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読書80年:名和小太郎

2013-03-13

【268冊目】 川崎一朗・島村英紀・浅田敏 『サイレント・アースクェイク:地球内部からのメッセージ』 東京大学出版会 (1993年)

私たちは「地震」という言葉をマグニチュード8の大地震といった文脈で聞くことが多い。とかく地震には「激しい」とか「破壊」とかいうイメージがまつわりつく。ところが、この本の表題は「サイレント・アースクェイク」つまり「静かな地震」だ。意表をつかれる。
 戦後、疲弊した日本で著者は地震の研究をはじめる。その狙いはまさに逆転の発想で、小さい地震というものはどんなレベルのものまであるのかということだった。このために著者は、使い古しの電子回路を集めたりしながら超高感度の地震計を開発する。
 小さい地震ならば頻繁に発生するはずだ。そうすればデータもたくさん集まり、地震の発生機構の研究にも役立つというのが当初の思惑だった。当時、断層地震の原因なのか結果なのかということで論争があり、その決着をつけたかったということも動機になった。
 努力の結果、世界で最初の微小地震の観測に成功し、その後、世界の研究者たちが発表するマイクロアースクェイクに関する論文には、かならず著者の業績が引用されるまでになる。
 これがきっかけで、著者の研究はいろいろな隣接分野にはみだしていく。まず、断層論争の解決。ついで、大地震エネルギーについて、理論値(海洋底拡大説による)と実験値との辻褄あわせ。
 ここで、ゆっくりした地震(周期5分〜1時間)を観測するテーマにうつる。これがサイレント・アースクェイクだ。これは地球全体が揺れるという壮大な話である。
 つぎは、地球の内部を地震波で覗く話である。医学機器のCTの要領で地球断層撮影をとろうというわけだ。
 こうした実績が評価されて、著者は毎年のように国際的なチームのリーダーシップをとり、地球のカルテ作りをするようになる。
 本書は、このような話題を、じつに簡潔な論理でかつ丁寧に説明している。しかも微小地震計の開発にはじまる物語は、観測技術について、具体的なアイデアの成功不成功の経験を、これまた要領よく紹介してくれる。この点、第一級の科学啓蒙書といってよいだろう。
 およそ科学分野の啓蒙書には定番がある。ビッグバンブラックホール進化論DNAなど。そうしたなかで、この本はテーマが斬新な啓蒙書といってよい。
 装丁こそやや学術書じみてはいるが、技術系のビジネスマンであれば、どの分野の人であれ、また、大学の教科書などすっかり忘れてしまったという人でも、十分に楽しめる。
    
東洋経済』 8月6日号 (1994年)

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