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2017-01-12

プライベートの喫煙を会社が就業規則で禁止できるのか


世間喫煙者への圧力の高まりに伴って、企業における喫煙のルールも厳しくなる一方の昨今ですが、最近その中でも一歩踏み込んだ企業の施策が話題になりました。

SCSK、懇親会も喫煙NG 就業規則に追加
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10246770S6A201C1TI5000/
日本経済新聞

SCSKは社員同士の懇親会などの場で喫煙を禁止する項目を就業規則に追加した。



プライベートもタバコNG 大手IT企業の仰天「就業規則
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/195480
日刊ゲンダイ

就業時間外まで禁煙を強いるのは前代未聞だ。

たとえ社員2、3人で仕事帰りに居酒屋で一杯やる時でも喫煙を禁じるようにしました。社員同士でゴルフに行った時や同期会も禁煙です。




これまで企業の禁煙に関しては、「喫煙者を採用しない」方針星野リゾート、外出先・出張先・移動中を含め「勤務時間内のあらゆる場所での禁煙」を実施したリコーなど、様々な施策がニュースになってきました。

ただし、今回の禁煙施策はそれ以上といえます。最大のポイントは勤務時間外のプライベートともいえる時間まで喫煙を禁止した点にあります。ネット上では、そのような規則は無効とか、行き過ぎだとか、「喫煙は個人の趣味・嗜好の問題」であるとか、多くの批判的な意見がみられますが、以下ポイントを絞って書いてみたいと思います。



単なる服務規律なのか、懲戒事由となる得るのか

大前提として、

就業規則で禁止したと一口に言っても、単に行動規範を示しただけなのか、それとも行為が発覚すれば懲戒処分の対象となるのかによって、社員への影響は全く異なってきます。一般的に禁煙に関する規定は、服務規律として定めただけで罰則なしというケースも少なくありません。(ちなみに今回の件がどちらなのか、前述の記事を読んだだけではよく分かりませんでした。)



勤務時間外の行為を会社が規制すること自体が不可能なわけではない

ご存知の方も多いと思いますが、社員の勤務時間外の行為を規制し懲戒処分の対象とするケースはいくらでもあります。

例えば

勤務時間外の行為だから会社が口を出すのはおかしいというわけではありません。勤務時間内外を問わず、会社の秩序維持等の為に必要であれば、会社は社員の行動に対し一定のルールを課すことができるわけです。



懇親会や飲み会の禁煙ルールには合理的な理由がある

今回の件で会社が禁煙を導入した大きな理由は、懇親会や社員同士の飲み会などの席でタバコを吸わない社員が喫煙者に気を使って何も言えず、受動喫煙を強いられるような状況をなくす為には、社員たちの自主規制だけでは難しいと判断したからだと考えられます。

そもそも上司・部下や先輩・後輩などが混在する懇親会や飲み会は、職場から切り離された完全なプライベート空間とは言い切れません。そのような場で立場的に優位な社員が、非喫煙者である社員の前でタバコを吸う行為は、客観的にみたら嫌がらせ以外の何者でもありません。(例え当人にその自覚がなかったとしても。)

例えば、パワハラの定義の重要な要素には「優位性」というものがありますが、これは被害者が加害者から実質的に「逃げられない」状況であることを指します。

喫煙行為がパワハラに該当するという話ではありませんが、パワハラと同じような視点にたてば、懇親会や飲み会がプライベートの時間といいながらも、人間関係の複雑な会社組織において、タバコの煙の充満した「プライベート空間」から文字通り「逃げられない」社員が一定数存在することを前提に考えるのが当然であり、そのような不本意な受動喫煙を会社が放置することは、突き詰めれば企業の安全配慮義務に反するのではないか、という考え方もできます。(完全に持論ですが。)

今回の施策が行き過ぎた行為として批判する論調もありますが、私は非常によい施策だと考えます。このような踏み込んだ施策を実行する感度の優れた会社が、今後優秀な人材を獲得していくのではないかと思います。



プライベートの禁煙を定めた就業規則は法的に問題ないのか

今回の該当企業はあらかじめ顧問弁護士等に相談をした上で法的に問題ないと判断し、就業規則に規定を追加したのだと予想されます。

就業規則で懇親会等の喫煙を禁止することはもちろん違法ではないと考えられます。仮にもし問題が起こるとすれば、懲戒処分を定めた上で実際にそれを適用する段階です。ルール違反に重い処分を科し、それに社員が不服を感じれば、最終的には裁判所の判断ということになるでしょう。とはいえ、世の中の企業の就業規則には、現実に裁判をしてみなければ有効性の疑わしい懲戒事由はいくらでもあります。今回の件が例外というわけではありません。前例のない新しい規定を追加する時点では誰もその規定の有効性を断定できません。

労働契約法では「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒を行う権利を濫用したものとして判断されます。

  • 露骨に非喫煙者の目の前で吸ったり煙を吐き掛けたりして行為が悪質
  • 注意されても繰り返し違反が続く
  • 懇親会の出席者が多く実質的に強制参加に近い(勤務の延長的な性格が強い)
  • 非喫煙者の不満やクレーム、被害の申告等が確認される

様々な状況が考えられる為、処分の適用も一刀両断ではなく柔軟に考えるべきだと思います。

個人的には、仲のよい喫煙者の同僚2人が会社帰りに居酒屋行ってタバコをぷかぷか吸うのは放っておいて構わないと思いますが、そこに1人でも非喫煙者、特に上司や管理職以外の立場の弱い社員が加わるのであれば、まず細かい状況を確認した上で処分の可能性を検討してもよいのではないかと考えます。もちろん懲戒解雇が認められるような行為ではありませんが。


以上から、今回の懇親会等での喫煙を禁じる規則の導入、やってみる価値はおおいにあると思います。




関連記事

2016-02-18

「定年制の廃止」できる会社とできない会社


ジョイフルが定年制を廃止するというニュースがありました。

ジョイフル:正社員60歳定年制廃止 パートも雇用継続 - 毎日新聞


以前から定年制を廃止する企業のニュースはたまに見かけますが、定年廃止は企業にとって非常に勇気のいる決断です。

定年廃止は、何のトラブルもなく自動的に従業員を退職させるための唯一のシステムがなくなることを意味します。正社員は基本的にみな無期雇用なので、自分から辞めたいと言わない限り何歳まででも企業は雇い続けなければならないということになります。高齢でパフォーマンスが落ちてきたというくらいでは、解雇なんかまずできません。


そんなリスクを負ってまでなぜ定年廃止に踏み切るのか。このままではもう立ち行かないくらい人材が不足しているからです。定年廃止をアピールすることでより優秀な、より多くの人材を獲得したいのです。


とはいえ企業が定年を廃止する為には、どうしても越えなければならない壁があります。「年功序列」の壁です。定年廃止には実力主義が不可欠なのです。

日本の企業の多くは年齢によって給与や昇進が決まります。「最近は成果主義が増えているじゃないか」というかもしれませんが、そんなことはありません。能力主義とか成果主義とうたっているような企業でも、中身を見てみると「年功的な成果主義」だったりします。人事評価によって差はついても、全体的にみると結局年齢や入社年次が大きく影響しているという感じです。

したがって、日本企業給与は上がることはあっても下がることはあまりないのが現実です。下手に給与を下げられないのに加え、上には管理職がいっぱい詰まっているので、最近は特に大企業は30代くらいで早くも頭打ちだったりします。

このような制度のまま定年を廃止したらどうなるでしょうか。あっという間に人件費が肥大化して経営危機に陥ります。会社で最も高給かつパフォーマンスの落ちている層がそのまま退職せずに残るわけですから当然です。

