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2017-01-12

プライベートの喫煙を会社が就業規則で禁止できるのか


世間喫煙者への圧力の高まりに伴って、企業における喫煙のルールも厳しくなる一方の昨今ですが、最近その中でも一歩踏み込んだ企業の施策が話題になりました。

SCSK、懇親会も喫煙NG 就業規則に追加
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10246770S6A201C1TI5000/
日本経済新聞

SCSKは社員同士の懇親会などの場で喫煙を禁止する項目を就業規則に追加した。



プライベートもタバコNG 大手IT企業の仰天「就業規則
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/195480
日刊ゲンダイ

就業時間外まで禁煙を強いるのは前代未聞だ。

たとえ社員2、3人で仕事帰りに居酒屋で一杯やる時でも喫煙を禁じるようにしました。社員同士でゴルフに行った時や同期会も禁煙です。




これまで企業の禁煙に関しては、「喫煙者を採用しない」方針星野リゾート、外出先・出張先・移動中を含め「勤務時間内のあらゆる場所での禁煙」を実施したリコーなど、様々な施策がニュースになってきました。

ただし、今回の禁煙施策はそれ以上といえます。最大のポイントは勤務時間外のプライベートともいえる時間まで喫煙を禁止した点にあります。ネット上では、そのような規則は無効とか、行き過ぎだとか、「喫煙は個人の趣味・嗜好の問題」であるとか、多くの批判的な意見がみられますが、以下ポイントを絞って書いてみたいと思います。



単なる服務規律なのか、懲戒事由となる得るのか

大前提として、

就業規則で禁止したと一口に言っても、単に行動規範を示しただけなのか、それとも行為が発覚すれば懲戒処分の対象となるのかによって、社員への影響は全く異なってきます。一般的に禁煙に関する規定は、服務規律として定めただけで罰則なしというケースも少なくありません。(ちなみに今回の件がどちらなのか、前述の記事を読んだだけではよく分かりませんでした。)



勤務時間外の行為を会社が規制すること自体が不可能なわけではない

ご存知の方も多いと思いますが、社員の勤務時間外の行為を規制し懲戒処分の対象とするケースはいくらでもあります。

例えば

勤務時間外の行為だから会社が口を出すのはおかしいというわけではありません。勤務時間内外を問わず、会社の秩序維持等の為に必要であれば、会社は社員の行動に対し一定のルールを課すことができるわけです。



懇親会や飲み会の禁煙ルールには合理的な理由がある

今回の件で会社が禁煙を導入した大きな理由は、懇親会や社員同士の飲み会などの席でタバコを吸わない社員が喫煙者に気を使って何も言えず、受動喫煙を強いられるような状況をなくす為には、社員たちの自主規制だけでは難しいと判断したからだと考えられます。

そもそも上司・部下や先輩・後輩などが混在する懇親会や飲み会は、職場から切り離された完全なプライベート空間とは言い切れません。そのような場で立場的に優位な社員が、非喫煙者である社員の前でタバコを吸う行為は、客観的にみたら嫌がらせ以外の何者でもありません。(例え当人にその自覚がなかったとしても。)

例えば、パワハラの定義の重要な要素には「優位性」というものがありますが、これは被害者が加害者から実質的に「逃げられない」状況であることを指します。

喫煙行為がパワハラに該当するという話ではありませんが、パワハラと同じような視点にたてば、懇親会や飲み会がプライベートの時間といいながらも、人間関係の複雑な会社組織において、タバコの煙の充満した「プライベート空間」から文字通り「逃げられない」社員が一定数存在することを前提に考えるのが当然であり、そのような不本意な受動喫煙を会社が放置することは、突き詰めれば企業の安全配慮義務に反するのではないか、という考え方もできます。(完全に持論ですが。)

今回の施策が行き過ぎた行為として批判する論調もありますが、私は非常によい施策だと考えます。このような踏み込んだ施策を実行する感度の優れた会社が、今後優秀な人材を獲得していくのではないかと思います。



プライベートの禁煙を定めた就業規則は法的に問題ないのか

今回の該当企業はあらかじめ顧問弁護士等に相談をした上で法的に問題ないと判断し、就業規則に規定を追加したのだと予想されます。

就業規則で懇親会等の喫煙を禁止することはもちろん違法ではないと考えられます。仮にもし問題が起こるとすれば、懲戒処分を定めた上で実際にそれを適用する段階です。ルール違反に重い処分を科し、それに社員が不服を感じれば、最終的には裁判所の判断ということになるでしょう。とはいえ、世の中の企業の就業規則には、現実に裁判をしてみなければ有効性の疑わしい懲戒事由はいくらでもあります。今回の件が例外というわけではありません。前例のない新しい規定を追加する時点では誰もその規定の有効性を断定できません。

労働契約法では「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒を行う権利を濫用したものとして判断されます。

  • 露骨に非喫煙者の目の前で吸ったり煙を吐き掛けたりして行為が悪質
  • 注意されても繰り返し違反が続く
  • 懇親会の出席者が多く実質的に強制参加に近い(勤務の延長的な性格が強い)
  • 非喫煙者の不満やクレーム、被害の申告等が確認される

様々な状況が考えられる為、処分の適用も一刀両断ではなく柔軟に考えるべきだと思います。

個人的には、仲のよい喫煙者の同僚2人が会社帰りに居酒屋行ってタバコをぷかぷか吸うのは放っておいて構わないと思いますが、そこに1人でも非喫煙者、特に上司や管理職以外の立場の弱い社員が加わるのであれば、まず細かい状況を確認した上で処分の可能性を検討してもよいのではないかと考えます。もちろん懲戒解雇が認められるような行為ではありませんが。


以上から、今回の懇親会等での喫煙を禁じる規則の導入、やってみる価値はおおいにあると思います。




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2016-02-25

<シャープ買収>40歳以上が拒否される雇用システムを支持してきたのは誰か


シャープが台湾企業ホンハイの傘下に入ることが決まり、ホンハイは買収の条件として「40歳以下の従業員の雇用の維持を約束」していると言われています。

つまり、40歳を超える従業員の雇用は一切保証されないことになりますが、これはホンハイが血も涙もないからではなく、極めて合理的な決断であり、もっと言えば、シャープの40代・50代の従業員を含め、おそらく日本の多くのサラリーマンが望んだ結果であるものと考えられます。

日本の多くの企業ではいまだ、給与が毎年少しずつ昇給する年功序列型の賃金制度が使われており、成果主義を採用しているという企業であっても、業績等によってある程度の差はつくものの、結局は属人的な給与体系であって、年齢や勤続年数が給与に大きく関係するのが実情です。

そして、こうした年功型の人事制度がずっと運用され続けてきたのは、会社側だけでなく従業員側もまた強く望んできた結果だといえます。近年、安定した企業へ就職したいというサラリーマンの安定志向は若者まで浸透していますが、安定した企業とはつまり、仕事によって給与が決まったり成果によって年収が大きく上下しない会社、つまり年功型賃金の企業のことです。

多くのサラリーマンの望む安定した会社、つまり給与が年齢・勤続に応じて少しずつ上がっていくような会社は、20代・30代の若い頃はパフォーマンスに比べて給与が安く、40代・50代になってから昇給カーブに乗ってパフォーマンスを超える割高な給与がもらえるものです。

言い換えれば、若いうちは将来の出世と引き換えに一生懸命働いて会社に一杯貯金をつくり、年配になったら動きは落ちてきちゃったけどその代わり会社にたくさん貯金があるから高い給料をもらって定年まで安泰という感じです。

ところが、この安定には大きな大前提があって、それは企業が変わらずに「存続」しているという点です。

今回のシャープのように、若いうちに割安な給料で残業こなして異動にも応じて会社の為に精一杯尽くしてきたのに、さあこれから年功制のリターン部分を享受するぞ、というまさにその段階で、今回のような買収があれば、若い頃の貯金が全部貸し倒れで消滅してしまうこともあり得るという訳です。みんなが入社したがる安定企業が民間企業である限り、このリスクを内包しているのは当然です。

