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千篇万化 このページをアンテナに追加 RSSフィード

http://d.hatena.ne.jp/granit/では英語の本の感想を書いています。 (2010/11/27)

2010-06-06

中国のSF翻訳事情まとめ(09'版)

 中国の翻訳SF業界がここ1年間で劇的に変動した。大きな出来事は4つ。

1.賞ができた。ヒューゴーや星雲にあたる「星空賞」が。しかも翻訳や英米SF紹介をやっている人たちが中核にいるので、はなから翻訳小説部門がある。

2.月刊ウェブジン『新幻界』が立ち上がった。創作・翻訳・コラムから構成される文芸誌で、PDFを圧縮ファイルにして無料配布。毎号最低6000ダウンロード、参加者の顔ぶれがいい号だと1万を軽く超える。しかも途中からポッドキャストによる掲載小説の朗読まで配信されるように。

 補足:今年から『中国新科幻』なる電子雑誌も配布されているが、こちらはまだ情報が少なく詳しいことがわからない。

3.『科幻世界』を出している出版社がSF翻訳者の発掘に力を入れ始め、外国語SFの翻訳原稿を募集。しかも要綱に「国内で未訳の新しい作家であるほど歓迎」とか書いてある。

4.ガードナー・ドゾワの年刊SF傑作選は毎年もともと翻訳されていたが、昨年は03年に1度翻訳出版したものの中断していたハートウェル&クレーマー版の13号(08年傑作選)まで出た

 本書では、私のネット知人がピーター・ワッツやケン・マクラウドを担当している。私の1歳上で、上海のとある大学の工学部出身らしい。近年短篇の翻訳を続けており、昨年はマリオン・ジマー・ブラッドリーやら、メアリ・スーン・リー「引き潮」など古いものもやっている。イチオシ作家はジェフリー・フォードアシモフズ、アナログ、F&SFの3誌を毎号購読していると聞いた。日本や台湾のSF賞情報へも興味が強く、去年は〈S-Fマガジン〉の目次をコピペして延々とフォーラムに貼ってくださっていたりもする。

 なお中国のSF翻訳者は昔からほとんどが兼業。そのため経歴や本名、生年などを伏せている者も多い。いま商業誌に翻訳を載せてる新人翻訳者には、18歳でデビューした人や86年生まれもいる。北野勇作を主に訳しているのは私と同い年の女性。また『フィーヴァードリーム』の翻訳者は08年にSF翻訳にめざめ、本書の全訳を出版社に持ちこんで出版にいたったという。こちらも同い年。うわぁ……。日本でいえば70〜80年代のように、大学生が活躍する状況なわけだ。

 古典とハードSF人気が強かった中国だが、あるブログの翻訳者アンケートでベテラン海外SF紹介者たちが「まだあまり中国に入ってきていない好きなSF作家」というお題に、レム、イーガン、ラッカー、ヴォネガットらを挙げている。次の何年かでこれらの翻訳出版→SF界にさらなる大変動が起こってもおかしくない。一度に輸入するとえらいカオスになりそうだが*1。ちなみにチャンは大人気で新作が出るたびに自分でも翻訳を試みる学生がわらわら出現し*2、バチガルピはすでに何本も翻訳されている。

 現在、未訳紹介や翻訳をしているカリスマSF者を、若手のベテラン*3を中心に何人か挙げるとしよう*4。まず北星氏。60年代生まれ、本職はNYのとある大学の数学課の講師*5で、ずっと米国に住んでいる。年に1本程度のペースで様々な作家を訳している。スワンウィックとか。イーガンとラッカーを推したのはこの人(上記参照)。機会があったら訳したい作品はラッカーのMathematicians in Loveとヴォネガットの『タイタンの妖女』だそうだ。

 願備氏。女性。60年代末期から70年代はじめの生まれらしい(非公開) 上海交通大学を卒業、マサチューセッツ工科大学へ留学し博士号取得。現在シンガポールに住み、現地でもSFサークルを組織しているようだ。01年にナンシー・クレスの翻訳2篇で『科幻世界』デビュー。その後は古典長篇を訳している。(ハインライン夏への扉』、アシモフ『ファウンデーション対帝国』、フランク・ハーバート『デューン 砂の惑星』)

 ブルース・ユー氏。73年生。化学を専攻したのち、MBAを取得。上海のアメリカ系外資企業に務める。01年ごろから「現実逃避に」SF翻訳を始める。ローレル・K・ハミルトンや『エクソシスト』原作まで実にいろいろなものを訳している。ハートウェル版年刊SF傑作選の共訳者の1人。パルプ小説、スペースオペラが得意な独自路線の訳者で、ジョー・ホールドマンとジョン・スコルジーの翻訳で知られる。現在イチオシの作家はチャールズ・ストロス、ニール・アッシャー、アレステア・レナルズ、ロバート・A・メッツァー(未訳)など*6

 Denovo氏。70年代後半生の女性。NYで生命科学の博士号を取得後、現在シンガポールで研究者として働く。07年にナンシー・クレスの翻訳でデビュー。英中翻訳のみならず中英も行ない、国際的な企画で活躍する。D姐と慕う若者が多数。好きな作家はヴォネガット、レム、スターリング。

