国連特別報告者の首相宛て書簡 - 中日新聞(2017年5月23日)

http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017052302000228.html
https://megalodon.jp/2017-0524-1001-23/www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017052302000228.html

◆「プライバシーに悪影響」懸念
国連特別報告者ケナタッチ氏が安倍晋三首相宛てに送った18日付の書簡は、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案がプライバシーや表現の自由を制約する恐れがあると懸念を示している。国際人権法の規範や基準とどう整合性を取るかなど、政府の回答も求めている。書簡の日本語訳(一部略)は次の通り。

プライバシーの権利に関する特別報告者の任務に基づく照会

2017年5月18日

内閣総理大臣 閣下

私は、人権理事会の決議に基づき、プライバシーに関する権利の特別報告者としての私の権限の範囲において申し述べます。

私は、組織犯罪処罰法の一部を改正するために提案された法案、いわゆる「共謀罪」法案に関し私が入手した情報について、閣下の政府にお伝え申し上げたいと思います。もし法案が可決された場合、法律の広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性があります。

私が入手した情報によりますと、次の事実が認められます。(以下、法案の説明。略)

安倍晋三首相 閣下

内閣官房、日本政府

さらに、この改正案によって、別表4で新たに277種類の犯罪の共謀罪が処罰の対象に加わることになりました。このように法律の重要な部分が別表に委ねられていることは、市民や専門家にとって法の適用の実際の範囲を理解することを一層困難にする懸念があります。

加えて、別表4は、森林保護区域内の林業製品の盗難を処罰する森林法第198条や、許可を受けないで重要な文化財を輸出したり破壊したりすることを禁ずる文化財保護法第193条、195条、196条、著作権侵害を禁ずる著作権法119条など、組織犯罪やテロリズムとは全く関連性のないように見える犯罪に対しても新法が適用を認める可能性があります。

報道によれば、新法案は、国内法を「国境を越えた組織犯罪に関する国連条約」に適合させ、テロとの戦いに取り組む国際社会を支援することを目的として提出されたとされます。しかし、この追加立法の適切性と必要性については疑問があります。

報道によれば、政府は新法案に基づいて捜査されるべき対象は、「テロ集団を含む組織的犯罪集団」が現実的に関与すると予想される犯罪に限定されると主張しています。しかし、「組織的犯罪集団」の定義は漠然としており、テロ組織に明らかに限定されているとはいえません。新たな法案の適用範囲が広い点に疑問が呈されていることに対して、政府当局は、新たな法案では捜査を開始するための要件として、リスト化された活動の実行が「計画」されるだけでなく、「準備行為」が行われることを要求していると強調しています。しかしながら、「計画」の具体的な定義について十分な説明がなく、「準備行為」は法案で禁止される行為の範囲を明確にするにはあまりにも曖昧な概念です。

これに追加すべき懸念としては、そのような「計画」と「準備行為」の存在と範囲を立証するためには、論理的には、起訴された者に対して、起訴に先立って事前に相当レベルの監視が行われることになると想定されます。このような監視の強化が予測されるところ、プライバシーと監視に関する日本の法律に定められている保護と救済のあり方が問題になります。

NGO、特に国家安全保障分野に関する機密性の高い分野で働く人々の活動に、法律が潜在的影響を与える恐れも懸念されます。政府は、法律の適用がこの分野に影響を及ぼさないことを繰り返し述べているとされます。しかし、「組織的犯罪集団」の定義の曖昧さが、国益に反する活動を行っていると考えられるNGOに対する監視などを正当化する口実を作り出す可能性があるとも主張されています。

最後に、法律原案の起草に関する透明性の欠如と、今月中の法案の急速な採択を進める政府の圧力によって、十分な国民的議論の促進が損なわれていることが報告で強調されています。

提案された法案は、広範な適用がされる可能性があることから、現状で、また他の法律と組み合わせて、プライバシーに関する権利およびその他の基本的な国民の自由の行使に影響を及ぼしかねないという深刻な懸念を表明します。

とりわけ私は、何をもって「計画」と「準備行為」が構成されるのかという点について極めて曖昧な定義になっていること、および法案別表には明らかにテロリズムや組織犯罪とは無関係とみられる過大な範囲の犯罪が含まれていることから、法が恣意(しい)的に適用される危険に懸念を示します。

