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2017-01-12

プライベートの喫煙を会社が就業規則で禁止できるのか


世間喫煙者への圧力の高まりに伴って、企業における喫煙のルールも厳しくなる一方の昨今ですが、最近その中でも一歩踏み込んだ企業の施策が話題になりました。

SCSK、懇親会も喫煙NG 就業規則に追加
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10246770S6A201C1TI5000/
日本経済新聞

SCSKは社員同士の懇親会などの場で喫煙を禁止する項目を就業規則に追加した。



プライベートもタバコNG 大手IT企業の仰天「就業規則
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/195480
日刊ゲンダイ

就業時間外まで禁煙を強いるのは前代未聞だ。

たとえ社員2、3人で仕事帰りに居酒屋で一杯やる時でも喫煙を禁じるようにしました。社員同士でゴルフに行った時や同期会も禁煙です。




これまで企業の禁煙に関しては、「喫煙者を採用しない」方針星野リゾート、外出先・出張先・移動中を含め「勤務時間内のあらゆる場所での禁煙」を実施したリコーなど、様々な施策がニュースになってきました。

ただし、今回の禁煙施策はそれ以上といえます。最大のポイントは勤務時間外のプライベートともいえる時間まで喫煙を禁止した点にあります。ネット上では、そのような規則は無効とか、行き過ぎだとか、「喫煙は個人の趣味・嗜好の問題」であるとか、多くの批判的な意見がみられますが、以下ポイントを絞って書いてみたいと思います。



単なる服務規律なのか、懲戒事由となる得るのか

大前提として、

就業規則で禁止したと一口に言っても、単に行動規範を示しただけなのか、それとも行為が発覚すれば懲戒処分の対象となるのかによって、社員への影響は全く異なってきます。一般的に禁煙に関する規定は、服務規律として定めただけで罰則なしというケースも少なくありません。(ちなみに今回の件がどちらなのか、前述の記事を読んだだけではよく分かりませんでした。)



勤務時間外の行為を会社が規制すること自体が不可能なわけではない

ご存知の方も多いと思いますが、社員の勤務時間外の行為を規制し懲戒処分の対象とするケースはいくらでもあります。

例えば

勤務時間外の行為だから会社が口を出すのはおかしいというわけではありません。勤務時間内外を問わず、会社の秩序維持等の為に必要であれば、会社は社員の行動に対し一定のルールを課すことができるわけです。



懇親会や飲み会の禁煙ルールには合理的な理由がある

今回の件で会社が禁煙を導入した大きな理由は、懇親会や社員同士の飲み会などの席でタバコを吸わない社員が喫煙者に気を使って何も言えず、受動喫煙を強いられるような状況をなくす為には、社員たちの自主規制だけでは難しいと判断したからだと考えられます。

そもそも上司・部下や先輩・後輩などが混在する懇親会や飲み会は、職場から切り離された完全なプライベート空間とは言い切れません。そのような場で立場的に優位な社員が、非喫煙者である社員の前でタバコを吸う行為は、客観的にみたら嫌がらせ以外の何者でもありません。(例え当人にその自覚がなかったとしても。)

例えば、パワハラの定義の重要な要素には「優位性」というものがありますが、これは被害者が加害者から実質的に「逃げられない」状況であることを指します。

喫煙行為がパワハラに該当するという話ではありませんが、パワハラと同じような視点にたてば、懇親会や飲み会がプライベートの時間といいながらも、人間関係の複雑な会社組織において、タバコの煙の充満した「プライベート空間」から文字通り「逃げられない」社員が一定数存在することを前提に考えるのが当然であり、そのような不本意な受動喫煙を会社が放置することは、突き詰めれば企業の安全配慮義務に反するのではないか、という考え方もできます。(完全に持論ですが。)

今回の施策が行き過ぎた行為として批判する論調もありますが、私は非常によい施策だと考えます。このような踏み込んだ施策を実行する感度の優れた会社が、今後優秀な人材を獲得していくのではないかと思います。



プライベートの禁煙を定めた就業規則は法的に問題ないのか

今回の該当企業はあらかじめ顧問弁護士等に相談をした上で法的に問題ないと判断し、就業規則に規定を追加したのだと予想されます。

就業規則で懇親会等の喫煙を禁止することはもちろん違法ではないと考えられます。仮にもし問題が起こるとすれば、懲戒処分を定めた上で実際にそれを適用する段階です。ルール違反に重い処分を科し、それに社員が不服を感じれば、最終的には裁判所の判断ということになるでしょう。とはいえ、世の中の企業の就業規則には、現実に裁判をしてみなければ有効性の疑わしい懲戒事由はいくらでもあります。今回の件が例外というわけではありません。前例のない新しい規定を追加する時点では誰もその規定の有効性を断定できません。

労働契約法では「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒を行う権利を濫用したものとして判断されます。

  • 露骨に非喫煙者の目の前で吸ったり煙を吐き掛けたりして行為が悪質
  • 注意されても繰り返し違反が続く
  • 懇親会の出席者が多く実質的に強制参加に近い(勤務の延長的な性格が強い)
  • 非喫煙者の不満やクレーム、被害の申告等が確認される

様々な状況が考えられる為、処分の適用も一刀両断ではなく柔軟に考えるべきだと思います。

個人的には、仲のよい喫煙者の同僚2人が会社帰りに居酒屋行ってタバコをぷかぷか吸うのは放っておいて構わないと思いますが、そこに1人でも非喫煙者、特に上司や管理職以外の立場の弱い社員が加わるのであれば、まず細かい状況を確認した上で処分の可能性を検討してもよいのではないかと考えます。もちろん懲戒解雇が認められるような行為ではありませんが。


以上から、今回の懇親会等での喫煙を禁じる規則の導入、やってみる価値はおおいにあると思います。




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2016-02-01

三六協定を結ばない本当のデメリット


最近メディアで名前を見かける「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が今度はドン・キホーテを摘発して労基法違反で書類送検したそうですが、個人的に気になったのは違反の内容です。

http://this.kiji.is/65377333893840902?c=39546741839462401

労使協定で定めた上限を超える長時間労働を従業員にさせたとして、労働基準法違反の疑いで


と記事にあるのですが、こういう書き方ってあまりピンときません。

確かに法定外の残業を1分でもさせる場合は、この労使協定(「三六協定」といいます)の締結と届出が必要で、それを結んでいなかったり、締結はしていても協定した上限時間を超えていれば、それは明確に労基法違反といえます。

しかし、私が知る限り、「三六協定」は実務では全く重要視されていません。

締結していない会社が山ほどあり、協定の存在すら知らない会社も少なくないように思います。その理由は多分、「締結していなくても大した損害がない」からではないでしょうか。

ちなみに労基署が調査に来ると、まず最初に36協定書があるのかどうか確認するんですが、結んでないと分かれば是正勧告書を出してすぐに協定書を作らせて是正完了です。法律上はもちろん違反の場合の罰則も規定されていますが、現実はほぼ適用されません。その場で署名して印鑑押して「はいおしまい」です。そんな感じなので、世の中には36協定を結んでいない会社はごまんとあるのだと思います。(もちろん私の関与先ではきちんと締結してもらっていますが。)


で、今回のニュースですが、「三六協定で定めた上限を超える時間外労働」をさせることがそんなにいけないのかと言えば、労基法違反だからもちろんいけないのですが、ただ今回の事案に関して言えばおそらく「とてつもない長時間労働をさせている」ことが一番いけないのであり、それを牽制するために「かとく」は有名企業であるドン・キホーテを摘発したのだと思われます。

しかしながら、そもそも労基法には労働時間の上限を規制するルールはなく、ある意味「三六協定」さえ結んでおけば青天井にいくらでも労働者に残業をさせられるわけです。三六協定さえきちんと結んでおけばです。

ドン・キホーテ三六協定の上限時間を超えてしまったので、三六協定を締結していないのと同じ状態だったわけで、通常の中小企業だったらその場で協定を結び直しさせられて終わったかもしれません。(断定は一切しませんが。)

ところがニュースでは単なる「長時間労働」ではなく「三六協定で定めた上限を超える」という点が強調されます。「三六協定を遵守しないなんてひどい会社だ」ということになるでしょう。「三六協定」をきちんと締結していないと、会社として大事な信用を失うということを知って欲しいと思います。


ちなみに、いくら労基法では残業時間に上限がないといっても、過労死などが起きたら間違いなく遺族から慰謝料請求されるので本当に上限がないと考えるべきではありません。

2014-02-09

営業職の残業代リスクが上昇<事業場外みなし・阪急トラベルサポート事件最高裁判決>


営業職などの外回り・外勤社員に対して残業代を支給しないという会社は少なくないと思われますが、支給しない法的根拠は何でしょうか。

営業手当が出ているから?
成果主義だから?

