労働法において労働時間の短い労働者を「短時間労働者」と定義しているくらいの分類しかありません。

要するに、「正社員とパートの中間的な位置づけ」と言われても、そんな形式は法律上ありえないのです。

「期間の定めのない職種限定・勤務地限定の労働者」を雇いたいのなら現行の法律でできますし、賃金も企業の好きに決めることができるのです。わざわざ「準正社員」をつくったからといって企業が今までより雇用しやすくなるということは考えられません。

さらにいうと、社会保険はパートや有期労働者であっても一定の要件を満たしたら必ず加入させなければならない決まりです。企業が法令を無視して加入させていないのであれば、それは法律ではなく監督行政のあり方の問題です。「準正社員」だから社会保険に加入できるという理屈は全くをもって意味不明です。



今回の報道にあるような「準正社員」なる極めて意味の薄い中途半端な雇用形態を創出したところで、かえって企業の労務管理が複雑化するだけで企業にもメリットはありませんし、当然労働市場の流動化にもつながらず、労働者側にもメリットはないものと思われます。

現状の正社員解雇規制には一切手をつけず、同一労働同一賃金の問題も放置したままで、実質的には非正規雇用ともとれるような雇用形態をもう1つ増やすしたところで、そんな小手先の政策にたいして意味はありません。






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2013-03-11

解雇規制の緩和は、企業の人事権・業務命令権の低下と引き替えである


政府の有識者会議で、「正社員解雇しやすくすべきだ。」という意見がでて、ネットを中心に話題になっているようです。


正社員解雇しやすく」 安倍政権の有識者会議で議論
http://www.asahi.com/business/update/0307/TKY201303060639.html


正社員解雇しやすくする目的はもちろん労働市場の流動化です。こういう議論になると一般的に企業はウェルカムですし、逆に正社員として働く労働者からは批判されることの方が多いかと思われます。

現状の雇用ルールのまま、ただ解雇規制だけが緩和されるという話であれば、確かにそれは企業にとってのみおいしい話であって、労働者からすれば何もいいことはない、リストラが助長されるだけだしブラック企業がますます労働者を使い捨てにするのではないか、と考えるのは当然です。



しかし、解雇規制を議論するうえで忘れてはいけないのは、日本の企業に広く認められている包括的な人事権、業務命令権は、長期雇用保障が前提になっているということです。

ちなみに人事権、業務命令権というのは、具体的には例えば異動・配転命令、あるいは上限なしの残業命令などです。基本的に労働者は、企業から出張、配置換え、転勤、職種変更などを命じられたら従わなければなりません。残業命令も当然です。従えないのなら、その会社から去らなければならない、というレベルの強力な企業の権限です。ときには長期雇用の見返りとして労働条件の引き下げ(不利益変更)さえも認められることになります。

つまり、

労働者がいったん入社したら煮るなり焼くなり企業の好きにしていい、その代わり定年まで責任をもって雇いなさい。」

というのが日本の雇用システムなのであって、裏を返せば、解雇規制を緩和するのなら、今までのように煮るなり焼くなり企業の自由にさせるのはどうなのか、今まで通り労働者に対して広範な権限を行使したあげく解雇規制緩和による解雇の正当性のみを主張するのは許されるのか、ということが問題になると思います。



上記の雇用システムはもともと法律に規定されていたわけではなく、日本の裁判所の判断によって形成されてきたシステムです。

というのも、労働基準法等の法令によれば、「正社員解雇を容易には認めない」というような規定はなく、1ヵ月前の予告さえあればいつでも契約を自由に解除できるようになっていたのですが、いざ裁判になると、解雇権濫用法理(あるいは整理解雇法理)が適用され、法律で自由とされていたはずの解雇が裁判所の判断によって厳格に規制されてしまうという流れが、世界でも稀なくらいの強力な解雇規制として一般化していったのです。(※現在は労働契約法によって解雇権濫用法理は法定化されています。)

