くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オルエットの方へ」「ブルー・ジーンズ」短編2本

オルエットの方へ

引き続きジャック・ロジエの作品を見る
オルエットの方へ
160分を超える長尺の作品である。
アデュー・フィリピーヌ」とは違い、背後にジャック・ロジエならではのポップな音楽は挿入されていません。ブルーのタイトルバックに軽快な音楽は流れるものの物語が始まると、ほとんど無音で、背後の音だけが聞こえてきます。この作品は完全に現場録音であるので、そのリアリティをねらったのでしょう。

ある会社の女性社員ジョエルが友達の別荘へ9月からのヴァカンスに出かけるという話が中心。ジョエル、カリーン、キャロリーヌの三人は海辺の別荘へ出かけます。冒頭の30分ほどは彼女たちが別荘についてはしゃぎ回る姿をカメラがひたすら追い続け、一気にノーカットで撮ったフィルムを監督の意図でカットしてつないだかのようなシーンが続きます。

そこへ会社の上司でジョエルに気があるジルベールが加わり、一夏のヴァカンスの様子がつづられていくのですが、そこにはただ、若さ、恋、人生の一ページが淡々とスクリーンに切り張りされていくのです。何が起こるわけでもなく、ある意味、かなり平凡なストーリーが続きますが、計算された即興演出と言わしめるジャック・ロジエの演出が際だちます。

特に引き立つのが現地で出会ったパトリックという青年とヨットに乗って海にでるシーン。どうやって即興でカメラを回したのかと思えるほど躍動感あふれる画面が展開します。時にヨットの中から、時にヨットと平行したところから、アップしては引くという見事なカッティングで見せていく場面は見事。おそらくここもカメラを回し続けた後、監督自ら編集してリズムを作り出していったものでしょう。後でパンフレットを読んでみるとこのシーンが秀逸であるという同意見が書かれていました。

結局、どの恋も実らず、一夏が終わってそれぞれにパリへ帰っていきます。そしてまた次のヴァカンスの話をしながら新しい出会いの予感を見せる。なんとも若さあふれるジャック・ロジエ監督の世界ですね。
この作品もそうですが「アデュ・フィリピーヌ」で登場する女の子も本当にキュートでかわいらしいです。フランスやヨーロッパの映画にでてくる女優さんはどこかグラマラスでぎとぎとしたイメージですが、このジャック・ロジエ作品の女性は素人であるためかコケティッシュです。彼女たちをみているだけでもわくわくして楽しくなりますね。


続いて短編三本、まずは「ブルージーンズ」
ゴダールが絶賛したというこの短編。冒頭からスクーターに乗った若者二人がこちらに走ってくる様をカメラがとらえます。背後にポップな曲が流れ、おどけながら走る二人の姿が何とも若々しくて明るい。

物語はこの二人が、カンヌの海辺でナンパする様子をとらえていくのですが、最初にナンパした二人とつかの間のアバンチュールを過ごすものの、成就せず、次の女の子に声をかけようとする場面で物語は終わります。
海岸の堤防をナンパする二人の青年と、すれ違う女性たちを延々移動撮影でとらえるカメラワークが何とももごとで、背後の音楽の繰り返しが、後のジャック・ロジエ監督のスタイルを決定づけるほどすばらしい。

続く「バルドー/ゴダール」「パパラッツィ」はジャン・リュック・ゴダール監督が自分の作品「軽蔑」と撮影する様をブリジッド・バルドーに焦点を集めてとったいわばドキュメンタリータッチの作品です。
特に「パパラッツィ」のカメラが躍動感あふれてすばらしい。

ブリジッド・バルドーの雑誌の写真を細かくカットで挿入したり、パパラッツィたちの姿を正面から移動撮影で追いかけたり、望遠でとらえたり、時にブリジッド・バルドーのアップを繰り返したりと、かなり実験的な映像が続きます。
いつの間にかジャック・ロジエ自身のカメラがパパラッツィのごとくバルドーをとらえるあたりの迫真の演出は見事というほかありません。

ここまでの作品でジャック・ロジエ監督の作風は何となくわかってきた気がします。淡々とした青春の一ページをとらえているだけにもかかわらず、飽きさせない魅力は、見終わった後自然と物語がよみがえってくるというものではないでしょうか?そこにはどこかに自分の姿が垣間見られ、スクリーンの人物たちと重なっていく重複感が味わえているのではないでしょうか。それがジャック・ロジエの魅力なのかもしれません