そんなことが法的根拠にならないことはいうまでもありません。


営業職に対して残業代を支給しない根拠として多くの企業で利用されている制度が「事業場外みなし労働時間制」です。この制度を運用すれば、実際に何時間働いたとしても所定労働時間働いたものとみなされる為、結果として残業代を支払う必要はなくなります。

ただし、事業場外みなし労働時間制は

1.事業場外で業務に従事
2.会社の指揮監督が及ばない
3.労働時間を算定することが難しい


この3つの要件を満たして初めて認められる制度であり、要件が欠けていれば通常通り「働いた実労働時間」によって残業代を計算し支給しなければなりません。



しかしながら、今後多くの企業において、この事業場外みなし労働時間制を適用させるのが難しくであろうことを示す最高裁の判決が先月1月24日に下されました。

「みなし労働時間制:海外旅行添乗員の適用は不当 最高裁」(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/news/20140125k0000m040076000c.html

小法廷は▽日程や業務内容はあらかじめ具体的に確定している▽携帯電話を持たせてツアー中も報告を求め、終了後に業務日報を提出させている−−ことを重視。「労働基準法が規定した『労働時間を算定しがたいとき』には該当しない」と結論づけた。


裁判は旅行会社である阪急トラベルサポートの添乗員に関する事例ですが、制度の要件を満たすかどうかについての考え方は営業職の場合と何ら変わることはありません。

今回の判決によれば

・旅行日程(日時・目的地)が明確に定められており、業務の内容があらかじめ具体的に確定していた

・携帯電話を所持させて常時電源を入れさせておき、途中で旅行日程の変更が必要となった場合には会社に報告して個別の指示を受けることとされていた

・ツアー終了後、添乗日報によって業務遂行の状況等を詳細かつ正確に報告させた


といった事項がポイントであり、これらによれば添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、前述した事業場外みなしの要件である労働時間を算定し難い」には該当しないということです。



つまり、営業職等の外勤社員に対し事業場外みなしを運用している企業にとって、不払い残業代リスクが上昇することは間違いありません。これまで通りの運用を続けた場合には今後違法となる企業も少なくないでしょう。

朝礼等によって出発前に事前に細かいスケジュールを決めてスケジュール通りに行動させたり、帰社後に詳細な日報や業務報告書を提出させれば、労働時間を算定し難い状況とはいえません。

また、社員に携帯電話を持たせて常に連絡をとれる状況にさせ、スケジュール変更や訪問先ごとに随時報告をさせて指示を受けさせたり、最近では「GPS」によって会社が社員の位置や行動を把握しているケースもありますが、これらの場合には会社の指揮監督が及んでいないとは到底いえないでしょう。

自社の営業職の管理体制を早急に見直し、状況次第では事業場外みなし労働時間制を取り止めて別の制度の運用等を検討すべき時期にあると思います。

2014-02-03

インフルエンザと休業手当(休業補償)の支払義務


ここ最近またインフルエンザが流行しています。
インフルエンザに感染して会社を休んだ場合、休業手当の支払い義務の有無が問題になるところです。

インフルエンザで会社を休んだ場合、一般的には年次有給休暇を充てるケースが多く、この場合には休業手当の問題は発生しません。ただし有休は会社側の意思で一方的に取得させられるものではないので、労働者が「有休を使いたくない」と言ってしまえばそれまでです。それ以外にも、入社したばかりで有休をまだ付与されていないケース、有休を持っていたけれども使い切ってしまったので利用できないというケースもあり、このような場合に休業手当の支払い義務の有無が問題となります。


こうした場合には「会社を休むに至った経緯」によって考えていくとわかりやすいです。

インフルエンザによって従業員が発熱して動けないため自主的に休んだ場合
これは風邪を引いて休んだ病欠の場合と何ら変わりませんから、普通に欠勤した分の賃金を控除すればいい話です。

医師の指導に従って休業する場合
これは「使用者の責に帰すべき事由」(労基法第26条)には該当しませんから、休業手当を支払う必要はありません。やはり欠勤控除でよいということになります。



判断が難しいのは、インフルエンザの感染が確認できたにもかかわらず、労働者本人が「働ける」と主張して会社に出勤しようとした場合です。

もちろん発熱がピークの間は労働者自身もあまり動けないので出勤しようとするケースは少ないと思いますが、インフルエンザは基本的に発熱の症状がなくなっても感染力は続く可能性が考えられます。会社としては職場での感染の危険がなくなるまでは休業してほしいところです。
(※目安としては熱が下がってから2日。できれば発症した日の翌日から7日は休ませるべき期間であると、厚労省発表の新型インフルエンザに関する職場のQ&Aで示されています。)

ところがです。

熱が下がった後すぐに出勤しようとした場合、これを会社の判断によって休業させれば休業手当(最低60%)の支払いが必要になるものと考えられます。(※極端な話、発熱中であっても労働者が「働きたい」として出勤しようとした場合、これを会社が無理やり休ませればやはり休業手当が必要になるものと考えられます。)

なお、労働契約の側面から考えると、労働者の体調が完全には回復せず通常通りの労務を提供できないような状況であれば、債務の本旨に従った履行が行えないという理由で会社は労務の受領を拒否しても賃金の支払い義務は生じないと考えられます。しかし、労務の提供が完全に行えないかどうかの判断を会社が独自に行うのはなかなか難しく、やはり医師の判断が必要になるのが現実です。

また、インフルエンザは労働安全衛生法(労働安全衛生規則)が定める就業禁止の対象となる疾病(病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病等)には該当しないため、安衛法を根拠に就業を制限して無給とするわけにもいきません。

そもそも労基法上の休業手当は定め自体が非常に曖昧なものであり、インフルエンザに関する点をはっきり示した通達も見当たりません。休業手当の支払義務に関して裁判になればどういう結果になるのかわかりませんし、労働基準監督官もそれぞれの考え方によって異なる指導を行うかもしれません。



一方、本人が出勤したい意思に反して休ませる場合であっても、感染症法(※正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)によって就業制限の対象とされ、同法に基づいて都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請し、または保健所より本人を外出させないよう協力要請があった場合などは、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないため、休業手当は支払う必要がないということになります。

感染症法は数年前にできた法律ですが、現時点では同法による自宅待機や休業等の要請が行われた実績はまだありませんが、この取り扱いは、季節性インフルエンザか、新型インフルエンザかによって異なってきます。(※季節性インフルエンザは感染症法上、5類感染症と指定されており、鳥インフルエンザ(H5N1)は2類感染症、そして新型インフルエンザは1〜5類に属さない「新型インフルエンザ等感染症」という独自の分類になっています。現在、就業制限の対象となり得るのは1類〜3類および新型インフルエンザ等感染症等に限られるため、5類の季節性インフルエンザは対象にはなりません。)



最後に、濃厚接触者(感染者の近くで仕事をしていた人など)の取り扱いです。

濃厚接触者を会社の判断で休業させる場合には休業手当は必要になります(ただし、保健所からの要請等によって休業させたのであれば不要です)。また、労働者の同居の家族が感染した際に、会社が本人に対して自宅待機を命ずることは予防的措置になりますから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当の支払わなければなりません。



なお、休業手当の支払いが必要なケースであったとして、気になるのが民法の危険負担(第536条)の適用の有無、つまり会社は100%の賃金を支払う必要がないのかという点です。

基本的に、インフルエンザに感染した労働者を休業させる行為は、当該労働者および他の労働者への安全配慮義務の履行という観点から正当化されるものであり、会社には原則として故意・過失等はないと考えられますので、休業手当(60%)が必要だとしても100%の支払い義務はないと考えられますが、念の為に就業規則あるいは雇用契約書において危険負担の適用の排除を規定しておくのが確実であると思います。

2013-09-23

「残業代ゼロ」特区という報道の違和感


企業が労働者解雇しやすくして、さらに労働時間規制を緩和し残業代をゼロにすることも認められる特区の法案が秋の臨時国会で提出されるという報道があります。一定の年収以上の労働者、高度で特殊な能力・専門的な技術を持ち法規制にとらわれずに思い切り働きたい労働者を想定しているといいます。

現行法下において企業が労働者に対し時間外割増賃金を支払わなくてもよい場面は主に2つあり、1つは労働者が管理監督者に該当するケース(※厳密には労基法第41条該当者)、もう1つはみなし労働時間制・裁量労働制が適用されているケースですが、みなし労働時間制・裁量労働制はあくまで労働時間のカウント方法に関する特例であって、今回の法案は労働時間規制を緩和するといっていますから、労働時間規制を適用させない管理監督者に準じたものであるということになります。以前話題になって見送りとなったホワイトカラーエグゼンプションと似たようなものだと考えていいでしょう。

管理監督者は労働基準法労働時間に係る規定が適用されません。経営者と一体的な立場で大きな裁量をもって働く訳ですから、経営者と同じように労働時間の枠に収めることが難しく、むしろその枠を超えて働く必要があり、また、経営者並みの裁量・権限があるので規制をはずしても特に本人の不利益にはならないという考え方です。もちろん相応の収入があることが大前提です。