これまでだったら60歳あたりで一回仕切り直して、まず給与を思いっきり下げて、最終的には動きのいい人だけ再雇用で残すというやり方でやって来れたわけです。定年を廃止すればそうした人件費圧縮も選別も一切できなくなります。

ですから定年廃止する企業は給与も昇進も全て実力主義で決定する必要があります。決して60歳間際の社員の給与が高いとは決まっていません。年齢で給与が決まらないのだから、年齢で退職も決まらないということです。年齢による差別を一切やめることこそ定年廃止です。一方、年功序列は年齢による差別の代表格といえます。

また、労働者が何歳まででも会社に残る代わりに、パフォーマンスに応じて給与が柔軟に決定され、場合によっては給与を引き下げることのできる人事・賃金制度が必要になります。透明かつ客観的な基準による制度を適切に運用しなければ、給与の引き下げは法律的なトラブルを引き起こしかねません。年功序列の企業ではまず無理だということです。

今後、労働人口の減少にともなって定年制を廃止する企業は次々と出てくるでしょうが、はたしてこの年功序列の壁を乗り越えることができるのか、そこが大きなポイントだと思います。

2016-02-01

三六協定を結ばない本当のデメリット


最近メディアで名前を見かける「かとく」(過重労働撲滅特別対策班)が今度はドン・キホーテを摘発して労基法違反で書類送検したそうですが、個人的に気になったのは違反の内容です。

http://this.kiji.is/65377333893840902?c=39546741839462401

労使協定で定めた上限を超える長時間労働を従業員にさせたとして、労働基準法違反の疑いで


と記事にあるのですが、こういう書き方ってあまりピンときません。

確かに法定外の残業を1分でもさせる場合は、この労使協定(「三六協定」といいます)の締結と届出が必要で、それを結んでいなかったり、締結はしていても協定した上限時間を超えていれば、それは明確に労基法違反といえます。

しかし、私が知る限り、「三六協定」は実務では全く重要視されていません。

締結していない会社が山ほどあり、協定の存在すら知らない会社も少なくないように思います。その理由は多分、「締結していなくても大した損害がない」からではないでしょうか。

ちなみに労基署が調査に来ると、まず最初に36協定書があるのかどうか確認するんですが、結んでないと分かれば是正勧告書を出してすぐに協定書を作らせて是正完了です。法律上はもちろん違反の場合の罰則も規定されていますが、現実はほぼ適用されません。その場で署名して印鑑押して「はいおしまい」です。そんな感じなので、世の中には36協定を結んでいない会社はごまんとあるのだと思います。(もちろん私の関与先ではきちんと締結してもらっていますが。)


で、今回のニュースですが、「三六協定で定めた上限を超える時間外労働」をさせることがそんなにいけないのかと言えば、労基法違反だからもちろんいけないのですが、ただ今回の事案に関して言えばおそらく「とてつもない長時間労働をさせている」ことが一番いけないのであり、それを牽制するために「かとく」は有名企業であるドン・キホーテを摘発したのだと思われます。

しかしながら、そもそも労基法には労働時間の上限を規制するルールはなく、ある意味「三六協定」さえ結んでおけば青天井にいくらでも労働者に残業をさせられるわけです。三六協定さえきちんと結んでおけばです。

ドン・キホーテは三六協定の上限時間を超えてしまったので、三六協定を締結していないのと同じ状態だったわけで、通常の中小企業だったらその場で協定を結び直しさせられて終わったかもしれません。(断定は一切しませんが。)

ところがニュースでは単なる「長時間労働」ではなく「三六協定で定めた上限を超える」という点が強調されます。「三六協定を遵守しないなんてひどい会社だ」ということになるでしょう。「三六協定」をきちんと締結していないと、会社として大事な信用を失うということを知って欲しいと思います。


ちなみに、いくら労基法では残業時間に上限がないといっても、過労死などが起きたら間違いなく遺族から慰謝料請求されるので本当に上限がないと考えるべきではありません。

2014-02-16

労働審判で会社が覚悟すべき支出額


普段私は、本業である企業の労務管理サポートを行う他に、労働者個人からの労働問題・労働トラブルに関する相談を受け、社会保険労務士として可能な範囲で支援を行うことがあります。

昨年(平成25年)は、年間で約150件程度の労働者からの相談に対応し、そしてその中で労働審判の支援まで行った案件が10件でした。ちなみに10件全て解決金を獲得し本人が納得したかたちで解決しています。



労働審判制度は今や、労働者にとって想像以上にお手軽であり非常に使える制度になっています。

もちろん解雇無効による職場復帰を争ったりするのであれば本訴は避けられないとは思いますが、労働者側に金銭解決の意思があるのであれば、労働審判はうってつけの手段です。


裏を返せば、企業は労働審判に持ち込まれた以上は無傷では済まないということです。一定の出費を覚悟しなければなりません。むしろある程度の金銭を支払ってでも、民事訴訟に移行する前に何としても労働審判で和解に持ち込むのが得策だといえます。

現実に、労働審判に出頭してきた企業の担当者や経営者はみな

「1円も支払う気はない。民事訴訟になっても争う。」

という強気な姿勢なのですが、和解協議が始まると例外なく譲歩してきます。

たいていの場合、本訴に進めば会社にとって不利になるうえ、支払額も多くなりますし、余程でなければ本訴においても労働審判と同じ判決になるであろうことを代理人である弁護士から説明され説得されるのでしょう。

感情的に許せないというケースとか、あるいは労働者側の要求額が無茶な金額でない限り、会社側は労働審判での手打ちにおしなべて前向きです。




さて、実際に企業は労働審判を申し立てられたら、具体的にどのくらいお金がかかるでしょうか。

私の経験のみに限定していえば、解決金額は70万円〜150万円くらいになります。

さらに弁護士費用が(労働審判での解決を前提とすれば)おそらく50万円〜100万円くらいになるのではないかと思われます。

合計すると、会社の金銭的な支出額は大体120万円〜250万円くらいになるのでは、と考えられるところです。
(※もちろん紛争に費やす労力や担当者の人件費などは考慮していません。)



労働者側に弁護士が付いているのであれば、その場合の損益分岐点(50万円くらい?)を超えて労働者にメリットのある金額を得られるという見通しを弁護士がつけているはずなので、それなりの出費はまず避けられないと思われます。

弁護士を付けない本人申し立てであれば、労働者側に確かな事件の見通しはありませんので、解決金額を上記よりも抑えられる可能性はあります。

注意すべきは、労働審判は訴訟に比べ裁判官が主導してくれる制度なので、労働者が本人申し立てをしてくるケースは少なからずあるのですが、企業側は必ず弁護士をつけなければなりません。訴える側の労働者は最悪でも解決金を取れないだけで済みますが、会社側はヘタをすれば最終的には(つまり労働審判で終わらなければ)数百万円の支払いでは済まない可能性もあり得るからです。

弁護士費用については、もちろん労働者の請求額によっては上記とは変わりますし、もっと高い弁護士も当然いると思われますが、極端に弁護費用の安い弁護士には注意した方がよいかもしれません。

また、上記の金額においては、残業代不払い、解雇、雇止め、退職強要、パワハラなど紛争の種類を区分していませんが、これは労働審判という制度が通常の訴訟に比べ証拠調べなどの過程をかなり高速ですっ飛ばして行い、かつ、判例をあまり厳格に考慮せず和解を重視してザックリと解決させる傾向にあることから、あまり細かく区分することに意味がないと考えました。
(※もちろん「ザックリ」とは言っても、解雇事案におけるバックペイなど、各事案における相場の金額というものはあります。)



