加藤秀治郎『日本の選挙』中公新書1687

  • 前提:選挙制度をどうするか(小選挙区制か、比例代表制か)という問題は、技術的な問題でしかないとするのは間違っている。それぞれの選挙制度には、民主主義のあり方に対する基本的理念が背景にあるのだ。日本では、これらの理念を無視した議論がまかり通っている。たとえば、「すべての選挙制度にはそれぞれ利害得失があるのであって、ベストといえる選挙制度などはない」という議論である。しかし、それらの議論には何の発展性もない。まっとうな議論のためにも、選挙制度に関する知識をある程度知っておくべきだ。
  • 小選挙区*1の制度理念*2 :議院内閣制を前提とすると、安定多数を形成するのが重要である。それによって、政局運営を堅実なものとすることができるからである。比例代表制は確かに、いくつかの長所を見出せるが、少なくとも、議院内閣制のもとにおいては、政権の基盤を安定させることのほうが重要である。
  • 比例代表制の制度理念*3:代表者は、得票数に応じて選出されるべきである。つまり、「数に比例した代表」こそが、民主主義の第一の原則であるべきだ。従って、少数派も、その勢力に応じた代表を持つべきである。
  • 比例代表制の問題点:連立政権下では、現政権に対する否定の意思表示を行ったとしても、現政権と同じ政党が、新政権の一部に組み込まれることがありえる。
  • 日本の中選挙区制の弊害:選挙戦が人物本位で、政党本位とはならなかった。選挙戦では費用が非常にかかったので、派閥の勢力を拡大させる要因ともなった。・・・など。
  • 著者の指摘:議会などの政治的機関には、政治システム全体の中で期待されている役割・機能がある。そして、選挙制度はその機関の担当者を選ぶための制度なのだから、その機関の役割・機能に留意し、議論しなければならない。例えば、議院内閣制と大統領制では議会の役割・機能は異なるのである。

コメント

選挙制度には理念があるんだ!というのは新鮮でした。選挙制度による大まかな違いはわかっていましたが、基本的には技術的な問題であると思っていたので。本書を読むと、著者が「日本の選挙制度は理念がない」としていたのにも納得できます。
ちなみに、最後には「日本の選挙制度改革はこうあるべき」といった著者の主張がなされますが、その辺は一応ここには書かないでおこうと思います。

*1:多数代表制ともいう。 ← ∵各選挙区で1番多くの票を獲得した者が代表者になるから。

*2:代表的論者:ウォルター・バジョット(Walter Bagehot)『イギリス憲政論』

*3:代表的論者:J.S.ミル(John Stuart Mill)『代議制統治論』