そして労働時間の規制自体がないので、そもそも法定労働時間がありません(所定労働時間を定めるのはある意味企業の自由だと思いますが)。法定労働時間がないので残業(法定時間外労働)という考え方は当然あてはまりません。残業という概念はないのです。残業がないのだから残業代もありません。「残業代ゼロ」なのではなくて、「残業代という項目」が初めからないのです。

考えてみれば、「残業が発生しているのに残業代を支払わなくてもよい」とされる法律は元々ありません。みなし労働時間制・裁量労働制にしても、「みなし時間」が法定時間を超えていれば時間外割増賃金の支払いは必要になります。一方、管理監督者は残業自体が発生し得ないのです。

そう考えると、今回の法案に係る報道が「残業代ゼロ」と言われているのもおかしなものだと思います。

今回の法案が通れば、特区内においては労働時間の規制が緩和され、管理監督者と同様にその要件(権限や責任、職務内容、裁量、収入)が定められ、要件に該当する労働者労働時間規制の外で裁量をもって働くことになります。もちろん企業はそれら労働時間規制のはずれた労働者に対しても安全配慮義務を負うわけであり、実質的に労働時間を把握する必要がありますし、長時間労働によって過労死などが発生すれば責任を追及されることになります。また、実態として要件を満たしていなければ通常の労働時間に係る規定が遡って適用され、名ばかり管理職のケースと同じように残業代を遡って請求されるリスクもあるでしょう。

このように企業は労働時間規制を緩和されるとしても、今回の「残業代ゼロ」のような見出しの報道に惑わされて企業側に存在する責任を忘れてはいけません。また、報道する側は「残業代ゼロ」をことさら打ち出すのではなく、労働時間規制を緩和する対象者とその要件は労働政策として適正なのか、そして過労死等の労働災害を予防する為にはどのような規制が別途必要なのかがきちんと議論されるような形で報道するべきだと思います。

2013-04-18

入社前研修の賃金・労災その他取扱い


採用内定者向けに入社日前に研修を実施することがありますが、賃金は支給すべきなのか、支給する場合の金額はどうするのか、労災は適用になるのかといった質問を受けることがあります。


入社前研修について賃金支払いが必要になるかどうかは、基本的には研修に参加した時間が労働時間といえるのか(内定者が労働者として働いたのか)によって決まります。

つまり、

1.研修の内容が業務に関連するといえるもので、

2.会社の指揮命令下におかれていると評価できて、

3.実質的に強制参加といえるもの(参加しない場合に不利益取扱いのあるものを含む)

ということであれば、その研修は労働時間と考えられますから、入社前の研修といえども労働の対価として賃金を支払う必要があるということになります。


では賃金を支払う場合、既に内定として成立している雇用契約に定められた初任給を按分計算して支給する必要があるのかという次の疑問が湧いてきますが、初任給についてはあくまでも入社日以降の賃金額について契約したものですから、最低賃金を下回らない限りはいくらに設定しても法違反にはなりません。その際には賃金額をあらかじめ通知書等の書面で明示したうえ承諾を得ておくのが確実だと思います。



次に、入社前研修が労働時間ということであれば労災はどうなるのかという問題がでてきます。

この点は内定者が労働基準法第9条に定められた「労働者」に該当するのかという労働者性の有無によって判断されることになります。

ただし、注意すべきは賃金の件とは異なり、厚労省は入社前研修中の労災の適用に関しては厳密に判断する姿勢をとっていることです。具体的には研修内容が業務と関連性の薄いもの、例えばマナー研修や経済講演のような一般研修の場合には、支払われる手当については恩恵的給付であると判断される可能性があり、労災が認められないということも考えられます。

そのため労災の適用を望むのであれば、最低賃金以上の支給はもちろんですが、アルバイト等のかたちで雇用契約を締結した上で、研修内容に関して本格的な業務遂行を含む関連性の強いものにする必要があると考えられます。


なお、労災の適用の可否に係らず、研修中の事故等については企業に安全配慮義務が求められることになります(通勤途上は別ですが)。この点に関してはインターンシップの場合と同様、研修生の傷病、死亡事故、その他セクハラパワハラ等に関して企業側の過失が認められれば賠償責任が生じるリスクがありますのでご注意ください。





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2013-03-11

解雇規制の緩和は、企業の人事権・業務命令権の低下と引き替えである


政府の有識者会議で、「正社員を解雇しやすくすべきだ。」という意見がでて、ネットを中心に話題になっているようです。


「正社員を解雇しやすく」 安倍政権の有識者会議で議論
http://www.asahi.com/business/update/0307/TKY201303060639.html


正社員を解雇しやすくする目的はもちろん労働市場の流動化です。こういう議論になると一般的に企業はウェルカムですし、逆に正社員として働く労働者からは批判されることの方が多いかと思われます。

現状の雇用ルールのまま、ただ解雇規制だけが緩和されるという話であれば、確かにそれは企業にとってのみおいしい話であって、労働者からすれば何もいいことはない、リストラが助長されるだけだしブラック企業がますます労働者を使い捨てにするのではないか、と考えるのは当然です。



しかし、解雇規制を議論するうえで忘れてはいけないのは、日本の企業に広く認められている包括的な人事権、業務命令権は、長期雇用保障が前提になっているということです。

ちなみに人事権、業務命令権というのは、具体的には例えば異動・配転命令、あるいは上限なしの残業命令などです。基本的に労働者は、企業から出張、配置換え、転勤、職種変更などを命じられたら従わなければなりません。残業命令も当然です。従えないのなら、その会社から去らなければならない、というレベルの強力な企業の権限です。ときには長期雇用の見返りとして労働条件の引き下げ(不利益変更)さえも認められることになります。

つまり、

労働者がいったん入社したら煮るなり焼くなり企業の好きにしていい、その代わり定年まで責任をもって雇いなさい。」

というのが日本の雇用システムなのであって、裏を返せば、解雇規制を緩和するのなら、今までのように煮るなり焼くなり企業の自由にさせるのはどうなのか、今まで通り労働者に対して広範な権限を行使したあげく解雇規制緩和による解雇の正当性のみを主張するのは許されるのか、ということが問題になると思います。



上記の雇用システムはもともと法律に規定されていたわけではなく、日本の裁判所の判断によって形成されてきたシステムです。

というのも、労働基準法等の法令によれば、「正社員の解雇を容易には認めない」というような規定はなく、1ヵ月前の予告さえあればいつでも契約を自由に解除できるようになっていたのですが、いざ裁判になると、解雇濫用法理(あるいは整理解雇法理)が適用され、法律で自由とされていたはずの解雇裁判所の判断によって厳格に規制されてしまうという流れが、世界でも稀なくらいの強力な解雇規制として一般化していったのです。(※現在は労働契約法によって解雇濫用法理は法定化されています。)

一方、日本の企業の人事権、業務命令権といった労働契約に付随する権限もまた裁判所によって広く認められてきたものであります。

解雇規制の緩和が政府主導で法令によって実現されることになれば、引き換えに企業が現在保有する強大な人事権、業務命令権に対して司法面での(あるいは立法面での)影響は及ぶ、という視点はもっていたほうがよいと思います。




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2013-02-27

裁量労働制の落とし穴


裁量労働制を導入したいという依頼を企業から受けることがあります。

裁量労働制とは、端的に言えば、法律上決められた一定の手続きを踏むと、現実に何時間働いたとしても、ある決まった時間働いたものとみなすことができる労働時間制度です。

しかし、経営者の方と話をしてみると、裁量労働制について誤解をしているケースが少なくありません。

また、裁量労働制を運用しているという企業をチラホラ見かけますが、結果的に違法な運用をしている企業が圧倒的多数だといえます。制度をよく理解していないのか、それとも確信犯なのかはわかりませんが、法律上の要件を満たしていないのです。



一般的に、企業が裁量労働制の採用を検討する目的は、「残業代の抑制」です。

従業員に裁量を与えた方が柔軟性をもって業務に取り組めて効率性が増し、会社にとっても従業員にとってもプラスになる

というような建て前はともかくです。

長時間労働が慢性化する企業においては、残業代を抑制したいというのはまぎれもない本音だと思います。

(※単純に「決まった時間以上の賃金は払わない」的な意味合いだけでなく、裁量労働制を導入すれば、それまでダラダラ仕事をしていた従業員が急に効率的になって定時で帰るようになるなんていうことも、ままあることです。)

しかし、裁量労働制は誤った運用をすれば残業代を抑制するどころか、後から多額の費用を追加で支払う事態になりかねない制度であり、導入にあたっては慎重を期すべきであることを言っておきます。



