世界を変える美しい本

 2017年もいよいよ押し詰まってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 今年は「ゴーゴー・インド30年」イベントのせいで、例年になく忙しい一年だった。考えてみれば、今年はどこにも海外旅行に行かなかったが、それを感じさせないぐらい気忙しい年だった気がする。
 今、近所の板橋区立美術館「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」という展覧会が開催されている(来年1月8日まで)。すでにご覧になった方も多いと思うが、これはマスコミでも取り上げられたり、なんと皇后が来館するなど大きな反響を呼んでいる。もちろん僕も見にいきました。

 タラブックスというのは、インド、チェンナイにある出版社で、シルクスクリーンによる手作りの美しい本を出版しているところだ。その絵本とシルクスクリーンの絵を展示したのが今回の「世界を変える美しい本」展なのである。
 絵本を作る過程が館内のビデオで流されているが、シルクスクリーンによる印刷は1枚1枚が手刷りであり、刷ったページを束ねて糸でかがり、製本するのもインドの職人が1冊1冊手作りしている。手間暇かかる本なのだが、こういうことができるのもインドにまだ職人が存在するからだろう。日本でこんなことをやったら、とんでもない費用がかかるだろうが、これらの本は1冊3000円〜5000円程度で美術館でも販売されている。ページをバラして絵を額に入れればそのままシルクスクリーンの絵画として鑑賞できるクオリティだ。

 タラブックスが出版している一連の絵本の絵は、主にインド先住民の人々の絵だ。僕がこれまでインドに見にいったり、本にしたりしたインド先住民アーディヴァシーたちの民俗画で、ほとんど日本で関心を持つ人はいなかった、というか、知られていなかった。
 日本でと書いたが、実はインドでも普通の人はほとんど関心がない。最近、ワルリー画の絵柄がエスニック風の柄として、インドでもTシャツやスカーフに取り入れられたりしているが、だからといって多くのインド人に親しまれているという雰囲気ではない。例えばタラブックスが一躍その名を知られることになった『夜の木』(2008)は、インド国内よりも海外で評価されたという。これが本当に美しい本で、1枚1枚額に入れたい絵ばかりです。
 それが、いきなりご近所の板橋区立美術館で展覧会が開催されるのだからびっくりである。こんなマイナーなテーマの展覧会を、キャッチフレーズが「永遠の穴場」っていうぐらい便の悪い板橋区立美術館まで何人見に来るのかいなと思っていたら、あにはからんや大盛況! 知人の計らいで、ミーナー画の特集ということでついでに置いてもらった「旅行人」復刊号も、どかんどかん音がするぐらい売れて信じられない思いである。

 それで先日は皇后が見にいったというのでTBSのニュースにもなったのだが、それを見たら、アナウンサーが「皇后さまがインドの先住民の絵を熱心にご覧になられました」という。「皇后さまがインドの先住民の絵を熱心にご覧になられました」だよ。「皇后さまが絵を熱心にご覧になられました」ならみんな理解できるだろうが、「インドの先住民」なんて一体何人の人が理解しているのだろう。
 いやそんなことはどうでもいい。とにかく皇后さまがご覧になったんだってという理由で十分なので、どしどしと絵を見に行く人が増えれば素晴らしいことだ。そこにあるのは、紛れもなくインド先住民の絵なのだ(先住民じゃない人の絵も一部にはありますが)。それを板橋で見られるってのはほとんど奇跡に近いよ。僕なんかわざわざインドの田舎まで、探しながらようやく見られたんだから。
 しかし、そうはいっても板橋までは遠くて行けないという方には、この本をお勧めする。その名もずばり『タラブックス』玄光社)という本だ。これを読めば、板橋区立美術館の内容がより深く理解できる。本展の図録『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』ももちろんおすすめだ。これ自体が本当に美しい本ですよ。クリスマスプレゼントにもぴったりです。ちょっと遅いけど。

 それでは、皆様、来年もよろしくお願いします。よい年をお迎えくださいますように。

『夜の木』夜の木

タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

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『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