「40歳以下の雇用が維持され、40歳を超える雇用が保証されない」ことは、紛れもなく安定志向を望む多くのサラリーマンたちが自ら望んだ結果であることは間違いありません。

いずれにしても経営再建の為にリストラが必要不可欠だという状況の中で、いままで年功制の中で割高な給与支給されてきた40歳超の従業員を「要らない」と考えたホンハイの判断は合理的としか言いようがありません。年齢だけを理由に高い給与支給される従業員を雇用し続ける方が余ほど不合理といえます。

シャープがもし仕事と業績によって給与が決まる完全実力主義の会社であったなら、「40歳以下は〜」といったような年齢で一刀両断されることはなかったかもしれません。今回のような取扱いは年齢による差別といえます。しかし、多くのサラリーマンは、この年齢による差別を望んでいる現状があります。競争よりも安定を望んでいるからです。そして、いま見えている安定とは、年齢に応じて給与が上がっていくという年齢による差別ともいえる、いつ消滅するか一切保証のない、まやかしの安定だと思います。

2013-12-05

オフィスの全面禁煙化は不利益変更にあたるか


以前の記事で「喫煙者を採用しない企業」について触れましたが、タバコ関連の話題をもう1つ書きます。


平成15年の健康増進法の施行に伴い、企業にも受動喫煙防止の努力義務が課せられ、厚生労働省が発表する「職場における喫煙対策のためのガイドライン」によれば、「全面禁煙か空間分煙が望ましい」とされています。

実際、禁煙や分煙の措置を講じていない会社において、従業員がタバコの煙で健康被害を受けたとして企業の安全配慮義務違反を根拠に訴訟を起こすリスクは無視できない状況にあります。

現在多くの企業では喫煙室等の設置による分煙化が進んでいる状況ではありますが、労働者の健康面を考えれば全面禁煙が望ましいことはいうまでもありません。

一方、勤務時間中に喫煙室等に行って喫煙する行為を認めてはいないものの、具体的な注意や処分等は行わずに実質的には大目にみてきたような会社においては、喫煙をしない従業員との公平を図るという意味においても、職場内の全面禁煙化の検討は重要になってくると思われます。



さて、この場合において、オフィスの全面禁煙化に踏み切ることは、これまで喫煙をしてきた労働者にとって労働条件の不利益変更に該当するのではないかという問題が考えられます。


まず喫煙という行為は完全に私的な行為であり、業務の遂行には全く関係のない行為でありますから、この喫煙行為自体が労働条件にはなりません。

通常、労働時間の間に会社の許可もなく喫煙室へ行って業務と直接関係のない喫煙を行うということは、勝手な職場離脱であり職務専念義務に違反し懲戒の対象となり得ますし、労務の提供をしていない訳ですから債務不履行により賃金カットの対象となります。

ただし、就業規則において「勤務時間中は喫煙をしてはならない」と規定され、そして発覚した場合にはその都度注意指導や賃金カットが行われていた場合には何も問題はないのですが、それらが行われず実質的に多くの従業員が勤務時間中にタバコを吸っていたという場合には、それらの時間がどのような取扱いであったのかを考える必要があります。具体的には、例えばそれらが労働者にとって休憩時間という認識であったのか、さらには賃金の支払い対象となる有給の休憩であったのか、そしてそれらが労働慣行として成立していたのか、というような問題がでてきます。

勤務時間中に喫煙に行く時間の取扱いについて、就業規則に定めがあったり、労使慣行によって根拠があるのであれば、それらの時間は労働条件といえますから、それらの取扱いを無視して一方的に全面禁煙とすることは不利益変更に該当する可能性が考えられます。その場合には、喫煙者の個別同意をとるか、あるいは労働契約法第10条の要件を満たすかたちで合理的な労働条件の変更が行われる必要があります。

そうした規定や慣行などの根拠もなく喫煙が行われていたのであれば、喫煙の行為や時間は労働条件とはいえず、不利益変更には該当しません。また、受動喫煙による健康被害が明確にされている昨今、健康増進法の趣旨から考えてもオフィスの全面禁煙化は不当な措置とはいえないでしょう。




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2013-09-20

変動の多いパートタイマーの有休(比例付与)の基準


年次有給休暇は、雇い入れから6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対して10日間が付与されますが、所定労働日数や労働時間の少ない労働者(つまりパートタイマー)であっても、その労働日数に応じた日数の年休が付与されることになります。これを比例付与といいます。

具体的には、1週間の所定労働時間が30時間未満であって、かつ、1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められているパート労働者の場合は、1年間の所定労働日数が216日以下)の労働者が比例付与の対象になります。

そして、比例付与の際の付与日数は年休が発生する「基準日」時点における今後1年間に予定される所定労働日数および所定労働時間に基づいて決定されます。その後、年度の途中で仮に所定労働日数が変更になったとしても、付与された日数が変わることはありません。ですから例えば、最初の半年間の所定労働日数が週4日であってとしても、基準日において今後1年間の所定労働日数が週5日という予定であれば、その労働者は比例付与ではなく通常の労働者と同じように10日の有休が付与されることになり、その後の年度中に契約が変わって週4日に戻ったとしても、有休は基準日において発生した日数のままです。

しかしながら、現実にはパートの雇用契約はきちんと締結されていないケースも多いので所定労働時間や日数が曖昧ではっきりせず、あるいは季節によって所定時間・日数が不規則に変わったり、本人や会社の都合によって随時変更になるような運用も少なくないと思います。

所定労働日数が週1日であった労働者が、基準日付近でたまたま週5日の条件で働いていて通常の労働者と同様の10日間の有休を与えられ、その後また週1日勤務の契約に変わってしまったというケースを考えると、とても合理的とは思えません。

こうしたパートタイマーの所定労働日数が大きく変動するようなケースについては、参考となる通達が存在します。

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(平成16年8月27日基発第0827001)

予定されている所定労働日数が算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出しても差し支えないという内容です。具体的な処理としては、過去1年間の出勤日を月ごとに集計し、合計日数を労働基準法施行規則第24条の3で定める「一年間の所定労働日数」の区分にあてはめることになります。なお、雇入れ後の最初の有休付与に関しては、過去6ヵ月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして判断することになります。





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2013-08-08

「ブラックバイト横行」アルバイト基幹化に思うこと


随分久しぶりの更新となります。私の業界では6月・7月が繁忙期なのですが、あまりの繁忙ぶりに全くブログの更新ができず、繁忙期の余韻を引きずって今日にまで至りました。今年の後半に向け巻き返しをはかっていきたいと思います。



さて、本題に入りますが、ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」が問題化しているようです。

<ブラックバイト>横行 「契約無視」「試験前も休めず」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130808-00000050-mai-soci

アルバイトをする大学生の間で、「契約や希望を無視してシフトを組まれる」「試験前も休ませてくれない」などの悩みが広がっている。学生たちの声を集めた大内裕和・中京大教授(教育学)は、違法な長時間労働などをさせる「ブラック企業」になぞらえ、「ブラックバイト」と呼び、問題視している。企業が非正規雇用の志向を強める中、正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいるようだ。



企業の経営環境はますます厳しくなり、人員削減して社員一人当たりの負担は増える一方。結果としてうつ病休職者は激増。そして企業は人件費の安い非正規雇用の比率を増やし、ついには学生アルバイトにまで正社員並の働きを求めて圧力をかける時代がやってきたというわけですか。

記事の中で聞き捨てならないのが、「正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいる」ということ。

まあ、学生アルバイトだしいずれどこか別の企業に就職するのだからどう使ってもいいという考えなのでしょうが、ただし、「アルバイトを非正規の待遇のまま基幹化を進める」という考え方そのものは法律的に問題大アリです。

パートタイム労働法では、正社員と同じ仕事をしている場合(職務内容が同じ場合)など一定の要件を満たす短時間労働者について、賃金などの待遇を正社員と差別してはならないとされています。

さらにアルバイトが有期契約労働者である場合には雇い止めの問題が発生するかもしれませんが、雇い止めの有効性の判断基準として、

・地位の基幹性 or 臨時性
・業務内容の恒常性 or 臨時性

という要素があります。正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせて基幹化を進めれば、雇い止めをした際にどういう影響があり得るのか、という問題が浮上します。