前置きが長くなりましたが、具体的にどういう誤解が多いのか、どこを注意すべきなのかを以下に挙げていきます。



1.裁量労働制でも時間外、休日、深夜の割増賃金は必要だということ

裁量労働制は、労働時間をどうカウントするのかという制度であって、「時間外労働に対する賃金を支払わなくてもいい」という制度ではありません。ですから、労使で合意した一日あたりの「みなし時間」が所定時間を超える場合はその分の賃金が必要ですし、法定を超えれば25%の割増も必要です。

「みなし時間を超える分は固定残業代として毎月支給すれば問題ない」

と考える方もいるでしょうが、実はそんなに簡単な問題ではありません。

というのは、まず裁量労働制は休日出勤した場合にももちろん適用されます。例えば所定休日の土曜日に出勤し、1時間だけ仕事をして帰ったという場合であっても、みなし時間が「8時間」と決められていれば8時間働いたものとみなされます。この8時間分は月額給与とは別に丸々賃金を支払わねばなりません。

さらにです。
法定休日ではない所定休日に出勤した場合、(週の法定時間40時間を超えていれば)法律上は時間外勤務という扱いになりますので25%の割増、出勤したのが法定休日であった場合は35%の割増が加算されます。

そして、勤務が深夜に及べば、いくらその日の労働時間が8時間にみなされたとはいっても、深夜割増分25%は加算しなければなりません。

ですから、休日や深夜の勤務をルーズに管理している会社は、せっかく裁量労働制を導入しても割増賃金が膨大なものとなってしまう恐れがあるのです。

対策としては、休日・深夜勤務を許可制にして厳しく制限すること、あるいは休日に関しては裁量労働制の適用をしない定めとすること(※これによって少なくとも休日は原則通りの実労働時間によって時間管理を行えます。)などが考えられます。



2.裁量労働制を運用すれば、労働時間の把握・管理はしなくてよいという訳ではない

裁量労働制を使っていても、実質的には労働時間の管理は必要になります。

なぜなら、裁量労働制を運用する企業には「健康・福祉確保措置」をとる義務があり、その為に労働時間の状況(出退勤・入退室時刻等)を記録する必要があります。

そして、休日、深夜の割増賃金の支払い義務があるということからも、休日・深夜勤務時間の管理が必要になるのは当然です。



3.みなし時間は労使で合意すれば何時間にしてもよいとはいいきれない

みなし時間は労使の合意に委ねられている関係上、みなし時間が妥当とはいえないという理由で協定(or 労使委員会による決議)を労働基準監督署が受け付けないということはないでしょう。

しかし、労基署が臨検に入った際には勤務状況を細かくチェックすることもありますし、実態とみなし時間がかけ離れていれば指導の対象になる可能性は十分にあると考えられます。



4.法令で限定されている対象業務を勝手な解釈で幅広く設定するのは要注意

実態として、自社の全ての職種に裁量労働制を適用させたいと考える企業も存在しますし、無理矢理な拡大解釈で本来対象業務に該当しないような職種まで適用させているケースも少なくありません。

それでも労基署に提出さえすれば運用はできてしまうわけですが、やはり臨検の場面になれば踏み込んだ調査が行われる可能性もありますし、多額の残業代が絡んで訴訟沙汰にでもなればどうなるのか一切保証はありません。



5.その他

案外知られていないことですが、裁量労働制であっても所定の始業・終業時刻を定めることは可能です。(※ただし、所定の時刻に出勤・退勤しないことを理由として不利益な取り扱いをすることは法の趣旨に反しますが。)

また、労働者に裁量があるとはいえ、在社中は職務専念義務がありますし、業務遂行の手段や時間配分の決定を労働者に委ねるとしても、それ以外の事項については必要な指示を行うことは可能です。

業務の目的、目標、期限等の基本的事項について指示することや、途中経過の報告を受け、基本的事項の変更を指示することができるとされています。

以上を駆使して会社は労働者を適切に管理し、長時間労働による労働災害を予防しつつ、無駄な費用の発生を極力抑える努力が必要だと思います。



2013-02-22

高年齢者雇用安定法改正の経過措置の具体的運用


希望者全員を65歳まで雇用義務化という法改正

「改正高年齢者雇用安定法」の施行がいよいよ4月に迫ってきました。

計画的に行動している企業は着々と就業規則の改定作業を進めていると思います。

大手などは法改正で増加する人件費に対応する為、全体の昇給カープを抑える賃金制度の再構築のために何度もシミュレーションを繰り返し、あるいは今年からの新卒採用の要員計画を見直していることでしょう。

一方で、まだまだ手つかずという会社も少なからずあるはずです。



今回の法改正には経過措置がありますから、何もやっていないという会社は今すぐに動くべきです。

なぜかと言えば、これまで労使協定によって選定基準を定め再雇用する労働者を絞ってきた会社については経過措置で基準を残すことができるわけですが、その条件は法施行前の3月31日までに就業規則に規定した場合に限られるからです。一刻も早く就業規則の「定年」条項に経過措置を織り込んだ文言を加える改定作業を始めることです。



さて、今回の法改正に係る就業規則、労使協定の運用に関して、2〜3注意点を書こうと思います。


経過措置によって労使協定の基準を段階的に残していくのですが、この段階というのは今年から2025年にかけて厚生年金の支給開始年齢が3年ごとに1歳ずつ引き上げられていくのに合わせていくということです。

平成25年4月1日〜平成28年3月31日 61歳
平成28年4月1日〜平成31年3月31日 62歳
平成31年4月1日〜平成34年3月31日 63歳
平成34年4月1日〜平成37年3月31日 64歳

一見すると分かりづらいですが、それぞれの期間内においてその年齢以上の労働者を労使協定の基準の対象とすることができます。

それぞれの期間においてそれぞれの年齢に達する方の生年月日をみると、

昭和27年4月2日〜昭和30年4月1日
昭和29年4月2日〜昭和32年4月1日
昭和31年4月2日〜昭和34年4月1日
昭和33年4月2日〜昭和36年4月1日

ということになります。



また、労使協定の基準は改正法施行の4月以降どのような基準を用いていくかですが、今まで使っていた基準をそのまま使っていっても全く差し支えはありません。その場合には協定を結び直す必要も特にありません(有効期間が切れていなければ)。

一方、これまでのように定年時点での基準を適用するのではなく、

「再雇用以後の勤務評価が平均●以上」

というような経過措置ならではの基準の適用も可能です。労使協定ですから、労使が合意していれば基本的にはどのような基準でも(法の趣旨に反しなければ)大丈夫だと思います。この場合には、基準を実際に適用するのは経過措置の年齢に達した時点になります。


ただし、厚労省の指針で定められている継続雇用の例外(※就業規則に定める解雇、退職事由と同一の事由を継続雇用しないことができる事由として別に定めることができるとされているもの)を就業規則に規定した場合、労働者がその事由に該当するかどうかを判断するのはあくまでも定年に達した時点です。経過措置のそれぞれの段階の年齢に達した時点ではありませんので一応ご注意ください。





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2013-02-04

自転車通勤の法的リスク・問題点

ここ数年、自転車で会社に通勤するという方は急増しているように感じます。

自転車通勤に切り替える理由としては、「健康を考えて」、「通勤ラッシュが嫌だから」、「エコだから」、あるいは「会社に電車通勤で申請しておいて支給された定期券代をフトコロに入れる」なんていう不正受給の動機も実際あると思います。


一方、会社側も駐輪場を整備したり、自転車で通勤する社員の通勤手当を優遇するなどして、自転車通勤を勧める企業も徐々に増えてきています。

「自転車通勤勧める「はてな」 手当2万円、保険費負担…思わぬ効果も」
http://www.sankeibiz.jp/business/news/121209/bsj1212090710001-n1.htm



ただし、ここで注意したいのは、自転車通勤は通常の電車通勤に比べて法的なリスクをはらんでいる部分があり、会社も従業員もその辺の対策をとったうえで自転車通勤に切り替えることが重要であるということです。

リスクとは、大まかにいうと、

・通勤途上で事故を起こし従業員が負傷した場合
・逆に従業員が加害者となってしまった場合
・通勤手当を不正に申告する問題
・駐輪場の問題

などが考えられます。




まず第一に、通勤途中で事故が発生し従業員が負傷、場合によっては死亡してしまった場合に、労災保険が適用されるのかという問題が考えられます。

結論をいうと、合理的な経路」を通っていたのであれば原則、通勤災害として認められることになります。「合理的な経路」とは簡単にいえば通勤に関係のない場所を通ったり、寄り道したりしていないということです。

ちなみに会社が自転車通勤を禁止していたり、許可制なのに無許可で自転車通勤をして起こした事故の場合はどうかというと、やはり経路が合理的であれば会社の規定に係らず労災は適用されます。(※ただし、規定違反については別途会社から懲戒などを受けることになると思います。)

