Amazonと言えば、
- リアルの書店ではとても取り扱わないようなマイナーな書籍もインターネットの書店で販売し、テクノロジーの恩恵にあずかりながら書籍のロングテイルにおいて読者と筆者をマッチングしたり、
- 膨大な書籍DBを公開を通して、ウェブ上の無数のサイトに自社のカタログをおき、ロングテイルに合致した販売チャネルを構築したり
と最近再び脚光をあびているインターネット企業。
『ウェブ進化論』でも下記のように紹介されており、
ウェブサービスの公開からわずか一年たらずで、ウェブサービスを利用して作られた無数のサイト経由でアマゾン商品を購入したユーザは、数千万人にのぼった。・・・<中略>自社の生命線たる商品データベースを公開することで、アマゾンはネット小売り業者から、eコマースのプラットフォーム企業へ、テクノロジー企業へと変貌を遂げたのである。これがアマゾンのWeb 2.0化である。
- 作者: 梅田望夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/02/07
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『ウェブ進化論』 〜第三章 P.116、117〜
成功企業の代表格という扱いだ。
In an article I wrote last June for Business Week Online, I modestly proposed that Amazon split itself in two, separating the retailing operation from the technology services operation.
昨年7月のBusiness Week Onlineに書いた記事の中で、私は差し出がましいとは思いつつも、アマゾンは小売業からテクノロジーサービス業を分離し2つに分割することを提言した。
そんなアマゾンに、Nicholas Carrは"Amazon's dilemma"というエントリーでカタログショッピングに近い小売業とテクノロジーサービス業を同じオペレーションでやること自体に無理があり、その内破綻をきたすだろうと指摘している。
Amazonには、本やCD、最近ではホームキッチン用品まで販売する小売業があり、その販売チャネルの構築を商品データベースの公開やアフィリエイトなどのテクノロジーでうまく実現しているというのは知っているが、その他のテクノロジーサービス業はあまりなじみが無い。
そこで、"Amazon Web Service"にはどんなラインナップがあるのか調べてみたところ課金サービスとしては下記のようなものがあるらしい。
サービス名 | サービス内容 | 価格感 |
---|---|---|
Amazon Historical Pricing | アマゾンでの本やDVDの過去3年の売上情報や特定の商品の価格傾向を提供するサービス | 月$500ほど |
Amazon S3 Functionality | 1つあたり1byteから5gigabyteまでのデータのウェブ上でのストレージサービス | 1GBで月$0.15 |
Alexa Web Information Service | 検索エンジンAlexaがWeb上をクロールして収集したデータ提供サービス | 月1万回まで無料 |
その他に"労働市場におけるロングテイル"で紹介した"Amazon Mechanical Turk (Beta)"などもそのラインアップの1つ。上記の価格感はかなりざっくりなので正確に知りたい方は"Amazon Web Services"のページで確認が必要。
上記のサービスを並べて眺めると、"Amazon Web Service"という事業セグメントによってアマゾンは何を目指そうとしているのだろうか?という疑問が浮かんでくる。「eコマースのプラットフォーム企業を目指している!」と片付けようと思ったがいまいちしっくりこない。自社の詳細な売上情報や検索エンジンのデータを提供することとそれが、私の頭の中ではいまいち結びつかない。
で、あれこれ考えるにアマゾンは"Amazon Web Service"を通して、「eコマースのエクセレントカンパニーとして培った自社の技術やノウハウのコアな部分を外販しようとし、それを1つの収益の柱にしようとしている」という仮説が頭に浮かんできた。
eコマースを事業とする企業は多いし、これからも増えるだろうが、現時点でアマゾンほどそれに特化し続け、大きな成功をおさめ、かつ歴史も長い企業はそうはないであろう。
いなげやのような中規模スーパーがイオンのノウハウを欲しいのと同様に、アマゾンのディープなノウハウを欲しいという企業は多いに違いない。
アマゾンにおける製品の詳細な販売情報は貴重なマーケティングデータであるとともに、それを活用したマーケティングのノウハウはアマゾンの強みの1つである。それだけのeコマースの実データとノウハウを持っている会社は皆無に近いだろうからそれだけ希少価値が高いと言える。
また、膨大な製品を抱えるアマゾンのストレージ技術というのは並ではなさそうで、効果的に膨大のデータをウェブ上でやり取りするか技術力とノウハウは相当高いことが想定される。スケーラビリティーを考えると自社であれこれ苦闘するより、あの規模感でやっているアマゾンの実績の十分にあるサービスを利用したほうが経済性も高いように思われる。
インターネットが普及して10年。仮に上記の仮説が正しいとすると、それは全プレイヤーが新興企業で暗中模索でしのぎを削りあうというステージをすぎ、インターネットが産業としてより成熟してきたということも意味すると思う。次に提供するサービスは何か、次にメジャーになるサービスは何か、そんな視点で今後も"Amazon Web Service"に注目していきたい。