
ただ今、予約受付中の『348人の女工さんに仕事の話を聞きました』の内容紹介です。
文具としてダンボールの板を販売します。
印刷されている URL からおまけの電子書籍をダウンロードすることが出来ます。
今日はおまけの電子書籍の紹介します。
計画の概要はこちら。
大正10年くらいに、栃木と福井の警察が、女工さんへインタビューを実施しました。
なんでそんなことをしたのかと説明しますと、労働争議の抑止のためです。
労働者の要望を聞き取り、意見をまとめたものを各工場へ通達、事前に労働環境を改善することによって、労働争議を阻止しようという目的で、アンケートが行なわれたというわけです。
調査の対象となったのは、12歳から48歳までの女工さんたち、質問の内容は下記の通り。
これはより良い労働環境を作るための調査ですから、あなたの正直な意見を書いてください。
で、こういうアンケートって、普通は遠慮して模範回答をしちゃったりしがちです。今も会議なんかで、毒にも薬にもならないクダらない発言ばかりする人ってのは大量にいる。こんなことを発言したら怒られるかもっていう恐怖が、自由な発言を阻害するわけです。
しかし当時の女工さんからしてみると、工場を経営しているオッサンよりも警察の人のほうが偉かった。当時は上司のことを役人と呼ぶ人がいたりしたくらいですから、今とは感覚がかなり違います。
とにかく彼女たちには、私らが悪口を書いても、工場は県警には逆らえないだろうという妙な安心感があったと思ってください。
加えてアンケートが匿名で実施されたという好条件が揃い、結果的に本当に忌憚の意見が続出してしまいました。
その意見を集めて編集したのが、この本です。
早速ですが、女工さんたちの意見を、ほんの少しだけ紹介しましょう。
織物業女工 二十七歳
皆勤賞は一日くらい休んだとて欲しい。
一日休んだばかりにあたらないと、次は少々の事に休みたくなります。
これは一日休んで皆勤賞じゃなくなるとやる気なくなるから、一日休んでも皆勤賞にしろという意見です。
確かに遅刻しまくっても皆勤賞もらえたほうが嬉しい。
だけど、皆勤賞の存在意義を根本から覆す意見ですし、労働争議とか全然関係ない。
もちろんこういうワガママな意見ばかりではなくて、前向きな発言もたくさんあります。
織物業女工 二十六歳
工場づとめをしているうちは、大きい人は、ちいさいこどものおせわをするようにしなければなりません。
もっとも過ぎて、なんの反論も出来ない意見に僕は感動してしまうわけですけど、こういうのもある。
撚糸業女工 二十一歳
三年も四年もたっても、たんすのあたらないのが一番にくるしい。
これちょっと意味が分らないと思うんですけど、当時は半年に一度、女工さんへ反物がプレゼントされていました。
で、三年皆勤したり、すごく仕事が出来る女工さんには、その反物を入れるタンスまで進呈されていたのです。
それじゃなんでこの人がタンスを貰えなかったかというと、仕事をサボってたからです。人がタンスもらってるのを見ていて、この人は御意見無用でタンスが欲しくなっちゃったというわけです。
気持は分りますが、無茶苦茶な意見です。
で、この本はこういうアンケートを編集してまとめたものです。
この本のなにが良いかというと、単純に女工さんの書いてることが面白いです。
大昔に働いてた人が、偶然にも自分の意見をそのまま書き残せる機会が来て、そのまま書き残してる。
一般の人が書き残した文字情報というのは、多少の遠慮や無意識の選別があったりするわけだけど、この文章はそういう要素がとても少ない。
わりと今のインターネットにある文章に近いんですが、彼女たちは文章を書くことで自分たちの生活がより良くなると本気で信じている。希望があるわけです。
だからメチャクチャ面白く、僕なんかはこれを発見した当日に、全部読んでしまったくらいです。
僕が既読の本で面白さが似てるのを強いて挙げると、ターケルっていう人のインタビュー本でしょうか。
他には宮本常一さんのこれかな?
その他にも村祭りの本やらヤクザの本で似たのがあった気がしますが、それらと決定的に違うのが、上で紹介した本は目的に従って作られて成功しているけど、これは目的と裏腹に雑談集になってしまったということです。
完全に事務的な仕事ですから、編集する人間の個性や主張はゼロ、女工さんの意見そのまま掲載しちゃってる。
その結果、なんとも表現し難い文章の羅列が完成したというわけです。
女工さんには、愚痴っぽい人もいれば、本当に悲惨な感じの環境で働いてる人もいるんですけど、僕が好きなのは、自分たちの生活はガンガン良くなると信じていて、働いたら働いただけ成果が返ってきて当然だと考えている人たちです。
織物業女工 三十九歳
でんきの来ている間は、仕事をして金を稼ぎたいと思います。
七時にしまうのがいや。
紡績業女工 二十一歳
私が毎日工場で働いている目的は、どうかして会社のため、また自分のために一心不乱に働き、もうけたお金は貯蓄いたして末には教育を受け、どうかして一人前の立派な人間となりたいと思って、それを一つの楽しみとして働いております。
紡績業女工 十九歳
一ヶ月中一日も休まず、給料のたくさんあたる時の来るのを待っているのが、一ばん嬉しゅうございます。
今は働いても良い将来が期待出来ないみたいな雰囲気が蔓延していますから、こういう単純な意見が、余計にすがすがしく感じてしまいますね。
これで『348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました 前編』はおしまいです。
後編は明後日くらいに公開します。