また、子どもを通勤途中で保育園に預けたり迎えに行ったりする場合はもちろん保育園に寄る経路も含めて合理的と判断されるのが通常です。

通勤災害において会社が注意すべき点は、通勤以外の目的で経路を外れればそれ以降は事故を起こしても労災が適用されなくなるということを従業員に十分に周知しておくことです。




第二に、通勤途中の事故で従業員が加害者となり、他人を負傷、または死亡させた場合の責任の問題です。最近は自転車の高機能化によって死亡事故も確実に増えてきている為、軽く考えるべきではありません。

他人をケガさせれば従業員本人に損害賠償責任が発生するのはいうまでもありませんが、本人が賠償できない場合には雇用主である会社にまで賠償責任が及ぶ可能性も否定できません。

会社として自転車通勤を認める以上は、損害保険の加入を義務付けるべきですし、保険内容まで確認した上で許可するような運用ルールを構築すべきであると思います。

前述の「はてな」の事例では、保険費用を会社が負担ということでしたが、自転車通勤を奨励する場合には、そのような制度の検討も必要ではないでしょうか。




第三番目の問題としては、通勤手当に関してです。

実際は自転車で通勤して費用はほとんどかかっていないのに、会社には自転車通勤の申請を行わず、定期券代相当の交通費をそのままもらい続けるというケースは会社側が考えている以上に多いかもしれません。

就業規則における規定の仕方にもよりますが、通勤手当は「通勤に要した実費相当額」を支給するものと規定されるのが一般的です。自転車通勤に切り替えているのに電車通勤の定期券代を受け取るのは不当利得であり、過去にさかのぼって返還請求を求められますし(※10年まで遡れる)、そもそも無許可の自転車通勤に対しては懲戒処分が科されるべきものです。

会社としては、返還請求、および懲戒処分を行えるような内容の就業規則を備えておく必要があります。




第四番目に、駐輪場の問題があります。

会社の近隣の路上や私有地に駐車されれば迷惑になりますし、自転車通勤を許可した会社にクレームが及ぶ可能性が考えられます。

会社で駐輪場を用意するか、あるいは従業員が駐輪場を確保していることを確認した上で自転車通勤を認めるような制度が必要でしょう。




全てまとめると、まず会社としては、自転車通勤を禁止するのか、許可制として認めるのかを決め、禁止するのであれば就業規則服務規律および懲戒の条項に禁止の旨と、違反した場合の罰則を明確に規定することです。

許可制で認めるのであれば、「自転車通勤規程」を作成し、自転車通勤の申請手順を規定します。

損害保険費用は会社負担か自己負担か、駐輪場は会社が用意するのか各自が確保するのかを決め、従業員に任せる場合には、申請の際に損害保険の加入証明、および駐輪場の証明を提出させるように規定します。

通勤手当についても優遇措置をとるのか、無支給とするのかを決め、不正受給の場合の返還義務も含めて賃金規程に定めます。

申請を受けた際には、承認をする前に労災について、特に通勤災害が適用されない場合のリスクについてよく説明します。

規定に違反した従業員については、懲戒処分によって厳格に対応します。もちろん従業員の側も、規定に違反して自転車通勤をするのであれば、後々痛い目にあうかもしれないリスクを忘れない方がよいと思います。




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2013-02-03

女子高生 添い寝・マッサージ店 労働基準法違反で摘発


先週、都内の個室で18歳未満の女子高生に添い寝やマッサージなどの過激なサービスを行わせていたという店舗が、労働基準法違反容疑で警視庁から一斉捜索をうけたという目をひくニュースがありました。

「女子高生「添い寝」の店一斉捜索=秋葉原など17店、労基法違反容疑−警視庁」
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201301/2013012700209&g=soc


気が付いた方も多いと思われますが、摘発を受けた理由は風営法違反ではなく、労働基準法違反となっています。



実は以前、このブログで「ガールズ居酒屋」が摘発されたときの記事を書きましたが、このときも労働基準法違反容疑によって経営者が逮捕されています。

今回の事件と構造は同じです。

店舗の形態は表向きには性的サービスがないため風営法の規制対象となっていなかったところ、気軽にできるバイト感覚で18歳未満の少女が多数サービスに従事し、過激なサービスになっている現状を見逃せないと判断した警視庁が摘発の根拠として労働基準法の規定を使ったということです。



捜索の容疑は厳密にいえば、労働基準法第62条第2項(危険有害業務への就業制限)違反の容疑であり、以下の条文です。

第62条第2項
使用者は、満十八才に満たない者を、(中略)福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。


18歳未満の女子高生等が個室で男性に対し「添い寝」や「肩もみ」「マッサージ」などを提供するサービスが、上記「福祉に有害な場所における業務」に該当するということであり、さらに厳密にいうと、厚生労働省令である「年少者労働基準規則第8条」の第45号「特殊の遊興的接客業における業務」に該当すると判断されたものと考えられます。

(年少者の就業制限の業務の範囲)
第8条 法第六十二条第一項の厚生労働省令で定める危険な業務及び同条第二項の規定により満十八歳に満たない者を就かせてはならない業務は、次の各号に掲げるものとする。(中略)

四十五  特殊の遊興的接客業における業務




ここでいう「特殊の遊興的接客業における業務」が具体的にどんなものかについては、通達によれば

「カフェー、バー、ダンスホール及びこれに準ずる場所において客に接する業務」

とされています。

また、昭和56年労働省が示した見解によれば、

「特殊の遊興的接客業における業務」とは、「接客業」であって「特殊の遊興的」なものにおける「客に接する業務」をいうものと解される。

このうち「接客業」とは、 (中略) 料理店や飲食店とは異なって、個々の客に対し、 (中略) 「積極的なもてなし」行為を行うことを営業の主体とするものをいうと解される。

(中略) 喫茶店は、労働基準法適用上は一般的には「飲食点」に該当するものであるが、ノーパン喫茶の場合には、 (中略) ウェイトレスの服装、ウェイトレスの行うサービスなどにより、個々の客に対する「積極的なもてなし」といい得る行為を行うことを営業の主体としている場合は、「接客業」に該当することとなる。

ノーパン喫茶が「特殊の遊興的」なものであるかどうかについては、ノーパン喫茶は、一般的には、客に性的な慰安歓楽を与えることを一つの目的とするものであり、「特殊の遊興的」なものであると解される。

※以下引用元
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20110518#1305697778



今回の事件の該当店舗は「カフェー、バー、ダンスホール」にはあたらないと思われますが、提供しているサービスそのものはいわゆる「積極的なもてなし」行為を営業の主体としており、「客に性的な慰安歓楽を与えることを一つの目的とするもの」であることは世間一般的に考えて明らかといえそうです。

風営法で直接取り締まることが難しい業態を労働基準法違反によって摘発していくというかたちは今後も続くかもしれません。




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2012-11-27

腰痛は労災として認められるか


現実問題、腰痛の労災請求がかなり厳しいのは確かです。

なぜなら、一般的に労災認定を受ける為には、業務とケガ・病気との間に因果関係が認められる必要があるわけですが、腰痛の場合、本当に業務が原因なのかどうか特定するのがかなり難しいからです。

(※腰痛の発症は業務上の原因以外にも、加齢による骨の変化や運動不足からくるもの、日常的な動作によって発症するもの、持病の腰痛が業務と関係なく悪化したものなど様々考えられます。)



最もよく質問を受けるのが、「ぎっくり腰」、「椎間板ヘルニア」の2つです。

率直にいうと、どちらも労災として認められるのは難しいケースです。


まず、ぎっくり腰(※正式には「急性腰痛症」など)ですが、これは発症原因が日常生活の動作から生じるものとされている為(床に落ちたものを拾うなど)、仕事中に発症したとしてもなかなか労災として認められるものではありません。

業務が原因でぎっくり腰が発症したと認められるためには、業務上の突発的な事由(非日常的な動作や姿勢)によって急激な強い力が腰に異常に働いたという状況が認められなくてはなりません。

常日頃から既往の腰痛(持病)がない労働者が重量物の取り扱い中などにぎっくり腰を発症したというような場合であれば、労災認定される可能性も考えられるので、過渡な期待はせずに念のため申請してみるというくらいのスタンスがよいと思われます。


次にヘルニアについてですが、ヘルニアなどの既往症はぎっくり腰よりもさらに厳しいといえるかもしれません。

腰痛の労災基準には、


1.災害性の原因による腰痛(仕事中の突発的な出来事)

2.災害性の原因によらない腰痛(日々の業務による負荷が徐々に作用)



の2種類があります。分かりやすく大雑把にいえば、前者がケガで、後者は病気といったイメージです。そして実際に労災認定される腰痛のほとんどは前者の「災害性の原因による腰痛」です。