それこそ正社員同様に業務命令権を広く行使したあげく、期間満了による労働契約の終了のみを主張するなんて、会社は虫が良すぎるでしょ、と判断されるかもしれません。

非正規労働者雇用する際は、雇用形態に即した内容の雇用契約を締結し、それを遵守するということが重要なのであり、正社員との業務内容、権限、責任に合理的な差を設けなければなりません。契約社員は臨時的業務、パートタイマーやアルバイトは補助的業務、だからこそ正社員とは待遇が違うわけです。それが無理だというのなら、そもそも自社にとって正社員とは一体何なのかをよく考えるべき状況にあるのだと思います。

2013-05-09

「限定正社員」をめぐる大いなる誤解


ここ数週間、ニュースで「限定正社員」という雇用形態についての報道が多くなってきたようです。政府の規制改革会議が推し進めているようです。夏の参院選を考慮して安倍政権が「解雇規制緩和」政策を見送ったのでその代わりということでしょうか。

「限定正社員」の中身は以前ニュースで報じられた「準正社員」と同じものです。雇用契約によって職務・勤務地を限定することにより、事業所閉鎖など担当職務や事業所がなくなってしまった場合の解雇が容易になるということです。



私は以前の記事でも書きましたが、法改正を行わなくとも現行法のままでこの運用自体は可能です。職務限定・勤務地限定の雇用契約が結ばれ、その内容で適切に運用されている限り、事業所撤退等を理由にした整理解雇客観的合理的な理由を有する解雇として有効と認められます。

ただ、そうは言っても多くの企業は訴訟のリスクを恐れて職種・勤務地限定契約の運用に二の足を踏む状況なので、それならば統一した解雇ルールを法律で明文化することによって企業が安心して限定契約を運用できるようにしようという話であればまあ理解はできるのですが。



しかしながら、マスコミで報じられている「限定正社員」は、本来法律的にないはずの意味あいが勝手に付加されて違う方向にいっていると思われるので、それは違うだろうというところを書いておきます。



正規と非正規の中間「限定正社員」って? 普及策検討中(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0506/TKY201305060006.html

正社員だけど、モーレツではなく、働く職種や地域が限られる。仕事がなくなれば解雇される可能性もある――。そんな「限定正社員」を広げる議論が安倍政権で進む。「働きやすさ」を高めるねらいがあるが、「解雇しやすさ」につなげる思惑ものぞく。

まず、これはタイトルからしておかしいです。法的に考えて、職種・勤務地限定の労働者がなぜ当然のように「正規と非正規の中間」になるのでしょうか。仮に中間に位置づけるとしてもそれは企業が個々に自由に決める問題であり、政府の有識者会議主導で政策として進める問題ではありません。

そもそも法的に正社員という分類はないのであって、限定正社員をあえて分類するならば、無期雇用労働者について職務・勤務地が限定されているのかされていないのか、という区分になります。どちらが上ということではなく、契約において何を許容し、何を得るのかをそれぞれの合意によって決める、ということです。

海外ではむしろ職務限定契約は一般的な契約形態であり、非正規的な取り扱いでは決してありません。もちろん仕事内容が決まっているのですからその仕事がなくなれば解雇されるのは正当であり、「解雇しやすさにつなげる思惑」も何も、整理解雇が容易なのは当然の帰結なのです。有識者会議の方々は「解雇規制緩和」のソフトバージョンくらいに考えているのかもしれませんが、これは解雇規制の緩和ではありません。契約の問題なのです。



労働契約に職務内容明記 限定正社員の雇用ルール素案(日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1903L_Z10C13A4EE8000/

仕事の範囲が限られる分、賃金は従来型の正社員より安くなる。

なぜ職務が限定されると、当然のように賃金はこれまでの正社員より安くなるといえるのでしょうか。

そもそも日本では正社員の職務・勤務地が限定されず、企業の命令によって配置換え、転勤等が行われるがために賃金を仕事基準で決めることができず、結果として属人的な職能給という名の年功賃金を運用せざるを得なかった訳です。

限定正社員は仕事が限定されているのですから、賃金を仕事基準(つまり職務給)によって決めるのが本来のあり方なのです。この場合、年齢・勤続といった要素は基本的に入り込む余地はありません。

つまり、その職種を何十年やってきた専門職的な限定正社員(職務給)が、入社して2〜3年の限定のない正社員(年功給)よりも賃金が安くなるということは本来あり得ないのであって、そんなことが当然のごとく記事に書かれている時点で、しょせん限定正社員は「従来の正社員より安く解雇しやすく使えるし、パートや契約社員よりは士気があがるだろう」くらいの認識しか持たれていないのだと思われます。



限定正社員の運用の拡大は確かに多様化する働き方のニーズに対応できる可能性をひめています。しかし危惧するのは、誤解しているのが有識者会議なのかマスコミなのかは不明ですが、多くの誤解のもとに限定正社員が運用されてしまう危険性です。以下まとめます。


限定正社員の整理解雇が容易なのは解雇規制が緩和されている訳ではなく、従って経営者の恣意的な解雇は当然許されず、能力不足、非違行為などを理由とする解雇は通常通り厳格に判断されるということ

限定正社員は法的には正規・非正規の中間という位置付けはなく、あくまでこれまでの無期労働者の職務・勤務地が限定されているに過ぎず、契約内容は当事者によって決められるものであるということ

限定正社員を非正規雇用の延長として低賃金で使おうとする方向性が垣間見えるが、本来、限定なしの正社員に比べ一貫して同じ職種を続けることから高い職業能力の維持が期待できるのであり、職務給によって適正に処遇されることにより限定正社員全体のスキル向上につなげるべきであるということ



ぜひとも注意していただきたいと思います。

2013-05-05

喫煙者を採用しない企業に入社した後、喫煙が発覚した場合の解雇は認められるのか


以前、星野リゾートの「喫煙者を採用しない」という方針がニュースで話題になりました。ウェブサイト上の採用ページで応募者の喫煙の有無を確認し、元々喫煙をしない場合か、もしくは禁煙を誓約することを選択しなければ採用選考に進むことができないというルールです。

そして最近は同社と同じように、「喫煙しないこと」を採用の条件にするという企業が増えているようです。



これに関して、まず「喫煙を理由に不採用とすることは法的に許されるのか」という問題がありますが、企業には広く採用の自由が認められており、喫煙の有無は年齢や性別のように特に法律によって差別が禁止されているわけではありません。

また、喫煙行為は業務と全く関係がないとはいえず、採用条件とすることにも一定程度の合理的な理由が認められますから(作業効率・施設効率・職場環境など)、禁煙を採用の条件にしたとしても違法ではないと考えられます。



さて、この話題に関しては、もっと難しい問題があります。

禁煙を心に誓って入社したものの、結局我慢できずにタバコを吸ってしまう可能性がありますし、そもそも最初から嘘をついて入社する労働者もいるかもしれません。タバコを吸わないことを条件に入社したのに、実は入社後に隠れて喫煙していた事実が発覚した時に、はたして会社はこの社員を解雇できるのか、という問題です。

仕事中に会社内で喫煙をしていればこれは業務および企業の秩序維持・施設管理等に直結する問題であり、会社は懲戒処分を下して場合によっては解雇することも当然認められるものと考えられます。

しかしながら、例えば労働者が業務中あるいは勤務時間外であっても会社内では一切喫煙をせず、プライベートな時間帯にのみ喫煙行為を行っていた場合にはどうでしょうか。

集中力の低下も起きず、タバコ休憩でちょくちょく席を立つこともなく、周りの同僚にタバコ臭で迷惑をかけることもなく、そして会社では喫煙しないので分煙の為の喫煙所という無駄なスペースが生じることもない状況です。

禁煙が採用条件だったわけですから当該労働者に対して喫煙行為を注意指導し、応じなければ懲戒処分を科すことは可能かもしれません。しかし、現実に喫煙行為が業務に一切支障をきたしていない状況では解雇まで行うことに合理性は認められないのではないかと考えられます。裁判になれば不当解雇と判断される可能性も十分にあり得るというのが個人的な考えです。