一方、日本の企業の人事権、業務命令権といった労働契約に付随する権限もまた裁判所によって広く認められてきたものであります。

解雇規制の緩和が政府主導で法令によって実現されることになれば、引き換えに企業が現在保有する強大な人事権、業務命令権に対して司法面での(あるいは立法面での)影響は及ぶ、という視点はもっていたほうがよいと思います。




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2013-03-07

40歳定年制論者はそもそも有期雇用と定年をごっちゃにしている


昨年の夏、国家戦略会議の繁栄のフロンティア部会が「40歳定年制」を提言してからというもの、テレビや新聞、雑誌などで40歳定年の話題をよく目にします。東京大学大学院教授の柳川範之氏が推進しているようです。

※参考までに柳川教授の主張
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1800V_Y2A910C1000000/


この40歳定年という制度は、労働法の専門家からみればツッコミどころ満載であるのですが、その中の1つとして感じるのは、

「有期雇用契約と定年をごっちゃにしているのでは?」

ということです。



※上記の記事から以下引用

40歳定年制のポイントは、正規社員の基本契約をいったん40歳にしてみたらどうですか、ということです。そこで切る必要はなく、もっと長い30年契約、40年契約でもいいですし、もう少し短い契約でもいい。いろいろな期間なり働き方の契約を多様に認めることにしましょうという考え方です。


「定年を40歳にすべきだ」という提言なのに、30年〜40年契約でもいいと言っています。

定年というのは、ある年齢に達したことのみを理由に強制的に退職させる制度です。定年を40歳に設定したのならば、問答無用で40歳で退職なのです。「そこで切る必要はなく」とありますが、そこで一律に切るのが定年なのです。(その後再雇用するのかどうかは別の問題です。)

「いろいろな期間なり働き方の契約を多様に認める」とありますが、繰り返しますが、定年とはある年齢で一律に退職させる制度です。「いろいろな期間」といわれても無理な話です。

「30年契約、40年契約でもいい」とありますが、これは完全に「定年」の話ではなく「有期雇用」の話になっています。

有期雇用契約は現行法では、最長3年までしか認められていませんが(※例外5年)、この上限規制をなくせという話なのでしょうか。

よく勘違いされますが、有期雇用契約というのは無期雇用と違って、契約期間中に契約を解除することはやむを得ない事由がある場合でなければ認められません。無期雇用労働者解雇する場合よりも契約解除が難しいものとされています。

30年、40年の有期契約なんて結ぼうものなら、雇用の流動化どころか、現在の終身雇用以上の硬直化した雇用が生まれてしまうのではないでしょうか。それ以前にそんな危険な契約を企業が結ぶとは思えませんが。

結局「すべての労働者が様々な期間の有期契約によって働く」、というようなイメージなのでしょうが、それなら定年自体を定める意味があるのか疑問です。定年を60歳から40歳に下げることと、皆が有期雇用で働くことの関連性がさっぱり分かりません。おそらく定年と有期雇用の区別ができていないからこのような文章になるのではないかと思われます。




さらに、別の方ですが、あるブログ記事において、上記と関連して以下のような文章を見かけました。

「もし、自分の勤めている会社が、「40歳定年」だとしたら?」
http://www.shinoby.net/2013/03/40-4.html#more

横浜市の秋山木工という家具メーカーの定年は、入社後8年と決まっているそうです。その後は強制的に独立させられるため、社員は8年間で家具職人として独り立ちするため必死に仕事をして技術を学ぶと言います。22歳で入社すれば、定年は何と30歳です。


記事自体は共感できる内容なのですが、定年についてやはり一般に正しく認識されていないことを実感します。

入社後8年」で退職が決まっているという雇用
「22歳で入社すれば、定年は何と30歳」になるという雇用

それは定年ではありません。年齢の違う労働者が同時に入社すれば、8年後の退職時の年齢も当然違うからです。ある一定の年齢で一律に退職させる定年とは全く異なる制度です。

