「娼年」
さまざまな感想を聞くにつけ、どんな映画かと思ったが、思いの外しんみりと身にしみる映画でした。もちろんエロシーンはふんだんに出てきますが、それはそれで映画の味であるし、舞台の地名のテロップが効果的に映画に味を深める感じで、いい演出だったと思います。監督は三浦大輔。
大学生のリョウがひとときの女性とSEXしているシーンから映画が始まる。夜はバーテンをして稼いでいる主人公のリョウ、ある夜、ホストをしている友達のシンヤが静香という大人の女性を連れてくる。彼女は娼夫として若い男性を女性に斡旋する仕事をしていた。
静香が残した名刺に興味を持ったリョウは彼女のところを訪ねる。そして、テストと称して静香の娘らしい咲良とSEXをする。そして、合格をしたリョウは娼夫として、女性の客を迎えることになる。
物語はさまざまな女性の性の欲望と触れ合うことで、女性の存在に意味を見出して成長するリョウの姿を描いていきます。とにかくSEXシーンの連続でありまた、欲望の多彩さを見せるシーンの連続でもあり、どこかドラマ性も見せてくる展開は、単なるエロスではないと思います。
やがて、摘発により静香のクラブは廃業、一年後、新たに咲良が後を継いで仕事が再開したところで映画が終わります。
女性の欲望の真の姿を浮き彫りにしようとする原作の味が今ひとつ弱い気がしますし、リョウが成長する姿ももう一歩物足りないのが残念ですが、映画全体の空気感は非常に良質の出来栄えだと思います。やはり松坂桃李の実力ゆえでしょうか。オリジナルである舞台番が見て見たいです。
「ベラクルスの男」
映画の作り方が実にうまい。映画は絵であり音でありそしてロマンです。かっこよさがあるから映画って心に残るものです。流石にそのツボを押さえた演出に唸ってしまいました。監督はジョゼ・ジョヴァンニ、さすがです。
一人の殺し屋の男が船に乗っている。甲板では喧嘩などしているが全く関与しない。時に俯瞰で、時のフルで、時にアップで捉えるカメラ映像をバックのタイトル、ラテン系の音楽がかぶる。このオープニングがカッコいい。
男はベラクルスの港に着く。そこで今回の依頼人に会い、ターゲットは時の大統領で、暗殺のあと革命を起こし、元大統領の孫ミゲルを擁立するのだという。
そして、男はミゲルとともに、大統領が愛人に会いにやってくるところを狙撃、殺す。ところが、その直後から、彼に仕事を依頼した反乱者たちが命を狙ってくる。
男はミゲルとともに彼らを迎え撃ち、最後は全員倒してしまう。結局、政権は争奪戦なのだと若きミゲルに現実を告げて、男はまた列車に乗ろうとする。
鉄橋で列車のくるのを待っている。倒したはずの反乱者の一人が瀕死の状態で銃を持ち男を狙うが、力尽きて死んでしまう。男は列車に乗るエンディング。このラストも実に映画的でかっこいいし、ロマンがある。
反乱者を迎え撃つ鉄橋での奥の深い構図や、男がやたらとニンニクをかじったり、タバコの吸い殻を灰皿に飛ばして見事に入れたりするちょっとしたキャラクター作りが実にかっこいいのです。映画はこうでなければいけません。こういうロマンがいまの映画に一番かけているものではないかと思います。