クリフォード・ブラウン/スタディー・イン・ブラウン
- アーティスト: CLIFFORD BROWN
- 出版社/メーカー: IMS
- 発売日: 1999/01/16
- メディア: CD
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僕は初CD化された時点のCDも持っているが、今回は10枚組のエマーシーのコンプリート盤から聴いてみた(こっちの方が若干音がいい)。
「Study in Brown」の音源は、1955年の2月23〜25日の3日間で録音されているが、その順番は次のとおり。
(February 23)
・Gerkin' for Perkin'
・Take the "A" Train
・Swingin'
(February 24)
・George's Dilemma
・If I Love Again
(February 25)
・Cherokee
・Jacqui
・Sandu
実は、24日に"The Blues Walk"、25日には"What Am I Here For"が同時に録音されているが、この2曲は「Clifford Brown and Max Roach」というアルバムの方に回された。「Study・・・」の8曲だけでも無敵のアルバムだが、これに"The Blues Walk"が加わるとなると、この3日間の演奏が(テナーがランドからロリンズに変わった「At Basin Street」を除けば)このクインテットのベスト・パフォーマンスであることは明らかだ。
今日はこの内、最終日に収録された3曲をレヴューしてみる。
■Cherokee
Indian Love Song の副題を持つこの曲は、1937年にがレイ・ノーブルというバンド・リーダーが書いたが、翌年チャーリー・バーネット楽団がヒットさせた。バーネットはアルトの早吹き名人で、倍テンポで超絶テクニックを誇示したが、以後この曲はアドリブの早吹きネタのスタンダードになった。極めつきはもちろんチャーリー・パーカー。バードはこの曲のアドリブを特訓する過程で、テンション領域を用いるモダンなハーモニーと、スーパー・テクニックをマスターしたと言われる。ただし、サボイの録音の際、著作権料を忌避したプロデューサーから主旋律をカットされ、チェロキーのコード進行のみを用いたバップ・チューン「KoKo」として有名になる。
以後幾多のサックス吹きがこの曲に挑戦したが、バードを凌ぐ演奏はもちろんない。そのパーカーの18番にトランペットで挑戦したのがこのブラウニーの演奏だ。パーカーのうねるような、変幻自在に飛翔するアヴァンギャルド寸前の演奏に対し、ブラウニーはこの超ハイテンポの中であくまで歌い、歌いまくる。アンビリーバボー! 続くハロルド・ランドも健闘するが、ちょっと音階練習的。同一パターンのフレージングが目に付く。リッチー・パウエルに至っては、テンポ維持がやっと、超高速について行けず時々音が欠落する。完全にブラウニーの独壇場で、ジャズの歴史でパーカーに肉薄した唯一の演奏となった。
後にウィントン・マルサリスがこの曲に挑戦するが、完敗!ついでに、ブラウニーに乾杯!だ。
■Jacqui
今までなんとなく聴いてきた、リッチー・パウエルの曲だが、じっくり聴いてみると、この曲、半端じゃなくおもしろい。AABAの構成だが、Bの部分がもろブルース。ブルースの合間に8小節のサビをはさむという構成はよくあるが、サビに12小節のブルースを持ってくるというのは、他に聴いたことがない。しかも・・・ちょっと気になって音を採ってみたら、このブルース部分のキーって"B"だ、たぶん。トランペットもテナー・サックスもBbの楽器だけど、ちょっと楽器を触った人なら、Bっていうキーがいかに難しいかわかるはずだ。僕なんか、死んだってBのブルースなんかできない!
リッチー・パウエルって人、兄貴のバド・パウエルに似ずアドリブは下手だが、作曲とアレンジの才能は半端じゃない。ブラウン=ローチ楽団のコンセプトはほとんどこの人が作った、と言ってもいい。ブラウニーといっしょに自動車事故で逝ってしまったリッチーだが、「もし生きていたら」の紋切り型はブラウニーのみならず、この人にも適用したい。もし生きていたら、クインシー・ジョーンズを凌ぐアレンジャーになっていたかもしれない・・・と。
■Sandu
超ハイテンポのCherokee、ユニークな構成のJacquiと、演奏者全員がかなりの集中力を使ったはずだが、この日の、そしてこの3日間のセッションの最後はオーソドックスなミディアム・テンポのブルース(ただしキーはEb)。みんなリラックスした名人芸を披露する。
実は学生の頃、僕はこのブラウニーのソロを採譜して練習したことがある。ブラウニーのアドリブの中では比較的シンプルな音使いのように思えるが、とんでもない、半端なテクニックでは譜面通り吹くことすら難しい。
続くハロルド・ランドのソロは、粘り腰でアフター・ビート乗りのお手本を示す。そして、リッチー・パウエルもこのテンポならお手のもの。レッド・ガーランドばりのブロック・コードで色を添える。続いてマックス・ローチのテクニカルなドラム・ソロから、ジョージ・モローの重たくてやや愚直(失礼・・・)なウォーキング・ベース、そしてエンディング・テーマへ。ブルースの魅力てんこ盛り! このクインテットの演奏では、"The Blues Walk"と共にジャズ史に残るブルースの名演となった。
というわけで、このところのブラウニー浸りも、このへんで一旦お開き・・・。