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古寺多見(kojitaken)の日記・はてなブログ版

「裁量労働制データ問題で追及すべきは厚労省でなく安倍政権」(『すくらむ』)

裁量労働制の件でネットサーフィンしてみたが、今日取り上げるのはこの記事。この『すくらむ』というブログは「国家公務員一般労働組合(国公一般)の仲間のブログ★国公一般は正規でも非正規でも、ひとりでも入れるユニオンです。」とのこと。

裁量労働制データ問題で追及すべきは厚労省でなく安倍政権、労働行政を歪めウソで固めた「働き方改革」 | すくらむ(2018年2月26日)

裁量労働制データ問題で追及すべきは厚労省でなく安倍政権、労働行政を歪めウソで固めた「働き方改革

 雇用共同アクションは、きょう(2月26日)12時10分から「『アベ働き方改革』阻止!緊急国会行動〜政府のウソで過労死はごめんだ〜」を実施しました。この国会行動の中から、伊藤圭一全労連雇用・労働法制局長と、上西充子法政大教授の発言を紹介します。(※文責=井上伸)


伊藤圭一全労連雇用・労働法制局長


厚労省に責任を押しつけるのはおかしい
――厚労省裁量労働制のきちんとした調査をやっていた

 厚生労働省に責任を押しつけて、官邸はいま被害者のような顔をしていますが、それは私はおかしいと思います。私は2013年のときからこの労働法制問題の審議、議論を傍聴して状況を見てきましたが、労働側は裁量労働制拡大と高度プロフェッショナルについて真っ向から反対した上で実態をきちんと把握することも求めていました。そして、厚労省は税金を使って労働政策研究・研修機構(JILPT)に、裁量労働制と一般的な働き方をきちんと比較できる調査をやっていたのです。

無理矢理ねつ造データを作った責任は安倍政権にある

 その調査結果は裁量労働制の方が労働時間が長くなる傾向がはっきり出ているのです。その結果を見るやいなや、税金を使って裁量労働制の実態を調べるために実施した調査結果を用いないで、なんとまったく比較できない、そのためには作っていない別の調査の方を使って無理矢理ねつ造データを作ったということです。

 一般労働者の最長の労働時間と、裁量労働制で働く労働者の平均的な労働時間を比べる。しかも一般労働者の労働時間は残業時間しか調べていなかったから所定労働時間はどうしようかということになって、法定の一日の上限である8時間を足した。こんなデタラメな計算を普通の厚労省の職員は普通の感覚ではできるはずがないと思います。ここには強い政治の圧力がかかっているはずです。

厚労省を追及するのではなく
都合のいいデータつくらせた安倍政権を追及すべき

 野党合同の調査会で厚労省の担当者が呼ばれて、ずっとうつむいて問われたことに答えていた雰囲気だったそうですが、心の中では安倍政権からの強い圧力でこんなことになってしまったと思っているでしょう。要するに厚労省は安倍政権の意向にそう都合のいいデータしか作ることができない、出させない、税金を使って裁量労働制の実態を調べるためにやった調査すら報告することができない。こういう圧力が官邸から厚労省にかかったことは火を見るより明らかで、担当者は正直にそれが言えるかというとそれは私は酷だと思います。厚労省の責任を追及するのではなくて、安倍政権が労働者の意向など聞くつもりもなく、実際に裁量労働制で働く労働者がどういうメカニズムで長時間労働に追い込まれ、不払い残業が合法化されているかというその事態も把握しようとせずに、一方的に裁量労働制を拡げるということだけを押しつけてきたことを追及する必要があると思います。これが、今回のデタラメなデータ、ウソのデータの中から見えて来ている真実だと思うのです。

働き方改革一括法案」を撤回しないなら
安倍首相の「過労死の悲劇を二度と起こさない」という言葉はウソになる

 こんな「働き方改革一括法案」を強行するのなら、安倍首相が最初から「働き方改革」として約束している長時間労働を是正するとか、過労死の悲劇を二度と起こさない、などの発言はすべてウソだったことになります。本当に長時間労働是正、過労死をなくすと安倍首相が言うのであれば、今回の法案は撤回して、一からやり直すべきです。そういうところまで追い込まれているのに、安倍政権はこの法案は必要なので撤回できないと言っています。そう言うのなら、長時間労働をむしろ野放しにして過労死を促進するための「働き方改革一括法案」だと正々堂々と本音を言ったらどうだとすら思います。労働者の命と健康を奪う政策がいま進められようとしています。ぜひみんなの力で止めたいと思います。


上西充子法政大教授


「平成25年度労働時間等総合実態調査」はそもそも使えるものではない

 いま問題になっている裁量労働制をめぐるデータ問題。安倍首相は1月29日の段階では国会答弁で調査名も労働時間数も言っていませんでしたが、1月31日の国会で加藤厚労大臣が時間数と調査名に言及しました。それが「平成25年度労働時間等総合実態調査」です。この調査を見てなんだこれはと思ったのです。そもそも比べられないものを比べている。そのときはまだ一般労働者の9時間37分という数字の根拠は分かりませんでしたが、おかしいということで一生懸命にYahoo!ニュース個人の記事を書いたのが始まりでした。そのときは、ここまでの事態になるとは私も思っていませんでした。

