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読書80年:名和小太郎

2018-04-27

【ブラウジング:114】 尾池和夫・他4氏「地震予測と「第4の科学」:データに駆動された新たなアプローチへ」『科学』v88,n5 (2018)

地震予知について、なるほど、と思う指摘がいくつかある対談。
その1:物理モデルから局所的変化を説明することは難しい。
その2:初期条件がわからないと応力蓄積の評価は難しい。
その3:少数の観測例や観測点、あるいは一つの物理量の観測だけで「地震予知」の可否を議論することは難しい。
その4:「起こらない」という情報のほうが大量にある。
その5:ノイズはありえない。すべてがデータである。
その6:(多くの研究者は)データが足りないのではなく、解析をしていない。
 対談の参加者は上記の指摘を、だから地震予知の方法論を「第4の科学」(データ駆動型アプローチ)のなかへ組み込めと論じる。その論はよしとしても、読者の私は、ここに研究費がほしいよ、という機会主義的な訴えを見てしまう。

2018-04-08

【読書80年:533】 桑原武夫『論語』,筑摩書房 (1982)

フランス文学研究者による中国古典の評釈。目配りは、中国、日本の先人の文献のみならず、マクックス・ウェーバーやアナトール・フランスの主張にいたる。
 あらためて、私の学んだことは、孔子がヴェブレン流にいえば「有益な処世術」の大家であったこと、これが紀元前6世紀に出現していること、にある。
 この本の刊行時点、私は近所の中学生を数人集め、早朝、週1回、論語素読をしたことがあった。半年ほど続いたかな。

2018-01-28

【ブラウジング:97】 『図書』:特集『広辞苑』第X版

手元に第六版(2007年、705号)と第七版(2017年、828号)とがある。それぞれの巻頭の文章を比較してみた。
 第六版の題名は「辞書を読む楽しみ」。著者はドナルド・キーン(文学研究者)。その趣旨は、辞書は異文化間のコミュニケーションの道具になる、というもの。
 第七版の題名は「知識の限界を知る」。著者は村山斉(物理学者)。その趣旨は、辞書は知識の限界を示す道具となる、というもの。
 これは、著者の専門領域の違いによるものか、発表時点の違いによるものか。

2017-12-25 【読書80年:524】

スティーブン・H・シュナイダー(内藤正明他・監訳)『地球温暖化の時代:気候変化の予測と対策』,ダイヤモンド社 (1990) p.73-89


 1980年代後半、終末論的未来予測の一つとして、地球温暖化に関する説が発表された。問題となった人工物は二酸化炭素であった。この人工物の制御を目指して「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が設立されたのは1988年であった(1)。
未来予測を知った人は、その予測を危機管理のシグナルとして受け取るだろう。地球温暖化問題はその典型的な例となった。問題は、国際社会がIPCCの予測結果をよしとして共有できるか否かにかかっていた。
 ここでは、二酸化炭素による地球環境の汚染が課題になった。地球温暖化は産業革命とともに始まった現象であるが、これに社会が気づくまでに多くの年月がかかり、それを科学的に実証するためにはさらなる年月を費やしてきた。
このような不確実性があるためか、IPCCの『第1次報告』(1991年発行)は、その冒頭において、「科学的知見」として、「我々は以下のことを確信する」と表現するにとどめている。
 IPCCは、地球温暖化論の説得力を高めるために、多角的な視点から、複数のシナリオを設定し、そのうえでシミュレーションを実施している(2)。たとえば、経済優先的か環境保全的か、あるいは、国際化指向か自国優先か、など。
 にもかかわらず、その後の経緯をみると、この課題に対する社会の反応は、とくに国際的な合意は、一進一退している。ここでは気候変動枠組条約締約国会議(Conference of the Parties、COP)をめぐり、多様な試行錯誤が繰り替えされている。
 じつは未来予測には禁忌があることを、地球温暖化問題は示している。ここでは人間活動による二酸化炭素の排出量の削減を論じているにもかかわらず、その第一原因となる人口増の抑制については触れてない。
なぜか。それは私たちの社会の禁忌にかかわるから。すでに地球上に生存しているヒトについて、その長寿命化や出産数の抑制を求めることはできないだろう。ここにローマ・クラブの示した政治的、道徳的決断の意味がある。
話がそれるが、1960年代にガイヤ仮設という世界観が示されていた。それは、地球にはホメオスタス――恒温動物のように定常状態を維持できる能力――という特性がある、という見解であった。主張者は学際的な研究者ジェームズ・ラブロックであった。
この仮説は「ガイヤ」――ギリシャの女神――などという人文的な命名法が理系の研究者には嫌われ、反科学論のひとつとして扱われてしまった。じつは、ガイヤ仮設の予測期間が10億年のオーダーであるのに対して、地球温暖化のそれは100年のオーダーにすぎなかった。

(1)IPCC(霞が関地球温暖化問題研究会・編訳『IPCC地球温暖化研究会』,中央法規 (1991), 218p.
(2) 江守正多『地球温暖化の予測は「正しい」か?』,化学同人 (2008) 238p.

出所:名和小太郎「未来を回顧する」『情報管理』、v.x60, n.5, p.522

2017-12-23

【読書80年:521】 D.プライス(島尾永康訳)『リトルサイエンス・ビッグサイエンス:科学の科学・科学情報』,創元社(1970) 1

20世紀後半、先進国ではあらゆる分野にわたり成長が続いた。未来予測についても、なんの疑義もなく、成長モデルが提案された。
 成長モデルといえば、本誌の読者諸氏は科学史家デレック・デ=ソラ=プライスの『リトルサイエンス・ビッグサイエンス』を思い出すだろう。原著の刊行は1963年である。ここで著者は科学にかかわるさまざまな指標を時系列に示している。それらはいずれも増大の傾向をもっており、その傾向をかれは「倍増期間」という指標で整理している。その一部を引用しておこう。

100年:英国人名事典の項目
50年:労働力、大学数
20年:化学元素の数、器具の精度
15年:学士号、科学雑誌
10年:小惑星の数、米国の電話数
 5年:海外通話数、鉄の透磁率
 
 多くの指標は縦軸に半対数目盛を振って図表化すると、時間とともに直線的に右肩上がりとなる。この環境のなかで、プライスは研究者数とその成果である論文数の増大傾向に注意をうながしている。
研究者数の場合、倍増期間は15年、3世代が同時に現役として働いているだろう。いっぽう、人口の倍増期間は労働力のそれで示すことができるだろう。とすれば、つぎのような未来が出現するはずだ。

男、女、イヌ1匹について、科学者2人となる日が近い。

そういえば、医学研究者のデイビッド・デュラックは「医学情報の重さ」という論文を発表している(注)。かれは言う。医学分野の索引誌『インデクッス・メディカス』(1879年創刊)は1940年には年間2キログラムであったが、これが1970年代には30キログラムとなっている。共著論文が増え、紙は薄くなり、活字は小さくなり、余白は狭くなっているにもかかわらず。

(注)David T. Durack & M.B. Phil ‘The weight of medical knowledge, “The New England Journal of Medicine”, v.298, pp.773-775 (1978)


出所:名和小太郎「未来を回顧する」『情報管理』、v.x60, n.5, p.522