古賀茂明「“究極の演技派”泉田前新潟知事の裏切りで笑う安倍自民党」 (1/6) - AERA dot.(2017年9月18日)

https://dot.asahi.com/dot/2017091700027.html

自民党は9月13日、衆議院新潟第5区の補欠選挙(10月22日投開票)の公認候補に泉田裕彦新潟県知事(54)を推すことを決めた。
報道では地味な扱いだったが、実はこれは今後の政局に大きな影響を与える事件だ。
支持率が大きく低下し、「安倍一強」の危機と言われるが、その最大の原因は、都議選大敗で、「選挙に強い安倍」というイメージが崩壊したことにある。
仮に、10月22日に青森、新潟、愛媛で行われる3つの衆議院補選で自民が1勝2敗以下の戦績となれば、「安倍ではもうダメだ」という印象を決定づけ、来年の総裁選の見通しは極めて暗くなる。逆に、3戦全勝となれば、「選挙に強い安倍」というイメージが復活するかもしれない。
補選が行われる3県はいずれも自民党が強い地方の選挙区だが、最近の新潟は例外だ。2016年夏の参議院選挙では、野党連合の森裕子氏に敗れ、また同年10月の新潟県知事選では、民進党抜きの弱小野党連合候補の米山隆一氏に大差で敗北を喫している。
泉田裕彦氏は、新潟県知事を12年間務めた実績もあり、抜群の知名度を誇る。しかも、保守政治家でありながら、脱原発の野党や左翼系の市民にまで幅広く支持されるスーパースターだ。安倍自民としては、喉から手が出るほど欲しい候補である。
民進党も、立候補を要請したが、あっさりと断られ、先の見通しは立っていない。
このまま行けば、新潟での自民党勝利は固い。愛媛と青森で1勝1敗なら、全体では2勝1敗の勝ち越し。うまく行けば、3戦全勝も視野に入って来る。

■“反原発”とは言わない、実は「再稼働容認派」
泉田氏が自民から出馬と聞いて、「反原発の泉田氏が原発推進の自民から出るのはおかしい」と思った方も多いだろう。
私は、経済産業省時代に泉田氏と一緒に仕事をしたこともあり、彼が県知事なってからも折に触れて連絡を取ってきた。昨年の知事選前後も会食や電話などで連絡を頻繁に取った。


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ちなみに、最も重要なポイント、泉田氏の「再稼働反対は嘘だったのか」という疑問に対する言い訳が気になるかもしれないが、実は、その言い訳は必要なさそうだ。
なぜなら、泉田氏は、今も支持者たちに、「これまでの自分の考えは微動だにしない。現状での再稼働には反対だ」と言い続けているからだ。選挙中もそういう路線で行くのだろう。それなら、言い訳は不要だ。
自民党の政策との整合性が問われるが、実は、当選さえすれば良いというのが自民党の懐の深いところ。河野太郎外相も、大臣になる前までは、いつも原発反対と言う主張を繰り返していたが、党議拘束に反する行動さえしなければ、不問に付されていた。泉田氏が当選すれば、選挙期間中の発言がもんだいになることはないのだ。


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まず、泉田氏に自民党を変える力があるなどと言うのは幻想に過ぎないことは前述したとおりだ。
そして、何よりも、泉田氏が当選して誰が喜ぶのかを想像するべきだ。泉田勝利は、脱原発の野党候補敗北を意味する。
選挙後の安倍総理のコメントはこんなものになるだろう。
「わが自民党は、昨年、参議院選挙と県知事選で、新潟県民から大変厳しい審判を受けました。しかし、今回は、我々自民党の政策を新潟の方々に理解していただくことができた。心から感謝します。これまで通り、原子力規制委員会が安全だと判断した原発に限り、安全第一で、しっかり再稼働を推進して参ります。」
脱原発の最後の砦とも言われる新潟での自民党勝利は、全国の原発再稼働の流れを決定的なものにするだろう。
それだけではない。3補選で自民が2勝あるいは3勝すれば、安倍政権は息を吹き返す可能性が高い。
問題は、こうした複雑な状況を有権者が正しく理解して投票できるかどうかだ。選挙が近づくと、マスコミは当たり障りのない報道しかしない。泉田氏を支持するにしても、野党候補を支持するにしても、十分な情報が提供されたうえでの判断となるように期待しつつ、これから約1カ月後の開票日まで、新潟5区の動向を注視していきたい。

