くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アンナ・カレーニナ」「石の花」

アンナ・カレーニナ

ロシア文学大全集と名うってシネヌーボーで開催中の作品を見てきました

まず予定外だったのですが、時間があったので「アンナ・カレーニナ」をみました。
ソビエト映画というと長い、しんどいというイメージを持ちがちですが、なんの、この作品は二時間半近くあるにもかかわらず、全然飽きさせられることなく、最後までしっかりと見ることができました。

長廻しでみせる、カメラワークを駆使し、時として、非常に凝ったカメラアングルと、アップ、ロング、のテンポよい演出で、ともするとしんどくなるレフ・トルストイの長編を見事な大人の恋愛ドラマに仕上げています。

冒頭、いきなり列車に轢かれた老紳士のシーンを挿入し、ラストシーンを暗示させる演出はなかなかのものですね。しかもエイゼンシュテインサイレント映画を思わせる大げさな老婦人の悲鳴、そのショッキングなシーンに続く、一目ぼれして恋に落ちるアンナの物語が、非常にドラマティックに見せてくれます。
人物の紹介も秀逸で、まさに職人芸のごとくさりげなくみせてくれ、さらにそれぞれの人物をかなりステロタイプ化して登場させるので人物関係と心の動きが見事に見ている私たちに伝わってきます。ソビエト映画であるにもかかわらず、このあたりはまるでアメリカ映画を思わせるある意味大雑把な作り方ですね。

長さを感じさせない劇的なシーンの連続の中に、主人公アンナ・カレーニナの葛藤、周囲の人々の嘲笑、愛人たちの複雑な心理変化などが、的確に描写され、最後はかなり実験的な映像でラストを迎えます。一級品の文藝大作ですね


さて、もう一本は、かねてよりスクリーンで見たかった作品「石の花」

なんと戦後すぐの1946年製作と言うカラー長編映画
カンヌ映画祭で色彩撮影賞を取っただけあって、冒頭から美しいシーンが展開します。
そもそも、ファンタジーなので、幻想的な色彩やセットが所狭しと仕込まれているのですが、まるで「オズの魔法使い」を思わせるような夢のような構図とシーンの連続に目を奪われます。

戦後すぐとは思えないほどに丁寧な特撮によるおとぎ話のような世界は、まるで古き民話を目の前で読み聞かされているような錯覚にさえ陥ります。
もちろん、クライマックスの洞窟の中での石の花が咲く場面は圧巻で、その前後のシーンはまるで大好きな「赤い靴」の幻想シーンを彷彿とさせてくれます。

基本的に、若い男女のラブストーリーなので、幻想的な展開の中に、どこか教訓めいた内容も盛り込まれ、美しい場面の連続のあとに感動のラストを迎えます。
時々ミュージカルのごとく挿入される歌の数々も、また、この夢の世界を盛り上げてくれて、集団のダンスシーンやら、時の移り変わりを景色のオーバーラップなどですばやく展開していく手腕はお見事です。

一時間二十分程度の今となっては中篇くらいの作品ですが、見始めると一気にファンタジーの世界に引き込まれ、目くるめく色彩シーンの連続が、まるで劇場の中を宝石の洞窟と変えてしまう。なんとも、見事としか言いようのない作品で、ソビエト映画にもこんなエンターテインメントあふれる作品があるものなのかとあらためて驚いてしまいました