観た!

観客。

紅茶のにおい


夏の原っぱは、紅茶のにおいがした。
大方は猫じゃらしのしげった小さな原っぱ。小さな公園の横の、公園になりきらなかった場所だ。幼かったから、ほとんど腰まで埋まりながら、晴れた真夏の昼に遊んでいた。


「紅茶のにおいがする」
と言ったのに、いっしょにいた大人からも子供からも同意を得られなかった。草のにおいと訂正され、知恵遅れ気味なのに教養はある母からは「くさいきれ」とか言われたと思う。


祖母は茶箪笥に紅茶の缶を入れていた。煎茶を買ってきて茶筒に入れるように、祖母は紅茶を買ってはその缶に移して使っていた。どこのメーカーだったろうか、よくある立方体の缶だった。ちがっていたのは。上部にふつうの四角いフタがあって、その中に密閉性の高いフタがあるわけだが、それがスプーンの形をしていた。スプーンの掬う部分がふたになっていて、それをはずしてフタを開け、そのフタ=スプーンで内部の葉を掬うつくりだった。今思えば、開口部とスプーンが同じ大きさなわけで、決して使いやすくは無かったと思うが、子供のころはもちろん好きだった。孫が好きだから祖母はその缶を使い続けていたのかもしれないが、忘れた。


その、フタを開けたときのにおいがしたのだ、夏の原っぱは。
今でも自分はタダシイと思う。