くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」「悪の階段」「黒い画集 第

kurawan2016-08-15

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」
映像作品としてはとってもリズミカルで面白映画でした。細かくくりかえすフェードアウト、カットの切り返しのリズムなど、非常に軽いタッチで生き生きと描かれるのが絶妙で、油断すると、やたら重くなるテーマを、爽やかな学園ドラマ部分を前面にして描いた脚本がうまい。監督はマリー・カスティーユ・マンシオン・シャールという人です。

宗教上の理由から頭にスカーフを巻いた学生が、高校の卒業証明をもらいに来るが、スカーフを取らないからと拒否される。その女性は仕方なく、フランスの高校の頭の固さを罵倒して去ってタイトル。

国旗が画面を覆って消えるとレオン・ブルム高校の校庭。貧民層が暮らすパリ郊外に位置するこの高校には、様々な人種が集い、落ちこぼれのような生徒たちがたくさんいる。そこへ、アンヌ・ゲゲンという歴史の女教師が赴任してくる。

ただ教えることが好きで、厳格に授業を進める中、全国歴史コンクールに参加することを提案。しかもテーマをアウシュビッツに定める。最初は否定的だった生徒たちだが、強制収容所生存者の言葉を聞いて、変わっていく。

繰り返されるフェードアウトと、画面の大きさを細かく切り返すカメラショットが特徴で、それが非常にリズミカルなストーリー展開を生んでいる。ラストは、歴史コンクールで優秀校に選ばれるハッピーエンドだが、それが妙によくある展開としてのラストになっていないのがとってもいい。

もちろん、描くことのテーマは、落ちこぼれが人生の目的を見つけるという内容と、アウシュビッツの迫害を糾弾するというテーマの両輪ですが、まず映画ありき、映像ありきという作り方で、映画とっても爽やかに仕上がっていたのが良かった。こういう作り方は好きですね。いい映画でした。


「悪の階段」
日本にこんな粋なフィルムノワールがあったなんて、今まで知らなかった。二転三転する物語に加え、緊張感が途切れないサスペンスの連続、クローズアップや陰影を多用した見事な画面作り、これは傑作。監督は鈴木英夫である。

主人公四人が、これからあるキャバレーの金庫の金を奪うところから映画が始まる。この導入部からして並ではない緊張感にどんどん引き込まれるのです。

繰り返されるクローズアップと当てられるライティングの不気味さがさらに物語をもり上げる演出は絶品である。

そして、この四人は次の大仕事に入っていく。とある工場の金庫から大金を盗むのだが、その金を6ヶ月使わないようにするためにダミーのような不動産屋の地下に、二重の金庫を作りカネを保管。ところが四人のうち最初の一人が女に入れ込んで金が欲しいと言い、殺され、次の男は、グループリーダーの愛人の女にくわえ込まれて、また殺される。次々と疑心暗鬼が疑心暗鬼を生んで、どんどんサスペンスが盛り上がる。

そして最後の二人と愛人の女の丁々発止の駆け引きの末に、リーダーが男を殺し、愛人の女がリーダーが画策した毒入りウイスキーをリーダーに飲ませまんまと殺す。そして、最初に男が入れ上げた女を呼んで、全てを隠蔽するように、会社に火をつけるのですが、またまたその夜たづねて来た警官にこの女の特徴を掴まれ、計画がばれて、砂漠で刑事が彼女を逮捕せんと迫るシーンでエンディング。素晴らしいラストに拍手してしまいます。

ここまで描かれると、唸るしかありませんね。まったく素晴らしい傑作ノワールでした。


「黒い画集 第二話 寒流」
普通のサスペンスドラマという感じの一本。松本清張原作ドラマですが、ラストはなんともやりきれない余韻を残す映画でした。監督は鈴木英夫ですが、同じ監督でも、これほど見た目が違うのかと思える普通の映画だった。

大学の同級生で、一方は銀行の重役、一方は一銀行員という立ち位置で映画が始まる。主人公は普通のサラリーマンですが、同級生で常務という立場の友人から支店長に大抜擢される。というのも女関係の整理をこなしてもらっているという恩義からのようだと画面から伺える。このあたりの描写もかなり適当なので、この作品の出来栄えがうかがわれてしまいます。

やがて、同じ女性を好きになったために、主人公は左遷されるが、なんとか復讐しようと画策するもどれも裏目に出て、結局、力に太刀打ちできないというラストでエンディング。

ちょっと後味のよくない映画で、特に凝った映像も見られないサスペンスドラマでした。