川本卓史京都活動日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2012-01-27

 オバマ大統領「一般教書演説」と「公正な経済」

| 17:10

いつも長い駄文ですが、今回はさらにいっそう長くなります。

24日のオバマの「2012年般教書(The State of the Union)演説」

アメリカ大統領が年に1回連邦上下両院に対して行う演説)についての感想です。


1. たまたま野田首相の年1回の「施政方針演説」が同日、行われました。

25日には、俳優渡辺謙さんがダボス会議東日本大震災についてスピーチをしたとの報道です。

渡辺さんのスピーチ本日までのところ、ユーチューブなどに収録されていないようで、私は実際に聞いていません。

野田首相オバマ大統領スピーチは以下のように聞くことが出来ます。

http://www.youtube.com/watch?v=wWHr-GGqC4g

http://www.nytimes.com/interactive/2012/01/24/us/politics/state-of-the-union-2012-video-transcript.html?ref=politics


2. ここでは演説の中身をどう評価するというより、私的な感想が中心となります。

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まずは、やはり演説はうまい

いつも通り、草稿に目をやることなく、67分を聞き手に向かって語りかける。

これが「スピーチというものだ」と言われてしまえばそれまでですが。


3. 与党である民主党スピーチに対して、時に起立して拍手するのが通例ですが、今回も67分の中で86回もの「喝采(applause)」がありました。

起立して拍手するのは議員だけではなく、前列に座っている閣僚も、傍聴席も同様です。

ちなみに前列には閣僚のほか、最高裁判事、軍の首脳が招かれて座っています。

野党共和党はもちろん喝采はしませんが、少なくとも静かに聴いているように見えます。時に「ブーイング」ぐらいあるのでしょうが、今年は、それもなかったように見えました。

対して、野田さんの演説には野党の野次がひどかったと新聞報道にあります。

一国の首相の発言ですから、少なくとも黙って・静かに聴く、というのは人間として最低の礼儀ではないでしょうか。

我々庶民が見ていて、子供礼儀も教えられないような政治家というのは困った存在です。

まずは礼を尽くして、論戦はそのあとに始めるべきでしょう。

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4. いちばん面白いと思ったのは、ホワイトハウスが招待したお客が、大統領夫人・副大統領夫人の特別席に並んで一緒に演説を聞くという、いわば「セレモニー」です。

レーガン大統領ときからのやり方だそうですが、今年は20人強。

招待者リストホワイトハウスから発表される。

全てが全国から選ばれた庶民です。

もちろんオバマ大統領PRになるように、再選を狙う戦略に沿って、慎重にゲストの選択がなされたことでしょう。

大票田の州から選ばれることが多いのも無理ないでしょう。

しかし、無名の庶民を幅広く選び、彼らがどういう人たちかについての10行前後の紹介――つまり彼らについての「物語」です――を読んでいるとなかなか興味深いです。

前置きに「それぞれのゲストは、異なった・様々なアメリカンドリームと、雇用について強調するオバマが掲げる『働く倫理観』を体現する人たちである」とあります。


(1) 再生を果たしつつあるジェネラル・モーターのプラント・マネージャーが居ます。


(2)小学校先生が居ます。彼女は州の予算削減によって小学校の存続が危機にさらされたとき子供たちの教育の機会を無くしてはいけないと、無給で教職を続けた、とあります。


(3) 学生が居ます。彼女は苦学して、奨学金を得て大学卒業し、いまアメリカもっと学生就職人気が高いというNPOティーチ・フォー・アメリカ」に入ることが決まっている。貧しい学生の進学機会を広げるための政府施策を応援し、活動している。

(4)アンバー・モリスは12月に「週40ドル(3千円強)の給与にどういう意味がありますか?」というホワイトハウスからアンケート調査を受けた女性です。2008年

大学ロースクール卒業したが、就職できず、NPOで働いていたがつぶれてしまい、いまは故郷に帰って実家に住みウェイトレス仕事をしている。「週40ドルでも働く対価が貰えるのが嬉しい。奨学金借金を返済し、弁護士試験受験勉強費用を貯めるには助かっている」と語る。


ホワイトハウスは、このように、一人ひとりの「物語の力」を大事に伝えようとします。


(5)イノベーションや様々な創意工夫によって企業の活力を生み出している、中堅中小企業経営者もいます。

中に1人日本人のベンチャー企業経営者が選ばれたことは日本新聞でも報道されました。


(6) その他、オバマ政権施策医療保険制度の改革、公的住宅ローンの拡充、職業訓練を充実するための企業大学パートナーシップ・・・等)によって恩恵を受けた、さまざまな人たち。

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(7) 昨年11月に亡くなった、スティーブ・ジョブズ未亡人もいます。

ただ彼女について初めて知ったのは、彼女自身がたいへんなインテリで、かつ、教育の機会を得にくい貧しい若者への支援など様々な社会活動を行い、自らNPO設立し・活動している見事な女性だということです。

