Hatena::ブログ(Diary)

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2016-02-08

マイナンバーで副業バレたからといって会社はクビにできるのか


マイナンバー制の導入に伴い、副業がバレてみんな大変だという記事をよく見かけますね。マイナンバーが原因ではたして本当に副業がバレるのかに関しては多くの記事で言及されているようなので、ここではあえて触れません。

それより個人的に気になるのは、「多くの企業が副業禁止規定を備えているから、バレたら処分や解雇を免れない」みたいな前提です。

まるで副業禁止規定の有無が鍵みたいな言い方ですが、実のところ副業禁止規定があるからといって簡単に従業員を処分できるわけではありませんし、解雇なんかまず無理です。従業員が副業をするのは勤務時間外なわけですから、プライベートの時間で副業をしようが何しようが本来自由なはずです。憲法で保障された基本的人権です。

したがって、企業は副業を禁止する規定を定めるべきではなく、副業を許可制にして管理し、範囲を限定して禁止する運用にしなければ法的に危ういのです。

禁止する条件は、「副業による疲労で業務に支障をきたす」とか、「会社の信用を傷つける」、「ライバル企業で副業している」とか、限られたケースだけです。しかも会社は争いになった場合、従業員の副業によって被った損害を実際に立証しなくてはなりません。

副業する側だけではなく禁止する側もけっこう神経を使うのだという話です。禁止規定があるからというだけで安易に処罰すると思いもよらないトラブルに遭うかもしれません。

2016-02-07

「代休を繰り越す」「振休がたまる」は法律違反なのか


休日出勤の多い会社からこんな相談を受けます。

「代休がたまってすごい日数になってしまった。今さら買い取るのも難しい。どう消化させたらよいのか。」

こうした質問を受けたとき、まず最初に確認することは、代休がなかなか取れないのはいいとしても、休日に働いた分の給料をいったん支払っているのか、ということです。

支払わずに月をまたいで繰り越しているのであれば、その時点で労働基準法違反になります。

おそらく上記のような会社は、「休日出勤が発生したら後で代休を取らせて賃金を相殺する予定だから、給料日が到来しても別に休日出勤手当は支給しなくてよいだろう」と考えています。

しかし、実はその考え方は大きな間違いであり、社員が代休を取得する権利(もしくは、会社が社員に対して代休取得を命じる権利)は、賃金計算期間を越えて繰り越すことはできたとしても、それによって休日労働の分の賃金の支払いまで猶予することはできないのです。

つまり、代休は半年後に取得しようが、1年後に取得しようが、ある意味会社が自由にルールを決めればいいのですが、代休の分の賃金を差っ引くのはあくまで代休を取得した時でないとダメだということです。まだ、代休を取っていないのに休日労働分を支払わない行為は、「代休がたまっている」のではなく、単に賃金を支払っていない状態」なのであって、賃金未払いにより労働基準法第24条に違反するということです。

法律的に考えて「代休を取得する権利」がたまることはあるかもしれませんが、「賃金支払いを猶予したまま月を越えて代休がたまる」という状況は本来あり得ません。


あと、一般的に「代休」と「振替休日」の違いが正しく認識されているケースは少ないのですが、「振替休日がたまる」という言い方を聞くこともあります。振休はそもそも事前に振り替える勤務日と休日とがそれぞれ特定されていることが前提です。「いつ休むのか決まっていない」振休など本来あり得ません(候補日を複数に絞っておくことはあり得ますが)。したがって、振休がたまるというのは理屈としてかなりおかしい状況です。多分、振休を代休の意味で使われているのだと思います。


以上から、いわゆる「代休がたまっている」会社は、労基署に勧告を受ける前に「休日労働分の賃金をいったん全て支払う」か、もしくは「一刻も早く代休の取得を命じてすべて消化させる」ということ早急に求められます。

2013-09-23

「残業代ゼロ」特区という報道の違和感


企業が労働者解雇しやすくして、さらに労働時間規制を緩和し残業代をゼロにすることも認められる特区の法案が秋の臨時国会で提出されるという報道があります。一定の年収以上の労働者、高度で特殊な能力・専門的な技術を持ち法規制にとらわれずに思い切り働きたい労働者を想定しているといいます。

現行法下において企業が労働者に対し時間外割増賃金を支払わなくてもよい場面は主に2つあり、1つは労働者管理監督者に該当するケース(※厳密には労基法第41条該当者)、もう1つはみなし労働時間制裁量労働制適用されているケースですが、みなし労働時間制裁量労働制はあくまで労働時間のカウント方法に関する特例であって、今回の法案は労働時間規制を緩和するといっていますから、労働時間規制を適用させない管理監督者に準じたものであるということになります。以前話題になって見送りとなったホワイトカラーエグゼンプションと似たようなものだと考えていいでしょう。

管理監督者労働基準法労働時間に係る規定が適用されません。経営者と一体的な立場で大きな裁量をもって働く訳ですから、経営者と同じように労働時間の枠に収めることが難しく、むしろその枠を超えて働く必要があり、また、経営者並みの裁量・権限があるので規制をはずしても特に本人の不利益にはならないという考え方です。もちろん相応の収入があることが大前提です。

そして労働時間の規制自体がないので、そもそも法定労働時間がありません(所定労働時間を定めるのはある意味企業の自由だと思いますが)。法定労働時間がないので残業(法定時間外労働)という考え方は当然あてはまりません。残業という概念はないのです。残業がないのだから残業代もありません。残業代ゼロ」なのではなくて、「残業代という項目」が初めからないのです。

考えてみれば、「残業が発生しているのに残業代を支払わなくてもよい」とされる法律は元々ありません。みなし労働時間制裁量労働制にしても、「みなし時間」が法定時間を超えていれば時間外割増賃金の支払いは必要になります。一方、管理監督者は残業自体が発生し得ないのです。

そう考えると、今回の法案に係る報道が「残業代ゼロ」と言われているのもおかしなものだと思います。

今回の法案が通れば、特区内においては労働時間の規制が緩和され、管理監督者と同様にその要件(権限や責任、職務内容、裁量、収入)が定められ、要件に該当する労働者労働時間規制の外で裁量をもって働くことになります。もちろん企業はそれら労働時間規制のはずれた労働者に対しても安全配慮義務を負うわけであり、実質的に労働時間を把握する必要がありますし、長時間労働によって過労死などが発生すれば責任を追及されることになります。また、実態として要件を満たしていなければ通常の労働時間に係る規定が遡って適用され、名ばかり管理職のケースと同じように残業代を遡って請求されるリスクもあるでしょう。

このように企業は労働時間規制を緩和されるとしても、今回の「残業代ゼロ」のような見出しの報道に惑わされて企業側に存在する責任を忘れてはいけません。また、報道する側は「残業代ゼロ」をことさら打ち出すのではなく、労働時間規制を緩和する対象者とその要件は労働政策として適正なのか、そして過労死等の労働災害を予防する為にはどのような規制が別途必要なのかがきちんと議論されるような形で報道するべきだと思います。

2013-06-08

身元保証書の注意点および身元保証人の責任の範囲


企業で人を採用する際、特に正規雇用社員の入社に際して身元保証書の提出を義務付けている会社は少なくありません。

この「身元保証」とは、従業員の行為によって会社が損害を受けた場合に、身元保証人がその損害を賠償するという内容の契約であり、会社と身元保証人との間で締結するものです。

金銭貸借の保証人とは異なり金額があらかじめ確定していないという点で損害額が予想できませんので、身元保証人を保護する目的から「身元保証に関する法律」において、その責任の範囲等が制限されているのです。