以上から、労働審判は会社にとってやっかいな制度であり、現実に申し立てられた際はそれなりの覚悟が必要であることがご理解頂けるかと思いますが、他方、うまく対応することによって、迅速に被害を最小限に止めることも可能だともいえます。

加えて、労働者があっせんや調停などを申請してきたときには、できる限り低水準での和解の道を探り、労働審判の手前で解決するよう努力することが、結果的には最も支出が少なくなるのではないかと思います。





関連エントリ

2014-02-06

万引き被害額の従業員負担はアリなのか


小売業の業界では自社店舗で万引きが発覚した際に、被害額を当日の従業員の頭数で割るなどして従業員に損害を負担させる会社もあります。不注意に関する連帯責任ということなんでしょうが、そもそもこのような行為は法的に認められるのかどうか疑問に思う方もいるでしょう。

端的にいうと、まず労働基準法には違反しません。その点を規制するような条文自体がありませんので。したがって、そのことで労働者が労働基準監督署に相談に言っても特に対応はしてもらえません。

ただし、従業員負担分を給与から天引きしようという場合は、賃金控除について労使協定を事前に締結する必要があるので(労基法第24条)、その点に限って会社は注意すべきということになります。

では万引きの従業員負担は法的に全く問題がないのかといえばそういうことではありません。というより、万引きによる損害は本来会社が負担すべきというのが大原則であって、従業員に故意や重大な過失が認められた場合、損害の一部を従業員にも請求できるのかどうかという民事的な話になってきます。

会社の営業上で何らかの損害が生じた際に、会社が労働者に対してどの程度損害賠償請求できるのかについては以前の記事でも触れました。
会社から労働者に対して損害賠償請求はどの程度可能かを考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

裁判例では、会社が労働者に請求できるのは「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」とされ、結果的に「損害額の4分の1が限度」と判断されています。

今回の話にあてはめれば、無断で職場離脱していた隙に盗まれたとか、居眠りしていて盗まれたとか、万引きに気付いていたが会社への悪意で止めなかったとか、従業員が万引き犯とグルだったなどのように、余ほどの過失あるいは故意を立証できればいいですが、従業員としての注意義務を怠っていたという程度では、裁判になれば会社はなかなか厳しいのではないかとも考えられます。

まあ、少額であればそもそも訴訟にはならないでしょうし、従業員が自身の過失に反省し納得して払っていれば問題はありませんから、会社の方針と運用にもよるとは思いますが。

また、負担させるにしても、損害額のベースは売価ではなく仕入れ値である原価で行うべきであり、そのうちの大部分を会社負担とし、残りを労働者の職責や過失の程度に応じて負担させるくらいに止めるのが無難であると思います。

2014-02-03

インフルエンザと休業手当(休業補償)の支払義務


ここ最近またインフルエンザが流行しています。
インフルエンザに感染して会社を休んだ場合、休業手当の支払い義務の有無が問題になるところです。

インフルエンザで会社を休んだ場合、一般的には年次有給休暇を充てるケースが多く、この場合には休業手当の問題は発生しません。ただし有休は会社側の意思で一方的に取得させられるものではないので、労働者が「有休を使いたくない」と言ってしまえばそれまでです。それ以外にも、入社したばかりで有休をまだ付与されていないケース、有休を持っていたけれども使い切ってしまったので利用できないというケースもあり、このような場合に休業手当の支払い義務の有無が問題となります。


こうした場合には「会社を休むに至った経緯」によって考えていくとわかりやすいです。

インフルエンザによって従業員が発熱して動けないため自主的に休んだ場合
これは風邪を引いて休んだ病欠の場合と何ら変わりませんから、普通に欠勤した分の賃金を控除すればいい話です。

医師の指導に従って休業する場合
これは「使用者の責に帰すべき事由」(労基法第26条)には該当しませんから、休業手当を支払う必要はありません。やはり欠勤控除でよいということになります。



判断が難しいのは、インフルエンザの感染が確認できたにもかかわらず、労働者本人が「働ける」と主張して会社に出勤しようとした場合です。

もちろん発熱がピークの間は労働者自身もあまり動けないので出勤しようとするケースは少ないと思いますが、インフルエンザは基本的に発熱の症状がなくなっても感染力は続く可能性が考えられます。会社としては職場での感染の危険がなくなるまでは休業してほしいところです。
(※目安としては熱が下がってから2日。できれば発症した日の翌日から7日は休ませるべき期間であると、厚労省発表の新型インフルエンザに関する職場のQ&Aで示されています。)

ところがです。

熱が下がった後すぐに出勤しようとした場合、これを会社の判断によって休業させれば休業手当(最低60%)の支払いが必要になるものと考えられます。(※極端な話、発熱中であっても労働者が「働きたい」として出勤しようとした場合、これを会社が無理やり休ませればやはり休業手当が必要になるものと考えられます。)

なお、労働契約の側面から考えると、労働者の体調が完全には回復せず通常通りの労務を提供できないような状況であれば、債務の本旨に従った履行が行えないという理由で会社は労務の受領を拒否しても賃金の支払い義務は生じないと考えられます。しかし、労務の提供が完全に行えないかどうかの判断を会社が独自に行うのはなかなか難しく、やはり医師の判断が必要になるのが現実です。

また、インフルエンザは労働安全衛生法(労働安全衛生規則)が定める就業禁止の対象となる疾病(病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病等)には該当しないため、安衛法を根拠に就業を制限して無給とするわけにもいきません。

そもそも労基法上の休業手当は定め自体が非常に曖昧なものであり、インフルエンザに関する点をはっきり示した通達も見当たりません。休業手当の支払義務に関して裁判になればどういう結果になるのかわかりませんし、労働基準監督官もそれぞれの考え方によって異なる指導を行うかもしれません。



一方、本人が出勤したい意思に反して休ませる場合であっても、感染症法(※正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)によって就業制限の対象とされ、同法に基づいて都道府県知事が入院あるいは外出自粛等を要請し、または保健所より本人を外出させないよう協力要請があった場合などは、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないため、休業手当は支払う必要がないということになります。

感染症法は数年前にできた法律ですが、現時点では同法による自宅待機や休業等の要請が行われた実績はまだありませんが、この取り扱いは、季節性インフルエンザか、新型インフルエンザかによって異なってきます。(※季節性インフルエンザは感染症法上、5類感染症と指定されており、鳥インフルエンザ(H5N1)は2類感染症、そして新型インフルエンザは1〜5類に属さない「新型インフルエンザ等感染症」という独自の分類になっています。現在、就業制限の対象となり得るのは1類〜3類および新型インフルエンザ等感染症等に限られるため、5類の季節性インフルエンザは対象にはなりません。)



最後に、濃厚接触者(感染者の近くで仕事をしていた人など)の取り扱いです。

濃厚接触者を会社の判断で休業させる場合には休業手当は必要になります(ただし、保健所からの要請等によって休業させたのであれば不要です)。また、労働者の同居の家族が感染した際に、会社が本人に対して自宅待機を命ずることは予防的措置になりますから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、休業手当の支払わなければなりません。



なお、休業手当の支払いが必要なケースであったとして、気になるのが民法の危険負担(第536条)の適用の有無、つまり会社は100%の賃金を支払う必要がないのかという点です。

基本的に、インフルエンザに感染した労働者を休業させる行為は、当該労働者および他の労働者への安全配慮義務の履行という観点から正当化されるものであり、会社には原則として故意・過失等はないと考えられますので、休業手当(60%)が必要だとしても100%の支払い義務はないと考えられますが、念の為に就業規則あるいは雇用契約書において危険負担の適用の排除を規定しておくのが確実であると思います。

