kurakenyaのつれづれ日記

ヘタレ リバタリアン 進化心理学 経済学

幸福は状態変数の微分に

心理学,あるいは行動経済学によると,人間が幸せと感じるのは,「自分が過去よりも良くなった時だ」という.別に温度のような,絶対的な基準がどこかにあるわけではないということだ.


これは僕が効用関数について勉強していたときから,多くのミクロ理論化が認識していたことで,カーネマンなどの活躍もあって,今は主流にも受け入れられてきた,心理学的な事実だ.(もちろん,状態としての豊かさがなんの意味もないとはいえないから,おそらく効用関数は,U(C, dC/dt)のような多変量な関数なのだろう.もっというなら,近所や親族の豊かさにも依存しているようだ.


さて例えば,普通の人は,「3億円の宝くじがあたったら,どんなに幸せな人生になるだろう」と夢想するが,実際に10億ももらった人たちを1年後にインタヴューすると,多くは「むしろ不幸になった」という.なぜなら,突然に金持ちになったことで,遠い親戚や関係のない知り合いから,金を無心されるからだ.大金の分配や使い方を巡って,離婚したりする例も多い.


結局,ヒトは「自分が以前よりもうまくいっている」と思える時が幸せを感じるときなのだ.これは,エルンスト・マッハのいう,認識と刺激都の関係とパラレルだ.(でも確か,マッハの知覚論は2回微分だったよな.)さて,人間は変化を強く知覚するが,恒常的な刺激が続けば,はしばらくすると刺激として受け入れなくなる.ちょうど,はめている腕時計のように.


こうしたプロスペクト理論的な効用関数は,proximate な 神経細胞の発火原理とも整合的なだけでなく,おそらくはもっとultimate な進化理論とも整合的だろう.いろいろな理由から,自分の社会的な地位や状態は落ちたり,上がったりする.その際,そこから努力して(さらに)上昇しようとするような努力をするための心理的は,「昔は良かった」とか,「努力してもムダだ」というようなメンタリティよりも適応化が高いからだ.


また別の言い換えをするなら,宝くじで10億円に当たっても,10億円の資産家のようにはならない.10億の資産家は,それなりの努力や技能を持って現在に至ったのであり,たまたま10億を持ち合わせた人たちとは,価値観も行動も違うからだ.こうした人格的,職業倫理的な発想は経済学では重視されてこなかったけれども,現実の人間心理では重要な事なのだろう.



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