身元保証人をたてておけば会社は損害の全額を請求できるかというとそうではありません。法律において、

裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情をあれこれ照らし合わせて取捨する

とされており、実際には相当程度制限がかかるものと考えておくべきだと思います。



法律によれば、身元保証の期間を定める場合には5年を上限とし、5年を超えた部分は無効となります。もし契約に期間の定めがない場合には、保証期間は3年です。ちなみに契約の更新は可能ですが、就業規則に更新の必要性について明記しておかなければ、労働者から拒否されても会社側は何も言えませんし処分もできません。(そもそもあまり長期間にわたって身元保証書を提出させること自体、望ましい運用とはいえませんが。)



特に注意が必要なのは、身元保証契約の内容に変更があった際には、身元保証人にその旨を遅滞なく通知しておかなければ賠償責任を問えなくなる可能性がある点です。

通知すべき変更内容を具体的にいうと

1.労働者業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こす恐れがあることを知ったとき。

2.労働者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し、またはその監督を困難にするとき。

ということなります。さらに身元保証人はこれらの通知を受けた時は保証契約を解除することができます。

会社が上記通知義務を怠っていたとしても身元保証契約自体が失効することはありませんが、加重された保証内容を求めることができなくなりますので、実質的に契約の実効性が薄くなります。昇進したとき、職種変更したとき、遠隔地に転勤になった時などは通知すべきだと考えられます。現実に多くの企業において、この辺りの管理はできていないのが現状ではないでしょうか。



その他の注意事項としては、


短期の契約社員に対して身元保証書を求めることは、長期雇用を前提にしていると解釈されかねないことから望ましいとはいえないこと。

近年の労働者のメンタル不調によるトラブル増加を考えると、身元保証人に協力を求めるケースも想定されるので、身元保証人の要件に「親族であること」を規定すること。


などが考えられます。


なお、身元保証書の押印を実印で行い、印鑑証明の提出を求めることも企業の自由ですが、これから入社して働く労働者との信頼関係にも影響しますので、誤解のないよう説明し十分に納得を得ることが大切だと思います。

2013-06-03

なぜ始末書が必要なのか(始末書の法律実務)


労働者が不祥事を起こした時に始末書をきちんと提出させない会社が見うけられます。私は関与先の会社には必ず始末書をとるようにお願いしています。労働者に始末書を書かせることは法的にみて非常に重要な意味があるのです。


始末書を提出させる目的とは何でしょうか。もちろん本人の反省を促してけじめをつけることにより再発を防止するという目的はあるでしょう。しかしそれだけではありません。

最も重要な目的は、労働者が不祥事を起こしたことについて、本人直筆の書面の証拠を確保するということです。つまり、今後この労働者解雇せざるを得なくなった場面において、労働契約法第16条・解雇権濫用法理を充足させるべく、過去の労働者の非違行為の事実、および会社が指導を行ったという記録を残すことになるわけです。これにより、会社は再三注意・指導を行ったにもかかわらず、残念ながら改善がみられなかったということが言えるわけです。さらに労働者の弁明が書かれていれば、弁明の機会を与えたという証明にもつながります。性悪説で従業員の将来を疑うようなことはしたくないかもしれませんが、リスク管理の為には非常に大事なことです。



この目的を踏まえた場合、始末書の中身というのが重要になってきます。

一般的に始末書といえば、事の顛末を記載し、本人の謝罪の意や「今後二度としません」という誓約的な文が書かれるものです。この後半の謝罪や誓約が重要だと通常は考えるでしょう。しかし、法的な意味で言えば、大切なのは前半の不祥事の顛末の部分です。

極論をいえば、謝罪や誓約の部分はなくても構いません。紛争となった際にはむしろ本人の反省がみられないとみなされ本人が不利になる可能性も考えられます。

それよりも注意すべきことは、本人の自由意思によらずに会社が強制的に謝罪文を書かせてはならないということです。その意味でいうと、始末書の提出命令に従わない労働者に対して懲戒処分を科すことにも問題があるといえます。憲法第19条が保証する思想・良心の自由に反すると解されるからです。


もしも労働者が始末書の提出に従わなかったり拒否をする場合には、不祥事の事実のみについて記載するよう改めて命じ、これに従わない場合には懲戒処分も有りだと思います。

仮に労働者の提出してきた始末書の顛末の記載が事実と異なる場合には、書き直しを命じることも必要です。書き直しをさせた後、全てのバージョンの始末書を保管しておくと完璧です。



最後に1点注意ですが、始末書というものは通常、懲戒の「けん責」および他の処分において規定されるものであり、重大な不祥事の際に提出を義務付けるものです。

ですからさほど重大とはいえない軽微な問題行動についてまでいちいち始末書を提出させるわけにはいきませんが、解雇権濫用を否定する為には細かい記録の積み重ねが重要になりますから、注意書というような形式を使ったり、指導記録をつけていくことで対応していくのがよいと思います。

2013-05-09

「限定正社員」をめぐる大いなる誤解


ここ数週間、ニュースで「限定正社員」という雇用形態についての報道が多くなってきたようです。政府の規制改革会議が推し進めているようです。夏の参院選を考慮して安倍政権が「解雇規制緩和」政策を見送ったのでその代わりということでしょうか。

「限定正社員」の中身は以前ニュースで報じられた「準正社員」と同じものです。雇用契約によって職務・勤務地を限定することにより、事業所閉鎖など担当職務や事業所がなくなってしまった場合の解雇が容易になるということです。



私は以前の記事でも書きましたが、法改正を行わなくとも現行法のままでこの運用自体は可能です。職務限定・勤務地限定の雇用契約が結ばれ、その内容で適切に運用されている限り、事業所撤退等を理由にした整理解雇は客観的に合理的な理由を有する解雇として有効と認められます。

ただ、そうは言っても多くの企業は訴訟のリスクを恐れて職種・勤務地限定契約の運用に二の足を踏む状況なので、それならば統一した解雇ルールを法律で明文化することによって企業が安心して限定契約を運用できるようにしようという話であればまあ理解はできるのですが。



しかしながら、マスコミで報じられている「限定正社員」は、本来法律的にないはずの意味あいが勝手に付加されて違う方向にいっていると思われるので、それは違うだろうというところを書いておきます。



正規と非正規の中間「限定正社員」って? 普及策検討中(朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0506/TKY201305060006.html

正社員だけど、モーレツではなく、働く職種や地域が限られる。仕事がなくなれば解雇される可能性もある――。そんな「限定正社員」を広げる議論が安倍政権で進む。「働きやすさ」を高めるねらいがあるが、「解雇しやすさ」につなげる思惑ものぞく。

まず、これはタイトルからしておかしいです。法的に考えて、職種・勤務地限定の労働者がなぜ当然のように「正規と非正規の中間」になるのでしょうか。仮に中間に位置づけるとしてもそれは企業が個々に自由に決める問題であり、政府の有識者会議主導で政策として進める問題ではありません。

そもそも法的に正社員という分類はないのであって、限定正社員をあえて分類するならば、無期雇用労働者について職務・勤務地が限定されているのかされていないのか、という区分になります。どちらが上ということではなく、契約において何を許容し、何を得るのかをそれぞれの合意によって決める、ということです。

海外ではむしろ職務限定契約は一般的な契約形態であり、非正規的な取り扱いでは決してありません。もちろん仕事内容が決まっているのですからその仕事がなくなれば解雇されるのは正当であり、「解雇しやすさにつなげる思惑」も何も、整理解雇が容易なのは当然の帰結なのです。有識者会議の方々は「解雇規制緩和」のソフトバージョンくらいに考えているのかもしれませんが、これは解雇規制の緩和ではありません。契約の問題なのです。



労働契約に職務内容明記 限定正社員の雇用ルール素案(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1903L_Z10C13A4EE8000/

仕事の範囲が限られる分、賃金は従来型の正社員より安くなる。

なぜ職務が限定されると、当然のように賃金はこれまでの正社員より安くなるといえるのでしょうか。

そもそも日本では正社員の職務・勤務地が限定されず、企業の命令によって配置換え、転勤等が行われるがために賃金を仕事基準で決めることができず、結果として属人的な職能給という名の年功賃金を運用せざるを得なかった訳です。

