元食品業界の人が増田で書くと、現役としては何か書かないとイカンという気持ちになる

なんかまた元食品業界の人が増田にエントリしてるんですが・・・

先日の増田(ペヤングゴキブリ騒動について元食品メーカー営業・現ニートが言いたい)の人だろうか?恐らく違う人だろうね。


年末のかまぼこはなぜ高いのか

このエントリは正直で非常によい増田記事だと思います。

内容にはほぼ同意なんですよね。


この増田についたブコメをみていると、正月用の蒲鉾と普段売られている蒲鉾の違いが周知されていない事に少々驚きました。

増田の指摘通りお節商材として売られている蒲鉾は、普段販売されている蒲鉾とは全く別物と思った方がいいです。

ただし私が商売をしていた時は、正月用の高級蒲鉾と普段売ってる定番の蒲鉾を両方売ってましたね。

定番商品の蒲鉾も年末にはソコソコ売れるんですよね。年越しそばに入れる蒲鉾は定番商品の蒲鉾を使う人が多いんだと思います。


消費期限の印字方法で冷凍蒲鉾が判別出来る

冷凍保存された食品の消費期限は解凍後○○日と決められていますから、製造日と消費期限はあまり関係が無いんですよね。

増田に書いてあるように、正月用の高級蒲鉾って年末に大量生産されてる訳じゃ無いんですよね。それこそ一年がかりで製造した蒲鉾を冷凍保存しておいて、年末に解凍されて出荷されます。

ですから、正月用の蒲鉾って製造時に消費期限を印字している訳じゃないんです。

出荷する時にラベルに印字して出荷されます。


こんな感じで表示されていると思います。

「冷凍ものの蒲鉾は嫌だ!」って人は、消費期限がラベルに印字されているか、パッケージフィルムに直接印字されているかを確認して購入すればいいと思います。

一部に例外があるものの、消費期限がラベルに印字されていれば冷凍保存されていたもので、パッケージフィルムに直接印字されているものは冷凍保存されていない商品です。

スーパーなどで買い物をされる方は、こういうところに注意して買い物したら良いと思います。

冷凍保存か冷凍保存じゃないかを見分ける簡単な方法です。


蒲鉾だけじゃなく干物とかにも応用出来るので、汎用性の高い見分け方だと思いますよ。

ただし街のちいさな製造工場だと、印字機を買えなくて全商品ラベルに印字している事が多いので、100%の判別方法とは言えません。

現在の冷凍技術は非常に優れていて、冷凍ものも味の劣化は微々たるモノですが、食べ比べてみると違いが判る程度には劣化します。


冷凍保存される商品について

お正月用の蒲鉾やクリスマスケーキなどは、半年から一年かけて生産され、イベントに合わせて解凍されて出荷されます。

クリスマスや正月などのイベントに合わせて生産していたのでは、需要に対して生産が追いつかないんですよね。

ケーキの場合は、お洒落な専用ラベルに印字されて箱に貼り付けますから、冷凍かどうかを判別するのは難しいですが、メーカーのクリスマスケーキはほぼ100%の確率で冷凍保存されたものです。生クリームのケーキの場合はスポンジだけが冷凍保存で、出荷後にデコレーションされます。

元増田に補足するならこのくらいかな。本当に正直で信用出来る増田記事だと感じました。

蒲鉾関連の増田記事と業界の構造的な問題点について

やれやれ・・・元食品業界の人に続いて、蒲鉾屋さんの三男まで増田にエントリしちゃったらしい。

蒲鉾関係は闇が深いというか、漁港近くの街の蒲鉾屋さんとメーカーでは構造が違うので一緒には出来ない事が多く、ややこしいんですよね。


まずは今朝のエントリの補足から始めます。

前エントリの補足

蒲鉾屋さんの三男の増田にも関連するのですが、個人商店などの蒲鉾屋さんなど小規模な蒲鉾製造業だと、パッケージフィルムに直接印字する事が少ないように感じます。

印字機を使用する程の大量生産を行っていない場合が多いからです。

メーカーのように大量生産する工場だと、いちいち人の手でラベリングするより印字機を購入して製造ライン上で印字するほうが遥かにコストパフォーマンスに優れますが、小規模な蒲鉾製造業の場合は、印字機の購入費用と人力によるラベリングのコストの差はさほど気になりません。

最終的には経営判断次第って事になりますが、資金的に余裕が無い中小の蒲鉾製造業だと先行投資するより、キャッシュフローを確保しておいたほうが安全という印象があります。


よって冷凍ではない蒲鉾だったとしても、小規模な蒲鉾屋さんの高級蒲鉾は消費期限をラベルで印字してある事が多いです。

このパターンは、漁港付近のお土産屋さんや道の駅の野菜などで良く見かけますね。

ラベルによる判定が出来ない一部の例の一つです。


蒲鉾屋さんの三男の反論から察すると、この三男さんの実家は個人経営の蒲鉾屋さんといった印象ですね。

しかし、そういう個人商店の蒲鉾って美味しい事が多いですよ。「俺はこの方法しか蒲鉾の作り方を知らん。」って感じの職人気質で頑固な親父が、毎日毎日繰り返し製造している事が多いんですよね。すべてがそうだとは思えませんが・・・。


さらにスーパーなどの量販店で、年末に冷凍じゃない蒲鉾を見つけるのは難しいのではないかと思います。産地の近くだと見つかる事もあるでしょうけど、都市部ではレアケースなんじゃないでしょうか。