一般的に労災はケガの場合には業務との関連性が認められやすく、病気の場合にはそう簡単には認められません。これは腰痛の場合も同じですし、ヘルニアも同様です。

仕事中に転んだとか落ちたとか、あるいは重いものを持ったとか、腰に衝撃を受ける出来事があったとか、明確に突発的事故等が発生し、それがきっかけで発症したと思われる急性のヘルニアであれば認定の可能性は上がると思われます。

しかし、ヘルニアの多くはそのようなはっきりとした事故等ではなく、毎日のつらい姿勢・つらい動作の繰り返しによって発症したと認識されているケースが多いのではないかと思われます。

腰痛の労災認定基準によれば、「椎間板ヘルニアについては労働の積み重ねによって発症する可能性は極めて少ない」ともされており、急性のヘルニアでなければ業務起因性が認められるのは相当に難しいものと思われます。

さらに、もともと入社前にヘルニアの既往歴やその他基礎疾患などが全くなかったのであればまだしも、入社前から既往症を抱え、業務が原因で再発あるいは重症化したというような場合には、労災認定は相当難しくなります。仮に労災が適用されたとしても、その前の状態に回復するための治療に限るものとされており、その後たとえ慢性的に痛みが残ったとしても、元々抱えていた腰痛については労災は適用されません。



以上で、腰痛が労災認定される確率は現実的にかなり低いことがお分かり頂けたと思いますが、だからといって最初から労災請求しないという選択肢はお勧めしません。

腰痛の労災は最初に申請しておかなければ、将来業務によって腰痛が再発した際に私傷病扱いにされてしまう可能性が否定できません。

また、会社が労災申請書類において事実証明をしなかったとしても、労災認定を判断するのは会社ではなく労働基準監督署長なのであり、労働者事業主印なしでも直接書類を提出し請求を行うことが可能です。

労災請求はダメもとでもやってみるべきなのです。

最終的に腰痛労災が認定され、療養の為に休業が必要になった場合、休業中は解雇が行えなくなる点も会社は頭に入れておかなければなりません。




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2012-11-13

多くの会社でずさんな月額変更


社会保険労務士という職業柄、様々な会社の社会保険手続きの実態をみることになるわけですが。

実感としては、従業員の入社・退社時の得喪手続きや、お金の支給や免除を受ける為の手続き(傷病手当金、労災、育児休業関係)などは割と問題なくできているように思いますが(多分手続きを行う上でのモチベーションが違うのでしょうか)、逆に「全然ダメ」な状態にあるのが標準報酬月額の随時改定、つまり月変(月額変更)です。

はっきり言って、多くの企業は月変を相当に軽視しているのが現状だと思われます。

それなりの規模の企業になれば労務管理がしっかりしているから大丈夫だろうと思いきや、勝手に独自ルールを決めて「この社員たちは月変は適用しない」とか、「この場合には昔から月変は行わないことになっている」とか、ひどいケースになると「うちでは毎年算定は行うが月変は煩雑なので行わない。」というような企業も実際にあります。

月額変更は企業が納付する膨大な社会保険料を正しく計算する為に必要な手続きですから、本来かなり重要なはずなんですが(税金の確定申告と同様に)、これだけズサンな会社が多いのは恐らく社会保険行政の指導がユルユルだからなんでしょうか。

確かに厚労省は今後、社会保険調査を4年に1度実施するとともに未加入に関して厳罰化を掲げ(※詳しくはコチラ)、厳しく取り締まっていく姿勢をみせていますが、年金事務所の調査の際に調べられるのはたいてい加入漏れがないかという点がほとんどであり、後はせいぜい賞与支払届がきちんと提出されているか確認される程度で、月額変更までチェックされるのはむしろレアケースだと思われます。

ただし、会計検査院の血も涙もない調査を受けたら多分そんなことも言ってられなくなると思いますが。


細かい話ですが、月額変更の中でも特に企業が出来ていないと思われるのが、パートタイマーの月変です。

時給が改定されたときは、その都度固定的賃金の変動と捉え月変を行っているのだと思いますが、シフトの変更時(※所定労働時間・所定労働日の変更時)は全く手つかずの会社が見うけられます。

例えば週4日勤務が隔週で週4日・5日勤務になったり、1日6時間が7時間に変更になればこれは労働条件の変更であり、雇用契約の内容が変わったことになります。時給がそのままであっても当然ながら月あたりの固定的賃金は変動したことになるわけです。

特に中小企業では、パートタイマーの月々の所定労働時間・所定休日があいまいではっきり決まっていない会社が少なくないですが、この辺をはっきりさせていかないと月変自体が行えない、つまり正しい社会保険料が計算できないという事になります。


月変は正確に行おうとすればかなり面倒な作業です。給与計算ソフトでボタン一発と考える方もいるでしょうが、そんな感覚でやっていれば高い確率でミスを招きます。人的なチェックははずせません。

月変に問題があれば、それは国に納付する社会保険料が間違っているということであり、会社だけでなく従業員一人ひとりにまで影響するものです。さらに発覚する可能性が低いとはいえ保険料は2年間遡って支払いを命じられるものです。月変を日頃から適正に行うことはリスク管理上重要なことであり、決して軽視すべきではありません。




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2012-10-24

インターンシップの違法性と注意点


近年、インターンシップに参加する学生は本当に増えています。

インターンシップの活用は、企業ニーズと学生の抱くイメージのミスマッチの回避につながりますし、企業側は選考過程に組み込んで優秀な学生を採用するチャンスを得られるなど様々なメリットがあります。


しかし、インターンシップを使うのであれば、その法的な問題点にはぜひとも注意しておかなければなりません。


勘違いされている方もいますが、インターンシップとはあくまで「就業体験」であって労働ではありません。「試用期間」だとか「OJT」などとは根本的に異なるものです。

もしインターン実習生の就業実態が労働基準法上の労働者に該当するということになれば、労働関連諸法令が適用され、最低賃金の支払い義務が発生するほか、実習中に起きた事故や災害・ケガ等について労災保険を適用させなければならなくなります。

なかにはインターンシップを「低賃金 or 無償でこき使えるアルバイト」のような感覚で利用する悪質な「名ばかりインターン」も現実にあって問題視されています。


では、どういう場合にインターンシップは違法となるのか、企業はどんな点を注意すればよいのかについては、行政通達でインターンシップの労働者性について、ある程度明確にされています。


1.実習生が企業から指揮命令を受けているなど、使用従属関係が認められる場合
2.実習生が本格的に業務を遂行するなど、生産活動に従事している場合(作業による利益・効果が会社に帰属する場合)



これらに該当すれば、労基法上の労働者とみなされる可能性が高いといえます。

さらに、以下の事項は労働者性が肯定される判断材料となります。

3.実習生に支給される手当が、一般従業員の賃金とあまり変わらない水準の金額である場合
4.会社の規則に違反した実習生に制裁が課されている場合
5.一般従業員の就業場所と区別されず同じ場所で現場実習が行われている場合




ここまで読んでお分かり頂けると思いますが、インターンシップを適法に運用することは実際、企業にとって相当にハードルが高く、事実上ほとんど実習生に「仕事」をさせることはできません。

常に実習生の横で指導・教育を行える担当者を配置するなど、十分な人的余裕が企業になければそもそもインターンシップは成立しないのです。

内容についても見学や説明をメインとし、現場・生産ラインに入らせる場合は本当に軽度の補助的な作業にとどめなければなりません。

例えば、営業などは会社の利益に直結しますから、せいぜい担当者の横で見学する程度にすべきですし、電話応対や接客についても指導者が横について監督している状態で体験的に試してみる程度にとどめ、実習生が独立して行う事のないようにすべきです。製品の製造やPCを使った製作は当然ながら生産活動に該当しますし、資料を作成する程度であっても、その資料が業務で使われるのであれば生産活動とみなされます。


「そんな実習は物理的に無理だ」
「そんな薄い体験では意味がない」

ということであれば、悪いことは言いませんがインターンシップという形式はとらずに、短期のアルバイトとして雇用し、最低賃金以上を支払い、労災等を含めた使用者としての責任を全て負うかたちの方がよいと思います。


ちなみにインターンシップが認められた場合(つまり労働者性が否定された場合)、労災保険の適用は不要となりますが、そのこととは別に企業には安全配慮義務が求められることになるので、実習生のケガや病気、死亡事故、その他セクハラパワハラ等に関して企業側の過失が認められた場合には損害賠償責任が発生する可能性があります。この点は注意です。

逆に学生側も、企業の保有する機器・施設等に対する損害、機密保持等に関し賠償責任が生じ得るということを忘れてはいけません。




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2012-09-24

「みなし残業」という訳の分からない制度


会社員の方がこう話すときがあります。

「うちの会社はみなし残業制だからいくら残業しても決まった額しか残業代が出ない。」

労働法的に考えると、筋の通らない話です。というのも、労働基準法その他の法律に「みなし残業」などという言葉はありません。まさに言葉の一人歩きです。

「いやだって最近はどこの会社もみなし残業やっているじゃないか」、と多くの方は仰るでしょう。ですから一応きちんと書いておこうと思います。



現在、法的に認められているのは以下のようなやり方です。


1.固定残業代(定額残業代)

