MOTコレクションの岡崎乾二郎

東京都現代美術館の常設展にて特集展示されている岡崎乾二郎展(参考リンク)がすごい。導入部には初期代表作「あかさかみつけ」シリーズ、メインフロアでは大作が三組、2002年、2005年、2008年のものを時系列順に配し、その周囲では近年の小作シリーズ「ゼロサムネイル」が並ぶ。やはりひとまずは大作絵画に瞠目させられるわけだけど、そのなかでも複数の作品同士の目に見える対応関係が弱くなって、マニエリスムに近づいているように見える近年のものが興味深い。
http://kenjirookazaki.com/#/jp/1/10/


マニエリスムというと誤解を招くかもしれないけれど、その印象は、今回意外なほどフィーチャーされた「ゼロサムネイル」シリーズから流れ込む形で与えられていると言えるかもしれない。ゼロ号あるいはサムホールサイズのキャンバスに、放逸なストロークで絵具を盛り上げられた約60点もの小作品群が、両側の壁面に軽やかにリズムをきざむように配されて楽しい。こういう良い意味でマニエラ(手技)の豊かなヴァリエーションの延長線上にありながら、しかし大画面を与えられた三幅対には、そういったマニエリスティックな充実が、単体のキャンバスレベルで実現されているように見える。黄金比によるキャンバス配置など、トリプティックならではの魅力もあるけれど、特に左側の画面の、見る者を圧するまでの強さを持った寒色系の扱いはこれまでにみられなかったでのはないか。


この近年の地点から時代を巻き戻してみれば、トリプティックの向かいには、柔らかく閉じたブロック状の筆致のディプティックが美しく、あるいはより初期の、色彩や形態、マチエールといった諸要素が一対の作品間で対位法のようなネットワークをつくりだす2002年の作品にもクラクラさせされる。つまり2002年の段階で目も眩むような構造的な対応関係が頂点に達し、次の段階で柔らかな筆致が内側に巻き込むようにして色彩が個別の単位性を強め、さらに近作に至っては、こうして個別の単位性を強めていた色面が鋭いエッジを持ちながらねじれ、多方向に開かれていく。色彩も同様に、これまでの岡崎作品にみられるような諸力の均衡状態とは異なる、突き抜けるような彩度の高さを持つことで、作品の裏側にあって絵画の諸パラメータを結びつけていた構造の編目を内破するかのようにも見える。


不可視の構造に対する表面的マニエラの勝利?──ふつうに想定されるこれまでの岡崎絵画の理解でいえば、色彩、筆致、マチエールといった絵画の諸要素が複数の画面の間で響きあい、それら諸力の均衡した場を生み出す知的で構造的な面が強調されていたように思う。しかし、とくに「ゼロサムネイル」の流れと共に近年の作品を見るならば、これまでの解釈では理解の及ばない段階にまで足を踏み入れつつあるのではないかと考えたくなります。ひとまずここではそれを、表層におけるマニエラの徹底操作をつうじた下部構造の錯乱、とメモ書きしておくこととして、第二期(2010年1月26日-)にも期待したいと思います。


企画展示のレベッカホルンラグジュアリー展はどちらも充実。半日くらいかけてゆっくり過ごすのは悪くないと思います。疲れたら二階のベトナムカフェも。