衆院解散 来月10日公示 22日投票で最終調整 - NHKニュース(2017年9月18日)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170918/k10011144761000.html
https://megalodon.jp/2017-0918-0953-06/www3.nhk.or.jp/news/html/20170918/k10011144761000.html

今月28日に召集される予定の臨時国会の冒頭にも、衆議院が解散される方向となったことを受けて、政府・与党は、来月10日公示、22日投票の日程で衆議院選挙を行う方向で最終調整に入りました。各党ともに、選挙態勢の構築を加速させるなど、動きが活発化しています。
安倍総理大臣が、公明党の山口代表に対し、今月28日に召集する方針の臨時国会で、衆議院の解散・総選挙に踏み切ることを排除しないという考えを伝えていたことが明らかになり、衆議院は、臨時国会の冒頭にも解散される方向です。

安倍総理大臣は、ニューヨーク訪問から帰国する今週22日以降に、具体的な解散時期を判断する考えですが、政府・与党は、11月初めにアメリカのトランプ大統領の日本訪問が予定されていることなどを踏まえ、来月10日公示、22日投票の日程で、衆議院選挙を行う方向で最終調整に入りました。

こうした中、安倍総理大臣は、17日夜、自民党の塩谷選挙対策委員長と会談し、選挙区の情勢を分析するとともに、選挙に向けた準備を急ぐよう指示しました。

また自民・公明両党は、18日、両党の幹事長らが会合を開くことにしていて、政権を安定的に維持するため、結束して選挙に臨む方針を確認する見通しです。

これに対し民進党は、臨時国会の国会運営などを話し合うため予定していた、自由党社民党との党首会談を取りやめる一方、前原代表や大島幹事長ら幹部が17日、衆議院の解散をめぐる情勢を分析し、今後の対応を協議しました。

また前原氏は、17日夜、枝野代表代行や長妻選挙対策委員長らと会談し、選挙の準備を急ぐとともに、自民党に対抗する新たな社会像を示していくことなどを確認しました。

一方、新党の結成を目指している若狭勝衆議院議員と細野元環境大臣は、17日、電話で会談し、衆議院選挙に向けて早期に新党を発足させる必要があるとして、協議を急ぐ方針を確認するなど、衆議院の解散・総選挙に向けた動きが活発化しています。

(書評)永山則夫の罪と罰 井口時男 著 - 東京新聞(2017年9月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017091702000177.html
https://megalodon.jp/2017-0918-0909-28/www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017091702000177.html

ロシア文学と重ねて論考
[評者]横尾和博=文芸評論家
永山則夫に真摯(しんし)に向き合った渾身(こんしん)の一冊である。本書には著者がこれまでに発表した永山にまつわる文学論や俳句、書評などが収められている。かつて本紙の匿名コラム「大波小波」に著者が書いた文章も、実名を公開して掲載した。その思いの深さとはなにか。
永山事件から四十九年、死刑執行から二十年たち、事件のことを知らない世代も増えた。彼は一九六八年に警備員やタクシー運転手など四人をピストルで射殺し、翌年逮捕された。当時十九歳。北海道の極貧の崩壊家庭に生まれ、母の故郷の青森で育った。中学卒業後、集団就職で上京し、職を転々とした末の犯行だった。その後、拘置所で独学を続け、手記『無知の涙』や小説集『木橋(きはし)』を発表し、二十八年間獄中で創作活動を続けた。彼の支援者も多かったが、九〇年に死刑が確定し、九七年八月に刑が執行された。
本書の冒頭には、<はまなすにささやいてみる「ひ・と・ご・ろ・し」>など著者の俳句十句と、永山の育った北津軽郡板柳町への訪問記が配されており、法律論や死刑廃止論の観点ではなく、文学者として永山をとらえようとする視点が明確となる。
圧巻は「永山則夫と小説の力」と題されたドストエフスキー罪と罰』を後景におきながらの論である。永山は拘置所内で『罪と罰』を読んだ。著者は、永山が「自分の犯罪がラスコーリニコフと同じものだったことに気がついた」と書く。「罪」のロシア語の原義には「踏み越え」の意味がある。自らの英雄思想の検証のために老婆殺しで踏み越えたラスコーリニコフと、どこにも行く場のない自己破滅的な永山の踏み越えを、著者は重ね合わせて複眼的に論じた。鋭い論と感傷、それが著者の思いの深度であり根拠だ。
永山の名前を聞くと心が疼(うず)く。評者は彼と同年代であり、同様に少年時代を貧しく過ごしたからである。武器を言葉に変え、孤独を生き抜いた永山。著者の向き合い方にただ頭が下がる。
(コールサック社・1620円)

