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読書80年:名和小太郎

2012-09-06

【126冊目】 小杉肇 『統計学史』 恒星社厚生閣 (1984年)

   
統計の本はうんざりするほどあって、勉強にはことかかない。だが、そのごまんとある本が、これまた全部といってよいほど計算法の本である。しかし、たまには統計にもうすこし踏みこんでみたいとおもう人もあるだろう。
 おなじく統計といっても、経済予測あり、意識調査あり、品質管理あり、実験計画法がある。こうしたものを、一視同仁にみてしまう統計の正体とはなにか
 こんな疑問に一通り応えてくれ、しかもアマチュアにもなじめるような、そうした本が欲しいとなれば、やはり統計歴史書ということになる。
 話はビラミッドの建設にはじまる。このときから近代にいたるまで、統計は統治のために作成され、それは国家秘密として秘匿されていた。
 まず18世紀のドイツ。大学の研究者統計を「Statistik」と名づけたが、それはこの意味であった。だが、この世紀のなかばになると、統計はしだいに公表されるようになる。
 いっぽう、17世紀英国には政治算術が出現する。こちらは実業家が社会の富の数量的観察をはかるためのものとして発達した。その延長上に生命保険年金が誕生する。これがやがてマルサス人口論につづく。
 フランスではどうであったか。17世紀パスカルにはじまる確率論は、フェルマー、ベルヌーイ一家、ベイズ、ポアッソン、ラプラスとつづく絢爛たる数学者によって洗練の一途をたどる。ここでケトレーが出現し、それまでの成果を集大成する。
 20世紀になると、統計は多様化の時代へとはいる。数理統計学優生学という回り道もあった)、社会統計学、さらに品質管理、あるいはオペレーションズ・リサーチへと、さまざまな展開をしめす。
 この本は、オリエントにはじまる官庁統計から、現代の推測統計学にいたる流れを、エピソードをまじえながら、ゆうゆうと紹介した大冊である。数理から社会思想まで、まんべんなく扱っている。ナポレオンも、メンデルも、森鴎外も登場する。
 だからこの本は、統計無味乾燥さにうんざりしている人にとって、楽しい読物となるだろう。

拙著『科学の読み方 技術の読み方 情報の読み方』(KDDクリエイティブ 1991年)より