『インフィニットループ』

kodamatsukimi2008-09-08


 公式サイト http://nippon1.jp/consumer/infiniteloop/ ASIN:B0018TTQYI


・その意味は「無限の輪」。
 Fog(http://www.fog.jp/top.htm)と組んでの本格推理物、
 つまり昔ながらのミステリアドベンチャーゲームも作っている
 日本一ソフトウェアhttp://nippon1.jp/index.html)製AVG
 ちなみにお話はエッジワークス(http://www.edge-works.co.jp/)というところ。

・本作は、昔ながらとはやや色合い異なります。
 国語のテストに答えるような、ジグソーパズルを埋めるような、
 立たないフラグを立てるだけ、がAVGの感触ではない。
 物語を追う邪魔のために、操作できること、ゲームであることが、
 あるわけではないのだと思わされる一作です。


・中世ヨーロッパ的、イングランド風のお城が舞台。
 王が謎の怪死をとげ、後を継ぐ主人公であるところの王子が
 同様に、なんらかの悪意によりお亡くなりになるところから始まります。
 あの世へと旅立たず、なぜか幽体のようなものになって
 誰かしらひとの背後霊として意識を保てていることにいることに気が付く王子。
 できることは、人々の行動を見続けること。
 背後に憑いている人物が誰かと会っているとき、相手に乗り移り変われること。
 そして憑いているひとに、何かしら指向性のある夢を見させることだけ。
 解決に失敗したとき、時間は王子が死した時へと何度でも巻き戻る。

・王城を襲う怪異の背後にあるものは何か。
 安寧脅かす不幸を取り除くには何が鍵か。
 誰が正しいのか。
 なぜ時間が無限に輪となり、王子はなぜ、それをそうであると認識できるのか。


・ひとつの事件を、10人ほどの登場人物たちが様々な角度で眺める形式。
 視点を様々に切り替えて、何が起こっているのか何度も繰り返し見て回り
 誰かに夢を見せることで行動を促し
 過去であり未来であり現在である時間に干渉して
 現在であり未来である物語を、少しづつ変えていく。

・「マルチサイト」という名前で呼ばれるような種のAVG
 こういう種ので有名どころの『街』などと違うところは
 事件が行き詰ったら、「現在を未来に向かって」移動して解決法を探し
 解いて次の現在である未来に進むのではなく
 既に一度見て知っている未来を変えるために
 「過去に」移動して現在に干渉し、未来を変える、というところです。

・登場人物たちがどの日どの時間に、どこで何をしていたかの流れ図を
 いつでも確認することができ、それを最期まで埋めていけば事件は解決する。
 ただ、いつでも自由にフローチャート上をザッピングできるわけではない。
 憑依している人物の未来を既に見ているならば、既知の部分は飛ばせるけれど
 過去に戻るのは、何らかの回避しなければならない事件が起こった時のみ。
 事件が起こる時へと経てば、強制的に始まりへ戻される。
 そして、登場人物たちを操作しているのではなく
 ただ背後に憑いて見ているだけなので、操作対象を切り替えることはできない。
 操作できるのは夢見のみ。
 何もしなくても、彼らは勝手に生きてゆき、そして物語に事件は起きるのです。


・夢を見させるための鍵となる事物は、誰かのどこかの会話から得られる。
 けれどそれをどこで得られるかは分からない。
 別の場面で問題が生じている時、その時間に関係ないひとについていて
 進行上の問題がどこにあるか分かり難くならないようにガイドするため、
 つまり従来AVGで言うところの、フラグ立っていないので進めないを示すため
 「死神」が主人公の意識上にのみ現れて進行を妨害する仕組みがあるのですが
 それがなぜそこにあるのか分かり難い。

・細かいところをつっつけば、セリフ主体で進む上に音声付のためか
 いちいちロードが多い。1回ごとは演出の間で気にならなくとも
 総じてみればと結構なあれである。
 舞台は中世らしいのだが、中世とは随分幅広であり
 それこそノルマン朝からビクトリアンまで。鎌倉時代にニンジャあるが如く。
 まあ風味なのでそこは流すところですが。

・登場人物の行動原理に理解が及ばないなどの
 そういうゲーム上の不満点は置いて
 立てたフラグを試しに元へ戻して他への影響を見て見直すことができる、という
 フローチャートとキーワードリストに並んで最初から用意されている、
 このフラグ視覚管理システムという面白い仕組みを使いつつ
 最期まで見たあとその全てを見直すと
 舞台は広くなく、事件はひとつ、障害の数も数えるほどの
 この物語構造が
 どのように組み立てられていて
 きちんと無駄なく機能しているのかを望見でき、
 実に感動します。
 歩いてきた道のりを、高き終着点から見晴らし、正しい地図に落とし込む心地。
 これがこのゲームの素晴らしいところ。


・『街』や『かまいたち』にフローチャートがついているのとは違います。
 このゲームに、選択肢はない。
 それぞれの人物がとるべき行動は選択できず、その時々に各人が決定する。
 未来から見るので見られるが、現在から未来は知っているだけで見えないのだ。
 わずかに行使を許された力で蝶の羽ばたきをそこに加えると
 皆がそれぞれ信じる正しい方向に、物語を進め書き換えていく。

・「全体とは、部分の総和以上のなにかである」。
 この世界を高みにたって観測することはできないが
 けれどわずか自分から見て知ることができる部分だけであっても
 このゲームに相似しているといえないほど
 それは複雑であると認めることはできる。

・過去と現在の全てを知り、万物を統一する理論を施行しても、未来は決定しない。
 しかし過去は変えることができるのだ。
 なぜならそれは今、現在の未来の姿なのだから。
 神の手が選択するのではなく、自分自身が決定するものだから。
 それだけは確かであることを
 ひとは高みに立たずとも解ることができる。