 

 ところで新賞や新ウェブジンのサイト管理をやっている一人には、以前連絡先を教えてもらった。彼はさいきん商業誌ライターデビューもしており、あちらのSFフォーラムやブログで「ストラーン、ホートン、ハートウェル、ドゾワそれぞれの年刊SF傑作選の特徴と傾向」「ファンジンの歴史」など情報まとめ系のコラムをいくつも執筆している。この人は個人情報をまったく明かしていない。私は9月のSFファン交流会で、最新海外SF企画のお手伝いをさせていただく予定なので、余裕があれば連絡先を知っているあちらの若手SFファン(セミプロ)たちにインタビューを敢行して公開しようかと思う。できるといいな。

 List of References: 百度百科、「科幻奇幻译者名人堂」、「星空奖译者问答系列」(sansanfen先生, 真是太谢谢了!)

*1:どう考えてもフォーラムで「どういうことなの……」祭りが起きるw

*2:このへんは日本と同じか。

*3:矛盾するようだが実際そんな感じなんだもの。

*4:みな筆名。

*5:ソースが見当たらないが、教授という噂が。

*6:ハードめのスペオペ嗜好?

sunakaisunakai 2010/07/06 23:11 knigiさん、こんにちは。
友達の紹介で日記を拝読させていただきました。
今度8月7日8日の日本SF大会には中国からSF作家やファン5人は参加に来日するので、インタビューの良いチャンスではないでしょうか?(笑)

knigiknigi 2010/07/07 01:58 sunakaiさん、丁寧なコメントをありがとうございます。
じつはSF大会は予約者が人数制限の千人を超え、私が申しこむ前に登録が終了してしまいました。
後で、今年は中国やロシアの方も参加されると知りました。参加できないのを残念に思います。

sunakaisunakai 2010/07/07 02:40 実は私も申し込みに間に合わなかった・・・
ですが彼らと食事をする予定なので、もしよろしければ一緒に行きませんか?

knigiknigi 2010/07/07 08:38 お誘いありがとうございます!
hotmailあてにメールを出したのでご確認ください。

2010-06-05

日記

 今日は昼から午後9時まで、自宅→下北沢→吉祥寺→高円寺→帰宅と延々散歩していた。もはや散歩というレベルではない。西部古書会館の古本市は今回も見に行かなかった。読む本は十分貯めこんでいる。

・オープン後はじめて吉祥寺アトレに入った。お洒落雑貨店の数々に圧倒された。お高い軽石を観察する。「上質な噴火土を使用しております」というようなポップがついている。最初「土」という一文字を見逃し、上質な噴火とはどういうものかしばし考えこんだ。たとえば、はじめにシャンパンのボトルを開けるときのような景気のいい音がポンと響き、それから火山流がトロトロと足並みそろえて火口から広がっていくとか?

・アトレ内の別の店で鉄道模型用の人間のミニチュアシリーズに目を奪われる。サーカスの一団が実にいい。手回しオルガンの上に小猿が乗っているのがよい。その雑貨屋に置いてあったのは、室内置きの小さな植物鉢にのせて飾る用途のためだ。セット売りで高く、私の財布はハマグリのように固くしまったままだった。ドイツのPreiser社という、鉄道模型用の人形で有名な会社のものだそうだ。しかし販売物を見ると、ポールダンサーやらアシカのショーやら一体どんな模型で使用される機会があるのか、見当もつかぬものばかりだ。大抵のシーンを再現できるだけの人形がそろっている。この防護服セットはかなり素敵。自室の、ホコリがたまりがちな隅っこに常時置いておきたいくらい。

・ひさびさに東急横の古書『百年』へ。ここは開店直後と比べると、ものすごく量・質ともに充実した。ちょっとお高いけど、ある程度ジャンルに特化した古本屋ならば仕方がないことである。マックス・アラン・コリンズのThe History of Mysteryや、French Science Fiction, Fantasy, Horror and Pulp Fictionなるリファレンス本などを物欲しげに眺める。そして見送る。

あゆみブックス新高円寺店の文庫売り場にて「伊藤計劃の次に読むSF」という手書きポップが立ち、小さなハヤカワ文庫JAコーナーが作られているのを発見した。『虐殺器官』の横にSRE、飛浩隆の文庫すべて、『永遠の森 博物館惑星』、『太陽の簒奪者』、『星の舞台からみてる』が置いてある。この店は面積こそ小さいものの、ライトノベルや海外文学も新刊入荷がかなり行き届いている感じでありがたい。←なんかえらそうな発言ですみません。

・それに引きかえ、最寄り駅の遅くまでやっている書店のなっていないことといったら。店舗がとても小さいとはいえ、海外小説の単行本は一切入荷しない。なぜか唯一棚に並んでいるのがよりによって『フラグメント 超進化生物の島』、なぜか文庫棚にジョー・シュライバー『屍車』が3冊も置いてある……等、かゆいところに手が届かない。背中を掻いてほしいときに足の指の間を掻かれているような違和感。

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