「10年後の自分へのメッセージ」

「まあ呑もうではありませんか。さあ奥の方へどうぞ。いえ、あなたが年輩者ですから当然ですよ。
アルコールは抜きですみません。おや、そちらも? では烏龍茶二つで。
何分、無知なものでこのような居酒屋チェーン店しか知らなかったんですよ。…ああここで呑み交わすことはもう分かってらっしゃったのですか。確かにそうですね、10年前に経験してらっしゃるんですから。
やんわりと今の生活を少し教えましょうか。知っているんでしょうが私のことですからお忘れでしょうし、お話します。おっとその前に乾杯しようではありませんか。


今の私は実家で暮らしております。冬の天候は不安定で、空気が重く感じられます。先日、暴風雨で非常に難儀したんですよ。
仕事に関してはおとなしく流されて生きております。とりあえず3年間をやりおおすことを目標にしております。
最近のニュースでは11代目の市川海老蔵がぶん殴られたことばかり取り沙汰されてます。憶測が飛び交い、真実は不明で、、いえ、こんなことを知らせても仕方ありませんね。
勉学ですか?勉強なんかしていませんね。困りました。やはりただ流されて生きているんです。
そちらでは再来年、カタールでW杯が開催されるそうですね。サッカーはお得意では…やはりないようですね」。


本気で話はできそうにないと初めから思っていた。未来を知ろう知ろうと思えば自分自身の人生へ少なからず歪な影響が出てしまうと思ったからだ。家族がどうの、お金持ちかそうではないか、という質問も当然しなかった。
何かに意味づけて10年後の自分を眺めるなんてことは自分にはできそうにない。第一、知るのに必要な期間はたった10年なのだから。
最後にこう言って茶化した。
「ところで今何歳なのですか?」



10年後の自分へのメッセージという題は自分には難しかった。あまり未来を意識せず生きていることもあるし、簡単なメッセージですら向こうにとって圧力に感じるかもしれないと思うと中々思い浮かばないものだ。故に10年後の自分と二人で忘年会をしたという設定で書かせてもらった。