kojitakenの日記

古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

必読のブログ記事「『ぞっとした』にぞっとした話」

これは必読のブログ記事だ。


「ぞっとした」にぞっとした話: H-Yamaguchi.net


東電原発事故の民間事故調の報告書について、これまで一言も書いてこなかったが、購読している朝日新聞を含むマスコミの論調に大きな疑問を持ちながらうまく文章化するアイデアがなかなか浮かばなかったのと、他に書きたいことがたくさんあったためだった。ブログ記事は私の感覚にもっとも近い。

記事は、必要なバッテリーのサイズや重さまで一国の総理が自ら電話で問うている様子に、『国としてどうなのかとぞっとした』と証言した下村健一氏自身のTwitterをもとにしている。テレビ報道ではこのことが大々的に強調されていた。

私自身、「リーダーのくせにそんな細かいことにばかりこだわっていてどうする」と思ったボスの実例を目の当たりにした経験がある。だから、正直言って菅直人は典型的な「上司に持ちたくない」タイプの人間だ。だが、あの局面に限っては、もっと大きな問題があったのではないか。そういう違和感を持った。そして、ほかならぬ「ぞっとした」発言者の下村氏ご自身も同じ感想をお持ちだったのだ。以下上記リンク先記事経由で下村氏のTwitterを引用する。


https://twitter.com/#!/ken1shimomura/status/175972480681381889
https://twitter.com/#!/ken1shimomura/status/175972630229291008

私は、そんな事まで自分でする菅直人に対し「ぞっとした」のではない。そんな事まで一国の総理がやらざるを得ないほど、この事態下に地蔵のように動かない居合わせた技術系トップ達の有様に、「国としてどうなのかとぞっとした」のが真相。総理を取り替えれば済む話、では全く無い。

実際、「これどうなってるの」と総理から何か質問されても、全く明確に答えられず目を逸らす首脳陣。「判らないなら調べて」と指示されても、「はい…」と返事するだけで部下に電話もせず固まったまま、という光景を何度も見た。これが日本の原子力のトップ達の姿か、と戦慄した。


https://twitter.com/#!/ken1shimomura/status/176350926196584449
https://twitter.com/#!/ken1shimomura/status/176350986787487744

報告書P.77「官邸が電源車を用意手配したにも関わらず、11日夜から12日にかけて電源車に繋ぐコードが無い等の報告があり…」⇒これ、私も見ていた通り。この文から2つの事が判る。つまり、総理室詰めの技術陣は電源車の手配にも即応できず(だから「官邸」が手配)、更に「電源車が現場に到着したら、電気を原発側に送るコードが要る」ことにも前もって1人も気付かなかった。この後も、こうしたトホホは信じ難いほど続く。当時の私のノートの走り書きより:「うつむいて黙り込むだけ、解決策や再発防止姿勢を全く示さない技術者、科学者、経営者」


その一方で、菅直人に対してもこう書いている。

https://twitter.com/#!/ken1shimomura/status/176351055137882114

一方でノートにはこんな殴り書きも。「Kに冷却水が必要」…Kとは菅さんのこと。危機が刻々募る中、技術陣の無様さに、次第に総理のテンションが高じていったのも事実。あそこは優しく彼らの硬直を解いてあげるのがリーダーの務め。…私がその立場でも、それができた自信は無いが。


以下ブログ記事から引用。

つまり下村氏は、「そんな事まで自分でする菅直人に対し「ぞっとした」のではない。そんな事まで一国の総理がやらざるを得ないほど、この事態下に地蔵のように動かない居合わせた技術系トップ達の有様に、「国としてどうなのかとぞっとした」のが真相」「実際、「これどうなってるの」と総理から何か質問されても、全く明確に答えられず目を逸らす首脳陣。「判らないなら調べて」と指示されても、「はい…」と返事するだけで部下に電話もせず固まったまま、という光景を何度も見た。これが日本の原子力のトップ達の姿か、と戦慄した」というわけだ。

これならわかる。誰だってぞっとするだろう。一番の当事者が、事態への対応を何ら打ち出すことすらできずにいたわけだ。このとき東電が福島第一原発から「全員退避」する方針だったかどうかについて、東電側には異論があるらしいが、仮に東電の言い分が正しくて、本当は全員退避という話ではなかったとしても、緊急事態を前に固まったままのこういう人たちを見ていたら、本当に全員退避するつもりなのかも、と疑ってしまったかもしれない。