<いぐち・ときお> 1953年生まれ。文芸評論家。著書『少年殺人者考』など。

永山則夫の罪と罰

永山則夫の罪と罰

◆もう1冊 
永山則夫著『木橋』(河出文庫)。極度の貧困や兄からの暴力に苦しんだ津軽での少年期を描く表題作など三作を収めた自伝小説集。

部活動のこれから「楽しみ」引き出す道を探る (荻上チキさん) - 朝日新聞社(2017年9月10日)

http://book.asahi.com/reviews/column/2017091000001.html
http://archive.is/2017.09.18-000921/http://book.asahi.com/reviews/column/2017091000001.html

現在、社会のモードの問い直しが起きている。全体秩序と大量生産を重んじる近代初期のモードをだらだらと継続してきたことで、人々の個性にマッチしない制度が温存されてしまっている場面は多い。働き方問題もさることながら、教育現場もその一つだ。
教育とは大人が子どもに一方的に与えるものではない。教育とはeducationの訳語であり、この言葉は明治期に入ってから使われるようになった。元のラテン語からは「引き出す」(educere)という意味の言葉が作られており、いま改めて「子どもたちの能力を引き出すもの」という教育の役割が問われるようになっている(『はじめての子ども教育原理』福元真由美編、有斐閣・1944円)。
日本の部活動も、いま問い直しの時期に来ている。部活動はとても不思議な位置づけにある。『そろそろ、部活のこれからを話しませんか』によれば、9割の中学生、7割の高校生が部活に入っている。にもかかわらず、「子どもは部活をするように」等と定められた法律はない。あくまで、学習指導要領の中で、「自主的、自発的な参加により行われる」ものとされている。

■脱ブラック化
しかし、子どもの自主的な活動と言いつつ、強制加入や理不尽指導などが横行している。また、その顧問となる教員に、その部活内容に関する経験がないこともしばしばだ。教員は子どもの最も身近な社会人であり、また一番最初に触れる科学者でもある。だが、大人社会ではあり得ない非科学的な理不尽に耐えることが、通過儀礼だと言わんばかりの学校慣習が横行している。一方で、理不尽を告発したりストレスから逃れるための手段は教わらない。
『部活があぶない』では、様々な教育現場での、ブラック部活を描いている。同調圧力が高まり、ハラスメントなどが横行する部活動という形態に、生徒も教員も押しつぶされている風景が活写されている。前半は読んでいて苦しくなるが、後半では脱ブラック化した部活の事例も紹介されていて希望がある。
『ブラック部活動』では、部活問題が鮮やかに整理されている。その中で、生徒も教員も保護者も、「自主性」ゆえにブレーキが利かず過熱していく様子も指摘されている。
著者の内田氏は部活問題や組体操問題など、日本の教育現場で起きている様々な現象について疑問を投げかけ続けてきた。根拠と発信で社会は動くのだということを態度で示している実践者でもある。こうした問題提起は、しばしば「学校嫌いゆえの部活叩(たた)き」と反発を買う。だが、誤解してはならない。部活そのものを否定しているのではなく、部活のブラック化を防ぎ、みんながより幸福になれる道を探ることが重要だということだ。

■過熱を防いで
『そろそろ〜』では、日本の部活動が、海外の部活等と比較して特異な形態であることに触れ、様々な代替案のメリット・デメリットも分析している。例えば部活動をなくし、すべてを「習い事」化させると、貧富の差によりスポーツ・文化活動の接触機会が左右されるかもしれない。そうした点も鑑みて、今の制度の評価できる点は残しつつ、子どもと教師の生活や生命を守り、趣味や人生を「楽しむ」ことを学べる場として部活を位置づけなおそうと提言している。
『ブラック部活動』では、部活を行う時間の「総量規制」を導入して過熱を防ぐことを提案する。また、部活動の「居場所」としての役割を評価し、地域単位の分散化も構想する。素晴らしいと思うのは、ここにあげた3冊すべての部活本が、「未来の形」を創造しようとしていること。よりよい未来を共に作りたい。
    ◇
おぎうえ・ちき 評論家 81年生まれ。言論サイト「シノドス」編集長。

はじめての子ども教育原理 (有斐閣ストゥディア)

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部活があぶない (講談社現代新書)

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そろそろ、部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義

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