2014-01-30

本社以外の離れている場所では応じないという団交拒否は不当労働行為


不当労働行為に関する今日のニュース。

「ゲオが不当労働行為、府労委認定 労組との団交拒否」
http://www.47news.jp/CN/201401/CN2014013001001029.html

 命令書によると、組合は昨年1〜2月、大阪市内の店舗で働くアルバイトの勤務時間に関し、大阪市内で団交に応じるよう計3回申し入れたが、会社側が「人事管理を担当する部署が本社にある」として拒んだ。

 府労委は「組合員が過重な負担を伴わないよう、団交に応じるべき」と指摘した。


労働組合法上、会社は「正当な理由」がなければ団体交渉を拒んではならないとされており、これに違反すれば不当労働行為になります。

本件では、「本社が東京にあるのだから、地理的に遠く離れた大阪では交渉はできない」と会社が団体交渉を突っぱねたわけですが、そもそも労働者たちは大阪の店舗で働き大阪に住んでいて労働組合も大阪にあるので、大阪で交渉を行いたい組合側は困ってしまうわけです。

この本社のみで対応という団交拒否理由が正当な理由といえるのかが問題になりますが、今回の救済命令でも分かる通り、正当な理由にはならないということです。



冷静に考えれば、会社側は経済的にも人員的にも遠隔地で対応することが不可能とはいえませんし、会社規模によっては大した負担にもなりませんが、労働者にとってみれば(退職せず働いている労働者ならなおさら)仕事のない時間に遠隔地である本社に出向いて交渉するということは金銭、労力、時間の面で非常に大きな負担です。

このような事情から、「会社と組合側は対等ではないよね」「不公平だよね」という観点から、「本社でしか団交に応じない」という会社の言い分は正当な理由として認められないという結論になります。団交の場所というのは本来、労使双方の話し合いによって決めるべき事項ではありますが、基本的にはいま述べた公平性の観点からすると、労働者の勤務している地域において行われるものだと考えておいた方がよいでしょう。

2013-12-05

オフィスの全面禁煙化は不利益変更にあたるか


以前の記事で「喫煙者を採用しない企業」について触れましたが、タバコ関連の話題をもう1つ書きます。


平成15年の健康増進法の施行に伴い、企業にも受動喫煙防止の努力義務が課せられ、厚生労働省が発表する「職場における喫煙対策のためのガイドライン」によれば、「全面禁煙か空間分煙が望ましい」とされています。

実際、禁煙や分煙の措置を講じていない会社において、従業員がタバコの煙で健康被害を受けたとして企業の安全配慮義務違反を根拠に訴訟を起こすリスクは無視できない状況にあります。

現在多くの企業では喫煙室等の設置による分煙化が進んでいる状況ではありますが、労働者の健康面を考えれば全面禁煙が望ましいことはいうまでもありません。

一方、勤務時間中に喫煙室等に行って喫煙する行為を認めてはいないものの、具体的な注意や処分等は行わずに実質的には大目にみてきたような会社においては、喫煙をしない従業員との公平を図るという意味においても、職場内の全面禁煙化の検討は重要になってくると思われます。



さて、この場合において、オフィスの全面禁煙化に踏み切ることは、これまで喫煙をしてきた労働者にとって労働条件の不利益変更に該当するのではないかという問題が考えられます。


まず喫煙という行為は完全に私的な行為であり、業務の遂行には全く関係のない行為でありますから、この喫煙行為自体が労働条件にはなりません。

通常、労働時間の間に会社の許可もなく喫煙室へ行って業務と直接関係のない喫煙を行うということは、勝手な職場離脱であり職務専念義務に違反し懲戒の対象となり得ますし、労務の提供をしていない訳ですから債務不履行により賃金カットの対象となります。

ただし、就業規則において「勤務時間中は喫煙をしてはならない」と規定され、そして発覚した場合にはその都度注意指導や賃金カットが行われていた場合には何も問題はないのですが、それらが行われず実質的に多くの従業員が勤務時間中にタバコを吸っていたという場合には、それらの時間がどのような取扱いであったのかを考える必要があります。具体的には、例えばそれらが労働者にとって休憩時間という認識であったのか、さらには賃金の支払い対象となる有給の休憩であったのか、そしてそれらが労働慣行として成立していたのか、というような問題がでてきます。

勤務時間中に喫煙に行く時間の取扱いについて、就業規則に定めがあったり、労使慣行によって根拠があるのであれば、それらの時間は労働条件といえますから、それらの取扱いを無視して一方的に全面禁煙とすることは不利益変更に該当する可能性が考えられます。その場合には、喫煙者の個別同意をとるか、あるいは労働契約法第10条の要件を満たすかたちで合理的な労働条件の変更が行われる必要があります。

そうした規定や慣行などの根拠もなく喫煙が行われていたのであれば、喫煙の行為や時間は労働条件とはいえず、不利益変更には該当しません。また、受動喫煙による健康被害が明確にされている昨今、健康増進法の趣旨から考えてもオフィスの全面禁煙化は不当な措置とはいえないでしょう。




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2013-11-28

誓約書は退職時ではなく入社時に提出させる


労働者が会社を辞めた後も、守秘義務や競業避止義務を課したい」

そう考えて労働者が退職する際に誓約書を書かせる企業は少なくありません。



しかしです。
労働者が誓約書の署名を「嫌だ」と拒否したら、その会社はどうすればよいのでしょうか。

結論からいうと、「何もできません」ということになります。



業務上の秘密を守るという守秘義務は、労働者の企業に対する誠実義務の1つであり、就業規則雇用契約書などに規定されているかどうかにかかわらず、労働契約に付随して当然に発生する労働者の義務です。さらに労働契約が終了した後も一定期間、労働者は守秘義務を当然に負うとされています。

ですから退職時に秘密保持誓約書をとらなくとも、労働者は退職後も引き続き守秘義務を負うわけですが、秘密情報の定義や取扱い等について細かく合意することは確かに重要といえます。


さらに労働者は、会社に在職中は競業避止義務を負いますが、退職後については、就業規則あるいは契約書等によって別途合意を得ない限り、競業避止義務を負わないとされています。



つまり、企業は、守秘義務をより厳格に労働者に課すために、そして退職後の競業避止義務を別途課すために、労働者と合意をしておく必要があります。できれば就業規則による一律の包括的同意というかたちだけではなく、各労働者の職務内容・権限に応じた個別の合意をとっておくのが望ましいといえます。



ですが、前述の通り退職時点では労働者に拒否された場合には何も手だてがありません。退職時点で求める義務は、事前に合意している労働条件とは異なるからです。

従って企業は、守秘義務や競業避止など「退職後も引き続き労働者を拘束する義務」を課したいという時には、入社時に、または重要な秘密を扱う職位・職務への昇格時・配転時に合意をとることが有効といえます。



注意すべきは、労働者が誓約書にサインしないからといって、本来支払うことになっている退職金を減額するなどの措置は許されないということです。あらかじめ労働契約における労働条件として合意している退職金等については、減額・不支給事由に触れない限り会社は支給する義務があります。

ただし、例えば退職金とは別途、契約にはなかった恩恵的な慰労金を支給する等であればそれは労働条件とはいえませんから、支払うかどうかは企業の任意です。秘密保持や競業禁止の代償措置として金銭を支払い、引き替えに誓約書に署名をもらう、署名をしないのであれば支給しない、というかたちであればスムーズに退職時の個別合意を得ることは可能と考えられます。