というわけで疑問は解けたわけだが、まだ気になるところはある。この「ぞっとした」発言、上記の読売新聞*1の他、朝日新聞(「菅首相らの原発対応「泥縄的な危機管理」 民間事故調」2012年2月29日*2)でも報じられているが、毎日新聞(「民間事故調:福島第1原発 官邸初動対応が混乱の要因」2012年2月27日*3)や東京新聞(「福島第一 対応「場当たり的」 民間事故調が報告書」2012年2月28日*4)は、ネットで見た限りでは報じていないようだ。見比べていただくとわかると思うが(見出しだけ見てもわかる)、「ぞっとした」発言を報じている読売と朝日は菅首相(当時)の責任をより強調しているのに対し、毎日や東京では東電や原子力安全委などいわゆる「原子力ムラ」の人々のだめっぷりがまず強調されていて、それに加えて「官邸」(首相ではなく)の対応にも問題があったという位置づけになっている。

この4つのメディアの4つの記事を見比べただけなので確たることはもちろんいえないからあくまで印象論だが、どうもこの「ぞっとした」発言は、菅元首相の責任を強調するためのネタとして使われたということなのではないか。客観的な報道のふりをして、主観的な評価をすりこもうとしているようにしか思えない。で、そのためなら違和感の残る文章をそのまま書いても平気、「ぞっとした」発言の裏付け取材などすっとばしてしまっても平気という乱暴さも兼ね備えているわけで、こうなると別の意味でぞっとせざるを得ない。ぼーっとしてるとこんなふうに誘導されてしまうのだ。私は菅元首相の当時の行動については批判的な見方(というか、そもそも就任時から首相として適任者ではないと思っていた)をしている方だと思うが、それでもこういう露骨な誘導記事っぽいものには不快感を感じる。ステマどころの話ではない。はるかに悪質だと思う。


私が購読しているのは朝日新聞だから、朝日の記事を読んで違和感を持った次第だ。


この件でいつも思うのは、たとえば安倍晋三が総理大臣だったら現在東京は廃墟になっていたのではないかということだ。特に3/15未明の東電への乗り込みは、安倍だったら絶対にやってない。東電が福島第一原発を見捨てて撤退することを追認し、東電原発事故は致命的な段階を迎えたのではないか。

それは何も安倍が無能だからという話でも菅が有能だったという話でもない。いや安倍は実際無能だけど、ここで言いたいのは安倍個人の話ではない。「原子力神話」が一人歩きして、事故が起きても誰も責任を取らない体制が作り上げられていたということだ。戦時中の「軍部の暴走」と同じ。菅直人はその壁をまず打ち破らなければ何も始められなかった。それが遅きに失したとはいえ3/15未明の行動につながった。この点は民間事故調も評価している。

私の「菅直人総理」に対する評価は、100点満点の10点だが、東電原発事故への対応がなければ0点だった。菅は東電を福島第一原発に踏みとどまらせ、夏に玄海原発再稼働に動こうとした海江田万里にストップをかけ*5、「脱原発」を打ち出そうとした*6。その分、「0点」評価を免れた。余談だが、安倍晋三に対する評価は「−100点」である。

それにしても朝日。私は何も毎日新聞東京新聞が良いなどとは全く思わないけれど、朝日はそれらと比較しても読売に近いダメ報道をしていたのかと思うと、いまさらながらに呆れる。そういえば東京新聞の記事の末尾には、次のようにある。

 民間事故調は、シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(船橋洋一理事長)が主導し、委員六人と約三十人の作業グループが調査に当たった。政府関係者を中心に三百人に聴いたが、東電首脳への聴取はできず、事故調は「協力が得られなかった」としている。


船橋洋一とはいうまでもなく朝日新聞の前主筆。一昨年暮に定年退職したが、今なお朝日の論調に影響を与えているとされる。なるほど、だから朝日の記事のトーンが毎日・東京(中日)よりも読売寄りだったのか、というのは多分「下司の勘繰り」だろうが。


もっとも、ウェブ日記やブログに記事を書く身としては朝日新聞の購読はやめられないのだけれど。朝日ほど「リベラル」のダメさを具現している新聞は他にないから。

*1:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120227-OYT1T00920.htm

*2:http://www.asahi.com/politics/update/0228/TKY201202280654.html

*3:http://mainichi.jp/photo/news/20120228k0000m010104000c.html

*4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2012022802000051.html

*5:その前の浜岡原発の停止は、それと引き換えに他の原発を再稼働させようとする経産省海江田万里側からの仕掛けに菅が乗っただけだから、これは特に評価はしない。

*6:これもすぐに枝野幸男にブレーキをかけられ、「脱原発依存」に後退してしまったけれど。