中国山地(上下、中国新聞社著)


 この「中国山地」は、過疎化が急激に進み、くらしや文化が急速に失われつつある1960年代に、中山間地域のくらしを克明に記録した伝説的なルポとして有名です。今でも中山間地域を研究する人のバイブル的な存在で、古書価もかなり高めです。これは二度ほど通読しましたが、記録しておくということの必要性を痛感させられます。

 中国山地は、ほぼ全域でたたら製鉄が行われていました。このため、砂鉄の採取や木炭の生産など産業が山の中で行われたことから、ときには「こんな山奥まで…」というところに集落があって、中国山地の懐の深さを感じさせます。
 
 それに中国山地は比較的山がなだらかですよね。雪もきょうはすごく降ったそうですけど、北陸のようには降らないですし、人々が山でも暮らせる温暖で湿潤な気候も、くらしを支えていますよね。山で、木や、木の実、そばなどの山で作れる農作物と、たたらや木炭をつくりながら、けっしてぜいたくな生活はできないけれど、自然と寄り添いながら暮らしてきた場所なんだと思うんです。

 それにしても、こういう山のくらしが消えていくというのが、人類としてのシンポとか、ハッテンとか言えるのかなあと。むしろ、中国山地のくらしの方が豊かで、残していかなければいけないものなんではないかと思います。

 中国山地を語る上で必読の書です。

 (未来社、1967年)