以上の点を踏まえて、禁煙を採用の条件とする制度の運用については十分に注意が必要だと思います。

2013-04-12

<解雇規制緩和論>人員整理と戦力外通告が混同されているのでは


昨日の記事に引き続きですが、最近の解雇規制緩和の報道について、様々なものがごちゃ混ぜに論じられている為に感じる違和感を書きたいと思います。

解雇規制の緩和とひと口に言っても、企業の業績不振の際に雇用調整をはかるために行う整理解雇と、労働者の能力不足や成績の不振等を理由とする解雇(いわば戦力外通告的解雇)では全く性格が異なりますから、解雇規制緩和に際してもそれぞれ別個に検討しなければならない問題です。

しかしながら、政府の有識者会議の主に経営者の方の意見を聞いていると、まるでこの2つを一緒くたに論じているようで、つまり業績不振のため余剰人員の整理をはかる場面において、勤務態度や成績の悪い労働者を優先的に辞めさせられる仕組みが必要だという主張がなされているようです。


整理解雇はあくまでも業績不振という会社の経営上の都合によって行わざるを得ない解雇であり、労働者には全く落ち度はありません。ですから解雇人員の選定に際して特定の労働者個人が取り上げられ、その人の解雇の可否が検討されることなどあり得ないのです。

特定の個人の能力・成績や勤務態度等を検討した時点で、それは会社都合の整理解雇ではなく労働者都合の解雇となるのであり、解雇の要件として求めらる客観的合理性についても経営上の必要性という要素ではなく、その労働者の能力不足が解雇に値するほど合理的な理由となり得るのかという観点から考慮されなければならない訳です。もちろん解雇回避努力に関しても、この2つの解雇では別のものが求められます。


「業績不振でおまえに任せる仕事がなくなった」から解雇なのか、「おまえは使えない。払ってる給料分の働きがない」から解雇なのかは全く違う問題であって、解雇の有効性を測るものさしも違うのです。それを一緒くたにすれば整理解雇の名目で会社が気に入らない労働者を好き勝手にクビにしたというような不当解雇トラブルが頻発するでしょう。理屈抜きでとにかく解雇を容易にしたいというのが本音なのかもしれませんが、政府の有識者会議という公的な場で法政策を論じるのであれば、もう少し考えて発言をしてもらいたいと思うところです。




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2013-04-11

「解雇要件の緩和」と「金銭解決ルール」は根本的に違うはず


最近の政府が行う解雇規制緩和議論の報道をみていると、何だか色々なものが混同されていてきちんとした議論ができているのか疑問です。(実態が正しく報道されていないのかもしれませんが)

解雇をしやすくして雇用の流動性を」みたいなことが盛んに言われていますが、


1.解雇要件の緩和、あるいは解雇の自由化

2.金銭解決ルールの導入


これらは意味が異なりますが、色々な報道をみていると一体どちらのことを言っているのかよくわかりません。というより有識者会議の方々の多くはおそらく区別なく言っているのかもしれません。



解雇を有効に行う為の要件を思いっきり緩和させて、あるいは企業の自由に解雇できるようにするのであれば、そもそも金銭解雇ルールは必要ありません。解雇は有効に適法に行えるわけであり権利濫用とは認められないのですから、金銭によって解決させる問題など存在しないのです。

現行の法律では、解雇が無効と判決が下った場合、職場復帰の方法しか認められておらず、それでは会社側も労働者側も不都合があるという場合に、法律で定められた金銭を会社が給付することによって解雇は無効だけれども労働契約は終了させるというのが金銭解決ルールであって、金さえ払えば無効な解雇が有効になるというような考えは誤りだと思います。

現行法でいうところの「客観的合理的な理由」のない解雇は認められないので「違法・無効な解雇」「不当解雇」になるわけですが、契約関係については和解によって解消されることもあれば、原職復帰して継続される場合もあり得るのです。いずれにしても、解雇の有効・無効、客観的な合理性があるかどうかということと、労働契約が継続か終了かということは別の問題であって、「金銭解雇」「解雇自由化」と連呼されると、何だかまるで「理屈はともかく金を払えば解雇OK」のような印象を強くうけるのであり危惧するところであります。




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2013-04-10

早くも表面化。労働契約法「改悪」の余波


4月1日から改正労契法が施行されています。これでいよいよ有期契約労働者は、更新によって通算期間が5年を超えた時点で無期転換申込権を獲得できるようになったわけです。当然ですが、この法改正をうけて多くの企業は契約社員の更新年数に上限を設けるであろうことが予想されます。


で、以下のニュースです。

労基法違反:首都圏大学非常勤講師組合、早大を刑事告発へ(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20130407k0000e040126000c.html

一見すると「労働基準法」違反ということですが、発端は今回の労契法改正です。

記事によれば、早稲田大学は今回の労働契約法改正をうけ、これまで更新上限のなかった非常勤講師などの更新年数に5年の上限を設ける内容で就業規則を改定したようですが、手続きの過程で労働基準法によって義務付けられている労働者過半数代表からの意見聴取を適法に実施しなかったようで、労働組合は近く労働基準法違反容疑で刑事告発をするといっています。

こういう事件があると、労働基準法は刑罰法規だったのだということが改めて認識されるのかもしれませんが。

違反容疑を具体的にいうと、過半数代表者を投票で選ぶ際に、今回の改定で不利益を被ると考えられる非常勤講師や客員教授に対して手続き書類を見せず、投票結果も公表せず、つまりは手続きの過程を一切公開せずにこっそりと進めて規則改定・届出を終わらせたということです。

実際のところ過半数代表者の選出や意見聴取をきちんと行っていない会社なんぞ世の中にいくらでもありますし、法第90条違反であれば30万円以下の罰金で済むといえば済むわけです。

しかし、記事によれば現在4,300人いるという非常勤職員のうちの少なくない数の職員について、おそらく今後も有期契約は更新されるであろうという合理的な期待が発生していたと考えられるわけであり、一方的に5年の上限規制を設ける改定はかなり重要な労働条件の不利益変更だといえます。

確かに改定に際しては相当な反発が予想されるのですが、だからといってコソコソばれないように進めたうえ結果的に刑事告発されてしまったのでは、後々に不利益変更の有効性を争うことになればコソコソ行為自体が不利な材料になるのだと思います。

更新最長5年制限を検討していた他の大学も労働組合の反発によって撤回・凍結しているということですが、多くの職員にとって重要な不利益変更である以上、ある程度時間と労力をかけた説明・協議のプロセスは避けて通れません。無理・強硬に進めれば不利益変更法理(労働契約法第10条)によって無効とされかねません。



就業規則による更新上限の定めは、新たに雇い入れる有期契約労働者に対しては、契約自由の原則により全く問題はありません。また、定めをする時点で既に雇用している場合であっても、まだ更新を繰り返していないような労働者については合理的な更新期待が発生していないと考えられますから不利益変更にはあたらないといえます。

ただし更新を繰り返している労働者については合理的な期待が発生している可能性が考えられるため、少なくとも全員と協議を行ったうえで一人ひとりの合意を得るのが望ましく、雇用契約書においても上限の条項を入れることによりリスクをなくしていきます。合意を得られないのであればそれ以上更新を重ねるのはさらにリスクが高まりますので現在の契約期間までで満了とし、雇止めの有効性の問題に移っていくものと考えられます。


今後、有期労働者を雇っている多くの企業でこのようなトラブルが発生する恐れがあります。今回の法改正がなければ何事もなく更新され満足していた方も相当数いたはずですが、法改正を推し進めた方々はこの状況を見て一体何を思うのでしょうか。




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2013-02-04

自転車通勤の法的リスク・問題点

ここ数年、自転車で会社に通勤するという方は急増しているように感じます。

自転車通勤に切り替える理由としては、「健康を考えて」、「通勤ラッシュが嫌だから」、「エコだから」、あるいは「会社に電車通勤で申請しておいて支給された定期券代をフトコロに入れる」なんていう不正受給の動機も実際あると思います。