「平成25年度労働時間等総合実態調査」のデータ再精査が焦点ではない

 今回の問題は、調査データの不備、あるいは根拠のないものを使ったというデータの問題だけではなくて、そこのほころびから、いろいろな問題が全部見えてきたということが重要です。データだけの問題では全然ないのです。データを使って、データでねじまげて、政策決定のプロセスを無理矢理ゆがめてきた。厚労省を官邸が押しつぶしてきた。そして、いま再精査をすると言っていますが、再精査というのは要するに厚労省と現場の職員にさらに負担をかけるということです。これは方向性が違います。ですので、野党6党合意での再調査というのは取り下げていただきたいと思っています。要するにあるべき秩序に戻して欲しいのです。いま大事なことは、それぞれの機関がやるべきことをきちんとやる。つまり、伊藤さんもお話しされましたが、裁量労働制の調査はもうすでにきちんとあるのです。労働政策研究・研修機構(JILPT)が厚労省の要請によって法改正の検討の素材にするために行った調査がある。けれどもそれを安倍政権は使おうとしなかった。だからまずその調査結果をきちんと見る必要があるのです。

個々のデータ以前の問題としてこの調査を使ってはダメ

 問題になっている「平成25年度労働時間等総合実態調査」には確かに個々の変なデータはあるのですが、このデータ問題に焦点があたってしまうのはおかしい。8時間に1時間37分を足してしまうという計算がそもそもおかしいのだから、個々のデータ以前の問題としてこの調査を使ってはダメだということが重要です。

 安倍首相は、答弁は撤回していますが、このデータは撤回していません。なぜかというと、このデータを撤回すると「働き方改革一括法案」も撤回しなければならなくなるからです。だからデータは撤回せす、再精査をすると言っています。でもそういう方向に行かせてはダメです。そういう問題ではないだろうと、ぜひメディアの方も問題を立てて欲しいと思います。

安倍政権によって労働行政が歪められていることこそ問題

 安倍政権によって2013年から労働行政が歪められてきた。本来の労働行政をできなくさせた。調査研究機関もきちんと調査したのに、それを政策に活かせないような形にした。そして、国会の中で変な比較データをやって野党をだまして説得させようとした。私たちに対しても――施政方針演説を見ていただきたいのですが――、安倍首相は「働き方改革国会」だと言って、長時間労働の是正、同一労働同一賃金は一生懸命言っていますが、裁量労働制のことは一言も言っていません。都合の悪いことは、隠していい顔をして通そうとした。それがいますべて露呈しているから安倍政権は困っているわけです。露呈しているからこそ、普通の人は「働き方改革」をめぐって何が起こっているんだろう? 裁量労働制って話題になっているけど私たちにどう関係しているんだろう?という疑問を持ち、抱き合わせの「働き方改革一括法案」の問題が、ようやく世の中の人の目に見えるようになってきた。光が当たるようになってきた。そういう状況だと思います。

世論調査裁量労働制拡大に反対は57%
中身が分かれば賛成する労働者はいない

 いまはまだ「働き方改革一括法案」は閣議決定されていません。「毎日新聞」が2月24、25日に実施した世論調査で、裁量労働制拡大に反対は57%、賛成は18%です。中身が分かったら普通の人は賛成しません。ですので、中身を多くの人に知らせる、それから政策プロセスの変な動きを知らせる、そこにみなさんの力をぜひ使ってください。私は私なりに書くことで問題を発信していきますが、みなさんはみなさんのフィールドで奮闘してください。この国会、いますごく大事なところだと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

▼ぜひ参照ください
◆上西充子法政大教授「データ比較問題からみた政策決定プロセスのゆがみ:裁量労働制の拡大は撤回を(公述人意見陳述)」
◆上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授のYahoo!ニュース個人の一連の記事
◆上西充子法政大教授「裁量労働制、政府の答弁を検証する」(SYNODOS)

(『すくらむ』2018年2月26日)


官邸(や経産省筋)の圧力によって、厚労省の官僚が安倍政権の強い圧力によってデータの捏造をやらされたという伊藤圭一氏の主張については、数日前にこの日記で推測していた通りだったので、さもありなんと思った。私は、その記事に

想像するに、「裁量労働制下で働く労働者の方が一般労働者よりも労働時間が短い」データを捏造する指示が出されたものの、そんなつまらない捏造作業なんかに気合いが入るわけがないから、こんな杜撰な数字になったのだろう。

と書いた。その後さらに考えをめぐらせるに及んで、データの捏造が発覚した時に安倍政権を窮地に陥れるべく、わざと自己矛盾を含んだトンデモな数字を書き入れたのではないかとさえ疑っている。しかし、それが発覚するのになんと3年もの歳月を要してしまった。