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2013-10-09

「業績が悪いので退職金払えません」はアリなのか


退職金制度を作ったり見直しを加えたりする際にこう相談されることがあります。

「会社の業績が悪い時は不支給とするルールにできないか」

つまり賞与と同じようにしたいということです。
通常、就業規則の賞与の条文には以下のような記載があるはずです。

「会社業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給しないことがある。」

これを不確定文言といいますが、退職金でも念のためこの不確定文言を入れたいということです。



結論としては、それはちょっと厳しいと思います。
そのような規定は不当と判断される可能性が高いでしょう。



賞与は半年ないし1年間を支給対象期間として不確定的に支給するものです。その直近の半年なり1年間の業績が悪ければその年は支給できないという理屈もよく理解できます。

しかし、退職金とはそもそも法的に賃金後払的な性格を有しているものであり、例えば20年間勤務したケースであれば20年間毎年給料を支払う代わりにいくらかを退職金として積み立ててきたことになるのです。

20年間労働者の本来受け取る給料から退職金引き当て分を差っ引いておきながら、今になってたまたま金庫にお金がないので20年間積み立てた分まで全部払えませんというのは全く筋が通りません。

退職金制度はいったん規定化した以上、会社が恩恵的に与えるものではなく法律上「賃金」となるわけです。「何十年後に会社を辞めるときにこれだけ払いますよ」という条件も含めて労働者を採用しているはずであり、その人材獲得メリットだけ享受しておきながら業績が悪くなったら払えませんという主張は裁判ではまず通らないでしょう。それなら最初から退職金制度をつくるべきでなかったと言われてしまいます。

例えば業績がここ2〜3年で悪化していて、その範囲において不支給とするということであれば合理性が認められる余地もあるでしょう。退職金債務を割と軽く考える方もいますが、毎月の賃金と同じくらい重要であることを忘れてはいけません。

2013-10-06

労働基準監督官の現実<ダンダリンを視聴して>


日本テレビ系連続ドラマ「ダンダリン 労働基準監督官」の第1回オンエアを見ました。一般的に馴染みのない労働基準監督官という職業についてそれなりに具体的に表現できていたように思います。

以下、ドラマでやっていた内容について、実際はどうなのか、個人的にどう感じたかを項目別に言及してみようと思います。




労働基準監督官は労働基準法違反があった場合、逮捕できるということが強調される内容だった。

確かに監督官は司法警察員なので一般の警察官のように逮捕状を裁判官に請求して逮捕ができますが、このようないわゆる「通常逮捕」ではなく「現行犯逮捕」という形であれば法律的には一般人でも逮捕はできるわけですし、ことさら逮捕を強調するよりも送検権限があるという方が現実的ではあると思います。実際に書類送検はザラにあります。

でもドラマ的には書類送検のシーンを放映しても面白くも何ともないことは確かです。




労働者から口頭でサービス残業が常態化していることを聞いただけで、段田凛(労働基準監督官)がすぐに臨検に行くと言い出した。

実際には、労働者からサービス残業の存在を聞いただけでは有り得ない話です。監督官は通常、客観的な証拠等によって違法性をある程度特定した上でなければ臨検は行いません。仮に物的な証拠がほとんどなかったにしても、労働者から細かく聞き取りをして、その内容に違法行為の信憑性が確認できる状況でもなければ職権を発動することはないでしょう。

具体的にはサービス残業の場合は、その会社の労働時間や賃金がどう規定されていて、何月何日にそれぞれ何時間何分の残業をして、それに対する給料の支払いはどうなっていて、結果それらが労働基準法第何条に違反するのか、ということを労働者は監督官に申告します。監督官はそれらの申告に基づいて、調査が必要なのか、調査するとすれば担当者を監督署に呼び出すか、それとも臨検するか、といったことを判断します。

これは監督官が労働基準法違反という刑法犯を扱っており慎重を期しているとも考えられますし、監督官の人数が少な過ぎて全てを調査していたら回らないので違法性をある程度特定できた案件のみ動くという面も影響していると考えられます。




「労働基準監督官は全国に3千人もいるのに被疑者逮捕は年平均2件しかない」というセリフ

逮捕の件数の少なさを強調する為のセリフではありますが、これだけ聞くとまるで労働基準監督官が現状十分に足りているように聞こえるかもしれません。

実際のところ、3000人という人数(2千人台後半といわれている)は圧倒的に人手が不足しているといわれています。労基署に行くとたくさん職員がいるので何も知らない一般の人は職員がみな労働基準監督官だと思うかもしれませんが、監督官はごく一部です。

東京で最も企業の集中する中央労基署では、監督官一人に対して3千数百の企業を受け持つ必要があるといわれています。対応する案件が多すぎて、長時間労働を取り締まるべき監督官が一番長時間勤務に陥っているという冗談のような話です。



と何だかんだ書いてますが、総合してかなりリアルに描かれていると思います。求人を「かわいい女の子」に限定する行為(男女雇用機会均等法違反)やパワハラといった案件が、労基署ではなく労働局の管轄である等なども正確ですし、逮捕前に検察に根回しをするあたりも間違いないと思います。





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2013-09-23

「残業代ゼロ」特区という報道の違和感


企業が労働者解雇しやすくして、さらに労働時間規制を緩和し残業代をゼロにすることも認められる特区の法案が秋の臨時国会で提出されるという報道があります。一定の年収以上の労働者、高度で特殊な能力・専門的な技術を持ち法規制にとらわれずに思い切り働きたい労働者を想定しているといいます。

現行法下において企業が労働者に対し時間外割増賃金を支払わなくてもよい場面は主に2つあり、1つは労働者が管理監督者に該当するケース(※厳密には労基法第41条該当者)、もう1つはみなし労働時間制・裁量労働制が適用されているケースですが、みなし労働時間制・裁量労働制はあくまで労働時間のカウント方法に関する特例であって、今回の法案は労働時間規制を緩和するといっていますから、労働時間規制を適用させない管理監督者に準じたものであるということになります。以前話題になって見送りとなったホワイトカラーエグゼンプションと似たようなものだと考えていいでしょう。

管理監督者は労働基準法の労働時間に係る規定が適用されません。経営者と一体的な立場で大きな裁量をもって働く訳ですから、経営者と同じように労働時間の枠に収めることが難しく、むしろその枠を超えて働く必要があり、また、経営者並みの裁量・権限があるので規制をはずしても特に本人の不利益にはならないという考え方です。もちろん相応の収入があることが大前提です。

そして労働時間の規制自体がないので、そもそも法定労働時間がありません(所定労働時間を定めるのはある意味企業の自由だと思いますが)。法定労働時間がないので残業(法定時間外労働)という考え方は当然あてはまりません。残業という概念はないのです。残業がないのだから残業代もありません。「残業代ゼロ」なのではなくて、「残業代という項目」が初めからないのです。

考えてみれば、「残業が発生しているのに残業代を支払わなくてもよい」とされる法律は元々ありません。みなし労働時間制・裁量労働制にしても、「みなし時間」が法定時間を超えていれば時間外割増賃金の支払いは必要になります。一方、管理監督者は残業自体が発生し得ないのです。

そう考えると、今回の法案に係る報道が「残業代ゼロ」と言われているのもおかしなものだと思います。

今回の法案が通れば、特区内においては労働時間の規制が緩和され、管理監督者と同様にその要件(権限や責任、職務内容、裁量、収入)が定められ、要件に該当する労働者は労働時間規制の外で裁量をもって働くことになります。もちろん企業はそれら労働時間規制のはずれた労働者に対しても安全配慮義務を負うわけであり、実質的に労働時間を把握する必要がありますし、長時間労働によって過労死などが発生すれば責任を追及されることになります。また、実態として要件を満たしていなければ通常の労働時間に係る規定が遡って適用され、名ばかり管理職のケースと同じように残業代を遡って請求されるリスクもあるでしょう。