一方、会社側も駐輪場を整備したり、自転車で通勤する社員の通勤手当を優遇するなどして、自転車通勤を勧める企業も徐々に増えてきています。

「自転車通勤勧める「はてな」 手当2万円、保険費負担…思わぬ効果も」
http://www.sankeibiz.jp/business/news/121209/bsj1212090710001-n1.htm



ただし、ここで注意したいのは、自転車通勤は通常の電車通勤に比べて法的なリスクをはらんでいる部分があり、会社も従業員もその辺の対策をとったうえで自転車通勤に切り替えることが重要であるということです。

リスクとは、大まかにいうと、

・通勤途上で事故を起こし従業員が負傷した場合
・逆に従業員が加害者となってしまった場合
・通勤手当を不正に申告する問題
・駐輪場の問題

などが考えられます。




まず第一に、通勤途中で事故が発生し従業員が負傷、場合によっては死亡してしまった場合に、労災保険が適用されるのかという問題が考えられます。

結論をいうと、合理的な経路」を通っていたのであれば原則、通勤災害として認められることになります。「合理的な経路」とは簡単にいえば通勤に関係のない場所を通ったり、寄り道したりしていないということです。

ちなみに会社が自転車通勤を禁止していたり、許可制なのに無許可で自転車通勤をして起こした事故の場合はどうかというと、やはり経路が合理的であれば会社の規定に係らず労災は適用されます。(※ただし、規定違反については別途会社から懲戒などを受けることになると思います。)

また、子どもを通勤途中で保育園に預けたり迎えに行ったりする場合はもちろん保育園に寄る経路も含めて合理的と判断されるのが通常です。

通勤災害において会社が注意すべき点は、通勤以外の目的で経路を外れればそれ以降は事故を起こしても労災が適用されなくなるということを従業員に十分に周知しておくことです。




第二に、通勤途中の事故で従業員が加害者となり、他人を負傷、または死亡させた場合の責任の問題です。最近は自転車の高機能化によって死亡事故も確実に増えてきている為、軽く考えるべきではありません。

他人をケガさせれば従業員本人に損害賠償責任が発生するのはいうまでもありませんが、本人が賠償できない場合には雇用主である会社にまで賠償責任が及ぶ可能性も否定できません。

会社として自転車通勤を認める以上は、損害保険の加入を義務付けるべきですし、保険内容まで確認した上で許可するような運用ルールを構築すべきであると思います。

前述の「はてな」の事例では、保険費用を会社が負担ということでしたが、自転車通勤を奨励する場合には、そのような制度の検討も必要ではないでしょうか。




第三番目の問題としては、通勤手当に関してです。

実際は自転車で通勤して費用はほとんどかかっていないのに、会社には自転車通勤の申請を行わず、定期券代相当の交通費をそのままもらい続けるというケースは会社側が考えている以上に多いかもしれません。

就業規則における規定の仕方にもよりますが、通勤手当は「通勤に要した実費相当額」を支給するものと規定されるのが一般的です。自転車通勤に切り替えているのに電車通勤の定期券代を受け取るのは不当利得であり、過去にさかのぼって返還請求を求められますし(※10年まで遡れる)、そもそも無許可の自転車通勤に対しては懲戒処分が科されるべきものです。

会社としては、返還請求、および懲戒処分を行えるような内容の就業規則を備えておく必要があります。




第四番目に、駐輪場の問題があります。

会社の近隣の路上や私有地に駐車されれば迷惑になりますし、自転車通勤を許可した会社にクレームが及ぶ可能性が考えられます。

会社で駐輪場を用意するか、あるいは従業員が駐輪場を確保していることを確認した上で自転車通勤を認めるような制度が必要でしょう。




全てまとめると、まず会社としては、自転車通勤を禁止するのか、許可制として認めるのかを決め、禁止するのであれば就業規則服務規律および懲戒の条項に禁止の旨と、違反した場合の罰則を明確に規定することです。

許可制で認めるのであれば、「自転車通勤規程」を作成し、自転車通勤の申請手順を規定します。

損害保険費用は会社負担か自己負担か、駐輪場は会社が用意するのか各自が確保するのかを決め、従業員に任せる場合には、申請の際に損害保険の加入証明、および駐輪場の証明を提出させるように規定します。

通勤手当についても優遇措置をとるのか、無支給とするのかを決め、不正受給の場合の返還義務も含めて賃金規程に定めます。

申請を受けた際には、承認をする前に労災について、特に通勤災害が適用されない場合のリスクについてよく説明します。

規定に違反した従業員については、懲戒処分によって厳格に対応します。もちろん従業員の側も、規定に違反して自転車通勤をするのであれば、後々痛い目にあうかもしれないリスクを忘れない方がよいと思います。




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2013-01-15

内定辞退は法的に許されるか


最近の企業の厳選採用と、熾烈さを増す新卒の就活においては、少しでも多くの企業に応募し、複数の内定を得てから入社する企業を選ぶというのは当たり前でしょうが、同時に内定を辞退する行為は避けて通れないことになります。

内定を辞退する際は少しでも早く連絡するとか、必ず人事担当者本人に直接伝えるとか、後でお詫び状を出すべきだとか、そういったマナー的なことはともかく、法律的にはどうなのかということは少なからず気になるところです。


企業側から見れば、内定を通知した段階で労働契約は成立しており、内定通知以降は合理的な理由がない限り簡単に取り消しはできないことになります。

※詳細は過去記事を参照
内定と内々定の取り消し - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


では労働者も内定通知以降は取り消しができないのかというとそうではありません。

企業は新卒採用において、倫理憲章の定める解禁日以降に一斉に内定を通知します。多くの場合、内定式に参加させて内定証書を交付し、そして学生に内定承諾書(内定誓約書)を提出させます。

よくこの承諾書を提出したことによって内定辞退が難しくなるのではないかと思われがちですが、実際はほとんど影響はありません。


労働者側からみた内定の辞退は法的にいえば労働契約の解除であり、通常の会社員が退職願の提出によっていつでも会社を自由に辞められるように、学生はいつでも内定を辞退できるわけです。もちろん違法性などは全くありません。

企業側は例えどんなに強力な誓約書を用意したとしても、1人の人間を強制的に1つの企業に縛りつけることは不可能だということです。


では学生は安心して心置きなく内定をたくさんもらい、そしてゆっくり考え、ぎりぎりに辞退の意思を伝えても問題ないのかといえば、それも違います。


内定は労働契約である以上、解除はできますが、解除をすれば契約不履行ということになります。企業側に損害が生じていれば法的には企業が損害賠償を請求することは可能です。

もちろんその際は損害額や、内定辞退と損害との因果関係などについて会社が立証する必要がありますし、損害といっても既に手配した研修費用であるとか、実際に使用した資料、設備等に係る費用であるとか、そこまで金額的に大きなものとは考えられません。とはいえ、絶対に請求されないと断言はできないのです。

人事担当者にしても、就活生がいくつも内定を得てから選んでいる現状は百も承知なわけで、筋を通せば法的措置などは考えないのであり、やはり内定辞退する場合は最大限誠意をもって対応すべきだという、法律の話をしていても「内定辞退」については結局はマナーの方が大事だという結論に至るわけです。




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2012-11-29

「新卒一括採用の廃止・見直し」は土台無理か


新卒一括採用について、就職活動の激化や既卒者の就職難の原因になっているなど様々なデメリットが指摘されており、見直しが必要ではないかという問題提起のニュース記事がありました。
新卒一括採用は見直すべきか - ライブドアニュース

新卒時の1回にチャンスが限定される上に、学生の能力に全く関係しない1年ごとの景気に強く左右されるのは不条理だ

就職活動がうまくいかずに大学院への進学をするケースもあるが、本末転倒も甚だしい。出遅れを心配して留学を控える学生もいる。

『新卒カード』を切らないために留年したり、大学院に進学したりするのはおかしいが、それを大学側が受け入れていることも批判されるべきだ

高度成長期など右肩上がりで業績が伸びていった時代には、社員を効率的に大量採用し、均等に育てていく上で利点があっただろう。しかし、現在では、終身雇用年功序列といった従来の日本型雇用システムは崩れ始めており、企業がグローバル化を進める中で、採用形態も見直すべき時期に来ているはずだ