限定正社員は仕事が限定されているのですから、賃金を仕事基準(つまり職務給)によって決めるのが本来のあり方なのです。この場合、年齢・勤続といった要素は基本的に入り込む余地はありません。

つまり、その職種を何十年やってきた専門職的な限定正社員(職務給)が、入社して2〜3年の限定のない正社員(年功給)よりも賃金が安くなるということは本来あり得ないのであって、そんなことが当然のごとく記事に書かれている時点で、しょせん限定正社員は「従来の正社員より安く解雇しやすく使えるし、パートや契約社員よりは士気があがるだろう」くらいの認識しか持たれていないのだと思われます。



限定正社員の運用の拡大は確かに多様化する働き方のニーズに対応できる可能性をひめています。しかし危惧するのは、誤解しているのが有識者会議なのかマスコミなのかは不明ですが、多くの誤解のもとに限定正社員が運用されてしまう危険性です。以下まとめます。


限定正社員の整理解雇が容易なのは解雇規制が緩和されている訳ではなく、従って経営者の恣意的な解雇は当然許されず、能力不足、非違行為などを理由とする解雇は通常通り厳格に判断されるということ

限定正社員は法的には正規・非正規の中間という位置付けはなく、あくまでこれまでの無期労働者の職務・勤務地が限定されているに過ぎず、契約内容は当事者によって決められるものであるということ

限定正社員を非正規雇用の延長として低賃金で使おうとする方向性が垣間見えるが、本来、限定なしの正社員に比べ一貫して同じ職種を続けることから高い職業能力の維持が期待できるのであり、職務給によって適正に処遇されることにより限定正社員全体のスキル向上につなげるべきであるということ



ぜひとも注意していただきたいと思います。

2013-05-05

喫煙者を採用しない企業に入社した後、喫煙が発覚した場合の解雇は認められるのか


以前、星野リゾートの「喫煙者を採用しない」という方針がニュースで話題になりました。ウェブサイト上の採用ページで応募者の喫煙の有無を確認し、元々喫煙をしない場合か、もしくは禁煙を誓約することを選択しなければ採用選考に進むことができないというルールです。

そして最近は同社と同じように、「喫煙しないこと」を採用の条件にするという企業が増えているようです。



これに関して、まず「喫煙を理由に不採用とすることは法的に許されるのか」という問題がありますが、企業には広く採用の自由が認められており、喫煙の有無は年齢や性別のように特に法律によって差別が禁止されているわけではありません。

また、喫煙行為は業務と全く関係がないとはいえず、採用条件とすることにも一定程度の合理的な理由が認められますから(作業効率・施設効率・職場環境など)、禁煙を採用の条件にしたとしても違法ではないと考えられます。



さて、この話題に関しては、もっと難しい問題があります。

禁煙を心に誓って入社したものの、結局我慢できずにタバコを吸ってしまう可能性がありますし、そもそも最初から嘘をついて入社する労働者もいるかもしれません。タバコを吸わないことを条件に入社したのに、実は入社後に隠れて喫煙していた事実が発覚した時に、はたして会社はこの社員を解雇できるのか、という問題です。

仕事中に会社内で喫煙をしていればこれは業務および企業の秩序維持・施設管理等に直結する問題であり、会社は懲戒処分を下して場合によっては解雇することも当然認められるものと考えられます。

しかしながら、例えば労働者業務中あるいは勤務時間外であっても会社内では一切喫煙をせず、プライベートな時間帯にのみ喫煙行為を行っていた場合にはどうでしょうか。

集中力の低下も起きず、タバコ休憩でちょくちょく席を立つこともなく、周りの同僚にタバコ臭で迷惑をかけることもなく、そして会社では喫煙しないので分煙の為の喫煙所という無駄なスペースが生じることもない状況です。

禁煙が採用条件だったわけですから当該労働者に対して喫煙行為を注意指導し、応じなければ懲戒処分を科すことは可能かもしれません。しかし、現実に喫煙行為が業務に一切支障をきたしていない状況では解雇まで行うことに合理性は認められないのではないかと考えられます。裁判になれば不当解雇と判断される可能性も十分にあり得るというのが個人的な考えです。

以上の点を踏まえて、禁煙を採用の条件とする制度の運用については十分に注意が必要だと思います。

2013-04-11

「解雇要件の緩和」と「金銭解決ルール」は根本的に違うはず


最近の政府が行う解雇規制緩和議論の報道をみていると、何だか色々なものが混同されていてきちんとした議論ができているのか疑問です。(実態が正しく報道されていないのかもしれませんが)

解雇をしやすくして雇用の流動性を」みたいなことが盛んに言われていますが、


1.解雇要件の緩和、あるいは解雇自由

2.金銭解決ルールの導入


これらは意味が異なりますが、色々な報道をみていると一体どちらのことを言っているのかよくわかりません。というより有識者会議の方々の多くはおそらく区別なく言っているのかもしれません。



解雇を有効に行う為の要件を思いっきり緩和させて、あるいは企業の自由解雇できるようにするのであれば、そもそも金銭解雇ルールは必要ありません。解雇は有効に適法に行えるわけであり権利濫用とは認められないのですから、金銭によって解決させる問題など存在しないのです。

現行の法律では、解雇が無効と判決が下った場合、職場復帰の方法しか認められておらず、それでは会社側も労働者側も不都合があるという場合に、法律で定められた金銭を会社が給付することによって解雇は無効だけれども労働契約は終了させるというのが金銭解決ルールであって、金さえ払えば無効な解雇が有効になるというような考えは誤りだと思います。

現行法でいうところの「客観的に合理的な理由」のない解雇は認められないので「違法・無効な解雇」「不当解雇」になるわけですが、契約関係については和解によって解消されることもあれば、原職復帰して継続される場合もあり得るのです。いずれにしても、解雇の有効・無効、客観的な合理性があるかどうかということと、労働契約が継続か終了かということは別の問題であって、「金銭解雇」「解雇自由化」と連呼されると、何だかまるで「理屈はともかく金を払えば解雇OK」のような印象を強くうけるのであり危惧するところであります。




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2013-04-10

早くも表面化。労働契約法「改悪」の余波


4月1日から改正労契法が施行されています。これでいよいよ有期契約労働者は、更新によって通算期間が5年を超えた時点で無期転換申込権を獲得できるようになったわけです。当然ですが、この法改正をうけて多くの企業は契約社員の更新年数に上限を設けるであろうことが予想されます。


で、以下のニュースです。

労基法違反:首都圏大学非常勤講師組合、早大を刑事告発へ(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20130407k0000e040126000c.html

一見すると「労働基準法」違反ということですが、発端は今回の労契法改正です。

記事によれば、早稲田大学は今回の労働契約法改正をうけ、これまで更新上限のなかった非常勤講師などの更新年数に5年の上限を設ける内容で就業規則を改定したようですが、手続きの過程で労働基準法によって義務付けられている労働者過半数代表からの意見聴取を適法に実施しなかったようで、労働組合は近く労働基準法違反容疑で刑事告発をするといっています。

こういう事件があると、労働基準法は刑罰法規だったのだということが改めて認識されるのかもしれませんが。

違反容疑を具体的にいうと、過半数代表者を投票で選ぶ際に、今回の改定で不利益を被ると考えられる非常勤講師や客員教授に対して手続き書類を見せず、投票結果も公表せず、つまりは手続きの過程を一切公開せずにこっそりと進めて規則改定・届出を終わらせたということです。

実際のところ過半数代表者の選出や意見聴取をきちんと行っていない会社なんぞ世の中にいくらでもありますし、法第90条違反であれば30万円以下の罰金で済むといえば済むわけです。

