2010年の4冊+アルファ

今年は本当に忙しく、あまり本を読む時間がありませんでしたが、それでも出版された研究書の中で非常に素晴らしいと感じたものを4冊ほど取り上げます。(1)安道「ベイズ統計モデリング」、(2)沖本「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」、(3) Prado and West"Time Series Modeling, Inference and Forecasting"、(4)Walsh, "Monetary Theory and Policy"の4冊です。

まず、最初の二つは若手研究者が執筆した(1)ベイズ統計学に関する教科書、(2)時系列解析に関する教科書です。ただし、どちらもかなり高度な内容なので、一般向けではありません。理工系ならば3〜4年生、文系なら修士以上の方が対象だと思います。

ベイズ統計モデリング (統計ライブラリー)

ベイズ統計モデリング (統計ライブラリー)

まず、安道先生の「ベイズ統計モデリング」ですが、ベイズ統計学の基礎からはじめて、安道先生のご専門である「ベイズ情報量規準」に関して最新(それこそここ1〜2年)までの発展が詳細に解説されています。世界でも類を見ない高度かつ先進的な内容の教科書になっています。

経済・ファイナンスデータの計量時系列分析 (統計ライブラリー)

経済・ファイナンスデータの計量時系列分析 (統計ライブラリー)

沖本先生の「経済・ファイナンスデータの計量時系列分析」は時系列解析に関して簡潔かつ深く解説した教科書です。時系列解析全般についてこれほど短く分かりやすく書かれた教科書は他にあまり例がないので、時系列解析を志す方全般に広くお薦めします。

安道先生も沖本先生も若手研究者としては指折りの実力者で、このお二人のとにかく素晴らしい方達が書かれた本が出版されたということは大変に意義あることだと思います。安道先生には何度もお会いしたことがありますが、沖本先生にはまだお会いしたことがないので、一度お会いしたいなぁと思っています。

今年の本ではないですが、沖本先生と井上智夫先生が翻訳されたJ. D. Hamiltonの「時系列解析」は原書が素晴らしいことはよく知られたことですが、お二人が訳された結果、翻訳の方はさらに素晴らしいできになっています。

時系列解析〈上〉定常過程編

時系列解析〈上〉定常過程編


次は「モンテカルロフィルター(粒子フィルターもしくは逐次モンテカルロ法)」に関する教科書です。こちらはMike Westというこの分野の権威である研究者が書いているので、この分野に興味のある方にお薦めします。

Time Series: Modeling, Computation, and Inference (Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science)

Time Series: Modeling, Computation, and Inference (Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science)

最後に、これは改訂版ですが、Walshの"Monetary Theory and Policy (third edition)"は素晴らしい!欧米の教科書は改訂するたびに分厚く重くなっていくのですが、これは2003年の第2版よりも軽くなっています!第2版ではごちゃごちゃしていた構成が非常に整理されて、すっきりとした章立てになって、第3版は非常に読みやすくなりました。Gali (2008)も素晴らしい教科書ですが、個人的にはこのWalsh (2010)の方を多くの方にお薦めしたいと思います。

Monetary Theory and Policy (The MIT Press)

Monetary Theory and Policy (The MIT Press)