2ペンスの希望

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伊勢

昨日 かねてより懸案だった伊勢の映画館『進富座』さんに行ってきた。
去る四月に製作に携わった野村惠一監督の映画三本を特集上映して戴いていた。その折に伺うつもりで愉しみにしていたのだが、やむを得ぬ事情で果たせなかった。今回初めて現館主・水野昌光さんに会えた。
映画館は、ゆったりと落ち着いた客席に上映の合間館内音楽が流れて、往時の映画館の雰囲気そのまま。映画ファンにはたまらなく懐かしくイイ感じだ。進富座は、元々芝居小屋としてスタート、映画興行華やかなりし頃を経て、半世紀以上、伊勢で独立経営を続けてきた。【劇場のホームページには、昔の写真などがふんだんに飾られているhttp://www.h5.dion.ne.jp/~shintomi/
水野さん この五月末にNHKの番組「クローズアップ現代」に出演した。番組名は「フィルム映画の灯を守りたい」。【URLはhttp://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3206_1.html】デジタルデータ配信で消えるかもしれないといわれるフィルム上映を続けようと健闘する映画館主・映写技師として登場している。
全国ネット、それもNHKのゴールデンタイムの看板番組、さぞや反響大きく、客足も伸びているのでは‥との拙のさもしい質問に水野さんは「お客さんは変わりませんね」とアッサリ。テレビ視たよ、といった反響は少なからずあったそうだが、それが集客と結びつくとは限らないようだ。それでも水野さんは慌てず騒がず淡々。
そういえば、別のインタビューで水野さんがこんな風に発言していたのを読んだことがあった。元々考古学の研究員を目指していた水野さん、家業を継ぐ積もりは無く、手伝いで始めた映画館経営がやがて面白くなり本腰を入れ始めたのだそうだ。「趣味が映画ではないので、映画なしでも生きていけるけど、映画館という空間なしでは生きていけない、そう思い始めました」【NPO法人日本映画映像文化振興センターHP『シリーズインタビュー館主さんを訪ねて』第016回】
家業としての映画館、逃げも隠れも無い。若々しく頼もしい筋金入りのプロである。
水野さんたちは今、一緒に「クローズアップ現代」に出た映写機メンテナンスのプロ加藤元治さんらと連携、35mmフィルム映写機メンテナンスの技術指導を始めようとしている。目的は後継者指導・技術者養成である。全国に10人程度、フィルム映写機を扱える若いプロが育てば、フィルム上映は続けられる。35mm映写機に代わって今DCPの時代へ‥そんなハード面システム面ばかりが注目されるが、大切なのはやはり「人」。フィルムを扱える人の高齢化を考えると、若い世代への技術継承は喫緊の課題、それが水野さんたちの問題意識なのだろう。
どうだろう。大学や専門学校の映画学科でも、映画を「作る技術」ばっかり教えないで、百に一つでもいいから、フィルムの特性について、映画フィルムの現像技術、映写技術、メンテナンスといった映画を「見せる技術」の集積・体系を教えるところは無いのだろうか。半可通で喰えないはんちく野郎ばっかり量産したってどうしようもないのに。
まあ、陽の当たるところばかり歩きたがる輩はいつの時代にも多いものだが‥。
倦まず弛まず、我が道を行く、そんな爽やかな水野さんとの出会いを汚すような、拙の後段の論旨展開、品の無いのは身から出た錆。ご海容されたい。