静嘉堂文庫

kokuzo2011-12-11

先日、静嘉堂文庫美術館に行ってきました。今年最後の展示で、来年2月末まで休館してしまうので、雨上がりの気持ちいい空気の中を、出かけてゆきました。
静嘉堂文庫は、三菱財閥の2代目、岩崎弥之助が自宅内に創設した「静嘉堂」を元に、4代目の岩崎小弥太が現在の地、弥之助の墓所のとなりに建物を建て、設立したものです。弥之助、小弥太父子が収集した書籍と美術品のコレクションを収蔵しています。現在の静嘉堂文庫美術館は、1992年に創設100周年を記念して、静嘉堂文庫隣に建てられたということです。
我が家からそれほど遠くないのですが、今まで機会がなく、訪れるのは今回がはじめてです。二子玉川の駅からバスもあるのですが、気持ちがいいので歩いて行くことにしました。高島屋の裏から、二子玉川商店街を抜け、丸子川沿いに行くルートをiPadで確認し、出発です。二子玉川駅周辺は、再開発の1次工事が完了したばかりで、きれいになっていますが、静嘉堂文庫は国道246号をはさんで反対側、玉川高島屋の側にあります。こちら側は昭和の街並みがそのまま残っているような感じで、全く別の街のようです。
通り抜けの車が行き交う狭い道を、歩くことになりました。これは問題です。普通なら一方通行になっているような道に、対面交通の車がひっきりなしに通過してゆきます。いろいろな理由があるのでしょうが、整備されずに取り残された町という印象です。そう言えば、かなり前に、二子玉川に住んでいる人から、裏道の交通事情の悪さを指摘されたことがありました。いまだに改善されていないのですね。
丸子川沿いの道は、緑も多く、今は美しい紅葉を見ることもでき、散歩するにはなかなかいい所なのですが、車の多いのだけが残念です。何とかしてほしいなあ。そのような道を、車を気にしながら20分ほど歩いて、静嘉堂文庫の入口に到着しました。もう少し先に行けば、岡本公園、岡本民家園です。
門を入ると、紅葉したイチョウの並木が続き、右下には底に紅葉した落ち葉を敷いた美しい水があります。並木の先には川があり、川を渡るとすぐ右側に道が続きます。川端にもイチョウの落ち葉が敷き詰められ、美しい景色を作っていました。右に続く道は、舗装されたゆるい坂道で、車も通れます。しかし、あえてそこを行かず、左手奥に延びる小道を行きます。
左手の小道を行くと、すぐ右側に石の階段があります。けっこう段数はあるのですが、階段を登りきるとほぼ平坦な道になります。雨上がりの美しい木漏れ日を浴びながら、木立の中を進んでゆくと、目の前に大きな廟が現れます。これが岩崎弥之助墓所なのでしょう。立派な建物です。
この廟の裏へまわり木立を抜けると、中央に丸い池のある広場に出ます。右奥に桜井小太郎氏の設計による、英国風レンガ造りの静嘉堂文庫があります。これは素敵な建物です。魅力的だ。美術館は左側に静嘉堂文庫と直行するように建っています。北向きのファサード(正面)、これは陰気でよくない。
北向きで陽の当たらないファサードは注意して設計、デザインしなければなりません。訪れてくる人はまずここで建物の最初の印象を形づくるわけです。ここにメインのエントランスがあるわけですので、なおさらです。エントランスのデザインも重要です。ここで建物に対する印象が決定してしまうとも言えるのです。私はこの時点で、この建物はダメだと思いました。
建物の中に一歩足を踏み入れた瞬間、その感はさらに強くなりました。これは、きちんと設計されている、あるいは、きちんとデザインされている建物ではないということです。建物を設計する、建物をデザインするということはどうのようなことか、分かっていない人の設計だとしか思えません。私の基準ではこれは設計ではありません。もっと時間をかけて、もっといろいろ考えて設計しなければなりません。このような建物に接すると、怒りすら感じます。ある程度お金もかかっているようですので、なおさらです。
例えば、展示室の天井が傾斜天井になっていて、そこに間接照明が組み込まれているのですが、「傾斜天井にして間接照明を入れました」では設計ではないのです。それが、展示とどのように係わってくるか、そこにいる人の行動にどのように影響するか、そこまで考えてはじめて設計なのです。そこまで考えているとは思えないのです。
ただひとつだけ気に入ったところがあります。それは、地下へ行く階段です。踏面にカーペットが貼り込まれ、蹴込み部分が御影石で、その上部に溝が彫り込まれてノンスリップになっています。とても足触りがよく、上り下りしやすいのです。ところが、一緒に階段を上がっていた妻が、「ここでこけたらお陀仏だね」と言うのです。その時、ハッと気が付きました。面取りがしてありますが、階段の先端がけっこう尖っているのです。転んでそこに頭でもぶつけたら大怪我しそうです。気が付きませんでした。プロとして恥ずかしい。


肝心の展示は、朝鮮陶磁器の展示でした。高麗青磁のフォルムがとても美しかったです。