法的明確性の原則は、刑事的責任が法律の明確で正確な規定により限定されなければならないことを求め、もって何が法律で禁止されている行為なのかについて合理的に認識できるようにし、不必要に禁止される行為の範囲が広がらないようにしています。現在の形の「共謀罪」法案は、抽象的かつ主観的な概念が極めて広く解釈され、法的な不透明性を招きかねず、この原則に適合しているようには見えません。

プライバシーの権利は、この法律の幅広い適用の可能性によって特に影響されるように見えます。さらには、法案を速やかに成立させるために立法過程を急いだことで、人権に有害な影響を及ぼす可能性があることにも懸念が示されています。立法の過程を短くすることは、この重大な問題について広範な国民的議論を不当に制限することになります。

私に委任された権限で、特に、プライバシー関連の保護と救済について、以下の5点に着目します。

  1. 新たに提案されているテロ等準備罪においては、犯罪の存在を証明するため監視強化が必要になると考えられるが、新たな法律またはそれに付随する措置は、プライバシーを守る適切な仕組みを確立する特定の条文や規定を新たに取り入れることは想定されていない。これが現時点の法案に対するわれわれの評価です。
  2. 公開されている情報の範囲では、監視活動に対する事前の令状主義の制度化も予定されていないようです。
  3. 国家安全保障を目的とした監視活動を事前に許可するための独立した第三者機関を法令に基づいて設置することも想定されていないようです。このような重要なチェック機関を設立するかどうかは、監視活動を実施する個別の機関の裁量に委ねられることになると思われます。
  4. さらに、捜査当局や安全保障機関、情報の活動の監督について懸念があります。すなわち、これらの機関の活動が適法であるか、または必要でも相当でもない手段によりプライバシーに関する権利を侵害する程度についての監督です。この懸念の中には、警察がGPS捜査や電子機器の使用の監視などの捜査のために監視の許可を求めてきた際の裁判所による監督と検証の質という問題が含まれています。
  5. 嫌疑のかかっている個人の情報を捜索するための令状を警察が求める広範な機会を与えることになることから、新法の適用はプライバシーに関する権利に悪影響を及ぼすことが特に懸念されます。入手した情報によると、日本の裁判所はこれまで極めて容易に令状を発付するようです。2015年に行われた通信傍受令状請求のほとんどが認められたようです。(数字によれば、却下された令状請求はわずか3%にとどまります)

法改正案に関する情報の正確性や日本におけるプライバシー権への影響の可能性を決めてかかる気はありません。ただ、閣下の政府に対しては、日本が批准した自由権規約(ICCPR)によって課されているプライバシー保護に関する義務について注意したいと思います。ICCPR第17条第1項は、とりわけ個人のプライバシーと通信に関する恣意的または違法な干渉から保護される権利を認め、誰もがそのような干渉からの法的保護の権利を有することを規定しています。さらに、国連総会決議A/RES/71/199も指摘いたします。そこでは「治安上の懸念により、一定の機密情報の収集と保護は正当化されうるものの、国家は国際人権法に基づく義務に完全に従わなければならない」とうたわれています。
人権理事会から与えられた権限の下、私は担当事件の全てについて事実を解明する職責を有しております。つきましては、次の諸点について回答をいただければ幸いです。

  1. 上記の各主張の正確性に関して、追加情報やご見解をお聞かせください。
  2. 組織犯罪処罰法の改正案の審議状況について情報を提供してください。
  3. 国際人権法の規範および基準と法案との整合性に関して情報を提供してください。
  4. 法案の審議に関して公的な意見参加の機会について、市民社会の代表者が法案を検討し、意見を述べる機会があるかどうかを含め、その詳細を提供してください。

もし要請があれば、現在審議中の法案やその他の既存の法律を、国際法秩序に沿った適切なものに改善するために、謹んで専門知識と助言を提供して日本政府を支援したいと思います。

最後に、立法過程が相当進んだ段階にあることから、私の見解では、これは即時に公衆の注意を必要とする事項です。したがって、私は閣下の政府に対し、この伝達が一般に公開され、プライバシー権に関する特別報告者の権限のウェブサイトに掲載されることをお知らせしたいと思います。プレス発表を準備し、私の懸念を説明するとともに、論点を明確にするために貴政府と連絡を取っていることを指摘する予定です。