上記はまぎれもなく有期雇用契約です。しかしながら、現在の法制下では8年の有期契約は違法です。ですから、上記の家具メーカーが現実にはどのような制度を運用しているのかまでは定かではありませんし、今回の話とは直接関係がないので言及はしませんが、少なくとも上記ブログ記事においても定年と有期雇用が区別されていない状態から40歳定年制についての話がスタートしていることは間違いありません。



私は基本的に、「人材が最大限活用され、若者から高齢者まで広く活躍できる社会」を目指すのに、40歳定年制は必要ないと考えていますし、まして多様な期間の有期雇用を使うなんて無意味だという考えですが、いずれにしてもまず40歳定年を議論するのであれば、前提として「定年」「有期雇用」というものを正しく認識するところから始める必要があると思います。





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2013-02-22

高年齢者雇用安定法改正の経過措置の具体的運用


希望者全員を65歳まで雇用義務化という法改正

「改正高年齢者雇用安定法」の施行がいよいよ4月に迫ってきました。

計画的に行動している企業は着々と就業規則の改定作業を進めていると思います。

大手などは法改正で増加する人件費に対応する為、全体の昇給カープを抑える賃金制度の再構築のために何度もシミュレーションを繰り返し、あるいは今年からの新卒採用の要員計画を見直していることでしょう。

一方で、まだまだ手つかずという会社も少なからずあるはずです。



今回の法改正には経過措置がありますから、何もやっていないという会社は今すぐに動くべきです。

なぜかと言えば、これまで労使協定によって選定基準を定め再雇用する労働者を絞ってきた会社については経過措置で基準を残すことができるわけですが、その条件は法施行前の3月31日までに就業規則に規定した場合に限られるからです。一刻も早く就業規則の「定年」条項に経過措置を織り込んだ文言を加える改定作業を始めることです。



さて、今回の法改正に係る就業規則、労使協定の運用に関して、2〜3注意点を書こうと思います。


経過措置によって労使協定の基準を段階的に残していくのですが、この段階というのは今年から2025年にかけて厚生年金の支給開始年齢が3年ごとに1歳ずつ引き上げられていくのに合わせていくということです。

平成25年4月1日〜平成28年3月31日 61歳
平成28年4月1日〜平成31年3月31日 62歳
平成31年4月1日〜平成34年3月31日 63歳
平成34年4月1日〜平成37年3月31日 64歳

一見すると分かりづらいですが、それぞれの期間内においてその年齢以上の労働者を労使協定の基準の対象とすることができます。

それぞれの期間においてそれぞれの年齢に達する方の生年月日をみると、

昭和27年4月2日〜昭和30年4月1日
昭和29年4月2日〜昭和32年4月1日
昭和31年4月2日〜昭和34年4月1日
昭和33年4月2日〜昭和36年4月1日

ということになります。



また、労使協定の基準は改正法施行の4月以降どのような基準を用いていくかですが、今まで使っていた基準をそのまま使っていっても全く差し支えはありません。その場合には協定を結び直す必要も特にありません(有効期間が切れていなければ)。

一方、これまでのように定年時点での基準を適用するのではなく、

「再雇用以後の勤務評価が平均●以上」

というような経過措置ならではの基準の適用も可能です。労使協定ですから、労使が合意していれば基本的にはどのような基準でも(法の趣旨に反しなければ)大丈夫だと思います。この場合には、基準を実際に適用するのは経過措置の年齢に達した時点になります。


ただし、厚労省の指針で定められている継続雇用の例外(※就業規則に定める解雇、退職事由と同一の事由を継続雇用しないことができる事由として別に定めることができるとされているもの)を就業規則に規定した場合、労働者がその事由に該当するかどうかを判断するのはあくまでも定年に達した時点です。経過措置のそれぞれの段階の年齢に達した時点ではありませんので一応ご注意ください。





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