このように企業は労働時間規制を緩和されるとしても、今回の「残業代ゼロ」のような見出しの報道に惑わされて企業側に存在する責任を忘れてはいけません。また、報道する側は「残業代ゼロ」をことさら打ち出すのではなく、労働時間規制を緩和する対象者とその要件は労働政策として適正なのか、そして過労死等の労働災害を予防する為にはどのような規制が別途必要なのかがきちんと議論されるような形で報道するべきだと思います。

2013-09-20

変動の多いパートタイマーの有休(比例付与)の基準


年次有給休暇は、雇い入れから6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対して10日間が付与されますが、所定労働日数や労働時間の少ない労働者(つまりパートタイマー)であっても、その労働日数に応じた日数の年休が付与されることになります。これを比例付与といいます。

具体的には、1週間の所定労働時間が30時間未満であって、かつ、1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められているパート労働者の場合は、1年間の所定労働日数が216日以下)の労働者が比例付与の対象になります。

そして、比例付与の際の付与日数は年休が発生する「基準日」時点における今後1年間に予定される所定労働日数および所定労働時間に基づいて決定されます。その後、年度の途中で仮に所定労働日数が変更になったとしても、付与された日数が変わることはありません。ですから例えば、最初の半年間の所定労働日数が週4日であってとしても、基準日において今後1年間の所定労働日数が週5日という予定であれば、その労働者は比例付与ではなく通常の労働者と同じように10日の有休が付与されることになり、その後の年度中に契約が変わって週4日に戻ったとしても、有休は基準日において発生した日数のままです。

しかしながら、現実にはパートの雇用契約はきちんと締結されていないケースも多いので所定労働時間や日数が曖昧ではっきりせず、あるいは季節によって所定時間・日数が不規則に変わったり、本人や会社の都合によって随時変更になるような運用も少なくないと思います。

所定労働日数が週1日であった労働者が、基準日付近でたまたま週5日の条件で働いていて通常の労働者と同様の10日間の有休を与えられ、その後また週1日勤務の契約に変わってしまったというケースを考えると、とても合理的とは思えません。

こうしたパートタイマーの所定労働日数が大きく変動するようなケースについては、参考となる通達が存在します。

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(平成16年8月27日基発第0827001)

予定されている所定労働日数が算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出しても差し支えないという内容です。具体的な処理としては、過去1年間の出勤日を月ごとに集計し、合計日数を労働基準法施行規則第24条の3で定める「一年間の所定労働日数」の区分にあてはめることになります。なお、雇入れ後の最初の有休付与に関しては、過去6ヵ月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして判断することになります。





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2013-09-03

解雇の金銭解決ルールは労働者にとってはたして損なのか


解雇金銭解決制度の議論に関するこんなニュースがあります。

解雇補償金制度が導入されると「カネさえ払えばクビ」にできる?(週プレNEWS)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130828-00000427-playboyz-soci

「制度化されれば解雇解決金の水準が示されます。現状では従業員が会社側と最高裁まで争って勝訴すれば、判決確定までの賃金の支払いと将来の賃金相当分の支払いが会社側に命じられ、少なくとも3年分の賃金は確保できる。

しかし、この制度をすでに導入しているスウェーデン(勤続5年未満→月給6ヵ月分など)がそうであるように、制度化されると解決金の水準が低めに設定され、従業員にとっては現状より少ない金額と引き換えに解雇されることになります」(労働問題に詳しいジャーナリストの金子雅臣氏)



現行法の下で労働者は最高裁まで争えば少なくとも3年分の賃金を勝ち取れるというのは、全体から見ればあまりにも一握りの結果を一般化しすぎだと思います。

世の中の不当解雇といわれる解雇案件のうち、多くは行政のあっせんや労働審判によって低水準の解決金で解決されており、ごく少数だけが裁判まで進んで徹底抗戦を行い、そして圧倒的大多数の労働者は具体的行動さえ起こさずに泣き寝入りしているのが現状です。

そもそも大企業と中小企業では全く状況が異なる現実があります。

大企業であれば解雇以前の退職勧奨の段階で賃金1年分〜2年分などの高い水準の金額が提示されることもよくありますし、従業員もまた金銭的に余裕がある人が比較的多く、本腰を入れて個別労働紛争に乗り出す確率も高いでしょう。労働審判、民事訴訟へと進めば2年分、3年分などの解決金額になる可能性も確かにあり得る訳です。

ところが中小企業の場合、解決金が賃金2〜3ヵ月分などというのはよくある話であり、行政のあっせんのレベルでは賃金1ヵ月分の解決金が提示されることも全く珍しくないのです。それ以前にすぐ次の職を見つけないと生活が成り立たず、とても結果の見えない紛争を押っ始めるような余裕はないという労働者が大半であり、「会社側と最高裁まで争って勝訴すれば」という状況がいかに非現実的な夢物語なのかというところです。このような現状を踏まえれば、例えば解決金が賃金6ヵ月分という水準を法制度によって確実に補償されることであれば、一概に労働者にとって損だと一刀両断に言い切れるものでもありません。

結論を言えば、金銭解決ルールの法制化は、大企業労働者にとっては解決金水準が現在よりもおそらく下がることとなり、逆に中小企業の労働者にとっては解決金水準が上がるうえ、さらに法制度によって最低限の解決金が担保され泣き寝入りするケースが大幅に減少する可能性が高いのでは?と考えるのであります。

では企業にとってどうなのかといえば、概ね労働者の場合と逆になるということでしょうか。もちろん各企業の方針・考え方によって異なると思いますが。

ただそれにしても、いかに解雇無効の場合は現職復帰が原則とはいえ、現行法下においてはあっせん・労働審判ではほぼ全てが、そして裁判になっても本人が現職復帰を強く望んで判決を取りにいかない限りその多くが事実上和解によって金銭解決しているのが現状であり、そもそもの金銭解決ルールの趣旨と必要性についてもう少しきちんと考えて議論すべきであると思います。

2013-09-02

休職期間を安易に延長すべきではない


休職制度は解雇リスクを避ける意味でも企業にとって大変重要な制度ですが、悩ましいのは休職期間の終了時期が近づいてきた復職間際のところでしょう。

本人の復職の意思を確認し、意思アリであれば職場復帰可能を証明する主治医の診断書を提出してもらい、さらに産業医もOKを出してくれれば申し分ありません。

ところが、休職期間終了ギリギリまで休職していた従業員がそう何の問題もなくスンナリと復職できるとは限りません。本人も復職するのかしないのか要領を得ない態度で、傷病は完治しておらず医師の証明も微妙という状況もあります。このような場面では会社もなかなか判断をしたくありません。会社の就業規則の休職規定には大抵、

「会社が必要と認めたときは延長できる。」

という文言が入っています。「とりあえずもう少し延長をして様子を見るか」と結論を先延ばしする会社も少なくないように感じます。

しかし、これはやってはいけないことです。何が問題かというと、「なぜ延長したか明確に説明できない」ということです。延長は特段の事情が存在しない限りするべきではありません。特段の事情とは極めて近い将来傷病が治癒し復職できるという具体的な見込みです。

休職は解雇を猶予する制度であり、どの程度まで猶予するのが適切かは企業の事情によって異なりますし、復職可否や延長の判断は企業の裁量によって判断するものであることは確かですが、企業ごとにそれぞれ一貫した判断をしていかなくてはなりません。

「とりあえず延長」を1回やれば、今後、微妙な案件では何度も延長が必要になるかもしれません。従業員側に過去の延長を指摘された時に、延長する・しないの明確な基準をきちんと説明できるでしょうか。ある労働者は延長なしで休職期間満了退職、一方、ある労働者は何度か延長したうえ完治し復職、それを曖昧な基準で判断されたらたまらないということになります。復職可否の判断は労働契約の終了を左右するものであり、一歩間違えればすぐに訴訟沙汰になるということを忘れずに慎重に判断したいところです。

