あなたのkugyoを埋葬する

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C68 アーカイブ騎士団,ユートピア小説集(自ブース頒布)

第21回文学フリマ感想 Advent Calendar 2015 - Adventar,はじめました.この記事で24日め.
私が第21回文学フリマ東京で買った本のリストはこちらです: 購入全誌感想(23評/23冊) - kugyoを埋葬する

C68 アーカイブ騎士団,ユートピア小説集(自ブース頒布)

アーカイブ騎士団 [第二十一回文学フリマ東京・小説|SF] - 文学フリマWebカタログ+エントリー
「007ユートピア小説集」アーカイブ騎士団@第二十一回文学フリマ東京 - 文学フリマWebカタログ+エントリー

 第21回東京文学フリマではこちらの同人に参加させていただきました.お手にとってくださった皆様ありがとうございます! 本のほか,当日の無料配布ペーパにもショートショートを5つ書いています.
 参加した小説“月のアンティーク”は,骨董品屋SFミステリーと銘打ち,SFミステリーの1つの極北に挑戦しました.当日お越しになれなかったかたは,ぜひ下記から電子書籍版をお求めください.

ユートピア小説集

ユートピア小説集

拙作,月のアンティーク(pp. 3-34)

 今回の短編の発想のもとになったのは,SFミステリーにおいてよく指摘される難点でした.SFミステリー,とくに未来や特殊な設定を用いたものの場合に問題となるのが,我々のいる現実の世界の知識や常識がどの程度通用するのか,という点です.物理法則を破った改変世界では,すべての密室はマクロレヴェルのトンネル効果でじゅうぶんに解決できてしまうかもしれません.どのていど・正確なところどんなふうに物理法則が改変されているか,その世界のなかで実験を行えない読者にはわからないわけで,どうしても,読者の入手できない情報を使った,アンフェアな推理になってしまうわけです.
 しかし,この難点をケアする方法はあると思います.たとえば,物理法則を破っていない世界を描いていても,たんに未来世界における常識が現在の我々の常識とはちがう,ということだけで,ある種のミスリードが行えるのではないか,思い込みを裏切ることができるのではないか.そこから,今回のトリックの1つを考えました.このトリックはある意味で,ワトソン役の知能が読者と同程度ではない——じつは読者より高い,というのならよくあるが,この場合,じつは読者より低い——ということになるので,ノックスの十戒をいままでにない形で裏切ることにもなっていると思います.
 もともとのプロットでは,ラストで明かされる叙述トリックだけが組みこんであり,作中で探偵役が事件を解き明かすことはなかったのですが,今回のようなタイプの叙述トリックは,“それ,読者に意地悪してるだけじゃん!”という不満がどうしてもぬぐえず自分できらいなので,頭をひねりました.その結果,作者が読者に対して仕掛ける叙述トリックが,探偵役のなぞときによって先に明かされ,しかるのちに語り手が仕掛けるトリックが明かされる,という,変わった二段構えになっています.
 冒頭の部分は,新居昭乃,“Aquarium on the Moon”,in: キミヘ ムカウ ヒカリ(2006)を聴いていて走り書きしたメモからとったもので,最後まで読んだかたにはおわかりのとおりここにもトリックが仕掛けてあります.語り手が「ゲリュゴン9999」と目指す月面のステーションが水槽のようなのも,この曲をイメージしています.
 ほかのイメージソースとしては,バレバレだと思いますが月に囚われた男(2010)で,月面風景はほぼこの作品の映像を思い浮かべていました.
 あんまりユートピアものっぽくならなかったのが残念ですが,人間,いまいるところを出てよそにうつりたいと思うのは,よそがユートピアに見えたときだけなんじゃないかと思うんですよね.

美堂谷摂子,都市計画者の夜(pp. 34-37)

 初稿を読んだとき,ナイスの森(2006)のワンシーンを思い浮かべました(西門えりかが「踊り見せろ」って浜辺で言うところ).PDCAサイクルが,Plan, Dance,Check,Actionになっているところがおもしろい.

森川真,巨大学園の留年生(pp. 39-67)

 私は森川作品だとゾンビ小説集 アーカイブ騎士団所収の“歴史的ゾンビ少女”がいちばん好きなんですが,それで描かれた“観測者の思惑を越える非観測者”という構図はほかの森川作品でもかいま見ることができ,今作はその順当な進歩だなあ,という気がします.体育教師がおおぜいなだれこんでくるところが好きです(わたくし押しによわい人間なので).

摘ん・デ・レ男爵,ランニング都市(pp. 69-83)

 気が滅入ったときは体を動かすといいっていうのはよく言いますが,この作品ではみんながラットランで体を動かし健康に生活しているのに気が滅入るオチが待っており,めずらしいディストピアSFだと思います.もっとグロテスクな系譜としてカード,“肥育園”(1980=2001)みたいなのがあるかも.

高田敦史,形而上学MCバトル(pp. 95-104)

 反実在論vs. 実在論のラップバトルをめぐる「池袋」のもようを,新参者の語り手を通して描くオフビートなSFです.これについてはおもしろいから早く読んでくれとしか言いようがないが,フックを1つだけ書いておきますと,この語り手が秘密クラブみたいなところに入って才能を見いだされるあたりは,最近の少年マンガ的な成長譚を感じさせておもしろいですよ.いや,少年マンガだと,先輩たちにあだ名がついてるかな……全員「ガクシャ」だったらギャグになってしまうが…….