残業代を毎月一定額で支給する方法です。

本来残業代は実際に残業した時間分だけ払えばいいのですが、残業していない分も含めて多めに固定額を支給しているだけのことです。

ですから実際の残業が固定額分を超えて行われた場合、超過分の残業代を企業は当然支払わなければならず、決して「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが法律的に許されているわけではありません。




2.みなし労働時間

労使協定の締結や就業規則の規定など、ある一定の要件を満たした場合に、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間働いたものとみなす制度です(※「事業場外みなし」「裁量労働制」があります)。

例えば、あらかじめ9時間と決められていた場合には、実際に5時間働こうが、10時間働こうが、その日の労働時間は9時間とみなされるわけです。

お分かりだと思いますが、これは労働時間をどうカウントするのかという問題であり、残業代をどう計算するかという取り扱いには一切関係はありません。みなされた労働時間が所定(あるいは法定)労働時間を超えていれば、当然企業は残業代を支払う義務があり、決して「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」ことが認められている訳ではないのです。

「みなし時間が1日8時間なら法定内に収まるから残業代は不要じゃないか。」と言われればまさにその通りです。

しかし、みなし労働時間制は厳しい法律要件を満たして初めて有効な制度です。

私が話を聞く限り、冒頭の「みなし残業」なる制度を運用しているらしい多くの企業はどう考えてもみなし労働時間制の要件など満たしていないのであり、多くの企業は「みなし残業」という存在しない制度を堂々と謳いながら、法的には残業時間が発生しているにもかかわらず、それらをカウントせずに違法に残業代を払っていないというわけです。




このように、「みなし残業」という言葉は、さも制度が適法に存在するかのように企業や労働者を誤解させる言葉なのであり、法的には「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」制度など存在しない、存在するのは「残業代を実際の残業時間より多めに定額で支給する方法」と、もう1つは労働時間を一定の時間にみなす制度」だけだということをしっかり認識した方がよいと思います。

なお、労基法上の「管理監督者」は「いくら残業しても決まった残業代しか出ない」に該当するような気がするかもしれませんが、管理監督者を含めた労基法第41条該当者は、「労働時間・休憩・休日の規定が適用されない」のであり、そもそも残業という概念自体がなく、したがって「いくら残業しても」という状況には適合しないということになります。




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2012-08-30

高年齢者雇用安定法 改正ポイントまとめ


さて、昨日とうとう改正高齢法が参院で可決・成立しました。施行は来年の平成25年4月からの予定です。ポイントは概ね次のようになります。


1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

つまり希望者は全員定年後再雇用し、65歳まで雇用しなければならなくなるということです。これまでのように労使協定で勤務評価や出勤率などの基準を定めておいて再雇用したい人を選ぶということが今後はできなくなります。

ただし、基準の廃止にあたっては経過措置があります。労使協定によって継続雇用の対象となる基準を定めている場合には、以下の範囲において段階的にその基準が適用されることになります。

平成25年4月1日〜28年3月31日 61歳以上
平成28年4月1日〜31年3月31日 62歳以上
平成31年4月1日〜34年3月31日 63歳以上
平成34年4月1日〜37年3月31日 64歳以上

実質的には65歳までの全員雇用が完全義務化されるのは平成37年4月以降ということになります。

また、以前の記事でも触れたように、継続雇用の例外(心身の健康状態の不調など)については今後指針が定められることになっています。



2.継続雇用制度の対象者が雇用される企業の範囲の拡大

現行では継続雇用として雇用される会社は定年を迎えた会社および子会社となっていましたが、今後は企業の負担を考慮し、グループ企業まで範囲が拡大されることになります。

(※グループ企業は「特殊関係事業主」といいます。「当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主」のことです。例えば親会社の別の子会社など)



3.義務違反の企業に対する公表規定の導入

基本的に高年齢者雇用確保措置の違反企業について罰則というものはなく、これまでは違反企業に対しては助言・指導・勧告止まりでした。ですからはっきりいえば現実には違反企業だらけ、適法に制度を運用した会社ほどバカを見たという状況が少なからずありました。

今後は勧告に従わない場合には、制度上は企業名公表もあり得ることになります(罰則という位置付けではありませんが)。現実にはどの程度の運用になるのか不明ですが、おそらく余ほどの悪質な違反行為やひどい対応がなければなかなか公表までいく事はないように思います。



4.「高年齢者等職業安定対策基本方針」の見直し

雇用機会の増大の目標の対象となる高年齢者を65歳以上にまで拡大します。



来年の4月法施行にむけて各企業の人件費負担増に係る対応や、就業規則の改定、賃金体系・人事制度の整備等が急がれるところです。




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2012-08-06

5年を超える前に雇止めすれば問題ないという勘違い<改正労働契約法>


先週、改正労働契約法がとうとう可決、成立しました。有期雇用契約の労働者(契約社員)が同じ会社で5年を超えて反復更新された場合には、本人の希望により無期雇用(つまり正社員)への転換を企業に義務付けるという例の話題の法改正です。施行は来年の4月です。

この法改正による世間の反応はというと

「そんな規制したら、会社は5年経つ前に更新打ち切るに決まっているでしょ。」

「これまで長年更新されてきた人がみな5年以内で契約打ち切られて失業者が増える。」

という声が大多数のようです。今回の法改正が「5年以内の雇止めの促進」につながるというわけです。確かに企業は概ねそのように動くと思います。ただし、本当のところはそんなに単純な話ではありません。



今回の労働契約法の改正は、多くの企業や労働者大きな誤解を与えかねない法改正だと思っています。

というのも、現実として今まで企業は有期雇用契約を何年も実質上限なく更新してきました。そして今回の改正で、上限の5年を超えた場合には無期雇用に転換しろといわれています。裏を返せば、「通算5年経過時点までに更新を止めさえすれば、有期雇用を何回更新してどう取り扱おうが基本的に企業の自由だ」という間違った認識を企業と労働者に与えかねないのであり、少なくとも多くの労働者はそう考えている状況です。

しかしながら、有期労働契約は本来、臨時的・一時的な業務を行わせるための雇用形態であり、そもそも常用的な労働者を雇い入れることを前提としていません。にもかかわらず現実には多くの企業が恒常的業務のために有期労働者を雇って反復更新を重ね、そして都合のいいときに契約を打ち切るという法の趣旨に反した運用を続けているのであり、裁判では実質「期間の定めのない雇用」と同じだと判断され解雇法理が適用されて雇止め無効とされるケースが少なくありません。例え上限5年に達していなくとも、「無期雇用と判断される可能性」も「雇止めを無効とされる可能性」も十分にあるのであり、5年を超えたら「可能性」どころでなく問答無用で無期転換を強制されるということなのです。

しかも今回の改正では、合理的な理由がなければ雇い止めはできないとする「雇止め法理」が明文化されています。これまで裁判で示されていた雇止め法理が法律に明文化されることによって、これまで以上に雇止め時の正当な理由が重要になると考えられます。

したがって、有期雇用契約が5年を超える前に雇止めをすれば何も問題ないなどという考えは大きな間違いであり、むしろこれを機会に自社の有期雇用の運用の適正化について真剣に検討すべきであることがお分かりいただけると思います。

当然ですが、無期転換を回避するための5年雇止めは合理的な理由とはいえません。厚生労働省告示に基づき労働者が雇止め理由証明書の交付を会社に請求した場合には、まさか雇止めの理由を「無期転換回避の為」とは書けませんので、きちんと合理的な理由を明示することが求められます。



さらに注意したい点は、今回の改正は通算期間の長さを基準にして無期転換の義務を課しており、ともすれば通算期間が長いほど(更新回数が多いほど)無期雇用に近づき、逆に通算期間が短ければ(更新回数が少なければ)有期雇用として認められやすいとの誤解が生じかねないということです。

過去の判例では、まだ1度も更新していない有期契約を1年終了時点で最初に更新拒否した場合であっても、継続雇用への合理的な期待があったとして雇止めが無効とされたケースがあります。必ずしも通算期間や更新回数だけで雇止めの有効性が判断されるわけではなく、雇用の実態を総合的に考慮して判断されるという事を忘れてはいけません。



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2012-07-30

「外資系は簡単にクビ」を安易にマネすべきでない


最近、興味深いブログの記事を読みました。「外資が簡単にクビにできる理由」についてです。

「どうして外資系企業は日本の企業と同じく労働基準法適用されているのにクビにできるのか」という多くの方の疑問に対し、外資系の給与は担当する仕事内容によって決定する職務給が採用されており、「職務内容を限定して採用し、その職務を担えないことが明らかな場合の解雇解雇濫用とはならない」と裁判所において判断される為、外資系企業が日本国内でクビを切っても違法とはならないのだと説明されています。