しかし、記事によれば現在4,300人いるという非常勤職員のうちの少なくない数の職員について、おそらく今後も有期契約は更新されるであろうという合理的な期待が発生していたと考えられるわけであり、一方的に5年の上限規制を設ける改定はかなり重要な労働条件の不利益変更だといえます。

確かに改定に際しては相当な反発が予想されるのですが、だからといってコソコソばれないように進めたうえ結果的に刑事告発されてしまったのでは、後々に不利益変更の有効性を争うことになればコソコソ行為自体が不利な材料になるのだと思います。

更新最長5年制限を検討していた他の大学も労働組合の反発によって撤回・凍結しているということですが、多くの職員にとって重要な不利益変更である以上、ある程度時間と労力をかけた説明・協議のプロセスは避けて通れません。無理・強硬に進めれば不利益変更法理(労働契約法第10条)によって無効とされかねません。



就業規則による更新上限の定めは、新たに雇い入れる有期契約労働者に対しては、契約自由の原則により全く問題はありません。また、定めをする時点で既に雇用している場合であっても、まだ更新を繰り返していないような労働者については合理的な更新期待が発生していないと考えられますから不利益変更にはあたらないといえます。

ただし更新を繰り返している労働者については合理的な期待が発生している可能性が考えられるため、少なくとも全員と協議を行ったうえで一人ひとりの合意を得るのが望ましく、雇用契約書においても上限の条項を入れることによりリスクをなくしていきます。合意を得られないのであればそれ以上更新を重ねるのはさらにリスクが高まりますので現在の契約期間までで満了とし、雇止めの有効性の問題に移っていくものと考えられます。


今後、有期労働者を雇っている多くの企業でこのようなトラブルが発生する恐れがあります。今回の法改正がなければ何事もなく更新され満足していた方も相当数いたはずですが、法改正を推し進めた方々はこの状況を見て一体何を思うのでしょうか。




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2013-03-16

「準正社員」「賃金を抑え解雇しやすく」中途半端な政策でお茶を濁すのか


安倍内閣に代わってからというもの、「解雇規制緩和」への流れが加速しているように感じます。それ自体に異論はないのですが、気になるのは何とも中途半端なというか、意味不明というか、またしてもグダグダな政策が進行中のこの状況です。

まずは具体的なニュースから。

「準正社員」採用しやすく 政府がルール(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS13038_T10C13A3MM8000/

政府は職種や勤務地を限定した「準正社員」の雇用ルールをつくる。(中略)職種転換や転勤を伴わない分、企業は賃金を抑え、事業所の閉鎖時に解雇しやすい面がある。


この記事がいうところの、「準正社員」なるものを設ける企業側のメリットは「賃金を抑えられる」ということと、「事業所を撤退・閉鎖したときに解雇しやすい」ということのようです。この「準正社員」の設置によって企業は採用を増やすだろうということです。

はっきり言いますが、まず正社員であろうが契約社員であろうがパートであろうが、賃金を抑えるか抑えないかは完全に企業の自由です。どんな賃金制度を運用するのか、どんな契約で雇入れるのか、最低賃金法に違反しない限り企業の裁量で好きにやればいいのであって、決して「準正社員」というカテゴリーを法令でつくらなければ賃金を抑えられないなどということでは断じてありません。

次に、事業所撤退・閉鎖時の解雇についてですが、現行法であっても、入社の際に「職種限定」「勤務地限定」という内容で雇用契約を結んだ場合、実際にそのような制度が企業内で適切に運用されている限り、撤退・閉鎖時に雇用を継続できないという理由で解雇を行っても不当な解雇とは判断されません。企業は契約によって限定された職種・勤務地の範囲内において解雇回避努力を尽くせばよいのです。

つまり、「賃金を抑え」「事業所閉鎖時に解雇しやすくする」ために、わざわざ「準正社員」という位置付けをつくる必要は全くないということです。

(※職種・勤務地限定契約の場合の解雇は、現状ではその都度裁判所の判断によるため、統一した解雇ルールを法律で明確化しておくということであれば話は分かるのですが。)



さらに同記事

企業が正社員とパートの中間的な位置づけで地域や職種を限定した準正社員を雇いやすくなるよう政府が雇用ルールをつくる。

準正社員の賃金水準は正社員の8〜9割だが、期間の定めのない無期雇用で、社会保険にも加入できる。パートや派遣などの非正規社員より生活が安定する。


繰り返しますが、労働者賃金水準をどうするかは企業の自由ですし、正社員の定義なんて企業によってバラバラです。賃金を「正社員の○割」とすることに意味なんかありません。

そもそも労働法上、「正社員」という概念自体ありません。労働基準法では「労働者」とのみ定めがあり、それが無期と有期に分かれるだけですし、パート労働法において労働時間の短い労働者を「短時間労働者」と定義しているくらいの分類しかありません。

要するに、「正社員とパートの中間的な位置づけ」と言われても、そんな形式は法律上ありえないのです。

「期間の定めのない職種限定・勤務地限定の労働者」を雇いたいのなら現行の法律でできますし、賃金も企業の好きに決めることができるのです。わざわざ「準正社員」をつくったからといって企業が今までより雇用しやすくなるということは考えられません。

さらにいうと、社会保険はパートや有期労働者であっても一定の要件を満たしたら必ず加入させなければならない決まりです。企業が法令を無視して加入させていないのであれば、それは法律ではなく監督行政のあり方の問題です。「準正社員」だから社会保険に加入できるという理屈は全くをもって意味不明です。



今回の報道にあるような「準正社員」なる極めて意味の薄い中途半端な雇用形態を創出したところで、かえって企業の労務管理が複雑化するだけで企業にもメリットはありませんし、当然労働市場の流動化にもつながらず、労働者側にもメリットはないものと思われます。

現状の正社員の解雇規制には一切手をつけず、同一労働同一賃金の問題も放置したままで、実質的には非正規雇用ともとれるような雇用形態をもう1つ増やすしたところで、そんな小手先の政策にたいして意味はありません。






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2013-03-11

解雇規制の緩和は、企業の人事権・業務命令権の低下と引き替えである


政府の有識者会議で、「正社員を解雇しやすくすべきだ。」という意見がでて、ネットを中心に話題になっているようです。


「正社員を解雇しやすく」 安倍政権の有識者会議で議論
http://www.asahi.com/business/update/0307/TKY201303060639.html


正社員を解雇しやすくする目的はもちろん労働市場の流動化です。こういう議論になると一般的に企業はウェルカムですし、逆に正社員として働く労働者からは批判されることの方が多いかと思われます。

現状の雇用ルールのまま、ただ解雇規制だけが緩和されるという話であれば、確かにそれは企業にとってのみおいしい話であって、労働者からすれば何もいいことはない、リストラが助長されるだけだしブラック企業がますます労働者を使い捨てにするのではないか、と考えるのは当然です。



しかし、解雇規制を議論するうえで忘れてはいけないのは、日本の企業に広く認められている包括的な人事権、業務命令権は、長期雇用保障が前提になっているということです。

ちなみに人事権、業務命令権というのは、具体的には例えば異動・配転命令、あるいは上限なしの残業命令などです。基本的に労働者は、企業から出張、配置換え、転勤、職種変更などを命じられたら従わなければなりません。残業命令も当然です。従えないのなら、その会社から去らなければならない、というレベルの強力な企業の権限です。ときには長期雇用の見返りとして労働条件の引き下げ(不利益変更)さえも認められることになります。

つまり、

労働者がいったん入社したら煮るなり焼くなり企業の好きにしていい、その代わり定年まで責任をもって雇いなさい。」

というのが日本の雇用システムなのであって、裏を返せば、解雇規制を緩和するのなら、今までのように煮るなり焼くなり企業の自由にさせるのはどうなのか、今まで通り労働者に対して広範な権限を行使したあげく解雇規制緩和による解雇の正当性のみを主張するのは許されるのか、ということが問題になると思います。