昨日も、さらに233件の「異常データ」(=捏造)が明らかになったと報じられた。

裁量労働制:異常データ、新たに233件 加藤厚労相 - 毎日新聞

裁量労働制
異常データ、新たに233件 加藤厚労相
毎日新聞 2018年2月26日 21時21分(最終更新 2月27日 02時43分)

 裁量労働制に関する厚生労働省の調査データに異常値が含まれていた問題を巡り、加藤勝信厚労相は26日の衆院予算委員会で、新たに233件の異常値が見つかったと明らかにした。これまでの分を加えると300件を超えた。安倍晋三首相は調査データそのものは撤回しない考えを示したが、調査の信用性は失われつつあり、野党側は、この調査に基づいて作成された働き方改革関連法案を撤回するよう要求した。

 新たな異常値が発見されたのは「2013年度労働時間等総合実態調査」。加藤氏によると、1日の残業時間が「最長でもゼロ」の人で、1週間や1カ月の残業時間がゼロではなかった事例が233件あった。加藤氏は「常識的に考えてあり得ない」と認めた。立憲民主党長妻昭代表代行の指摘で判明したという。

 また同調査で、企画立案などをする「企画業務型」の裁量労働者の42件について1日の労働時間が「2時間以下」と記載されていた。加藤氏は「あまりにも短く違和感を感じる」とし、確認する考えを示した。長妻氏は「データの信ぴょう性に問題がある。厚労省の審議会に法案の議論を差し戻すべきだ」と追及した。

 同調査ではこれまでに93事業場で100件超の異常値が発覚し、厚労省が1万件超の全データを精査している。加藤氏は「(精査期間が)あまりに長いようなら、ある程度の数で判断する」と結果の公表を前倒しする可能性を示唆。全国の労働基準監督署が行った同調査の実態について「署レベルで実際はどうだったか把握したい」と強調した。

 一方、基準の違う一般労働と裁量労働の労働時間を比べたデータが15年に作成された経緯に関し、加藤氏は自ら担当職員に聞き取りをしたと説明。「特段不自然なところはなかった。第三者による調査は必要ない」と述べた。

 首相は不適切なデータ比較について「答弁は撤回したがデータ自体は厚労省が精査している」と述べ、同調査データの撤回は拒否。働き方改革法案を今国会に提出する方針を変えない意向も改めて示した。【光田宗義、市川明代】

毎日新聞より)


一方で、フジテレビ解説委員の平井文夫は捏造をすべて厚労省のせいにして安倍政権を擁護する恥知らずな「解説」をやっていたらしい。


歴史的経緯を踏まえた本件の基本的な認識については、『広島瀬戸内新聞ニュース』がさすがと思わせるまとめの記事を書いている。

1980年代の大金持ち減税・大手企業減税&消費税導入。
そして、1990年代半ばの日経連の「新時代の日本的経営」を下敷きとした労働法制改悪。
この二つが、今の日本の惨状を招いているといえるでしょう。
IMFは、「新自由主義」の急先鋒のイメージがありますが、いまや、トランプの「税制改革」に対して警告を発しています。


「富裕層の増税で富分配を」、IMFがトランプ税改革に異例のけん制


格差是正こそ、健全な経済成長と表裏一体であるというのが今の国際的な常識です。
それに逆行してきたのが、この30年間の日本でした。


もちろん、1980年代以前の日本にも欠点はありました。
それは「企業に福祉を丸投げしていた」ことです。
具体的には、子どもの教育費やマイホームの費用という形で労働者は企業に縛られていた、
例えば残業なども一生懸命せざるを得なかった状況があると思います。
今後は、AIなど技術革新の中で、生涯同じ仕事ということも難しくなる。
そうした中では転職しやすいようにする、すなわち企業に過剰に福祉を丸投げしないということも大事でしょう。
そういうことを踏まえた「改革」ならまだしも、今回の「働き方改革」は結局のところ、20年以上前の日経連の提案を下敷きに、より収奪を強化しようということでしかないのです。
住宅政策を充実させる、教育費の負担軽減を可及的速やかに行う、などの形で労働者が無理に残業せずに済むようにする、という方向を日本も今後追及すべきでしょう。
しかし、安倍ジャパンは、逆に、長時間働かせ放題へと煽っているわけです。

(『広島瀬戸内新聞ニュース』2018年2月26日)


最後に。
安倍晋三自身は労働政策には特に強い関心はないと思われる。ただ単に、「異議を唱える者が絶え果てた『崩壊の時代』」(坂野潤治)だから突っ張ることができているだけだ。労働組合や野党、それに「リベラル」が世論をリードして声を盛り上げていけば、思いの外あっさりと安倍が「働かせ方改革」法案の扱いを方向転換させることは大いにあり得る。下記「こたつねこ」(木下ちがや)氏がつぶやく通りだ。それなのに某「リベラル」系知識人氏のように最初から諦めてしまうようではお話にならない。

安倍さんは働き方改革なんかなんの興味もない。総裁選の圧勝と改憲発議を見据えて、この法案の扱いがどのくらいリスクになるかを測ってますよ。
8:33 - 2018年2月26日