インタゲ論争がこれから目指すべき方向

さて、上のエントリーを受けて、矢野が今から5年ほど前に考えたことを少し述べさせていただきます。

2002年に米国留学中の加藤涼氏と知り合う機会があり、彼からDSGEを含め、アメリカでのマクロ経済学の最前線について様々なことを教えてもらったのですが、その中でいくつか考えたことがあります。

(1)「DSGEモデルを使って議論するのが最低限クリアすべき条件だ」というのは納得したが、「『どの』DSGEモデルを使って議論すべきか?」については依然として未解決だ(Model Uncertaintyの問題)

(2)「流動性の罠」にはまった場合のDSGEモデルのパラメーター推定(もしくはキャリブレーション)についてはまだ課題が多い。なぜなら、ゼロ金利制約のためテイラールールが非線形になる(非線形性の問題。Kato and Nishiyama (2005)などを参照)

(3)均衡産出量や均衡実質金利の推定にも課題が多い(均衡値推定の問題)

(4)インタゲはoptimalなのか?

少なくともこれらの課題を解決しなければ、インタゲ論争は前には進まないのでないかというのが矢野の2003年当時の印象でした。

もちろん、これらの問題を一挙に解決することは不可能に近いことですが、それでも少しずつ改善するには、ベイズ統計学を用いると良いのではないかと(当時は)考えました。

しかし、それを考えた2003年から2007年まで4年ほど空白があります。というのは、その間、総合研究大学院大学統計科学専攻(赤池博次先生がおられた統計数理研究所の博士課程)に進学して、非線形・非ガウス・非定常状態空間モデルの研究をしていたからです(この論文は矢野の博士論文の第2章)

ただし、非線形・非ガウス・非定常状態空間モデルをテーマに選んだのは、上記の3点(optimalityの問題を除く)を解決するのに役立つのではないかと思ったからです。誤算は、テーマが思っていたよりも難しく、DSGE研究は4年間完全にストップしてしまったことです。

しかし、去年3月に博士課程を無事に終了し、4月からDSGEとベイズ統計学マクロ経済学への応用を再開しました。注意:optimalityの問題に関しては矢野には難しすぎるので、当面は棚上げすることにしました。「若い天才経済学者が現れてこの問題を解決してくれる」ことを願っています。

それらの成果が少しずつまとまり始めたので、今年に入って「時変係数構造ベクトル自己回帰モデル(Time-Varying Structral Vector Autoregressions)」と「Dynamic General Equilibrium Models under the Liquidity Trap推定」の研究発表を、2月に内閣府で、4月に日銀金融研で、5月に慶応大学吉野直行先生のゼミでさせていただきました。

今後も地道に研究発表を重ねていきたいと思いますので、もしこういったテーマにご興味のある方は声をかけていただけると幸いです。関東圏であれば、ご要望があれば非線形・非ガウス・非定常状態空間モデル、Time-Varying Structral Vector Autoregressions、Dynamic General Equilibrium Models under the Liquidity Trap推定を含めた研究発表をさせていただくことも可能です(ただし、かなり長時間が必要です)。