閣下の政府の回答も、上記ウェブサイトに掲載され、人権理事会での討議のために提出される報告書にも掲載されることになります。

閣下に最大の敬意を表します。

ジョセフ・ケナタッチ

プライバシー権に関する特別報告者

<組織犯罪処罰法改正案の別表> 改正案には、別表が第1から第4まで規定され、それぞれ「犯罪収益」「証人等買収」「組織的犯罪集団」などの対象となる犯罪が列挙されている。第4には「共謀罪」の対象犯罪となる277の罪が記載されている。

国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏 共謀罪法案について安倍内閣総理大臣宛の書簡全体の翻訳 - ヒューマンライツ・ナウ(2017年5月23日)


http://hrn.or.jp/news/11053/

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは5月23日(火)の衆議院第1議員会館での緊急記者会見に向けて、
プライバシーに関する権利の国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏による共謀罪法案について
安倍内閣総理大臣宛の書簡全体の翻訳を完成させました。

「共謀罪」プライバシー置き去り 国連特別報告者「深刻な欠陥ある法案」 - 東京新聞(2017年5月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017052402000119.html
https://megalodon.jp/2017-0524-1001-55/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017052402000119.html

プライバシー権に関する国連特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が公開書簡で、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案に懸念を示したことを巡り、日本政府が火消しに懸命になっている。法案の問題点の核心を突かれ、国会審議に影響が出かねないからだ。ただ、懸念を払拭(ふっしょく)するために丁寧に説明するというよりも、「国連の立場を反映するものではない」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)といった切り捨て型の反論が目立つ。 (生島章弘、宮尾幹成)
ケナタッチ氏は二十三日、書簡に対する日本政府の抗議を受け「拙速に深刻な欠陥のある法案を押し通すことを正当化することは絶対にできない」とする反論文を公表した。二十二日には政府の抗議について「中身のない、ただの怒り」「多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と本紙の取材に回答した。
これに対し、政府も譲る気配はない。野上浩太郎官房副長官は二十三日の記者会見で、ケナタッチ氏の反論について「速やかに説明する用意があると伝達しているにもかかわらず、一方的に報道機関を通じて『懸念に答えていない』と発表したことは極めて不適切だ」と不快感を示した。
野上氏は、書簡に明記された法案の問題点に関しては「プライバシーの権利や表現の自由を不当に制約するなどの指摘は全く当たらない」と重ねて強調。質問には「追って正式に書簡で回答する」と語った。
ケナタッチ氏は安倍晋三首相に宛てた十八日付の公開書簡で、法案に盛り込まれた「計画」や「準備行為」の定義が抽象的なため、恣意(しい)的に適用される恐れがあることや、テロと無関係の罪が対象に含まれていると指摘。プライバシー権侵害を防ぐための措置を回答するよう求めていた。
日本政府はすぐさま国連人権高等弁務官事務所を通じ、ケナタッチ氏に抗議。菅氏は二十二日の記者会見で「書簡の内容は明らかに不適切」と批判していた。
特別報告者は国連人権理事会から任命され、国別、テーマ別に人権侵害の状況を調査し、人権理事会や国連総会への報告書を作成する。報告に法的拘束力はない。国では北朝鮮やシリア、イランなど、テーマでは表現の自由女性差別、貧困などが調査の対象だ。

(筆洗)PとQに気を付けて - 東京新聞(2017年5月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017052402000134.html
https://megalodon.jp/2017-0524-1002-23/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017052402000134.html

「PとQに気を付けて」。もし、英語圏のお方にそう言われた経験がある人はご自分の態度を少し反省した方がよいかもしれない。英語独特のこの言い方で「自分の言動に気を付けなさい」とか「お行儀よくしなさい」という意味になるという。
語源がおもしろい。かつての活版印刷では左右反転させた鉛の活字を使用したが、問題になるのはPとQの判別である。
「簡単さ」という人は小文字のpとqを頭の中で左右反転させてみてほしい。それで活字を組むとなれば混乱するだろう。若い職人はよく失敗したそうで、そこから注意深く行動しなさいなどの戒めの表現となったそうだ。
さて、この国の「PとQ」の問題である。きのう衆院を通過した組織犯罪処罰法改正案。ある人にはそれが国の安全を守る上で有効なテロ対策に見える。正義の「パンチ」のPである。
しかし、別の人にはプライバシーや表現の自由を制約し、国や国民を息苦しくさせてしまうように見える。「クエスチョン」のQかもしれない。
それがPかQかで国民世論は二分している。国民は二つの活字を手にして、どっちなのだろうかと悩んでいる。政府は丁寧な説明、議論と、場合によっては大幅な修正でその懸念に答えるべきだが、これしかないと一方的に改正案成立を急ぐその姿勢をおそれる。その態度こそ「PとQに気を付けて」というのだろう。

