記者は見た!(のか?)4

ロマンスメイツの森翔太は、生まれながらにして話題を呼ぶ男だった。
その年に鳥取県内で生まれた赤ちゃんの中で、一番重い体重だったため、
生後一ヶ月にして鳥取新聞にその名が刻まれることになったのである。

産後一週間で歩いてみせた森は、親戚関係者一同から(何かしらの)神童と呼ばれていた。
キリスト系の幼稚園だったが、なかなか教派になじめず、毎日キリスト系の他園児たちと争いをする。
ポケットにいれた石と(相手の口と鼻をふさぐようの)粘土を駆使して重傷を負わせ、PTA問題に発展する。

小学校に上がっても争いの日々は続く。
配下においた部下を使って、人間将棋(人を将棋の駒にする)という遊びを発案して日々楽しむ。
放課後は女子と野球拳を楽しんでいたため、ここでもまたPTA問題に発展することとなる。

中学に上がる頃には、争いの日々にも飽き、真面目に生きようと決心。
芸能人に憧れジャニーズに応募するも落選し、さらには同級生の女性が自分の陰口を叩いている現場に遭遇してしまう。

この時期を境に、彼の人生は転落の一途を辿っていく。

彼が入学したのは、県内でも有数の両道の進学校だったが、
森少年は「文武両道」を掲げる校風にそむき、部活もせず、授業が終わるとすぐに帰宅する日々を送る。

彼が夢中になっていたのは、映画の世界だった。

シュワルツネガー、デニーロ、タランティーノ
ミュータントタートルズバットマンスパイダーマン……。
スクリーンの世界や、一連の不良漫画に強く影響を受けた森少年は、
ナイフ、ハサミ、十手、まきびし、ブーメラン、スライム、着火マンなど、様々な道具を常時携帯していた。

彼と同じクラスだったという男によれば、「森君が会話しているところを見たことがない」という。
「森君がいつも変な道具を持ち歩いているということは、クラスの皆が知っていました。
キレると何をされるかわからないし、誰も森君に話しかけることはなかったですね。
休憩時間になるといつも音楽を聴いてたみたいです。よくB'zを聴いていましたね」

そう、森少年が唯一興味があったのは音楽であった。
彼は鳥取を離れ、静岡県の芸術系の大学に進んだものの、
入学後すぐにひきこもり、自宅で段ボール工作に明け暮れる日々を過ごす。
卒業後、奇跡的に(主に段ボールを扱う)総合商社に就職が決まるも、一年と続かず退職してしまう。

あてもなく上京した森翔太は、スーパーでアルバイトを始めた。
友達もできず、都会の喧噪の中で精神的にまいってしまった彼は、
公民館でひらかれていた無料悩み相談に出かける。
そこで知り合ったのが、同じく相談にきていた八木光太郎だった。

プロレス好きな八木光太郎と話しているうちに、森は幼少期期に送っていた争いの日々を思い出す。
レスラーを募集していた「悪魔のしるし」という団体の道場を見学に訪れたのは、26歳の春のこと。
興味本位の軽い気持ちで見学に訪れた森だったが、そのまま強制的に入門させられ、すぐにプロレスデビューを果たす。

素人丸出し&基本的に反則しか使わないスタイルを続けていた森は、そこそこ人気を博す。
調子に乗った森は、プロレス界では有名な団体「青年団プロ」のレスラー募集に応募する。
余裕で受かるだろうと思っていた森だったが、書類審査であえなく落選。
根が僻みっぽくできている森は、「青年団プロ」を、ひいてはこの業界で活躍する連中全般に恨みを抱き始める。

いつも専門誌や業界人からチヤホヤされている人間たちに、復讐するチャンスはないかーー。
森が目をつけたイベントが、この「コツブ桃山城の女子プロ王座決定戦」だった。

青年団プロ」に所属するレスラーである島田桃依や木引優子、
近年人気を博している「マームとジプシープロ」のリングに上がっている伊野香織、召田実子、高山玲子が参加するこのイベントは、
森にとって格好の標的だった。
思春期以来こじらせている女性に対する怨みもここで晴らしてやろうと目論んでいるようだ。

しかし、ここに一つの疑問が生じる。
「女子プロ王座決定戦」に、男が参加できるのだろうか?

他の出場者たちにこの疑問をぶつけてみたが、
「私に聴かれてもよくわかりません」
「どうでもいいです」
「森って誰ですか?」と、有力な答えは得られなかった。

森翔太本人に直撃取材をしようにも、
唯一の連絡手段であったアメーバピグもログインしていないようで、コメントを得られない。


(かつての取材風景。一ヶ月前までは、コンタクトが取れたのだが……。)

調布の森(アメーバピグでの森の呼び名)は一体どこに行ってしまったのだろう?
途方に暮れながら、「調布の森」というキーワードで検索をしてみると、一件のサイトがヒットした。

http://soundcloud.com/morishowta

このアイコンはまぎれもなく調布の森、いや森翔太のものだ。
再生ボタンを押すと流れる歌声も、殻に閉じこもったポエムも、森翔太そのものと言ってよい。
はたして森は、ネットの世界を抜け出し、会場に現れることができるのだろうか……?