上記の雇用システムはもともと法律に規定されていたわけではなく、日本の裁判所の判断によって形成されてきたシステムです。

というのも、労働基準法等の法令によれば、「正社員の解雇を容易には認めない」というような規定はなく、1ヵ月前の予告さえあればいつでも契約を自由に解除できるようになっていたのですが、いざ裁判になると、解雇権濫用法理(あるいは整理解雇法理)が適用され、法律自由とされていたはずの解雇が裁判所の判断によって厳格に規制されてしまうという流れが、世界でも稀なくらいの強力な解雇規制として一般化していったのです。(※現在は労働契約法によって解雇権濫用法理は法定化されています。)

一方、日本の企業の人事権、業務命令権といった労働契約に付随する権限もまた裁判所によって広く認められてきたものであります。

解雇規制の緩和が政府主導で法令によって実現されることになれば、引き換えに企業が現在保有する強大な人事権、業務命令権に対して司法面での(あるいは立法面での)影響は及ぶ、という視点はもっていたほうがよいと思います。




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2013-01-15

内定辞退は法的に許されるか


最近の企業の厳選採用と、熾烈さを増す新卒の就活においては、少しでも多くの企業に応募し、複数の内定を得てから入社する企業を選ぶというのは当たり前でしょうが、同時に内定を辞退する行為は避けて通れないことになります。

内定を辞退する際は少しでも早く連絡するとか、必ず人事担当者本人に直接伝えるとか、後でお詫び状を出すべきだとか、そういったマナー的なことはともかく、法律的にはどうなのかということは少なからず気になるところです。


企業側から見れば、内定を通知した段階で労働契約は成立しており、内定通知以降は合理的な理由がない限り簡単に取り消しはできないことになります。

※詳細は過去記事を参照
内定と内々定の取り消し - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


では労働者も内定通知以降は取り消しができないのかというとそうではありません。

企業は新卒採用において、倫理憲章の定める解禁日以降に一斉に内定を通知します。多くの場合、内定式に参加させて内定証書を交付し、そして学生に内定承諾書(内定誓約書)を提出させます。

よくこの承諾書を提出したことによって内定辞退が難しくなるのではないかと思われがちですが、実際はほとんど影響はありません。


労働者側からみた内定の辞退は法的にいえば労働契約の解除であり、通常の会社員が退職願の提出によっていつでも会社を自由に辞められるように、学生はいつでも内定を辞退できるわけです。もちろん違法性などは全くありません。

企業側は例えどんなに強力な誓約書を用意したとしても、1人の人間を強制的に1つの企業に縛りつけることは不可能だということです。


では学生は安心して心置きなく内定をたくさんもらい、そしてゆっくり考え、ぎりぎりに辞退の意思を伝えても問題ないのかといえば、それも違います。


内定は労働契約である以上、解除はできますが、解除をすれば契約不履行ということになります。企業側に損害が生じていれば法的には企業が損害賠償を請求することは可能です。

もちろんその際は損害額や、内定辞退と損害との因果関係などについて会社が立証する必要がありますし、損害といっても既に手配した研修費用であるとか、実際に使用した資料、設備等に係る費用であるとか、そこまで金額的に大きなものとは考えられません。とはいえ、絶対に請求されないと断言はできないのです。

人事担当者にしても、就活生がいくつも内定を得てから選んでいる現状は百も承知なわけで、筋を通せば法的措置などは考えないのであり、やはり内定辞退する場合は最大限誠意をもって対応すべきだという、法律の話をしていても「内定辞退」については結局はマナーの方が大事だという結論に至るわけです。




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2012-10-04

請負・業務委託と直接雇用(労働者)の判断基準


企業は雇用リスクを回避する手段として、雇用契約ではなく請負(業務委託)という法形式を使うことがよくあります。

雇用リスクとは

・ 社会保険などの加入義務
労働基準法等に定められた義務(残業代、有給休暇、最低賃金、安全衛生など)
解雇した場合の訴訟リスク


などのことです。請負の外注扱いにしてしまえばこれらの雇用リスクは生じません(※安全衛生や労災の義務は一部発生しますが)。


加えて最近は、派遣法の改正(30日以内の日雇い派遣禁止)、労働契約法の改正(有期雇用の上限5年規制)など企業の人件費の柔軟な調整を妨げるような法改正が相次いでいます。

派遣法改正によって、事業の軸を人材派遣から請負にシフトしている人材会社も少なくないと思われますし、また、有期雇用の5年超え無期転換ルールについては6ヵ月以上のクーリング期間が設定されている為、その期間を一時的に請負・業務委託にしてしまう会社も今後現れるかもしれません(このやり方は脱法手段であり認められない旨が通達されています。)



しかし、たとえ請負契約という名称の契約を締結していたとしても、結局は実態が全てです。労働基準法上の労働者に該当すると判断されれば、いくら請負だ、業務委託だと主張したところで偽装請負とみなされ、労働者としての取扱いを求められます。とりわけ個人事業主への外注に関しては十分に留意する必要があると思います。

これは請負業者、個人事業主などの労働者性」の判断といえる問題ですが、請負と労働者の線引きはなかなか難しい問題です。

日本では、労働者派遣は派遣法、職業紹介や労働者供給は職業安定法といったようにそれぞれ規制する労働関係法令がありますが、請負を直接規制する労働法はありません。個々の通達や判例などを参考に個別に判断する必要があります。



労働者性の判断基準については様々ありますが、特に重要なことは「使用従属性」があるかどうか(※つまり指揮監督下の労働なのか、そして報酬が賃金として支払われているかどうかの2つ)ということになります。

特に重要と思われる項目を以下に挙げます。


労働者に該当すると判断されるポイント
1.業務の内容・遂行方法について具体的に指示・命令を受け管理されている。
2.勤務時間、勤務場所を指定され管理されている。
3.報酬が時間をベースに計算されている。



労働者ではないと判断されるポイント
1.仕事の依頼や業務指示に対して諾否の自由がある。
2.他者との代替性が認められている。



これらが機械的にあてはめられるのではなく総合的に考慮されることになります。

過労死や精神疾患、業務上の事故などが発生すれば、労働者なのか請負なのかによって企業の責任、本人や遺族の負担は全く異なってくる大問題です。当然ですが、偽装請負のリスクは決して小さくありません。




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2012-08-23

「キラキラネームは就職に不利」は本当か


当て字や変わった読み方の子供の名前は最近「キラキラネーム」といわれたりしますが、親がよかれと思って特別な思いをこめて付けた奇抜な名前が就職活動の場面で不利になるという話があります。

大手企業役員 「正直キラキラネームの学生の採用ためらう」│NEWSポストセブン
一部抜粋

人事ではエントリーシートや面接の際に、キラキラネームの人にはどうしても厳しくなってしまう。試験結果が同程度なら、やはり一般的な名前を優先して採用する。前例があるのに人事は何を考えてんだ、と責められる可能性があるからです

採用試験の際にキラキラネームを気にするようになった企業は少なくない。ある大手メーカー役員は、「いいにくいことだが」と前置きし、「そういう名前を付ける親御さんの“常識”はどうしても本人に影響してしまうからね」と語った。



解雇規制の厳しい日本では企業がいったん労働者を雇ったら辞めさせるのは本当に容易ではありません。これほど人を雇うことがリスクとなる国はなかなかないでしょう。出口が規制されている以上、入口である採用時点において企業は想定し得るあらゆるマイナス要素を判断材料にするのは当然です。

名前がその人の資質・能力・養育環境に関係するのかどうかはどれだけ議論してみても仮定の話でしかありません。どんなに奇抜な名前を付けられても有能な人材はいくらでもいると思われますし、その逆もまた然りです。