2013-08-11

「労基法違反=ブラック企業」という定義付けでは規制は無理です


政府が法令違反が疑われる4千事業所に立ち入り調査をすると発表しました。


ブラック企業の対策強化 厚労省、4千事業所立ち入りへ(2013年8月8日朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0808/TKY201308080082.html

若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」対策として、厚生労働省は8日、9月を集中月間にし、約4千事業所に立ち入り調査をすると発表した。違法な残業や賃金不払いなどが疑われるケースに加え、「離職率」が極端に高い企業も初めて対象にし、調査する。
(中略)法律違反が見つかり、指導に応じない場合は、ハローワークでの職業紹介を受け付けない。また、重大・悪質な違反が確認されれば送検し、社名も公表する。



4千事業所を調査するというのはかなりのインパクトですが、ただこれでブラック企業対策になるのかといえば疑問だと思います。


ところでブラック企業の規制を論じる際によく問題となるのが、どうやってブラック企業を定義し特定するのかということです。そして、そんな話になると必ずこんな意見がたくさん出てきます。

「そんなの簡単だ。労働基準法に違反している企業=ブラック企業、ということにすればよい。」


確かに労基法に違反しているというのはわかりやすい基準ですが、その基準でブラック企業対策を進めても、実際はブラック企業の取り締まりにはあまり効果はありません。なぜなら、このブログで既に述べていますが、世間でブラック企業といわれるであろう会社で労基法に違反していない会社なんて山ほどあるからです。

以下参照
ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


ブラック企業関連で最も多い労基法違反は残業代の不払いでしょう。堂々と違反している企業も確かにまだ少なくありません。

しかし、定額残業代の制度を利用することによって企業は対策が可能です。判例の示すポイントを踏まえて適正に運用する限り、労働基準監督署も違法ではないという見解を示します。実際、多くの企業がこの定額残業代を導入することにより、月例賃金以外の残業代を追加で支払うことなく合法的に労働者に残業をさせています。

日本の法律では36協定さえ結べば青天井で何時間でも労働者に残業させることが可能です。ですから、36協定を締結し固定残業代を運用して残業させる限り、過重労働を強いても労基法には違反しません。

これが望ましいことなのかどうかはともかく、前述の基準によればブラック企業には該当しないということになります。

さて、一方、解雇、退職強要、セクハラパワハラ、配転、減給などの行為は例えそれが客観的にみて不当なやり方であったとしても、基本的に労基法には抵触しません(ただし解雇予告や解雇制限は別ですが)。これは労働基準法の条文には記載がないからです。これらの問題は監督署に申し出るのではなく、自分たちで民事的に話し合って解決しなければならない類いの問題です。


ですから、例えば先ほどのように定額残業代を適正に運用し合法的に残業をさせている会社が、仮に気に入らない社員を能力不足とかノルマ未達成といった理由で次々に解雇したり、年配でパフォーマンスの落ちてきた社員をどんどん追い出し部屋に押し込んだり、有休や育休を申請した社員に対し常軌を逸する威圧的な指導を行ってうつ病休職に追い込んだり、転勤や減給をちらつかせて執拗に退職勧奨を迫るような行為を繰り返していたとしても、労働基準法には違反せず、従って前述の「労基法違反=ブラック企業」という基準に照らせばブラック企業には該当しないということになってしまいます。



では労基法違反企業は放っておけばよいのかというとそういう訳ではなく、もちろんできる限り指導を行っていくべきだと思います。今回の4000事業所立ち入りは労基法違反企業にはそれなりの効果があるはずです。法令に関する知識が欠けている為に法に違反している経営者も少なくありませんし、そもそも立ち入り調査や指導を行う労働基準監督官の人数が少なすぎるという根本的な問題もあって指導が行き届いていない状況です。

しかしながら、ブラック企業と呼ばれる企業の対策は労基法を基準にしたのではなかなか難しいでしょう。労基法は行政指導を行う為のものであり、同時に犯罪行為を特定し刑事訴追を行う為のものですが、ブラック企業の行為の多くはそれらの前提となる違法性を特定することが困難なのです。対策に必要なのは、民事的に問題を解決する為の司法プロセスの環境整備をすること、そして労働時間規制を割増賃金で間接的に行うのではなく、直接インターバル規制をしてしまうことだと思います。

2013-08-08

「ブラックバイト横行」アルバイト基幹化に思うこと


随分久しぶりの更新となります。私の業界では6月・7月が繁忙期なのですが、あまりの繁忙ぶりに全くブログの更新ができず、繁忙期の余韻を引きずって今日にまで至りました。今年の後半に向け巻き返しをはかっていきたいと思います。



さて、本題に入りますが、ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」が問題化しているようです。

<ブラックバイト>横行 「契約無視」「試験前も休めず」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130808-00000050-mai-soci

アルバイトをする大学生の間で、「契約や希望を無視してシフトを組まれる」「試験前も休ませてくれない」などの悩みが広がっている。学生たちの声を集めた大内裕和・中京大教授(教育学)は、違法な長時間労働などをさせる「ブラック企業」になぞらえ、「ブラックバイト」と呼び、問題視している。企業が非正規雇用の志向を強める中、正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいるようだ。



企業の経営環境はますます厳しくなり、人員削減して社員一人当たりの負担は増える一方。結果としてうつ病休職者は激増。そして企業は人件費の安い非正規雇用の比率を増やし、ついには学生アルバイトにまで正社員並の働きを求めて圧力をかける時代がやってきたというわけですか。

記事の中で聞き捨てならないのが、「正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいる」ということ。

まあ、学生アルバイトだしいずれどこか別の企業に就職するのだからどう使ってもいいという考えなのでしょうが、ただし、「アルバイトを非正規の待遇のまま基幹化を進める」という考え方そのものは法律的に問題大アリです。

パートタイム労働法では、正社員と同じ仕事をしている場合(職務内容が同じ場合)など一定の要件を満たす短時間労働者について、賃金などの待遇を正社員差別してはならないとされています。

さらにアルバイトが有期契約労働者である場合には雇い止めの問題が発生するかもしれませんが、雇い止めの有効性の判断基準として、

・地位の基幹性 or 臨時性
・業務内容の恒常性 or 臨時性

という要素があります。正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせて基幹化を進めれば、雇い止めをした際にどういう影響があり得るのか、という問題が浮上します。


それこそ正社員同様に業務命令権を広く行使したあげく、期間満了による労働契約の終了のみを主張するなんて、会社は虫が良すぎるでしょ、と判断されるかもしれません。

非正規労働者雇用する際は、雇用形態に即した内容の雇用契約を締結し、それを遵守するということが重要なのであり、正社員との業務内容、権限、責任に合理的な差を設けなければなりません。契約社員は臨時的業務、パートタイマーやアルバイトは補助的業務、だからこそ正社員とは待遇が違うわけです。それが無理だというのなら、そもそも自社にとって正社員とは一体何なのかをよく考えるべき状況にあるのだと思います。

2013-06-16

諭旨退職が退職勧奨と混同されている?


