街道をゆく 7 甲賀と伊賀のみち、砂鉄のみちほか(司馬遼太郎著)


 大作家・司馬遼太郎さんの紀行文の集大成であるところの「街道をゆく」シリーズは、旅に行くときにその土地のことを知るために、読んでから行くと、その土地の歴史、風土、文化、人々の性向などが分かります。まっさらな状態で旅に行くのも素敵ですが、司馬さんの感じ方は、「歴史観」「世界観」がすごく大きいので、世界やアジアとのつながりを連想しながら、日本の地域のなりたちを学ぶことができますね。

 さて、街道をゆくで、島根県が登場するのは、「砂鉄のみち」です。

 司馬さんはこの旅では、和鋼博物館を振り出しに、安来市雲南市、奥出雲町の製鉄にゆかりのある場所を友人たちと語り合いながら旅をします。中でも、吉田町では先々代の田部長右衛門に会って、たたらのことについて意見を交わしています。奥出雲の砂鉄は、良質な上に、日本刀の原材料として古くから重宝しました。今も奥出雲町大呂にある日刀保たたらでは、いまだに日本刀の材料として、製造されています。

 この製鉄法は、朝鮮半島との強い結びつきがあろうことが語られていきます。また、出雲街道をさかのぼっているので、最後は根雨に至るのですが、そこで、川の名前が「日野川」と聞いて、一行は「斐伊川」との音の類似性に気づきます。確かに言われると「ヒノカワ」と「ヒイカワ」ってすごく似ている。昔は二つの川が両方「簸川(ひのかわ)」と呼ばれたとのこと。街道にそって旅をすると、地域を横断的にみることができて、旅人の方が客観視できるようにも思います。

 司馬さんはタクシーなどを使いながら、松江を拠点に中国山地を出たり入ったりしているので、一本道の旅ではありませんし、たたらから、古代朝鮮とのつながりを含めて、出雲街道は遠く朝鮮半島を結ぶ海路につながっていることを強く意識させられます。そういえば、大田市久手町には、「百済たたら」というたたら場がありますし、近くには新羅神社もあります。たたらと島根のつながりは、めちゃめちゃ面白いです。