ですが従業員の採用というものは、特に大手の新卒採用においては費用対効果のバランスになってきます。時間とコストをかけて全ての応募者を様々な視点からじっくり選考できれば、学歴や転職歴などに惑わされずに採用の精度を上げることも可能ですがそれは現実的ではありません。

企業が効率的に採用活動を行う上で、名前が明確な採用基準とはならずとも検討材料の1つとされたり参考にされていたとしても、それが合理性がない行為だとは思えません。

企業には原則として採用基準等に関する採用の自由が広く認められており、誰をどのような基準で採用するかは一定の法律に抵触しない限り制限を受けないのです(例外として性別、年齢、障害者、思想・信条、労組加入など)。名前で解雇はできないのだから名前で採用可否を決するという企業が実際にあったとしても不思議ではありません。


なお補足として、実務面から考えると、単純に名前を「読めない」ことによる具体的な不都合は少なからずあると思われます。人事管理面からも健康保険などの手続き上からも不便であることは間違いありません。




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2012-08-09

「我が社にタイムカードは不要」はアリなのか


某婦人下着メーカーでは、社員の出退勤を管理するタイムカードがないという記事です。

no title

一部引用

『遅刻早退私用外出のすべてを社員の自由精神に委ね、これを給料とも、人事考課とも結びつけない』

 それからである。職場の雰囲気が一変し、皆一生懸命に働くようになったという。

以来、今日に至るまでタイムカードがない。約50年前にできた「相互信頼の経営」は、いまも脈々と流れている。

 新入社員の中には、タイムカードがないことに驚く社員もいるが、それだけに、かえって自ら時間管理しなければという気持ちになるそうだ。やはり、自主的な“やる気”を引き出すのは、「性悪説」より「性善説」のほうが効果が大きいようだ。

 「タイムカードがないのは、経営者と従業員、上司と部下、同僚同士が互いに信用しようとする思いを持っていることの証。こうした信頼が、従業員の仕事へのモチベーションの維持にもつながっている」(広報部)と話している。




従業員を信じてタイムカードをつけないという姿勢は素晴らしいことですが、いちおう誤解があるといけないので書いておきます。



まず大前提として、タイムカードをつけるかどうかはともかく、事業主には労働時間を必ず把握する義務があります。

これは出退勤時刻や遅刻・早退・私用外出などを労働者に委ねるかどうかにかかわらず、また、時間外・深夜割増賃金労働者の申告通り全て支払うかどうかにかかわらずです。

労働時間を把握・算定する目的は、給料を計算する為だけではないからです。



根拠となる法令は以下です。


労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」

この通達では、労働時間数が何時間かというだけでなく、始業時刻、終業時刻がそれぞれ何時なのかまで会社が把握する義務があることが明確に定められています。

また、労働時間の記録の方法については、管理者が現認して直接記録するか、タイムカード・ICカードなどの客観的な記録(勤怠管理システムを含む)によるのが原則であり、自己申告による記録は例外です。仮に前述の会社が労働者の自己申告によって記録しているのであれば、実際の労働時間と合致しているのかを必要に応じて実態調査する義務があります。

また、この通達によれば、労基法上の「管理監督者」と「みなし労働時間制」の対象者に関しては労働時間把握義務はありませんが、健康確保の目的から適正な労働時間管理を行う義務があるとされており、また、裁量労働制の対象者については、「労働省告示第149号」によって、どの時間帯に何時間くらい在社していたか出退勤時刻あるいは入退室時刻の記録によって把握すべきとされています。

ですから労働時間把握算定義務のない管理監督者みなし労働時間制の対象者についても、結局はタイムカードなど一般の労働者と同じ方法によって記録をとることが現実的なのです。



さらに

労働基準法第108条においては、すべての労働者について賃金台帳を作成する義務が規定されており、その中の項目として労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数がありますから、この条文からも会社に労働時間把握義務があることは明白です。



なぜこのように会社が労働者労働時間を把握・管理する必要があるのかといえば、会社は労働者の生命、身体の安全、そして健康を確保するという公法上・私法上の義務を負っているからです。労働者の申告を信じるかどうか、時間管理を労働者に全て委ねるかどうかということは全く別の問題です。

もちろん前述の会社も、タイムカード以外の何らかの方法によって労働時間を管理しているはずだと思いますし、残業時間については残業申請書・記録簿などによって別途管理することが可能です。

仮に労働時間を把握せずに問題が生じた場合、例えば労働者が虚偽の申告をしていた場合(長時間残業をして全く申告しないなど)、発覚すれば会社の責任が問われます。未払い残業代を請求される事案や、長時間労働による過労死について会社の管理責任が争われる事案では、会社がいかに適正な労働時間管理を行っていたかが重要になります。

くれぐれも冒頭の記事を読んで、「労働者に全て任せれば労働時間を把握する必要はない」などと考えないようご注意ください。



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2012-08-06

5年を超える前に雇止めすれば問題ないという勘違い<改正労働契約法>


先週、改正労働契約法がとうとう可決、成立しました。有期雇用契約の労働者(契約社員)が同じ会社で5年を超えて反復更新された場合には、本人の希望により無期雇用(つまり正社員)への転換を企業に義務付けるという例の話題の法改正です。施行は来年の4月です。

この法改正による世間の反応はというと

「そんな規制したら、会社は5年経つ前に更新打ち切るに決まっているでしょ。」

「これまで長年更新されてきた人がみな5年以内で契約打ち切られて失業者が増える。」

という声が大多数のようです。今回の法改正が「5年以内の雇止めの促進」につながるというわけです。確かに企業は概ねそのように動くと思います。ただし、本当のところはそんなに単純な話ではありません。



今回の労働契約法の改正は、多くの企業や労働者大きな誤解を与えかねない法改正だと思っています。

というのも、現実として今まで企業は有期雇用契約を何年も実質上限なく更新してきました。そして今回の改正で、上限の5年を超えた場合には無期雇用に転換しろといわれています。裏を返せば、「通算5年経過時点までに更新を止めさえすれば、有期雇用を何回更新してどう取り扱おうが基本的に企業の自由だ」という間違った認識を企業と労働者に与えかねないのであり、少なくとも多くの労働者はそう考えている状況です。

しかしながら、有期労働契約は本来、臨時的・一時的な業務を行わせるための雇用形態であり、そもそも常用的な労働者を雇い入れることを前提としていません。にもかかわらず現実には多くの企業が恒常的業務のために有期労働者を雇って反復更新を重ね、そして都合のいいときに契約を打ち切るという法の趣旨に反した運用を続けているのであり、裁判では実質「期間の定めのない雇用」と同じだと判断され解雇法理が適用されて雇止め無効とされるケースが少なくありません。例え上限5年に達していなくとも、「無期雇用と判断される可能性」も「雇止めを無効とされる可能性」も十分にあるのであり、5年を超えたら「可能性」どころでなく問答無用で無期転換を強制されるということなのです。

しかも今回の改正では、合理的な理由がなければ雇い止めはできないとする「雇止め法理」が明文化されています。これまで裁判で示されていた雇止め法理が法律に明文化されることによって、これまで以上に雇止め時の正当な理由が重要になると考えられます。

したがって、有期雇用契約が5年を超える前に雇止めをすれば何も問題ないなどという考えは大きな間違いであり、むしろこれを機会に自社の有期雇用の運用の適正化について真剣に検討すべきであることがお分かりいただけると思います。

当然ですが、無期転換を回避するための5年雇止めは合理的な理由とはいえません。厚生労働省告示に基づき労働者が雇止め理由証明書の交付を会社に請求した場合には、まさか雇止めの理由を「無期転換回避の為」とは書けませんので、きちんと合理的な理由を明示することが求められます。