こういう議論を聞くといつも感じることは、新卒一括採用をやめるべきかどうか以前に、はたしてやめることが可能なのかという難しい問題があるということです。

今の日本の雇用システムは、仮に新卒一括採用をやめた方がメリットが大きいと実証されたとしても、簡単に見直しが図れるようにはなっていません。(主に国内の大企業の話ですが)


第一の問題として、入社後の基本的な職務を遂行できるようになるまでの教育訓練を一体誰が行うのかということを再考する必要があります。

というのは、通常、通年採用・中途採用は即戦力の経験者採用が前提となっており、それ以外は新卒の未経験者を要員計画に基づいて大量採用し、自社の教育システムを使って自前で育て上げていくというのが現状です。

企業にとってその方が効率的であるし、自社の社風・文化に合わせて育てやすいからそうしている訳です。

企業からすれば、イチからお金をかけて教育するならできるだけ若い方がよいに決まっていますし、最初から高い職務遂行能力をもっていて教育する必要がないのであれば年齢の高い中途を採用する場合もある訳です。

問題となるのは、新卒一括採用が廃止され、中途も新卒も関係なく通年採用となった場合、既卒者や経験者と競うことになる新卒者にあらかじめ職業訓練を施す必要はないのか、あるとすれば誰がそれを担当するのかということです。

つまり、企業以外の機関(国・大学等)が就職後の職務遂行のレベルに達するまでの職業訓練について企業まかせにせず真剣に考えていく必要があるのですが、現実には大学等が行う教育そのものはとても採用段階で企業から評価されるようなものではありませんし、また、国・ハローワーク・独立行政法人等が行う職業訓練についても企業の求める即戦力には程遠いレベルのものです。

企業は他企業で教育された経験者を雇うか、または自前で教育するかの二者択一であり、このように企業だけが負担する現在の状況を根本的に変えない限り、企業は最も効率的な手段、つまり新卒一括採用を選ぶ状況は続くものと思われます。



そして、新卒一括採用をやめられるのかどうかを考えるうえで、もう1つの重要な問題があります。

今もなお日本の企業で根強く残っている年功型賃金の問題です。

終身雇用年功序列が崩壊しているというのは半分ウソです。終身雇用が崩れ始めているのは間違いありませんが、年功制賃金は基本的にはなくなりません。代わりとなる適した賃金制度がないからです。

日本の企業は職務を限定して採用するようなことは基本的にしません。企業の事業運営上の都合、あるいは人材育成の一環としていつでも異動が普通に行われますし、職務だけでなく職種の変更もあり得ます。そもそも大企業にはジョブローテーションというものが存在します。

賃金は本来、職務の内容に応じて決定する職務給を採用するのが理にかなっています。職務給制を運用した場合、異動・配転によって職務が変更になれば賃金も当然変更されます。

しかし、ジョブローテーションが行われる大企業ではそれができません。異動のたびに賃金が上下しては困るからです。ですから賃金は職務内容とは切り離して、職務遂行能力という名の勤続年数や年齢によっておおかた賃金が決まる年功型賃金体系を運用せざるを得ないのです。もちろん近年は業績評価を拡大したり、職務給的要素(職責、期待役割等)を織り込んだりという賃金・人事制度はありますが、基本的には年功型ベースから完全に脱却することはできません。

この場合、企業は中途採用を極力控えます。当然ですが、年功型賃金制においては中途採用者の賃金は高くなるからです。会社としては中途採用者がその賃金水準を求めなかったとしても、その序列を崩すことはできません。従って中途採用者に求められる職務遂行能力のハードルは高くなります。企業側の費用対効果を満たさなければなりません。

企業にとっては低賃金で大量の新卒者を採用して自前で育て上げ、査定によって多少の差はつけるものの徐々に皆の賃金を上げていく、そして賃金の高い中途採用は必要に迫られない限り差し控える、という方法が最も合理的と考えられるのだと思います。



新卒一括採用の見直しを議論する際は、これらの職業訓練、年功型賃金の問題が実は大きく立ちはだかっており、そもそも日本の大企業は新卒一括採用をやめることがシステム的に可能なのかという視点もまた必要だという話でした。



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2012-09-18

契約社員はもはや「いつでも切れる」労働者ではない<雇止め法理の法定化>


労働契約法改正について、ニュースなどで話題になっているのは、5年超えた場合の無期転換の話ばかりのように感じますが、実際のところ無期転換ルールは企業の意識に影響を及ぼしません。実は無期転換ルールは重要ではありません。

企業にとって必要な人材であれば5年経過後も無期雇用として会社に残す(or 5年経過を待たずに無期雇用に転換させる)、必要でないと判断されれば5年経過前に契約を打ち切る、そうやって企業は人件費増加のリスクを回避しますから、現実には雇止めの数が増えるだけだと思います。(もちろん長期勤続の契約社員にとっては大問題ですが、あくまで企業側視点で。)


今回の労働契約法改正でとにかく重要なことは、「雇止め法理」が条文に明文化され、制定法化されたということです。(※この改正点は、8月10日に既に施行されています。)

これによって、今後有期雇用契約の更新が打ち切られた場合には、

1.契約更新の繰り返しによって無期雇用と実質同じ状態にあるとき

あるいは

2.状況的に更新されるという合理的な期待が認められるとき

のどちらかに該当するケースであれば、実質解雇とみなされ、解雇の場合と同様に合理的な理由のない雇止めは無効と判断されて、それまでの有期契約が更新されたものとみなされます。

この法理は法改正以前も判例法理によって運用されてきたものではありますが、今回の制定法化によって不当な雇止めの法的根拠が明確化されましたので、今後多くの雇止めに係る労働紛争が予想されますし、現実的に企業に与える影響(労働者に与える影響はともかく)は無期転換ルールの比ではありません。

にもかかわらず、この事をきちんと理解していない企業関係者が何と多いことか、という実感です。


改正労働契約法(雇止め法理)が施行されたいま、契約社員を常用的に使用し都合のよいときに契約を打ち切るという雇用の調整弁的な使い方には限界があるということを認識しなければなりません。


・各企業にとって有期雇用とはどのような位置付け、雇用区分なのか。
・有期雇用を使う目的は何か(無期でなく有期を使う必要性)。
・有期契約労働者としての職務(無期労働者との違い)


今こそこれらをハッキリと決めるべきです。もちろん有期雇用はどうあがいても正社員の代わりとはなり得ません。




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2012-09-10

定年再雇用後の労働条件をどう定めるか<高年法改正>


来年4月の改正高年齢者雇用安定法の施行に備えて各企業は賃金体系や就業規則を見直す必要があるのは当然ですが、60歳以降の労働条件をどう設定するかという点は非常に重要になってきます。

これまでもそうでしたが、基本的に定年再雇用後の労働条件に関しては、会社は労働者の希望する条件を満たさなければならないというような義務はありません。

この点、高年法には継続雇用制度の内容について具体的な定めは一切なく、当事者同士の合意に委ねられていることになります。高年法の趣旨・目的を踏まえたうえで、合理的な裁量の範囲内において企業の実情に合致した労働条件を提示すればよいわけです。

ですから合理的な労働条件を提示したが結果的に会社と労働者との間で合意が得られず、最終的に労働者が継続雇用を拒否したとしてもそれが法違反ということにはなりません。

「企業の実情に合致」した条件ですから、例えばパートなどの短時間勤務であったり、正社員よりも労働日数が少ない労働条件であったとしても、それが必ずしも合理性がないとはなりません。


最も気になるのは、賃金水準をどの程度低下させられるのか、その許容ラインだと思いますが、職務内容が定年前と定年後で変更になるのであれば、職務の重要性によって賃金が変わることは十分合理的と考えられます。ただし、現実的にあまりにも労働者の勤務する意思を削がせるような労働条件の提示は高年法の趣旨にも反しますし、労使トラブルの火種にもなりますので会社ごとに相応の配慮が必要だと思います。

