七夜物語(ななよものがたり)(上下)

七夜物語(上)

七夜物語(上)

七夜物語(下)

七夜物語(下)


「七夜物語」という本を入口にしたどこか不思議な世界での七つの冒険の物語。
主人公は10歳の少女さよと、同級生の仄田くん。
ナルニア物語」や「はてしない物語」を連想したりもしますが、異世界(?)の冒険、「行きて帰りし」の物語、と言い切ってしまうのは、どうも、しっくりしません。
わくわくするよりも、暗くて怖いし、ずーっと不安。
それは、この冒険が、生身の冒険というよりも、むしろ、心の(それも一番向かいあいたくない部分の)冒険のように感じるからです。
心の中の封印に、そろそろっと軽く触れたりゆすったりされているようで、しかも、一気にぐしゃっと握るのではなくて、小出しに少しづつなのが、嫌な感じ。
これは楽しくない冒険だ。


最後までずっと不安だった私を置いて、子どもたちは成長してしまう。
この世界になじみ、この世界にひきずりこまれるのを心待ちにするほどに。
すごいすごい。


時代は、今からおよそ30年以上も昔。
大人にとっては懐かしい時代だ。
懐かしいけれど、子どもだったころの不自由さ窮屈さも同時に蘇り、明るい・温かい、というのとは違う、
ざわつくような気持ちにさせられる。
子どものころの孤独や不安が、ぼんやりと蘇ってくる。
日本の物語なんだなあ…と、この湿り気のある薄暗さに、悲しいようなほっとしたような気持ちでなじんでいく。


とてもとても眠いこと、
世界はひとつではないし、境界もないこと、
正しいことと正しくないことがあいまいなこと、混じり合うこと、
最後まで、ぼんやりとしたなかで、とらえどころがないまま、とらえどころがないことをよかった、と思い、
ああ、これはもうファンタジーではないのだ、と思った。
異世界の冒険がすでに現実と混ざり合っている。これは現実の物語になっている。いや、最初からずっとそうだったんだ。


でも、そう思った理由も、そこに至る道筋も、忘れてしまうことが切ない。
忘れる物語なのだ、忘れてもなお残るものが大切。
そして、物語は永遠に終わらないのだということを確認。(そういえば、物語のなかで消えてしまうものが行く場所がエイエンだったっけ。)
この物語が終わることは、どこかで新しい冒険が始まっているということだ。
それでもせつない。だって、だって、わたしはこの本を閉じても、忘れていないのだもの。
全部知っているのだもの。知っている、という場所に置き去りにされたことが切ない。