くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「風の視線」「黒いドレスの女」

「風の視線」
これはいい映画でした。掘り出し物の一本、大人の恋愛ドラマとはこういうのをいうのでしょうね。見事でした。三組の夫婦が織りなすめくるめくような恋愛劇の交錯が、見事に大人の関係を構築して行く様は、いくら松本清張原作とはいえ、映画としての完成度というべきものでした。監督は川頭義郎です。

ある新婚のカップルの新婚旅行のシーンから映画が始まる。夫の奈津井は、いくら見合い結婚とはいえ、妻の千佳子によそよそしい。二人の仲をとりもったのは大手商社の重役の妻亜矢子で、実な亜矢子の夫竜崎のかつての愛人が千佳子だった。また、亜矢子には、親しい友人の久世という男がいるが彼もまた妻のいる身だった。

それぞれに絡み合った人間関係、男女関係が、さりげなく絡んで行く様が実に見事で、時に素早いカメラワークで映像にテンポを生み出しながら、物語を紡いで行くストーリーテリングのうまさに感嘆してしまう。

やがて千佳子と奈津井は別れ、竜崎によりかけた千佳子も、自分というものの存在に目覚め、また亜矢子は竜崎が密輸事件で逮捕されるにつけ、もともと仮面夫婦だったことに踏ん切りをつけ、久世の待つ佐渡へと向かう。

ラストは、寂しく戻った奈津井の前に千佳子が出迎えてエンディングになる。全てが本来寄り添うべき相手を見つけ、その相手のそばに行くことで人生の歯車が正常に回り出すというラストシーンが素晴らしいと。これは名編というより傑作と呼べる一本だった気がします。いい映画を、いやいいドラマを見ました。

「黒いドレスの女」
ちょっとスタイリッシュな犯罪映画という感じで、しゃれたムードが漂う一本。そのエキゾチックで無国籍な色合いが画面からにおいでてくる感じがとってもいい作品でした。監督は崔洋一、主演は原田知世です。

一人の女朝吹冽子が高速を歩いている場面から映画が始まる。そこに通りかかる車が彼女を乗せ、東京へ運ぶ。運転している男はヤクザである。

競馬場で二人の男が一人の男を見下ろしている。その男を守ってくれと頼まれた男田村の目の前で、眼下の男が刺される。刺された男は庄司というヤクザの幹部だった。一命を取り留めるが、彼を匿い海外へ逃す仕事を請け負う田村。彼はバーを営んでいる。

そのバーに黒いドレスを身にまとった冽子がやってくる。そして使ってくれという。こうやって本編が動き始める。どうやら、この冽子は田村の妻の妹の義理の娘であるらしく、義理の父をベランダから突き落としたという罪悪感にとらわれ、拳銃を持っている。謎の多い女である。

そこへ、ヤクザたちが冽子を探してやってくる。どうやら、会社の横領の証拠になるメモを持っているらしい。さらに、庄司を追ってヤクザも近づいてくる。こうして物語はどんどん複雑に絡み合うが、決して混乱しない。このストーリーテリングのうまさは見事なものである。

結局、冽子は一億円と引き換えにメモを渡す取引を決め、一方、ベランダから義理の父を殺したのは、冽子の母であったことがわかり、さらに、その女と庄司は愛し合っていてお互いを殺してしまう。

取引の場に刑事も呼んだ田村は、結局逮捕劇でバタバタしている間に、冽子は忽然と姿を消す。

一億円の入ったみかん箱を引っ張りながら、鼻歌を歌って高速を歩く冽子のシーンでエンディング。

物語は結構濃いのに、画面作りは淡々としていて、非常にスッキリしている。このあっさり感が結構楽しめる作品でした。