また、職務内容をそのまま変えずに賃金を低下させる場合には、均衡待遇、同一労働同一賃金の問題から公序良俗に違反するのではないかという考え方がでてきます。過去の判例では、たとえ同一の職務であったとしても、定年到達時の賃金から少なくとも4割低下した場合でも不当ではないとされてます。さらに同判決では、再雇用制度を導入している企業の多くが定年到達時の年収の6〜7割から半分程度を予定して制度設計していることを例に挙げて該当事案を言及していたことから、50%程度までの賃金低下は認められる可能性も高いのではないかと考えられます。

確かに高年齢雇用継続給付が60歳時点の賃金が61%以下に低下したケースを制度に組み込んでいることから、法的に4割までの低下は予定されていると考えるのが自然ですが、職務が全く同一なのに4割低下までOKという考え方はちょっとどうなのかと思うところでもあります。

基本的にはやはり定年前と定年後で職種は同一であったとしても職務の内容はある程度変更し、権限・責任や人材活用の仕組みに明確な差を設け、場合によっては労働日数・時間数を減らした上で賃金を低下させるべきであると思います。もちろん定年後も実力に応じて第一線の主力として雇用するため賃金は低下しないということであればそれに越したことはありませんが、その場合の雇用形態や賃金・人事体系についても明確に就業規則雇用契約書に規定しておく必要があることはいうまでもありません。




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2012-09-04

労働契約法改正まとめ 無期転換ルール7つのポイント


8月10日に公布された改正労働契約法ですが、一部は公布と同時に既に施行されている状況です。以下ポイントをまとめます。


1.無期労働契約への転換

2.「雇止め法理」の法定化

3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止



このうち「2」の「雇止め法理の法定化」は8月10日に既に施行されています。「1」と「3」については公布日から1年以内に施行される予定です。

今回は「1.無期労働契約の転換」について行政通達に基づいてポイントをまとめます。



1.無期労働契約への転換
有期雇用契約が通算5年間を超えて反復更新された場合には、有期契約労働者が使用者に対し申込を行うことによって期間の定めのない契約(無期労働契約)へと転換することになります(「無期転換ルール」といいます)。


◆ポイント
通算5年超えの有期労働者が申し込んだときは使用者は承諾したものとみなされ、有期契約満了日の翌日から労務が提供される無期契約が成立することになります。

つまり、労働者が申込権を行使した後、使用者が現に締結している有期労働契約の満了日をもって労働者との契約関係を終了させようとする場合、すでに無期契約は成立していますから、無期雇用解雇に該当することになり、「客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合」には権利を濫用したものとして無効となります。

また、満了日よりもさらに前に契約関係を終わらせようとする場合は、契約期間中の解雇ということになり、通常の解雇よりも厳しい要件が求められるため(労働契約法第17条第1項)十分に注意が必要です。


◆ポイント
無期転換の申込権の発生を回避するために一時的に直接雇用からはずし、請負や派遣の形態を偽装した場合は脱法手段とみなされ、同一の使用者との労働契約が継続しているものとみなされます。


◆ポイント
労働者が申込権を行使できるタイミングは、通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から満了日までです。仮にその期間に申込権が行使されなかったときは、再度契約が更新されれば新たにまた申込権が発生し、更新後の満了日まで行使が可能となります。


◆ポイント
無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、権利発生前にあらかじめ有期契約労働者に同意をとって申込権を放棄させることは公序良俗に違反し無効となる可能性があります。


◆ポイント
通算契約期間のカウントを始めるのは、法施行日以後に契約期間の初日が来る有期労働契約からです。そのため、施行日前の日が初日である有期労働契約は通算期間に参入しないことになります。


◆ポイント
無期転換後の労働条件は、労働協約、就業規則、個々の労働契約によって別段の定めがない限り、従前と同一の労働条件となります。別段の定めをする場合、職務内容が変わらないのに労働条件を従前より低下させることは望ましくないと通達されています。


◆ポイント
通算契約期間のカウントにあたって、有期労働契約とその次の有期労働契約の間に、同一の使用者の下で働いていない空白期間(クーリング期間)が6ヵ月以上あるときは、その空白期間より前の有期契約期間は5年のカウントに通算せずリセットされます(つまりクーリングされます)。
(※通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間がクーリング期間になります。この辺りの詳細は厚生労働省令で定められます。)




体制の整備が重要なのはポイントΔ量鬼転換後の労働条件についてだと個人的には思います。その企業の契約社員の位置づけ、無期転換後の位置づけをはっきりさせた上で労働条件を就業規則、規程、雇用契約書に明記し、社内の転換ルールをはっきりさせなければ後々トラブルの火種となります。雇止めの有効性の判断もますますシビアになってきますし、今回改正点の「不合理な労働条件の禁止」とも関係してくるところです。この辺りはまた詳しく書きたいと思います。




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2012-08-06

5年を超える前に雇止めすれば問題ないという勘違い<改正労働契約法>


先週、改正労働契約法がとうとう可決、成立しました。有期雇用契約の労働者(契約社員)が同じ会社で5年を超えて反復更新された場合には、本人の希望により無期雇用(つまり正社員)への転換を企業に義務付けるという例の話題の法改正です。施行は来年の4月です。

この法改正による世間の反応はというと

「そんな規制したら、会社は5年経つ前に更新打ち切るに決まっているでしょ。」

「これまで長年更新されてきた人がみな5年以内で契約打ち切られて失業者が増える。」

という声が大多数のようです。今回の法改正が「5年以内の雇止めの促進」につながるというわけです。確かに企業は概ねそのように動くと思います。ただし、本当のところはそんなに単純な話ではありません。



今回の労働契約法の改正は、多くの企業や労働者大きな誤解を与えかねない法改正だと思っています。

というのも、現実として今まで企業は有期雇用契約を何年も実質上限なく更新してきました。そして今回の改正で、上限の5年を超えた場合には無期雇用に転換しろといわれています。裏を返せば、「通算5年経過時点までに更新を止めさえすれば、有期雇用を何回更新してどう取り扱おうが基本的に企業の自由だ」という間違った認識を企業と労働者に与えかねないのであり、少なくとも多くの労働者はそう考えている状況です。

しかしながら、有期労働契約は本来、臨時的・一時的な業務を行わせるための雇用形態であり、そもそも常用的な労働者を雇い入れることを前提としていません。にもかかわらず現実には多くの企業が恒常的業務のために有期労働者を雇って反復更新を重ね、そして都合のいいときに契約を打ち切るという法の趣旨に反した運用を続けているのであり、裁判では実質「期間の定めのない雇用」と同じだと判断され解雇法理が適用されて雇止め無効とされるケースが少なくありません。例え上限5年に達していなくとも、「無期雇用と判断される可能性」も「雇止めを無効とされる可能性」も十分にあるのであり、5年を超えたら「可能性」どころでなく問答無用で無期転換を強制されるということなのです。

しかも今回の改正では、合理的な理由がなければ雇い止めはできないとする「雇止め法理」が明文化されています。これまで裁判で示されていた雇止め法理が法律に明文化されることによって、これまで以上に雇止め時の正当な理由が重要になると考えられます。

したがって、有期雇用契約が5年を超える前に雇止めをすれば何も問題ないなどという考えは大きな間違いであり、むしろこれを機会に自社の有期雇用の運用の適正化について真剣に検討すべきであることがお分かりいただけると思います。

当然ですが、無期転換を回避するための5年雇止めは合理的な理由とはいえません。厚生労働省告示に基づき労働者が雇止め理由証明書の交付を会社に請求した場合には、まさか雇止めの理由を「無期転換回避の為」とは書けませんので、きちんと合理的な理由を明示することが求められます。



さらに注意したい点は、今回の改正は通算期間の長さを基準にして無期転換の義務を課しており、ともすれば通算期間が長いほど(更新回数が多いほど)無期雇用に近づき、逆に通算期間が短ければ(更新回数が少なければ)有期雇用として認められやすいとの誤解が生じかねないということです。

過去の判例では、まだ1度も更新していない有期契約を1年終了時点で最初に更新拒否した場合であっても、継続雇用への合理的な期待があったとして雇止めが無効とされたケースがあります。必ずしも通算期間や更新回数だけで雇止めの有効性が判断されるわけではなく、雇用の実態を総合的に考慮して判断されるという事を忘れてはいけません。