さらに注意したい点は、今回の改正は通算期間の長さを基準にして無期転換の義務を課しており、ともすれば通算期間が長いほど(更新回数が多いほど)無期雇用に近づき、逆に通算期間が短ければ(更新回数が少なければ)有期雇用として認められやすいとの誤解が生じかねないということです。

過去の判例では、まだ1度も更新していない有期契約を1年終了時点で最初に更新拒否した場合であっても、継続雇用への合理的な期待があったとして雇止めが無効とされたケースがあります。必ずしも通算期間や更新回数だけで雇止めの有効性が判断されるわけではなく、雇用の実態を総合的に考慮して判断されるという事を忘れてはいけません。



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2012-07-24

事業主があっせんに応じることにより労働審判を回避するメリット


労働トラブルが起こった際に最も重要なことは冷静さを失わないことです。

オーナー企業の場合は特に顕著だと思いますが、労働者が会社に対し何らかの具体的な措置を講じてきたときに事業主側が「雇ってやったのに恩を仇で返された」とばかりに感情的になり、徹底抗戦の構えをみせることが少なからずあります。

しかし、労働事件において、徹底抗戦して会社にとってプラスになることはまずありません。できることなら多少妥協してでも早急にカタをつけてしまう方がはるかにいいといえます。


労働者が講じる手段の1つに、労働局の行う「あっせん」という話し合いの手続き(裁判外紛争解決手続き)がありますが、労働者があっせんを申請した場合の会社側の参加率はかなり低いといわれています(大体6割くらい)。両者の参加によってあっせんが開始されたとしても、和解に至る確率もまた低いのが現状です。これは、あっせんへの参加が原則自由であること、そしてあっせんを取り仕切る「あっせん委員」に裁判官のような判定を行う権限が与えられていないことに起因します。


「どうせあっせんに強制力はないのだから積極的に話し合う必要も、譲歩する必要もない。」

と会社が考えるのも理解はできます。

ただし、ぜひとも注意したい点があります。


あっせんを申請する労働者の多くは、その先の労働審判を見すえた上で行動しています。そして、労働審判申立書には、それまで当事者間においてされた交渉その他の経緯を記載することになっています。労働者は当然そこに、事業主があっせんに応じなかった事実を記載し主張してくるでしょう。

つまり、労働者は紛争を解決すべく和解に向けて努力をしたが、会社側が誠意をもって対応しなかったために労働審判の申し立てに至ったという判断材料をもとに労働審判委員会が心証を形成してくる可能性も十分に考えられますし、さらにその後の本訴に影響を及ぼす可能性も否定はできないのです。


また、現状ではあっせんにおいて合意に至った場合の解決金の金額は低水準となっていますが、労働審判に進めば法的争点が明確にされ判例を踏まえたうえで審理が行われることになります。これはつまり、あっせんのときよりも会社にとって不利な結論になる可能性が高くなることを意味します。あっせんの段階で和解に応じていれば30万円の解決金で済んだところ、労働審判に進んだ為に100万円を支払うはめになったというような話は決して珍しくないのです。



もちろん会社側が「とにかく譲歩をして和解するつもりはない、費用がかかってもいいからどうしても白黒はっきりつけたい。」という考えをもっているのであれば、無理にあっせんに参加する必要はないかもしれません。むしろ全く譲歩をする意思がないのにあっせんに参加することはかえって不誠実な行為とも考えられます。

一刻も早く紛争を収束させ本業に専念したい、和解金額を抑えたいという場合には会社側も譲歩の姿勢をみせて話し合いに応じることこそ実はメリットがあるということがまだまだ理解されていないように感じます。

2012-07-13

「40歳定年」構想の本質を考えてみる


昨日、当ブログに数時間のうちに凄まじい数のアクセスがあり、リンク元をたどったところ、ヤフートピックスの「40歳定年」の記事からのアクセスであることが判明。


※繁栄のフロンティア部会報告書
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20120706/shiryo3.pdf:title


野田佳彦首相を議長とする国家戦略会議の分科会が、将来の構想を報告書にまとめたようで、かなり話題になっているようです。

皆が生き生きと新しい分野にチャレンジでき、人材が最大限活用され、安心して子育てもできる環境も整い、家族を含めたコミュニティーの互助精神による心の豊かさと、高くはなくとも緩やかに成長する経済の豊かさが両立している社会

このような社会を形成するために、40歳定年が必要なんだそうです。
この件についてちょっと書いてみたいと思います。



定年を40歳にするとはどういうことか

定年とは、ある一定の年齢に達した時に自動的に労働契約が終了する(退職)という労使の合意によって決められる制度です。

定年を定めるか定めないかの判断は企業の自由であり、また、定年を何歳にするのかも法律で決まっている最低年齢(現行60歳)をクリアすれば任意に決められます。

「定年を何歳にするかなんて国が決めることじゃない。」という意見がありますが、国は定年年齢を決めているのではなく、定年を企業に好き勝手に決めさせると雇用政策上まずいという判断から最低年齢という規制をかけているわけであり、国が一切口出ししないということであれば、企業は25歳であろうが30歳であろうが自由に定年を設定できることになります。



なぜ定年を下げた方がよいという話がでてくるのか

建て前の話は置いときまして。

日本では、成果主義が浸透したといわれる近年でも年功序列型の賃金体系が依然として残っており、若年層に比べて圧倒的に高い中高年労働者賃金は企業にとって大きな負担となっていますが、一方、能力面で見ると、40歳以降の能力・スキルの伸びは40歳以前に比べ鈍化するのが一般的であり、賃金とパフォーマンスが比例しないものと考えられます。(※中高齢者の雇用が若年層の採用抑制、昇給の抑制に影響していることは否定できません。)

はっきり言えば、企業は40歳以上の労働者のうち有能なパフォーマンスの高い人だけを都合のよい時まで残し、それ以外は辞めてもらいたいと考えていますが、現在の日本の解雇規制の中ではそれは容易ではありません。

年功賃金解雇規制を前提とする日本の雇用システムにおいて、有無をいわさず自動的に高齢労働者を雇用関係から外すことのできる定年という制度は、企業にとって今までもこれからも必須のものといえますが、現行の定年年齢を引き下げることで企業側にとってより効率のいい人材戦略をとっていきたい(つまり安くていい人材だけを確保し、それ以外は放出)という財界からの要請があるのではと勝手に推測する次第です。



40歳定年にすれば、本当に全ての国民が75歳まで生き生きと安心して働ける社会を形成できるのか

そうなるとは思えません。

この議論の中で、将来的に雇用は有期契約を基本とすべきといわれているようです。40歳定年後はみんな有期労働契約を更新することによって75歳まで働くことを想定しているようです。これは有期労働契約というものを大きく履き違えています。

有期労働契約とは本来、臨時的に発生する業務の為に、あるいは一時的に必要なスタッフ数を確保する為に雇入れることを前提としている雇用形態であり、企業がこれに反する目的(つまり恒常的な業務に使用し、都合のよいときに更新を打ち切る目的)で有期契約労働者を利用している現状があるからこそ雇止めの問題が絶えず発生しているのです。

定年年齢を40歳とし、雇用を有期契約中心にしていくことこそ、まさに企業にとって都合のよい人材を都合のよい期間だけ使用できるという企業側の要請に即した雇用システムであり、今回掲げられている構想とは全く逆の不安定な方向へ進むものと考えられます。



40歳定年になったら中高年はみな職を失うのか

「40歳を過ぎてからの職探しがどれほど厳しいと思っているのか」という悲痛な意見もみられますが、全ての企業が一斉に定年を引き下げることになれば、パフォーマンスの悪い高給取りの社員が大勢退職となり、企業はその分の人件費を別の雇用に充てることができますので、定年再雇用になる社員も少なくはないと思われます。一方、定年再雇用されなかった社員についても別の何らかの職に就くことはある程度可能なのではないかと思われます。

