ゲイシャ映画「さゆり」に関連して。
http://www.movies.co.jp/sayuri/
http://movie.www.infoseek.co.jp/feature/sayuri/

日本人にとってこの映画は以下のような印象がおそらく一般的なのだと思う。

 イギリス人が漠然ととらえている日本人像というのも、いつも時代遅れでいやになる。映画やテレビに登場するのは、なぜか似たような帽子をかぶって写真を撮りまくる団体観光客だったり、妙にぺこぺこ頭を下げていたり。そればかりでなく、言葉が通じなくとも金払いはいい国民だから利用しやすいといった設定だったりだ。またそうきましたかと、あきらめに近い心境になる。
 最近の映画『 Memoirs of Geisha(邦題『さゆり』)』でさらに拍車がかかってしまったのが日本人女性の「白い顔」。一面厚く塗りたくられた白い粉の上に真っ赤なはみだしぎみの口紅、それに芸者のカツラをつけたコメディアンが登場なんてのもあって、単なるお笑いと思いつつも「フジヤマ・ゲイシャ」のイメージに辟易してしまう。

『ロンドン〜スクエア・マイルから』 丸國葉 第51回
JMM [Japan Mail Media]  2006年2月9日発行

私も似たような感じだが、辟易はしない。あまりに「ゲイシャ」が日本国外で有名なので、どちらかというと散見する上記のような評を見て無表情に「あ、またか」と思っただけである。だから見ていない。見たら実はおもしろいのかもしれない。中国系の女優がゲイシャの役をしている、というので、へー、さすがハリウッド、中国系の女優大活躍だなあ、と思っただけだった。一方でこの映画、中国でかなり話題になっている。しかも意外な方向で。

From outraged bloggers to stiff-lipped censors, the common refrain on the Hollywood version of Arthur Golden's best-selling book of the same name has been that it casts some of China's most famous actresses in the role of high-class Japanese prostitutes.
中略
Ahead of the ban, bloggers had heaped venom on Zhang Ziyi for accepting the role of the beautiful geisha Sayuri without considering Chinese national pride. "Sleeping with a Japanese man for money is disgusting. She humiliated all Chinese people," suggested one. Although Zhang won a Golden Globe nomination for her role in Memoirs, she was called a "shameful traitor" who deserved nothing better than to be "hacked to death".

One of the most discussed risque scenes in the film features Sayuri kissing her love interest, played by Japanese actor Ken Watanabe. Another shows Sayuri losing her virginity to a Japanese man who had bid the highest price for it.
Chinese pride and geisha prejudice
By Antoaneta Bezlova

亞州時報

そんなわけで、上映禁止らしい。すなわち、ゲイシャ=売春婦に中国系女優が扮し、日本人に春をひさぐ演技をするのは国辱ものであり許しがたいのだそうだ。”歴史を考えれば当然そうした反応があるだろう”と納得する人もいるかもしれんが、私はそのような形では納得がたい。日本に置き換えればアメリカ映画でアメリカ人との絡みがやたら多い島田陽子は国辱ものである、ということか(いや、これはなんかズレているな)。世界に躍進する中国系俳優の可能性を狭めるだけではなく、演技という行為に対する無理解でもある、と思う。一方でこのところの日本と中国のゴタゴタもあり、またこの何年か東京の街角でよく見かける中国系の売春婦を思えば、現在進行形の問題意識が投影された曲解なのかな、とも思う。というか、こっちの現実の中国系ジャパゆきさんたちのほうは、本国では知られているのだろうか。