『動物たちの反乱 増えすぎるシカ、人里へ出るクマ』

この本は、河合雅雄林良博、室山泰之、坂田宏志、横山真弓、森光由樹、藤木大介、鈴木克哉といった、兵庫県森林動物研究センターの8名の研究員が、それぞれ分担執筆したものを、『動物たちの反乱』という題名のもとに、河合、林の2名が編集した本である。

まず、この本の編著者についてまとめてみる。河合雅雄は、1924年兵庫県生まれ。京都大学理学部卒、現在、京都大学名誉教授、兵庫県人と自然の博物館名誉館長、兵庫県丹波の森名誉公苑長、兵庫県立森林動物研究センター名誉所長を務める。専門は、生態学、人類学。サルからヒトへの進化の問題を研究している。林良博は、1946年広島県生まれ。1969年東京大学農学部卒業後、同大学助教授、ハーバード大学客員研究員、コーネル大学客員助教授などを経て、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科教授、兵庫県立森林動物センター所長を務める。専門分野は動物自然科学、ヒトと動物の関係学など。室山泰之は、現在兵庫県立大学自然・環境科学研究所教授、兵庫県森林動物研究センター研究部長を務める。専門は被害管理学、動物行動学。坂田宏志は、現在兵庫県立大学自然・環境科学研究所准教授、兵庫県立森林動物研究センター主任研究員を務める。専門は生態学。主に生物同士の関係や数の増減を研究。横山真弓は、現在兵庫県立大学自然・環境科学研究所准教授、兵庫県立森林動物研究センター主任研究員を務める。専門は野生動物管理学、栄養生態学。森光由樹は、兵庫県立大学自然・環境科学研究所講師、兵庫県立森林動物研究センター研究員を務める。獣医師であり、獣医師の立場から野生動物の健康状態を診断し保全や管理に必要な研究を実施している。藤木大介は、現在兵庫県立大学自然・環境科学研究所講師、兵庫県立森林動物研究センター研究員。専門は森林生態学、野生動物保護管理学。森林と野生動物の相互作用の視点から、森林管理の在り方について研究している。鈴木克哉は現在兵庫県立大学自然・環境科学研究所助教授、兵庫県立森林動物研究センター主任研究員を務める。専門は保全社会学。野生動物と共生できる地域づくりを目指し、科学的アプローチを交えた実践的・領域横断的な研究を行っている。(本文より)
この本において、河合は「野生動物の反乱」「里山とは何か」、林は「倫理面からみたワイルドライフ・マネジメント」、室山は「ワイルドライフ・マネジメント」「ニホンザルの被害はなぜ起こるのか」、坂田は「イノシシ―人の餌付けが悲劇を生む」「外来生物 アライグマとヌートリア」、横山は「シカと向き合う」「ツキノワグマ―絶滅の危機からの脱却」、森光は「野生動物管理と獣医学」、藤木は「森林から野生動物との共存を考える」、鈴木は「獣害と地域住民の被害認識」といった内容を執筆している。(目次より)

 次に、この本が出版された経緯についてあるが、編著者である河合の故郷の兵庫県篠山は、小さな田舎町で、かつてはたくさんの野生動物が見られたという。そんな町の中で自然の移り変わりを体験してきた河合が、現在の日本における、里山の崩壊を発端とした野生動物による被害の深刻化や、「人と動物の共存」に関して、実際に被害を受けている農村部の人だけでなく、関心の薄い都会の多くの人に知ってもらおうと、この本を出版するにいたった。
兵庫県立森林動物研究センターでは、河合をはじめとした研究員6名、専門員5名が中心になり活動しているが、その活動体験の中で河合が感じたのは、実被害ばかりが取り上げられ、なぜこうなったのか、現状にいかに対処すべきか、また、将来どうあるべきかについて、ほとんどの人がなにもわかっていないことだったという。実際、野生動物による被害などは、ニュースなどで実被害が取り上げられるだけで、関わりのない人々にとっては、あまり問題意識を持たなければならないものとは考えられにくい。この本は、私たち日本人がどのように野生動物たちに影響を与え、その生態を変えていったかについて、現状を知らせるだけでなく、深く考えさせる本である。(一部本文より)
 
それぞれの研究員が、それぞれ違った視点から、野生動物の被害、その原因、今後どのように管理に努めていくべきかなどについて専門的、具体的に詳しく書いているが、この本を読んで改めて考えたことは、人間がいかに自分たちの利益のために自然や動物に大きな影響を与えてきたか、また、大きな影響を与えてきたにも関わらず、その管理を怠ってきたかということである。この本を読み、少しでもこのことに対して問題意識を持つ人が増えればと考える。