新聞報道で知りましたが、ホワイトハウスの発表には、彼女スティーブ・ジョブズの奥さんだという紹介は(それも選らばれた理由であるにせよ)一切ありません。


5. 特別ゲストの中でいちばん面白いのは、著名な投資家世界一お金持ちといわれるウォーレン・バフェット秘書(デビー・ボザネック)がリストに載っていること。

彼女は、バフェット投資会社に37年勤務し、20年近く秘書としてバフェット氏を支えている。


彼女は、昨年オバマが、「バフェットルール」と呼んで、富裕層に対する所得税の課税強化対策を提言したときに話題になりました。

年収が100万ドル(約78百万円)以上の富裕層は少なくとも、実効税率30%の所得税を払おうではないか、という提案です。

(提案は、アメリカ世帯の98%を占める年収25万ドル以下には増税にならないとオバマ約束します)


ちなみに、いま共和党は予備選で大統領選候補者選びで、醜いネガティブ・キャンペーンの真っ最中ですが、有力候補のロムニー氏が過去2年の収入42百万ドル(30億円以上!)に対してわずか13.9%の所得税しか払っていないというのが話題になっています。

昨年、バフェットが収めたのは、17.4%だったとのこと。

そして、秘書のデビーさんが、億万長者のボスバフェットよりも高率の(もちろん実額は桁違いに小さいにせよ)税を払っているということが、この「バフェットルール」提案のときに大いに話題になりました。

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ウォール街を占拠せよ」の大規模なデモもこのような現状に対する庶民の抗議と言えましょう。


このようなことが可能なのは、税の捕捉率や控除のやり方もありますが、そもそも税制が、

給与などの勤労所得が累進によって最高35%まで課されるのに対して、富裕層の主要な収入源泉である投資や非勤労の所得への税率がこれより低率だということがあります。


6. このような現状を踏まえて24日のスピーチオバマは「公正な経済」について訴え、とくに富裕層への高額課税に反対する野党共和党に挑戦しました。

バフェット秘書を招いたのは「いかにも挑発的だ」とニューヨーク・タイムズも言います。

額に汗して働いたお金ではない金融業界と政治家もっと責任を感じるべきだとも強調しました。

普通に働いている人たちが公平なルール負担を共有するような社会経済を目指すべきではないか、とも訴えました。

「私の考えを階級闘争class warfare)だと批判するのなら、それでも構わない。

しかし、億万長者に自分秘書と同じ割合の税金を払えという考えは、階級闘争だろうか?

大方のアメリカ人なら、コモン・センス(良識)と思うのではないだろうか?」


7. いまアメリカは「公平」「格差是正」「所得の再配分」、即ち「平等」という、民主主義原理に立ち返った課題にどう立ち向かうか?が問われています。

それは、もう1つの民主主義原理である「自由」「独立自尊」とどう折り合いをつけていくのか?でもあります。


オバマ富裕層増税策に反対する共和党議員たちは、この日、スピーチを聞きながら、大統領に対して礼を失しないように、注意深く・きわめて大人しかった、とニューヨーク・タイムズは伝えます。

テレビを通して、インターネットを通して、多くのアメリカ人が見・聞いているわけです。

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与野党の対立によって議会機能していない、法案が通らない現状を強く批判して、オバマは彼がもっと尊敬するリンカーン名前をこのスピーチでも取上げましたので最後に紹介します。


「2つの政党が、いつまでもお互いを攻撃しあい原理原則で対立するのではなく、良識に裏付けられたコンセンサスを目指そうではありませんか。

私は民主党員です。しかし、私は共和党員だったリンカーンの次のような信念を信じています。

すなわち政府というのは自分たちではよくは成し遂げられないと思っている、そういう国民の代わりに、彼らのために働くのであって、逆に言えば、それ以上の存在ではないのです。

(喝采)」



8. オバマスピーチを、再選を狙う選挙演説だよ、とシニカルに見る人も居ることでしょう。

しかし彼が、「コモンセンス」という言葉を何度も繰り返していたのが印象に残りました。

アメリカ果たしてコモンセンスを取り戻すことが出来るでしょうか?

さわやかNさわやかN 2012/01/29 10:53 1つめ。公益と共益について:野党にとっては内閣総理大臣というのは与党の党首以上の存在では無いということでしょうか。パブリック、公益ではなく自分達の仲間の共益しか考えないというのは、抽象的に価値を追求するのではなく実利、現実主義の志向が強い歴史に通じるところがあるのではないのでしょうか。2つめ。リーダーについて:リーダー自身の素質ではなく、日本人という社会集団はリーダーを望んでないんじゃないでしょうか。出る釘は打たれるとか、成り上がりを下品と考える嗜好は、自らと同じレベル(と思っていた)人間が自分より良い地位になったりするぐらいだったら、昔からの権威(お上)が維持されていた方を好むというか、精神的に安定する社会だったのではないでしょうか。3つめ。リーダー教育(≒エリート教育)について:パブリックと(以前、川本さんがおっしゃられていたように)リーダー(シップ)という考えがないからリーダー教育(≒エリート教育)が無いのでしょう。エリート教育を、パブリックに献身する態度を育てるものとしてではなく、私的な能力を増大させる(早期教育と同じ)だけが目的のものとして、誤解しているような気がします。さて、今年に入ってからの読書傾向というか、マイブームというか、寄り道が「中国史」でして、封建制VS皇帝の中央集権的官僚制、および世襲、年功序列の平和な時代と下剋上の戦国時代の交代というような視点から今の日本の社会を見ると中々おもしろいです。自らと社会の経済的向上に献身してきた持ち家率7割強の戦後日本社会は、お上から土地を与えられたマイホーム封建制のようなものだったのかな、と思ったりします。