エコノミスト誌論説「Britain’s one- party state」

1. 雨の多い日々は、金木犀の香りがひときわ匂うような気がします。
近くの東大駒場の銀杏並木を歩いて図書館を訪れることが多いですが、銀杏の実が舗道に落ちて、これはもっと強い匂いです。

昨日は家人と調布市神代植物公園へ。人は少なく、秋咲きのバラが少し咲いていました。温室のスイレンも眺めてきました。
蒸し暑いながらも、秋になりました。


2. ところで、資本主義か社会民主主義かについての我善坊さんの長文のコメント有難うございます。ご指摘の通りですね。
そこで、今回も少し真面目にフォローしたいと思います。

(1) まず、「みんなのための資本論」というテレビは見ていませんが、ご紹介の「1929年にはアメリカの所得上位者1%が所得全体の23%を占めてピークに達したのに、その後徐々に低下後、再び上昇に転じ、リーマン・ショックの2008年には23%に戻っている」。
この点は、前回紹介した水野さんも著書で、グラフを引用しています。


ご指摘の通り、きれいな左右対称になっています。
アメリカは「金ぴか時代」や「泥棒男爵(robber baron)」と呼ばれたロックフェラー、モルガンなどの大富豪が活躍した時代にまた戻ってしまいました。

(2) これがピケティさんの主張で有名になった
r(資本利益率)>g(経済成長率)の不等式になる訳ですが、
他方で、岩井克人さんは、ピケティを評価しつつも、問題はむしろ「株主主権」であり、「経営者報酬の高騰こそ、米国での格差拡大の最大の原因だ」と指摘します(8月6日日経経済教室)。
即ち、「米国では、最高経営責任者CEOと平均的労働者の報酬の比率は、1960年代には25倍だったのが、近年では350倍以上になっている」。


3. この点に関して、タイミングよく、英国エコノミスト誌9月17日号が「巨大な影の下で」と題して特集記事を組み、、巨大企業がますます巨大になる現状への懸念を表明しています。

以下は「巨人が問題だ」と題する論説からです。
(1) グローバル経済下で、超巨大企業がますます巨大化している。GEやエクソンのような古くからある会社、アップル、グーグルのようなIT新興企業などなど。
(2) 背景には、世界的に成長が減速し、利益率が低下していることもある。
(注:これは『資本主義の終焉と〜』で著者も指摘しています)

(3) この問題は以下の3つ。
(a)競争が制限されること
(b)不透明な経営手法が取られやすくなること
(c)その結果、健全な民主主義が脅かされること。

(4) (b)を補足すれば、グロ―バルな海外直接投資の約3割がタックス・ヘイブンからなされている。
我々個人にとっては税金の支払いは「逃れられない義務」だが巨大企業にとっては「選択的(オプショナルな)行為」であるように見える
―――と述べて、今後の課題として、
・先般、EUがアップルに税の追徴を命じたような、国際的な組織による巨大企業への対抗
・さらには、グローバル時代にふさわしい、反トラストと競争促進の哲学の構築
の2つを訴えています。


4. 最後になりますが、「競争が大事」ということは政治の世界でも全く同様でしょう。
バランスの取れた対抗勢力の存在が、民主主義には欠かせない。
日本の政治でも、「(野党が新自由主義路線に対抗する基軸にならねばならない」という
我善坊さんご指摘も尤もですね。

と思っていたら、同じ号のエコノミスト誌がもう1つの論説で
「英国の1党独裁状態」と題して論じていて、共感しました。

(1) 内容は、9月17日の労働党の党首選挙で、急進左派路線をとるコービンが再選されたことを懸念するものです。

(2) 彼は、とくに若者に圧倒的な人気があり、この1年で党員を約8万人増やし、清廉潔白で人柄も実に良い。また格差社会への不満を抱く若者の気持ちも十分理解できる。しかしその結果、党は分断され、国民的支持は低下している。

(3) 問題は彼の路線では国政選挙で保守党に勝てないことである。
その結果、保守党の長期政権が予想され、ブレクジットの今後や教育政策・経済政策等に労働党の意見が反映されない危険がある。

まさに民主主義の原点に立った正論だと思いますが、1つ気になったのは論説が
こう述べていることです。
―――「過去13年間、労働党は、最低賃金の引き上げなど弱者の視点に立って実績をあげてきた。
これから長期保守党政権が続くとなると、労働党の悲劇だけではなく、英国全体にとって悪いニュースである。
力強い反対勢力が長期的に存在しないことは、必ずや悪政につながる。
それは、メキシコや日本の経験から明らかである。」―――
メキシコは知りませんが、同国と並んでもう1つの例として日本が名指しされている・・・・・
これは、エコノミスト誌に言われるまでもなく、私たち自身が真剣に考えないといけないのではないでしょうか。