この説明は一部当たっていると思います。ただしこれだけを鵜呑みにして職務給制を採用し、求める能力に達していないと判断した従業員を遠慮なしに解雇していくのは危険です。ポイントは2つあります。



第一に、そもそも外資系企業は法律上の解雇に該当する行為をそんなに頻繁に行っているわけではありません。

かつて日本の労働法制をきちんと理解していない外資系企業が日本で解雇を乱発し紛争に発展するということがよくあったようですが、現在では日本の解雇規制の厳しさを外資系もよく理解しており、余程のことがない限りリスクの高い解雇は行わないと思われます。

外資系がすぐクビにするというのは、非常に強力な退職勧奨を行うということであり、労働契約の終了を一方的な意思によって通告する解雇という形式ではなく、何が何でも相手の退職の合意を取り付ける「合意退職」にもっていくのです。(※違法な退職勧奨を行っている外資系企業は少なからずあると思われますが。)

該当の労働者を呼び出し、戦力外通告を行い、おとなしく退職合意書(あるいは退職願)にサインすれば割増退職金と再就職支援を約束、合意しないなら退職金は1円も支給されずに解雇、と迫ります。もちろんこの場合の解雇は根拠のある正当なものだと主張するでしょう。

この場合の退職勧奨は、相手の人格を傷つけるような言葉を口にしたり、根拠のない解雇の可能性をほのめかしたり、あるいは威圧的に脅すなどの悪質な行為がなければ、多少しつこく勧奨を繰り返したとしても即違法ということにはならないと考えられます。



第二に、担当職務を明確に限定して採用したとしても、その後の能力不足による解雇が必ずしも認められるというわけではありません。

確かに過去の判例から、特定の地位や職種を前提に高い能力を期待されて入社したキャリア採用・管理職採用などであれば、通常の年功制(職能給制を含む)の新卒採用等の労働者に比べ、会社側に求められる解雇回避努力の程度は緩やかであるとされています。

この点日本型の職能給より職務給を運用した場合の方が能力不足による解雇が認められやすいといえなくもありません。ただしこれは、解雇を行う前にまず他の職種や下位の職位へ配置換えをするほどの義務までは負わないということであり、指導・教育を含めた解雇回避措置自体が全く必要とされないということではありません。

さらに会社側は、労働者が担当職務を担うほどの能力を有していない点について主張・立証責任を負いますし、採用にあたってはかなり細かく条件面を書面化したうえで内容について十分に合意しておく必要があります。

日本の解雇に対する規制は本来それほどまでに強いのだということを、特に労務管理面がまだまだ未整備だという企業は誤解のないよう正しく認識すべきであると思います。



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2012-07-03

派遣法改正の余波と人材派遣企業の動き


今年の3月28日に可決、成立した改正労働者派遣法の施行日が10月1日に決まりました。

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当初法案にあった「登録型派遣の原則禁止」と「製造業派遣の原則禁止」はどちらも削除され、骨抜きの改正と批判されていますが、今回の改正法は30日以内の期間を定めて雇用する日雇い派遣を原則禁止しています。これは派遣元と派遣先双方とって実質かなり厳しい規制となります。

さらには「グループ企業内派遣の8割規制」、「離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることを禁止」、違法な派遣が行われていた場合に派遣先に適用される「直接雇用申込みのみなし規定」(※改正法施行日の3年後に施行が延期されました)など、企業にとって相当に影響のある事項を多く定めた法改正であり、決して軽く考えられるものではありません。


違法派遣の場合の「みなし雇用」制度については、「雇用契約申し込み」義務を定めたに過ぎない現行法下においても多くのトラブル、訴訟が起こっている状況を考えると、3年後の制度施行後はみなし雇用の有効性をめぐってさらなるトラブルの増加が予想されます。

この辺りは、2年前に実施された専門26業務適正化プランもかかわってくるところでしょう。26業務に該当しないものと判断されれば、派遣期間3年オーバーであれば即違法、みなし雇用となる可能性もあるわけです。派遣先企業にとってこのインパクトは大きいです。



法案成立後、派遣先となっていた企業の多くは今後の直接雇用を見据えた行動を進めているものと思われます。

派遣社員を直接雇用に切り替えた場合には、労働保険や社会保険の加入、給与計算や源泉徴収、その他労働基準法等の労働関連諸法令に係る様々な労務管理、雇用管理が必要となり、事業主としての大きな責任が発生することになります。

他方、人材派遣会社にとっても派遣機会の減少と業績の低下が考えられるわけですが、同時に直接雇用の増加に伴って労務管理業務の需要が増えると見込み、労務管理代行サービスに転換する動きがあるようです。

シスプロ、労務管理代行を強化 派遣法改正にらむ  :日本経済新聞

記事によれば、人材紹介企業のシスプロは、顧客企業が求める人材の紹介と、労働条件通知書の発行や年末調整など直接雇用に伴う煩雑な事務手続きの代行を合わせて提供できるサービスを扱っており、顧客企業が負担するコストは従来の人材派遣のケースとほぼ変わらないとのことです。


この記事を読んで思ったことは2つ。

1つは、労働者を直接雇用する事業主の法的な責任と、派遣先企業としての法的な責任の重さは比較になりません。例え発注主が従来と同水準のコストで人材を確保できたとしても、事務手続きを代行してもらえたとしても、事業主としての法的責任が軽減されるわけではありません。ともすればこの点において「派遣=(紹介+事務代行)」と誤解される可能性が否定できないことには懸念を抱きます。


2つ目は、社会保険労務士としての立場からいえば、労務管理代行というサービスは社労士と業務が少なからず重複するということです。気を引き締めなければなりません。

しかしながら、前述の人材紹介企業の公式サイトによると、「雇用業務代行」と称して以下の記述が確認できます。

労務管理業務

入退社、転勤、転属などの管理、各種保険対応、法的申請等労務全般の業務を代行します。

入退社、転勤転属管理   社会保険対応

入退社時諸手続き     労務上法的申請対応


入社時各種手続き業務

雇用保険資格取得/社会保険資格取得/通勤手当、給与振込口座


これらは社労士法第2条に定められた業務が含まれており、仮にこれらを会社が業として受託すれば明らかに社労士法違反ということになり、社労士会が目を光らせなければいけない点だと思います。




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2012-06-27

期待外れの中途採用者を能力不足を理由に解雇できるのか


採用面接の際に本人が自己申告していた能力・スキルが実際のものとかけ離れていて処遇に困っているというのはよく聞く話です。

企業が中途で従業員を採用する際には即戦力となる経験や能力を求めるケースがほとんどです。ときには課長、部長クラスの幹部候補を採用する場合もあります。

一般的に能力不足を理由として労働者解雇することは簡単に認められません。非常に厳しい基準の解雇回避努力が求められることになります。何度も指導・教育を繰り返し、それで駄目なら職種や部署を変えるなどして能力開発に努め、どうしても厳しい、業務に支障がでるといった場合に初めて解雇の可能性を考えるというレベルの話です。

では一定の能力があることを前提として採用された中途採用者の場合はどうでしょうか。

新卒採用や第二新卒、あるいは経験の浅い従業員の採用ならばそもそも能力もスキルも高くないことが分かったうえでのポテンシャル採用ですから、企業の方で教育を十分に行わずに解雇することは適切でないという考えも理解できますが、即戦力のキャリア採用、専門能力を要求されたスペシャリスト採用、一定の地位・ポストを特定した管理職採用であれば、そこまで企業に解雇回避措置を求められるのは正直厳しいところだと思われます。

実際にこれらの場合であれば、通常の能力不足を理由とする解雇に比べ、多少は認められやすいといわれています。


有名な判例とされるフォード自動車事件では、以下のように判断されています。

外資系会社の最上級管理職のひとつである人事本部長の地位を特定して中途採用された従業員に対し、就業規則解雇理由である「業務の履行又は能率が極めて悪く、引続き勤務が不適当と認められる者」を適用して解雇するには、他の職種または下位の職位に配置換えをするまでもなく、人事本部長という地位に要求された業務の履行または能率がどうかという基準で検討すれば足りる

通常の解雇よりも解雇回避努力の要求される程度は低いと考えられます。



とはいえ解雇が厳しいことに違いはないと考えておいた方がよいでしょう。企業のとるべき対策としては、雇用契約書において

一定水準の能力・スキルが前提であること
地位・職種が特定された契約であること
それらに応じて一定の業務の履行、業績目標等が要求されること
適格性がないと判断された場合には退職を求めること


以上をできるだけ具体的に明記し、内容について十分に合意しておくことが必要と考えられます。

また、場合によっては最初の契約を有期雇用契約としておくことも有効といえるでしょう。

なお、解雇の通告を行う前にまず退職勧奨によって合意退職を試みた方がよいのはいうまでもありません。



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