苦手な人との人間関係

渡は同じクラスのHちゃんが苦手。というのもHちゃんは、いろいろなことに過敏で、自分のこだわりや、上手くいかないことがあると、叫んでしまいます。ご機嫌がいいと、歌を歌います。
聴覚過敏の渡は、この叫び声と人の歌う声(特にハミング)が嫌いです。
自分は歌が大好きで、人が歌うのが苦手というこのわがままには、障害だからとわかっていても、どうしても許せないものがあった私。担任のA先生は、
「渡、フレキシブルにならないと・・。」
と説得してくれていました。さらに叫ぶAちゃんに対しては、
「うるさくしないでください。」
というような注意方法も教えてくださってました。
けど、Hちゃんは、丁寧に注意する渡の鸚鵡返しのような言葉がおもしろいのか、わざと歌います。
最悪のコンビ・・と、この学校に入学していたときから、思っていました。



日がたつに連れて、渡は毎日
「A先生は毎日、笑顔。Hちゃんは、毎日叫んでる。」
と報告するようになり、頭が痛いなーどうしようかなーという日が続きました。
渡がもし切れて極限まできてしまい、Hちゃんを怒鳴りつけたりしてしまっては、Hちゃんも渡を怖がってしまいます。
A先生にあまりHちゃんを渡に近づけないように言おうかな?と、ここの所、心配もしておりました。
ところが、ここ数日
「A先生は毎日、笑顔。」
の次の言葉が消えている・・。不思議に思っていると今日その原因が判明。



私はIEPメンバーに、
「渡はレディ-ファーストの国で育つ男の子なんだから、人のお手伝いと特にレディファーストは実行するように」と言ってあります。

A先生は、どうもそのことを実行してくれていたみたいで、渡は学校でHちゃんのお手伝いを担当していたようです。なにかにつけて、Hちゃんを助ける渡。いままでは、Hちゃんにとっては、注意ばかりで、口うるさい渡だったのですが、最近いろいろ手伝だってくれる渡に、どうも親愛の情が芽生えてきたそうです。




今日は迎えにゆくとA先生が、お昼ご飯時の話をしてくれました。
Hちゃんの前に座った渡。好きな渡が前に座って、ご機嫌のHちゃんは、相変わらずハミングで歌いだした。
渡はすぐに耳をおおって、下を向いてしまいました。両手を使っているので、ご飯が食べられない。
そこで、A先生は
「渡、嫌だったら、あなたには、いま2つのチョイスがあるわよ。一つは、Hちゃんに静かにしてくれる?って言うこと。もうひとつは、先生に<席を代わっていいですか?>と聞いてから、席をかわること。どっちにする?」
と渡に聞いたそうです。それを聞いたHちゃん。渡がせっかく前に座ったのに、どっかに行くの?と心配になったみたいで、渡が答える前に間髪いれずに、
"I stop it!"
といって、ピタっと歌うのを止めたそうです。
渡は耳を覆うのをやめ、Hちゃんを見て、にこっと笑ったそうです。



すごっ!A先生、さすがだ。上手い!切り離すことしか考えていなかった私。
A先生は、仲良くすることのみを考えていました。




帰りの車の中で渡に聞いてみました。
「渡、A先生好き?」
渡は答えました。
「A先生とHちゃんは、好き。」

好まれると自分も相手を好きになるという案外単純な渡でした。