石黒耀『死都日本』@窪屋

あらすじ
 西暦二〇XX年、有史以来初めての、しかし地球誕生以降、行くたびも繰り返されてきた“破局噴火”が日本に襲いかかる。噴火は霧島火山帯で始まり、南九州は破滅、さらに噴煙は国境を越え北半球を覆う。日本は死の都となってしまうのか?
(本誌裏表紙より)

感想・書評
 この作品は主に二人の主人公目線で描かれています。一つは噴火の被害から逃げる黒木目線です。こちらは黒木と岩切の二人が火砕流やラハールなどの被害から逃げ延びる様子が描かれています。噴火の被害にあった地域がどのような状態なのかがとてもリアルに表現されており、経験したことのない自分でもその状況を思い浮かべることが出来るほどでした。

 もう一方は災害対策や外交で日本を生き残らせるために奮闘する菅原目線です。こちらは噴火の被害から一人でも多くの人を助けるために、価値を失いかけていた日本を生き残らせるために、政府はどんなことをしたのかが描かれています。外国との駆け引きや災害対策などを行う政府内の焦りや葛藤が上手く表されていると思いました。

 この作品の特徴はサイエンスフィクションでありながら、実際に起こったことのように思えるほど現実味を帯びていることだと私は考えます。それは細かなところまでしっかりと検証されているからです。特に火山噴火については細かい部分まで表現されていて、一見すると物理学や地学の参考書かと思えるほど細かく書かれています。そうと思えば別のところでは古事記の内容が出てくるなど、様々な分野の学問の視点から描かれているのがこの作品の現実さを表しているのだと思います。こう言いますと難しい本のように思えますが、ひとたび読み進めるとそれらの堅苦しさを感じることなく読める作品です。600ページという分厚さに見合っただけの内容が詰まったものなので、もし時間があるならば、ぜひとも読んでみてください。

 余談ですが、この死都日本は『カグツチ』という漫画の原作になっています。600ページも小説読めないよ、という人はこちらを読んでみてください。内容は少々違いますが、作品の世界観は伝わると思います。