赤染晶子

乙女の密告 (新潮文庫)

乙女の密告 (新潮文庫)


 「旧聞に属する」なんて言葉があって、小林信彦がエッセーに使っていた。頭がよく見えそうだし、いつか使ってやろうと思ってたんだが、いざ使おうとすると、どうにもおさまりが悪い。やっぱり部分的にまねしてもダメなのね。
 で、もはや旧聞に属すると思うが、芥川賞受賞作家の赤染晶子さんが、去年の9月に亡くなっていたって記事が、去年暮れの新聞に載っていた。芥川賞を受賞したのは2010年だったそうだ。
 その受賞作『乙女の密告』は文芸春秋誌上で読んだ。こんなことを言うのはおこがましいが、賞にふさわしい小説だったと思う。ちなみに、「おこがましい」の「おこ(烏滸)」は柳田國男によれば「wokho」で「ばか」と「あほ」両方のルーツだそうだ。
 それはともかく、今となっては、小説そのものより記憶に残っているのは、受賞作が発表された文芸春秋誌上に載っていた赤染晶子のコメントで、当時は紙媒体で読んでいたので、正確な文言は確かめられないのだが、「今後とも全身全霊を文学に捧げることを誓います」みたいな内容で、何もそこまで気張らなくてもと思ったのを覚えている。
 村上龍みたいに、芥川賞を獲って人気作家になるって人はひとにぎりで、芥川賞を獲っても大概の人は売れない作家のままである。逆に、芥川賞を獲らなくても売れる作家は売れる。
 なので、又吉直樹芥川賞を獲った後のピース綾部の狼狽ぶりが私には奇異に映ったんだけど、漫才コンビの関係ってのは、オセロの場合なんかを見ても、微妙なものなんでしょうな。はたから見るかぎり、相方が芥川賞を獲ったんなら、おいしいネタができたっつうだけのことに思うのだけれど、どうしてあんなにジタバタしているのかよくわからない。タレントとして売れる方が芥川賞受賞よりスゴイかどうかはともかく、おんなじくらいすごいとは思うのだ。
 赤染晶子はまだ42歳だったそう。死因は急性肺炎というが、先の悲壮なコメントが頭に残っていたので、何か戦死のような印象を受けてしまった。
 芥川賞がそんなに大したものなんだろうか。分からないが、あたふたして生き方まで変えなくてもと思う。出版界のイベントにすぎないと思うがなぁ。

『オリバー・ストーン オン プーチン』


 映画監督のオリバー・ストーンが、2015年の7月2日から2017年2月10日まで、4回ロシアを訪問し、合計9日に渡って、ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンと話した対談碌。とても面白い。対話形式ということもあり、一気に読めてしまう。
 なので、内容に触れるのはやめとこうと思う。ぜひ読むべきとオススメしておく。そして、この対談は、今年、2018年の今月2月の最終週からNHK BS1「BS世界のドキュメンタリー」という形で動画としても配信される。その後、3月16日からAmazonやGooglePlayでも発売されるそうだ。
 この動画はもともとアメリカで2017年の夏に発表されたものだそうだ。話題になったのはもちろんだが、訳者あとがきに紹介されているアメリカの主要メディアの反応は、オリバー・ストーンに批判的、というより、侮蔑的な態度をとっているようだ。ところが、一般の視聴者の反応はメディアとは違うようで、81%の視聴者が星5つをつける好評だった。また、番組の元となった9回のインタビューをほぼそのまま書き起こした、この本の原書も、アマゾンのカスタマーレビューで5点満点の4.8という高評価だったようだ。
 アメリカのメディアは、トランプ大統領誕生の時に露呈した、一般国民との溝をまだ埋められないようだ。
 今日、先のアメリカ大統領選挙にロシアが介入したという疑惑について、トランプ大統領がFBIに反撃を開始したというニュースが記事になっていた。疑惑の根拠が実はFBIの捜査ではなく、民主党が調査会社を使って調べた根拠に依っていたのに、それをあえて隠していたということだそうである。
 はっきりいって、そもそもどうやってアメリカの選挙にロシアが介入できるのか。ロシアがフェイクニュースを流して、それをアメリカ国民が信じてしまった、という筋立てだと理解しているが、こういう、国民をバカにするようなことを言われて、黙っているほどアメリカ国民がおとなしいことに驚いている。
 もしくは、マスメディア自身が、自分たちのニュースがフェイクニュースより国民に信頼されていないと確信しているっていうなら、今回のロシア疑惑も信用しなくていいわけであるが。
 ともかく、アメリカの軍事費の量的膨大さにはくらくらする。これは今更減らせる量ではないという意味で、もはや量的ではなく質的な特異性を持っているというべきだろう。トランプ大統領が当初、ロシアと和解しようとしていたことは憶えている。その機運は、この奇妙な「ロシア疑惑」で頓挫してしまったわけだが、考えてみると、安倍首相がプーチンと良好な関係を築こうとしていたころの、あのオバマの毛嫌いぶりは、なにかしら異常なものがあった。
 アメリカの主要メディアや官僚が何と言おうと、このインタビューを今月末から見聞きするだろう日本国民も、アメリカ国民と同じ反応を示すのではないかという気がする。
 つまり、トランプを大統領に選んだのは、やはりアメリカ国民の意志であり、さまざまな欠点にもかかわらず、今現在アメリカで起きている権力の囲い込みを打破しようという思いの表れだったのだろうと思いたい。ちなみにオリバー・ストーンも、最終的にはトランプを支持した。
 鈴木宗男があとがきを書いているが、彼が言うように、日本は、アメリカとロシアの仲立ちをできる立場にあると思うし、そうしなければ、とてもまずい状況におかれることになるだろう。米ロが対立するということは、中ロ対日米という構図にならざるえず、そうなると、日本はその対立の切っ先に立たされることになるからである。
 こないだの米原万里の著書のところでもふれたが、このまま外務省をアメリカ・スクールに牛耳させておくのは得策ではないのだろうと思う。北方領土問題、というより、日ロの国交正常化は、日本が米ロの和解に努力する以外の道では開けないだろう。