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2012-06-23

有期パートタイマーの待遇を正社員並みに法改正


厚生労働省は有期雇用契約のパートタイマーの待遇(賃金・退職金など)を今後正社員並みに改善する方針を決めたようです。

以下参照
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ここで前提として次のことを確認しておく必要があります。

平成20年4月の改正パートタイム労働法の施行により、パートタイマー(短時間労働者)は次の条件を全て満たした場合に、賃金等の待遇面において通常の労働者(つまり正社員)との差別的取扱いが禁止されています(パート労働法第8条)。

1.職務内容(仕事の内容・責任)が正社員と同じ
2.人材活用の仕組み・運用(人事異動の有無・範囲など)が正社員と同じ
3.実質的に契約期間がない


これらの条件を満たしたパートタイマーは、「正社員並みパート」といわれたりしますが、正確には「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」といわれます。


パートタイマーはたとえ仕事内容等が正社員と同じであったとしても、正社員に比べて賃金は安く賞与がないなど待遇面で劣るというのが一般的であり、企業は人件費を安くする為にパート労働者雇用していると言っても過言ではありません。

パートタイマーと正社員の差別的取扱いを禁止するという規制は事実企業にとっては大きな負担であり、パートタイマーを多く雇用せざるを得ない営業形態の企業の中には、パート労働法第8条の規制を回避するべく様々な対策をとっている企業も少なくないと思われます。


そして昨年、厚労省は「正社員並みパート」の適用範囲を拡大するという方針を発表していました。

具体的には先ほど挙げた3つの条件を廃止したうえ、代わりに「合理的な理由なく不利益な取り扱いをしてはならない」と定めることによって運用に柔軟性をもたせ、「正社員並みパート」の対象者を増やしていくという方法でした。

この件の詳細は過去記事を参照
「正社員並みパート」拡大の是非 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



ところが冒頭に書いた通り、先日の厚労省の発表では、3要件を全て廃止するのではなく、「契約期間がない」という基準を削ることによってパートタイム労働者のうち「有期雇用契約」の労働者の待遇を改善していくことに方針を転換したように思われます。

雇用契約期間の有無のみによって正社員とパートタイマーの取扱いを分けていたという企業は法改正がなされれば当然パート労働法に抵触し、差別的取扱いが禁止されることになります。今のうちに有期パートタイマーの雇用形態や労働条件、待遇面について見直しを行い、法改正の動向に合わせて就業規則雇用契約書をスムーズに整備できるよう準備をすべきであるといえます。



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2012-02-29

競業避止義務の有効性


少し古いニュースですが、生命保険のアリコジャパンの元執行役員が会社の競業避止義務規定に反して競合他社に転職し退職金を不支給にされた件で争われていた裁判で、会社の取り決めは無効として退職金を全額支払うよう命じられる判決が先月ありました。

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競合他社への転職禁止と罰則を定める競業避止義務の有効性については古くから議論のあるところです。憲法の保障する職業選択の自由を不当に制限する恐れがあるからです。

実際に競業避止義務の有効性が問題となった場合、裁判において判断材料となるのは以下です。

・従前の地位・職務内容
・競業行為禁止の期間・場所的範囲・対象職種の範囲
・金銭の支払いなど代償措置の有無や内容
・違反に対して会社が講じる措置の程度

これらに基づいて合理的な範囲内でのみ競業避止義務が認められることになり、合理的範囲を超えれば公序良俗違反として無効とされます。

競業避止義務は、企業の営業上の秘密を保護する目的から合理的な範囲内で認められているものである為、対象者は重要な機密情報を保持する高い地位にある者であることが前提になります。

本人の転職活動に制限をかけるわけですから期間も不当に長くすることはできません。転職禁止の地域については、全国に拠点があるのかどうか、あるいは営業上の秘密が何に係るものなのか(技術、ノウハウ、顧客情報など)によって無制限とするか都道府県などに絞るのか変わってきます。


競業避止義務違反における会社側の措置としては、競業行為の差止め、退職金の減額・不支給や損害賠償請求が考えられます。

退職金の減額・不支給に関しては、退職金の法的性格が重要になってきます。退職金の法的性格には、賃金後払い的性格、功労報奨的性格が混在しているものと一般的に認識されています。

よく懲戒解雇で退職金を不支給とする取扱いがありますが、これは功労報奨的性格を前提に労働者の功労に対する評価を減じて行う措置だと考えられます。競業避止義務違反についてもやはりこれと同様の考え方によるため、退職金制度の構造が賃金後払い的要素を多分に含んだものであれば、退職金の減額自体が無効とされる可能性も否定できません。特に最近はポイント制退職金が普及しており、業務における貢献を反映させる制度設計であれば賃金後払い的性格が強くなるものと考えられる為、この点に留意する必要があります。


冒頭で触れた今回の事件では、執行役員という一般的には経営陣と認識される高い地位でありながら、裁判においては「機密性を要する情報に触れる立場ではなく実質的には労働者」という評価をうけ、競業避止義務の取り決め自体を無効と判断されました。

これらを踏まえると、競業避止義務が認められるのは現実かなり狭い範囲と考えられますから、転職禁止期間は1年(長くても2年)、対象者は実態として部門統括者から役員クラス以上が妥当であり、罰則についても退職金を全額不支給とするのはなかなか厳しいものがあるのかもしれません。代償措置として機密保持手当などの支給を検討することも重要であると思います。


なお、競業行為に対する損害賠償については不法行為を理由に認められる場合がありますが、金額自体を取り決めると労働基準法第16条(賠償額予定契約の禁止)に違反しますので注意してください。

また、規定なしで罰則を科すことができないのはいうまでもありません。



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2011-12-12

非正規社員の定年制


期間雇用の非正規社員たちが、65歳定年制により契約更新を拒否されたのは違法だとして会社を提訴したニュースがありました。


ニュースは以下
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以下抜粋

訴状によると、郵便事業会社は民営化された2007年10月に就業規則を制定し、6カ月契約の期間雇用社員について、65歳に達した後は契約を更新しないとする定年制を導入。約1万4000人について、今年10月以降の更新を一斉に拒否した。
 原告側は「定年制は、年功による賃金上昇や厚生年金による退職後の生活保障などがあって初めて合理性が肯定される」と主張。非正規社員への導入は合理的根拠がなく、就業規則は無効としている。

引用ここまで



この訴訟が今後どうなるのかは注目すべきところですが、率直に言って、非正規雇用に定年を適用するのはお勧めしません。

私はこれまでに有期契約の社員に定年制を導入したいという会社の相談を何度か受けてきましたが、その度に導入すべきでない旨を伝えています。理由は長期雇用を前提としていると解釈されたら困るからです。



有期労働契約は契約期間において臨時的に必要な雇用です。雇用契約書に更新規定をつけることにより、状況に応じて契約を更新していくことは当然可能ではありますが、これはあくまでも「期間満了の都度必要と判断したから更新する」ということであり、「更新を繰り返すことにより長期に渡って雇用する」ことを最初から予定するものではありません。

派遣切りなどの契約社員の雇い止めでよく問題となるところですが、契約更新がただの形式的なものだと判断されれば、実質は期間の定めのない雇用だったとみなされ、ヘタをすれば正社員と同様に継続して雇用しなければならなくなるリスクが考えられます。


今回のケースで言えば、一定の期間だけ雇用する予定の労働者に対して定年制を適用するという考え方はそもそも矛盾しており、長期雇用を前提としていると指摘されても反論の余地はないように思われます。



ついでに言うと、長期雇用を前提とした正社員であればこそ、その見返りとして広い範囲の会社の業務命令権、人事権、労働条件の不利益変更なども認められるものと考えられます。それらについて正社員と同様に取り扱った挙句、期間満了による契約の終了のみを会社が主張することはなかなか容易には認められないものと思われます。


また、定年制だけでなく、試用期間休職制度についても、制度の趣旨を考えれば長期雇用を前提としていることは明らかであり、有期契約労働者を対象に運用するのであれば、そのリスクについても当然検討すべきといえるでしょう。



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