「好き」で満たそう


あーちゃんはなにが好き?

あんぱんまん しゅき

ほかにはなにが好き?

まま しゅき

パパは?

ぱぱ しゅき

ばあちゃんは?

ばあちゃん しゅき

じいちゃんは?

じいちゃん しゅき

ほかにはなにが好き?

にゃんにゃん しゅき

わんわん しゅき

けろけろ しゅき

ぴょんぴょん しゅき

じょうさん しゅき

きっりん しゅき


くっく しゅき。

りんりん しゅき

ぶーぶー しゅき

ぶーぶーばいばーい しゅる

ブーブーにバイバイするの?

うん しゅる。ばいばーいって

ぴーぽーぴーぽー ばいばいしゅる


ほかにはなにが好き?

じぇりー しゅき

じゅーしゅ しゅき

にゅーにゅー しゅき

ちゅーちゅー しゅき

チューチュー?

ちゅーちゅーじゅーしゅ しゅっきー

あいしゅ しゅき。

そっか、アイス好きだねー

うん だいしゅきー



「好き」で満たそう
「嫌い」で満たすのではなく


いっぱいの「好き」
いっぱいの「しゅき」


しゅき
しゅき
しゅき
しゅき
だーいしゅき

ひがしのそらのおりおんざ

ものすごくくらいきもちになりそうになって
ぼくは
めをつぶった

よあけまえにみた
ひがしのそらのおりおんざを
おもいだして
ぼくは
なみだをこらえた。


うちゅうのなかにゆめをみて
ぼくは
しずかにたたずんでいたい。


ほほえみながらきえていく
ほしたちに
ぼくも
ほほえみかえした。


だいじょうぶだいじょうぶ
またあえるよね。

孤独吸収石


ネット通販のサイトを見ていたわたしは、孤独吸収石の文字に釘付けになった。
パワーストーンの類だろうか。
特に石の名前は明記されていなかった。


記事によるとその石は黒く手のひらに乗るくらいの大きさらしい。
どうやら人が抱える孤独を石が吸収して楽にしてくれるらしい。


うさんくさいなぁと思ったものの、2年近くつきあっていた彼と別れたばかりのわたしはとにかく淋しくて、この石の通販サイトに釘付けになった。隅から隅まで読んだ。


もういいかげん別れた彼のことを考えるのはやめようと思うけれど、どうしても考えてしまう。
あのとき、わたしが言ったこと、それがきっかけで、急速に彼は離れていったんじゃないだろうか。
たぶん、あのひと言だ。
わたしのあのひと言で彼は冷めてしまったのだと思う。
薄々わかっていたけれど、もうどうしようもなかった。


彼の心はわたしから完全に離れている。
彼にはすでに好きなひとがいる。
わたしは、まだ彼をあきらめきれないままだ。
やり直せるものならやり直したいとすら思っている。


「時間を置くことだよ」
仲のよい友達はアドバイスしてくれた。
「彼に新しい彼女ができたわけじゃないんだし、今は彼がしたいようにさせておけば? もしかしたら、そのうち飽きてヨリを戻せるかもしれないよ」
それならいいけれど・・・。


わたしは毎日の寂しさ、孤独をとにかくどうにかしたかった。
淋しくて押しつぶされそうだった。
ネット通販で見つけた孤独吸収石はまさしく今のわたしにぴったりだと思った。


わたしは、孤独吸収石を注文した。
石はすぐに送られてきた。
お風呂用の石けんくらいの大きさだった。
黒い石はずっしりと重くつややかな光沢を放っていた。
厚手の黒のビロード素材の巾着付きだった。


わたしは、この石を両手で包み、胸の上において眠った。


もう元彼のことは考えたくない。ゆっくりと休みたい。
もうくよくよ悩むのは嫌だ。
お願いだから解放してほしい。
自由になりたい。
もう泣かずに前を歩いていきたい。


驚いた。


胸においた石がほんわかと温かくなって、ふわふわと気持ちよくなった。
幸福感というのだろうか。
石から聞こえない言葉が伝わってくる。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫だよ。
石が慰めてくれている気がした。


その日以来、わたしはいつもこの石を持って歩くようにした。
石けんくらいの大きさなので、十分持ち歩ける。
石の重さがわたしの感情を安定させてくれるみたいだった。


夜は石を両手であたためるようにして眠った。
石といっしょに眠るとよく眠れた。
元彼のことも思い出さなかった。
いや、まったく思い出さなかったわけではないけれど、彼は彼で元気にやっているんだろうな、と漠然と思うだけだった。


一ヶ月ほど経って石が大きくなっていることに気がついた。
付属の巾着袋がぱんぱんで、すぐには出せないくらいに膨らんでいた。


膨らんでいる?
石なのに、まさか。


石の重さは変わらないが、体積はかなり増えているようだった。
ほんのりと温かく――それは袋の素材のせいではなく、石そのものが体温を持っているかのようだった。


孤独吸収石


もしかしてわたしの孤独を吸収して大きくなったんだろうか。


ある日、寝坊したわたしはベッドにこの石を置いたまま出勤してしまった。
帰ってきたわたしは驚いた。


ベッドに黒い子猫が眠っていた。


すぐに黒い石が猫になったのだとわかった。


どういう仕掛けかそれはわからない。
わからないけれど、石は猫になっていた。
その証拠に石はどこを探しても見当たらない。


みゃーと子猫はないた。


本物の子猫だ。
生きている猫だ。

おなかがすいているのかなきやまない。
ミルクを買ってこなくては。
キャットフードは、子猫用というのがあるんだろうか。


猫は普通に食べるし、おしっこもうんちもした。
わたしは毎日子猫の世話におわれた。


子猫の話を友達にするとすぐにうちに見に来た。
友達の友達も子猫を見にやってきた。
子猫を囲んでたくさんおしゃべりした。
わたしは笑っていた。
久しぶりに笑っている自分がそこにいた。