廃校図書館、3099年夜 このページをアンテナに追加

2017-11-18

ストロベリー・フィールド(6)

 ノエルは最初、達阿木を見て、彼が屋上でいつも間宮と話している人物なのだと思いこんだのだと言う。話している内に、すぐに違うと分かったが(達阿木さんは喋り方が独特ですから。とノエルは言った)、達阿木は、まあ悪い人間ではないし、それに博識だったから、話している内に何となく師弟関係のようなものが出来てしまった。ノエルは多分、何処にいても目立ってしまうに違いないし(美少年だとしても、美少女だとしても)、まず人の顔なんて見もしない達阿木の反応が新鮮に思えたのかも知れない。達阿木はもしかすると、今初めてノエルの顔を見たのかも知れない。あり得ない話ではない。
 僕は興味を持って、達阿木に尋ねた。
「ノエルはいつもどんな格好してたの?」
 間宮が、それに笑って答えた。
「それがね。すごいんだ。全身が継ぎ接ぎだらけで、ミイラみたいな服。危ない安全ピンがいっぱい付いてるようなやつ」
 僕は、それがどういうものなのかよく分からなかったが、異様に目立ちそうだ、ということだけは分かった。ノエルはにこりと笑って、特に否定する風でもない。達阿木は、もう大分落ち着きを取り戻したようで、「うん、理川くんは、変な服を着ている。いつもは」と言った。ノエルは「変じゃないです」と言う。
「でね、そのミイラみたいなのが、昨日屋上に上がってきて、いきなり私の名前を呼ぶから、びっくりしたよ。うん。ついに幻覚が来たかと思ったよ。でも、幻覚じゃない、ノエルくんで、よく見たらすごい可愛いから、連れて帰って服とか着せたりしてたの」
 そう。昨日は珍しく屋上が閉まっていた。僕は屋上行きを諦めて、この『旧図書室』で達阿木と熱心に討論した。制服少女は連れ帰るものではない。天然記念物で、それはイリオモテヤマネコで、遠くから眺めるのがよろしい、という僕の主張に対し、その例えに拠るなら、その、制服少女にも人為的な保護も必要なのではないか、と達阿木が答え、折衷案として遠くから常に見守り、危害が加わりそうならば常に助けられる位置に我々男子が結束して立つならば、制服少女のイノセンスなファンタジーは永続することが出来るだろう。双眼鏡を買うかどうかという話までしていたのだ。しかしその後の達阿木の「そうだね。僕たち、へ、変態じゃ、ないものね」という言葉で、僕は、僕たちはただの変態だということに気付いてしまい、何とも情けない気分でもう一度屋上に上がってみたけれど、やはり鍵は固く閉まったままで、悲しいもやもやを抱えたまま、虚しく自分の居住区へ帰ったのだ。
 だが、その間ずっと、一応の制服少女であるところの間宮里沙は、およそイノセンスとは程遠いギルティな行動(美少女ないし美少年誘拐、軟禁、および卑猥な行為の強要)に及んでいたわけだ。
 僕は間宮の仕事ぶりに感心した。