定年再雇用者の中の一定数の優秀な社員は高い賃金で厚遇されることになり(イメージとしては年俸制のエグゼクティブ)、そして大多数はこれまでよりはだいぶ賃金水準は落ちることが予想されます。もちろん有期契約である以上、安定性はありません。これは優秀な社員についても同様です。この意味においては確かに労働市場は今より流動化するのでしょう。



今回の報告書の構想を目指すためには本来どうするべきなのか

定年とは雇用における年齢差別です。年齢のみを理由に雇用関係を終了させるのです。それがいいか悪いかはともかく、新卒一括採用、年功賃金解雇規制という雇用システムの中で、定年という制度が果たしてきた役割は大きいといえます。

今後、年齢に関わりなく能力・技能によって広く高齢者まで活躍できる社会を目指すのであれば、これは年齢差別をなくすということであり、定年規制を廃止するのが本来の正しい方向性ではないかと思います。定年を40歳にするということは、むしろ年齢差別を強化することとも受け取れますし、それと有期雇用契約を中心にしていくという考えとの間にはもはや整合性は見られません。

また、定年を廃止することと併せて採用や退職、賃金の決定等についても年齢的要素を排除する必要があり(ある意味においてはアメリカの職務給的運用)、何よりも現行の解雇規制に手を加えることが必須であると思われます。

年齢差別を廃止し、20歳でも80歳でも能力があれば正当な評価を受けて活躍できる、それは反面、定年までの雇用保証というものはもはやなく、本人のパフォーマンス次第では退場を余儀なくされることも当然あり、しかし不当な解雇・雇止めはもちろん許されず、そして流動性のある労働市場が存在する、そのような社会にするために果たして「40歳定年」が必要なのでしょうか。



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2012-06-07

管理監督者問題は2段構えで対応


先月、名ばかり管理職について書きました。

人事権のない管理職や管理的業務の少ない管理職、給料が部下とあまり変わらない管理職は労働基準法上の管理監督者には該当せず、したがって残業代の支払いが必要な為、管理職だからといって残業代支給しなくてもよいと安易に考えるのは危険だといいました。

詳細は過去記事を参照
いまだ多くの企業で問題ありの「名ばかり管理職」 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



実はこの管理監督者の範囲については、監督行政と裁判所の判断に微妙な違いがあるというのが今回の話です。

両者の違いを端的にいうと、裁判所の方が監督行政に比べ判断基準が厳しい、つまり管理監督者の範囲がせまいのです。

以前の記事のとおり、管理監督者の範囲については行政通達において明らかにされており、労働基準監督署は通達にそって企業を指導してきますから、「対労基署」という観点からいえば、通達ベースで社内体制を整えていけばよいことになります。

裁判においても通達で言及されている管理監督者性を判断する為の3要素、「職務内容、権限・責任」「勤務態様」「待遇」に着目して判断されることになると考えられますが、それぞれの基準が異なります。



近年のマクドナルド訴訟において、東京地裁で店長の管理監督者性を否定され、結果的に高裁で会社側の敗訴的和解が成立したといわれていますが、このときの判決における行政との違いの大きなポイントは以下です。


1.管理監督者は企業全体としての経営方針の決定に関与することが必要

行政通達では確かに「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場」にあることを管理監督者の条件としていますが、裁判所はそれを拡大解釈して、店舗だけではなく企業全体の、しかも労務管理だけではなく経営方針の決定についてまで関与することを求めています。おそらくこの条件を満たせるのは普通は役員以上ではないでしょうか。少なくともこの条件を満たせる店長は、日本のサービス・飲食チェーン企業にはいないと思われます。


2.労働時間自由裁量性を過度に重視

通達レベルにおける管理監督者の勤務態様に関しては、「出退勤の時間について厳格な規制を受けない」という内容であり、これは例えば遅刻などをしても欠勤控除や懲戒などの不利益な取り扱いを受けないという程度にとどまります。しかしながら、裁判所の判決では出勤・退勤の時間についてかなり積極的に自由裁量を求めているといえます。


以上2点のポイントは、企業が管理監督者を運用していくにあたってかなり厳しい条件になるものと考えられます。

管理監督者問題は法令と現実にあまりにもギャップがある為、いっきに改善できる問題ではありません。まずは労基署対策を考えて通達レベルで可能な条件を満たしていくことが現実的です。

ただし、通達はあくまでも労基署の調査でしか役に立ちません。労働者との裁判になれば必ずマクドナルド訴訟の判決をふまえた上で管理監督者性の判断が行われることになりますので、前述の2点のポイントを満たしていく方が間違いはありません。

今のところ、管理監督者問題は1.行政への対応、2.裁判所への対応の2段構えで考えておく必要があります。



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2012-02-29

競業避止義務の有効性


少し古いニュースですが、生命保険のアリコジャパンの元執行役員が会社の競業避止義務規定に反して競合他社に転職し退職金を不支給にされた件で争われていた裁判で、会社の取り決めは無効として退職金を全額支払うよう命じられる判決が先月ありました。

no title


競合他社への転職禁止と罰則を定める競業避止義務の有効性については古くから議論のあるところです。憲法の保障する職業選択の自由を不当に制限する恐れがあるからです。

実際に競業避止義務の有効性が問題となった場合、裁判において判断材料となるのは以下です。

・従前の地位・職務内容
・競業行為禁止の期間・場所的範囲・対象職種の範囲
・金銭の支払いなど代償措置の有無や内容
・違反に対して会社が講じる措置の程度

これらに基づいて合理的な範囲内でのみ競業避止義務が認められることになり、合理的範囲を超えれば公序良俗違反として無効とされます。

競業避止義務は、企業の営業上の秘密を保護する目的から合理的な範囲内で認められているものである為、対象者は重要な機密情報を保持する高い地位にある者であることが前提になります。

本人の転職活動に制限をかけるわけですから期間も不当に長くすることはできません。転職禁止の地域については、全国に拠点があるのかどうか、あるいは営業上の秘密が何に係るものなのか(技術、ノウハウ、顧客情報など)によって無制限とするか都道府県などに絞るのか変わってきます。


競業避止義務違反における会社側の措置としては、競業行為の差止め、退職金の減額・不支給や損害賠償請求が考えられます。

退職金の減額・不支給に関しては、退職金の法的性格が重要になってきます。退職金の法的性格には、賃金後払い的性格、功労報奨的性格が混在しているものと一般的に認識されています。

よく懲戒解雇で退職金を不支給とする取扱いがありますが、これは功労報奨的性格を前提に労働者の功労に対する評価を減じて行う措置だと考えられます。競業避止義務違反についてもやはりこれと同様の考え方によるため、退職金制度の構造が賃金後払い的要素を多分に含んだものであれば、退職金の減額自体が無効とされる可能性も否定できません。特に最近はポイント制退職金が普及しており、業務における貢献を反映させる制度設計であれば賃金後払い的性格が強くなるものと考えられる為、この点に留意する必要があります。


冒頭で触れた今回の事件では、執行役員という一般的には経営陣と認識される高い地位でありながら、裁判においては「機密性を要する情報に触れる立場ではなく実質的には労働者」という評価をうけ、競業避止義務の取り決め自体を無効と判断されました。

これらを踏まえると、競業避止義務が認められるのは現実かなり狭い範囲と考えられますから、転職禁止期間は1年(長くても2年)、対象者は実態として部門統括者から役員クラス以上が妥当であり、罰則についても退職金を全額不支給とするのはなかなか厳しいものがあるのかもしれません。代償措置として機密保持手当などの支給を検討することも重要であると思います。


なお、競業行為に対する損害賠償については不法行為を理由に認められる場合がありますが、金額自体を取り決めると労働基準法第16条(賠償額予定契約の禁止)に違反しますので注意してください。

また、規定なしで罰則を科すことができないのはいうまでもありません。



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