さらにリテーナ成形蒲鉾が全て安物という事はありません。高級なリテーナ成形蒲鉾も多いというか・・・年末に出回る高級蒲鉾も多くはリテーナ成形蒲鉾だと思います。

年末に売られている高級蒲鉾と安価な蒲鉾の違いは、原材料の違いに尽きます。使用している魚種も違うし、配合比率の違い、添加物の違いなど様々な要因があるんですよね。

原材料の表示を見ればスグに判りますが、原材料の表示は使用量の多いものから順番に表示するように決められています。一番最初にイトヨリダイと表示してあれば、イトヨリダイが一番多く使用されているという事になります。

ただし水は表示されていなかったと記憶しています。

蒲鉾業界の構造

昔は様々な街に街の蒲鉾屋さんがあったと思うんですよね。私の住む町にもかつては蒲鉾の個人商店がありました。漁港が近いという事も影響しているとは思いますが・・・

小規模な蒲鉾製造業者は、メーカーで大量生産される安価な蒲鉾の需要を奪われ、スーパーなどの量販店では売り場を奪われてしまいました。

家内制手工業からオートメーションに移行したんですね。


そこで中小の蒲鉾製造業者は生き残り戦略として、手作りの良さが判る一部のユーザーにターゲットを絞り製造から販売までを一貫して行うという戦略を採用する業者、飾り蒲鉾などの特殊な蒲鉾製造に特化する業者、年末の最盛期需要にターゲットを絞り一年中年末用の蒲鉾を製造する業者、それらを組み合わせてハイブリッドな戦略をとる業者など様々な経営スタイルが登場しました。

うどんやそばにのせる蒲鉾からお祝いに使う特殊な蒲鉾、お節用の高級蒲鉾など、様々な用途が確立されていたからこそ出来た蒲鉾業界の特殊な構造です。


蒲鉾に限らず食品業界は、こういう特殊な構造をした業界なんですよね。オートメーションで製造される製品を好む人もいれば、手作りの良さ品質の高さを求める人もいる。メーカーの大量生産品に市場を奪われた個人商店の生き残り戦略、様々な要素が絡み合って現在の構造が出来上がっています。


私が食品業界も積極的に現状や構造上の問題点などを発信し、周知する必要があると感じながら、積極的にエントリしない理由の一つでもあります。

「機会がある毎に徐々に発信していければいいかな。」くらいのスタンスじゃなきゃ続かないという気持ちもあるんですよね。

食品業界の闇というより、業界の構造が複雑過ぎるんです。

一気に解決出来る問題ではありませんから、一つ一つ時間を掛けて、丁寧に縺れた糸を解くようなイメージで提起していくようにするしかないんだと思います。


一番の問題点は業界のトップたち

そもそも食品業界の構造的問題や食の安全・安心に関する情報発信や問題提起、周知などは業界のトップ達が積極的に取り組まなきゃいけない問題なんです。

そのトップたちが消極的な事が一番の問題です。いろんなシガラミや利権、環境などが絡んでくる問題だから、消極的にならざるを得ないのかも知れませんが、いつまでも先延ばしにしていいような問題では無いんじゃないかと思いますし、業界のトップクラスの人たちが本当に問題意識を持っているのかどうかも疑問です。


先週の朝日新聞DIGITALにCGC代表のコメントが記載されていましたが、読んで愕然としました。

ペヤング報道「取り上げ方おかしい」 シジシー代表
 まるか食品カップ焼きそば「ペヤング」に虫の混入が指摘された問題について、全国の中小スーパー223社でつくるシジシージャパンの堀内淳弘グループ代表兼社長は12日の記者会見で、「マスコミの取り上げ方はおかしい」と話した。命や健康にかかわる問題は「絶対にダメ」と述べたうえで、今回は健康被害が確認されていないことを踏まえて「面白おかしくとりあげすぎではないか」と話した。「命に関わるもの、健康に影響あるもの、健康被害のないもの、に分けて考えてほしい」と訴えた。また、問題が確認されていない商品もすべて回収する事態となったことについて「全部廃棄ですから、もったいない」と語った。

確かに興味本位で面白おかしく報道するメディアのスタンスには閉口するものの・・・

「命に関わるもの、健康に影響あるもの、健康被害のないもの、に分けて考えてほしい」というコメントには呆れました。

ISO22000でもFSSC22000でも、ハザード(危険要因)の分類では昆虫の死骸混入は、物理的要因の一つに分類されています。

昆虫の死骸混入は健康被害をもたらす要因の一つだと考えられているんですよね。


CGC代表は、昆虫の死骸混入が健康被害の無い事故だと考えておられるようですね。だから「全部廃棄ですから、もったいない」なんて事が言えちゃうんでしょう。


いかに業界のトップたちがISO22000やFSSC22000に関心が無いかを如実に物語っています。

そりゃまあ経営者としては金の勘定が一番重要なんでしょうけど(皮肉)、食の安全・安心に無関心なんて余りにも情け無いじゃないですか。

特に食品メーカーなんて、安全安心を売っているようなもんですし、現場では食の安全・安心を確保する為に細心の注意を払い改善に改善を重ねています。さらによりよくする為に、ISO22000やFSSC22000の認定を受けようと涙ぐましい努力を続けているんですよね。

そういう現場の努力も考えて欲しいものです。余りにも無知・無関心過ぎたコメントだったと思います。