諭旨退職についての相談を受けていると、「もしや退職勧奨と混同しているのではないか」と感じる時があります。いうまでもなく、諭旨退職と退職勧奨は法的に全く別物です。


「諭旨退職」とは、不祥事を起こした懲戒解雇処分相当である労働者に対し、「反省の姿勢を示して期限までに自主的に退職願を提出するならば懲戒解雇は行わず自己都合退職として取り扱う」というような情状酌量的な制度です。無論、自己都合退職として処理するとはいえ、あくまで「諭旨退職」という名の懲戒処分ですから就業規則にあらかじめ懲戒規定がなければそもそも成立しません。

そして重要なことは、諭旨退職は本来その労働者の行為が懲戒解雇に値することを前提として退職願を提出させ雇用関係を終了させる懲戒処分ですから、その有効性は懲戒解雇と同様に厳格かつ慎重に判断されるべきものであるということです。

つまり、労働者の行為が懲戒解雇を科すのに相当といえることが必要なのであり、そもそも懲戒解雇が罰として重過ぎるのであれば、それを前提とする諭旨退職処分もまた当然に無効となり得るという考え方が成り立ちます。(※懲戒処分の有効性は労働契約法第15条の懲戒権濫用法理によって判断されます。)



労働者に退職願を提出させる点においては、手続き上は確かに退職勧奨による退職と外見は変わらないように感じますが、取り扱いとしては諭旨退職は自己都合退職、退職勧奨は合意退職(会社都合退職)となる点において全く法的に異なるものです。

また、最も混同されがちなのが、失業給付に関連する離職票の離職理由に関してです。退職勧奨の場合には会社から退職の申し込みを行っている訳であり会社都合となりますが、この点も結局「背景に重責解雇相当の行為があった上での退職願提出による諭旨退職」ということであれば、自己都合として取り扱って問題はありません。

極端な話、離職理由は失業給付の支給を決める為のものですから、雇用保険的な視点からはどちらの都合で離職となったのかさえ分かればよいのであり、そして本人が不祥事を起こしたことに端を発する退職なのですから自己都合ということは明白です。


なお、退職勧奨の場合は退職合意書を交わすことをお勧めしますが、諭旨退職の場合は諭旨退職仕様の退職願をきっちりとるのがよいでしょう。退職理由の記載は「一身上の都合」ではなく「非行を行ったので自主的に」という記載の方がよいと思います。諭旨退職は解雇ではありませんから、もちろん30日前の解雇予告は必要ありません。(この点、同じ懲戒処分としてよく挙げられる「諭旨解雇」とは明確に異なります)

あと、退職金の減額は、自己都合といえども懲戒処分である以上、通常の自主退職とは区別して減額率を大きくするなど別途定めができますのでしておいた方が良いと思います。

2013-06-08

身元保証書の注意点および身元保証人の責任の範囲


企業で人を採用する際、特に正規雇用社員の入社に際して身元保証書の提出を義務付けている会社は少なくありません。

この「身元保証」とは、従業員の行為によって会社が損害を受けた場合に、身元保証人がその損害を賠償するという内容の契約であり、会社と身元保証人との間で締結するものです。

金銭貸借の保証人とは異なり金額があらかじめ確定していないという点で損害額が予想できませんので、身元保証人を保護する目的から「身元保証に関する法律」において、その責任の範囲等が制限されているのです。


身元保証人をたてておけば会社は損害の全額を請求できるかというとそうではありません。法律において、

裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情をあれこれ照らし合わせて取捨する

とされており、実際には相当程度制限がかかるものと考えておくべきだと思います。



法律によれば、身元保証の期間を定める場合には5年を上限とし、5年を超えた部分は無効となります。もし契約に期間の定めがない場合には、保証期間は3年です。ちなみに契約の更新は可能ですが、就業規則に更新の必要性について明記しておかなければ、労働者から拒否されても会社側は何も言えませんし処分もできません。(そもそもあまり長期間にわたって身元保証書を提出させること自体、望ましい運用とはいえませんが。)



特に注意が必要なのは、身元保証契約の内容に変更があった際には、身元保証人にその旨を遅滞なく通知しておかなければ賠償責任を問えなくなる可能性がある点です。

通知すべき変更内容を具体的にいうと

1.労働者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こす恐れがあることを知ったとき。

2.労働者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し、またはその監督を困難にするとき。

ということなります。さらに身元保証人はこれらの通知を受けた時は保証契約を解除することができます。

会社が上記通知義務を怠っていたとしても身元保証契約自体が失効することはありませんが、加重された保証内容を求めることができなくなりますので、実質的に契約の実効性が薄くなります。昇進したとき、職種変更したとき、遠隔地に転勤になった時などは通知すべきだと考えられます。現実に多くの企業において、この辺りの管理はできていないのが現状ではないでしょうか。



その他の注意事項としては、


短期の契約社員に対して身元保証書を求めることは、長期雇用を前提にしていると解釈されかねないことから望ましいとはいえないこと。

近年の労働者のメンタル不調によるトラブル増加を考えると、身元保証人に協力を求めるケースも想定されるので、身元保証人の要件に「親族であること」を規定すること。


などが考えられます。


なお、身元保証書の押印を実印で行い、印鑑証明の提出を求めることも企業の自由ですが、これから入社して働く労働者との信頼関係にも影響しますので、誤解のないよう説明し十分に納得を得ることが大切だと思います。

2013-06-03

なぜ始末書が必要なのか(始末書の法律実務)


労働者が不祥事を起こした時に始末書をきちんと提出させない会社が見うけられます。私は関与先の会社には必ず始末書をとるようにお願いしています。労働者に始末書を書かせることは法的にみて非常に重要な意味があるのです。


始末書を提出させる目的とは何でしょうか。もちろん本人の反省を促してけじめをつけることにより再発を防止するという目的はあるでしょう。しかしそれだけではありません。

最も重要な目的は、労働者が不祥事を起こしたことについて、本人直筆の書面の証拠を確保するということです。つまり、今後この労働者解雇せざるを得なくなった場面において、労働契約法第16条・解雇権濫用法理を充足させるべく、過去の労働者の非違行為の事実、および会社が指導を行ったという記録を残すことになるわけです。これにより、会社は再三注意・指導を行ったにもかかわらず、残念ながら改善がみられなかったということが言えるわけです。さらに労働者の弁明が書かれていれば、弁明の機会を与えたという証明にもつながります。性悪説で従業員の将来を疑うようなことはしたくないかもしれませんが、リスク管理の為には非常に大事なことです。



この目的を踏まえた場合、始末書の中身というのが重要になってきます。

一般的に始末書といえば、事の顛末を記載し、本人の謝罪の意や「今後二度としません」という誓約的な文が書かれるものです。この後半の謝罪や誓約が重要だと通常は考えるでしょう。しかし、法的な意味で言えば、大切なのは前半の不祥事の顛末の部分です。

極論をいえば、謝罪や誓約の部分はなくても構いません。紛争となった際にはむしろ本人の反省がみられないとみなされ本人が不利になる可能性も考えられます。

それよりも注意すべきことは、本人の自由意思によらずに会社が強制的に謝罪文を書かせてはならないということです。その意味でいうと、始末書の提出命令に従わない労働者に対して懲戒処分を科すことにも問題があるといえます。憲法第19条が保証する思想・良心の自由に反すると解されるからです。


もしも労働者が始末書の提出に従わなかったり拒否をする場合には、不祥事の事実のみについて記載するよう改めて命じ、これに従わない場合には懲戒処分も有りだと思います。

仮に労働者の提出してきた始末書の顛末の記載が事実と異なる場合には、書き直しを命じることも必要です。書き直しをさせた後、全てのバージョンの始末書を保管しておくと完璧です。



最後に1点注意ですが、始末書というものは通常、懲戒の「けん責」および他の処分において規定されるものであり、重大な不祥事の際に提出を義務付けるものです。

ですからさほど重大とはいえない軽微な問題行動についてまでいちいち始末書を提出させるわけにはいきませんが、解雇権濫用を否定する為には細かい記録の積み重ねが重要になりますから、注意書というような形式を使ったり、指導記録をつけていくことで対応していくのがよいと思います。