「対テロ」名目で心も捜査 「共謀罪」の危険な本質 参院で熟議を - 東京新聞(2017年5月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017052402000121.html
https://megalodon.jp/2017-0524-1003-00/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201705/CK2017052402000121.html

<取材班の目>政府与党の都合で三十時間で打ち切られた衆院の審議では、政府が「心の中」の処罰や一般人の処罰につながるといった共謀罪が抱える本質的な危険を隠そうとするあまり、答弁をはぐらかす姿勢が目立った。
例えば、最大の論点だった「一般人」が捜査や監視の対象になるか、という問題。「組織的犯罪集団」の構成員かどうかを、捜査機関が判断するには捜査してみなければ分からない。しかし金田勝年法相は、一般人とは「何らかの団体に属しない方や、通常の団体に属して通常の社会生活を送っている方」という意味なので「捜査対象になることはあり得ない」と言い続けている。これでは「犯罪に関係ない人は捜査されない」という当たり前のことを言っているに等しい。
「心の中で考えたことが処罰や捜査につながり、言論の萎縮を招く」といった野党の指摘に対し、政府は「準備行為があって初めて処罰の対象とするので内心を処罰するものではない」と答え続けていた。金田氏は、採決が強行された十九日の衆院法務委員会で、「心の中」にある目的が捜査対象になることや、警察が目を付けた人物の知人が捜査対象になることを認めた。
政府は「テロ対策」を強調しているが、その必要性を証明しきれていない。そもそも共謀罪は、意思の合致があったときに成立するもので、心の中に踏み込まなければ証明できない。参院では、政府はそうした危険性を認めた上で熟議をすべきだ。 (西田義洋)

「共謀罪」衆院通過 自公維など賛成 - 東京新聞(2017年5月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017052402000122.html
http://archive.is/2017.05.24-004531/http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201705/CK2017052402000122.html

犯罪の合意を処罰する「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案は二十三日の衆院本会議で、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。審議続行を求めた野党を与党が押し切って採決した。民進、共産両党は本会議に出席して反対。自由、社民両党は欠席した。与党は二十九日の参院本会議で審議入りさせる方針。今国会での成立を期し、来月十八日までの会期を延長する検討に入った。野党四党は廃案を目指し、引き続き法案の危険性を訴える。
衆院本会議の採決に先立つ討論で、民進党逢坂誠二氏は、国連特別報告者が人権への影響に懸念を示す書簡を公表したことに触れ「立法作業は中断し、再検討すべきだ」と訴えた。共産党藤野保史氏は「審議が尽くされていない。数の力でのごり押しは国会の役割の否定だ」と強調した。
自民党平口洋氏は、国連特別報告者の書簡について「法案の内容を正しく理解していない」と反論した。
金田勝年法相は採決後、参院審議に向け「引き続き重要性と必要性を丁寧に説明したい」と語った。民進党山尾志桜里氏は「一般人が捜査対象になるという真実に目をつぶり、うそをついて安心させる議論はやめてほしい」と批判した。
法案は二百七十七の犯罪を計画段階で処罰できるようにする内容。内心の自由の侵害や、一般の人が捜査の対象になる恐れが指摘されている。四月六日に衆院で審議入り。与党は今月十九日の衆院法務委員会で採決を強行した。

「共謀罪」衆院通過 戦前の悪法を思わせる - 東京新聞(2017年5月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017052402000136.html
http://archive.is/2017.05.23-235913/http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017052402000136.html

共謀罪」法案が衆院を通過した。安倍晋三政権で繰り返される数の力による横暴だ。戦前の治安維持法のような悪法にならないか心配だ。
警察「自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることをご存じか」
電力会社子会社「以前、ゴルフ場建設時にも反対派として活動された」
警察「自然破壊につながることに敏感に反対する人物もいるが、ご存じか。東大を中退しており、頭もいい。しゃべりも上手であるから、やっかいになる」

◆監視は通常業務です
岐阜県大垣市での風力発電事業計画をめぐって、岐阜県警が反対派住民を監視し、収集した情報を電力会社子会社に提供していた。二〇一四年に発覚した。
「やっかい」と警察に名指しされた人は、地元で護憲や反原発を訴えてもいる。ただ、ゴルフ場の反対運動は三十年も前のことだった。つまりは市民運動というだけで警察は、なぜだか監視対象にしていたわけだ。この問題は、国会でも取り上げられたが、警察庁警備局長はこう述べた。
「公共の安全と秩序の維持という責務を果たす上で、通常行っている警察業務の一環」−。いつもやっている業務というのだ。
公安調査庁の一九九六年度の内部文書が明らかになったこともある。どんな団体を調査し、実態把握していたか。原発政策に批判的な団体。大気汚染やリゾート開発、ごみ問題などの課題に取り組む環境団体。女性の地位向上や消費税引き上げ反対運動などの団体も含まれていた。
日本消費者連盟。いじめ・不登校問題の団体。市民オンブズマン死刑廃止や人権擁護の団体。言論・出版の自由を求めるマスコミ系団体だ。具体的には日本ペンクラブ日本ジャーナリスト会議が対象として列挙してあった。

◆監視国家がやって来る
警察や公安調査庁は常態的にこんな調査を行っているのだから、表に出たのは氷山の一角にすぎないのだろう。「共謀罪」の審議の中で繰り返し、政府は「一般人は対象にならない」と述べていた。それなのに、現実にはさまざまな市民団体に対しては、既に警察などの調査対象になり、実態把握されている。
監視同然ではないか。なぜ環境団体や人権団体などのメンバーが監視対象にならねばならないのか。「共謀罪」は組織的犯罪集団が対象になるというが、むしろ今までの捜査当局の監視活動にお墨付きを与える結果となろう。
国連の特別報告者から共謀罪法案に「プライバシーや表現の自由の制限につながる。恣意(しい)的運用の恐れがある」と首相に書簡が送られた。共謀罪は犯罪の実行前に捕まえるから、当然、冤罪(えんざい)が起きる。政府はこれらの問題を軽く考えてはいないか。恐るべき人権侵害を引き起こしかねない。
一九二五年にできた治安維持法は国体の変革、私有財産制を否認する目的の結社を防ぐための法律だった。つまり共産党弾圧のためにつくられた。当初はだれも自分には関係のない法律だと思っていたらしい。
ところが法改正され、共産党の活動を支えるあらゆる行為を罰することができるようになった。そして、反戦思想、反政府思想、宗教団体まで幅広く拘束していった。しかも、起訴されるのは少数派。拷問などが横行し、思想弾圧そのものが自己目的化していったのだ。
共謀罪も今は自分には関係がないと思う人がほとんどだろう。だが、今後、法改正など事態が変わることはありうる。一般人、一般の団体なども対象にならないと誰が保証できようか。国会審議でも団体の性質が一変すれば一般人も対象になるとしている。何せ既に警察は一般団体を日常的に調査対象にしているのだ。
少なくとも「内心の自由」に官憲が手を突っ込んだ点は共謀罪治安維持法も同じであろう。
捜査手法も大きく変わる。共謀となる話し合いの場をまずつかむ。現金を下ろすなど準備行為の場もつかむ。そんな場面をつかむには、捜査当局は徹底的に監視を強めるに違いない。政府は「テロ対策」と言い続けたが、それは口実であって、内実は国内の監視の根拠を与えたに等しい。

◆「デモはテロ」なのか
何よりも心配するのが反政府活動などが捜査当局の標的になることだ。「絶叫デモはテロ行為と変わらない」とブログで書いた自民党の大物議員がいた。そのような考え方に基づけば、反政府の立場で発言する団体はテロ組織同然だということになる。共謀罪の対象にもなろう。そんな運用がなされれば、思想の自由・表現の自由は息の根を止められる。